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隣の紫陽花は青い?

 最近、よく散歩をする。
 勤めていた時には、階段とエスカレーターがあったら迷わずエスカレーターを選ぶくらい歩くことを避けていた。仕事で必要ないならなるべく歩かないように生きていた。疲れないように。なのに、退職した今、歩くだけの「散歩」を楽しむようになるなんて、人って変わるものだなぁと思う。
 勤めていた時、「散歩」は自分のためではなかった。車椅子を押しながら、車椅子に乗っている子どもが近くで見ることができる花などを探して声をかけたり見せたりしながら、散歩をしていた。退職して、今は自分が好きなように散歩している。自分のペースで、自分の好きなルートで。野菜の直売所やパン屋さんとかに寄り道しながら。自分のために、自分の気持ちがおもむくままに体を動かす楽しさを感じている。「歩くって楽しい♪」などと、クララのようなことを思ったり…。
 6月になって結構暑くなってはきたけれど、まだ夏には遠く、程よい風もあって歩きやすいことも多い。時には、バスで通ったことがある道を歩いてみたりする。
 すると、車で通った時には見過ごしていたモノが目に入る。
 最近では、こんなに紫陽花があったっけ?というくらい、戸建ての庭や公園などに紫陽花が咲いていることに気付く。
 紫陽花といえばパッと思いつくのは鎌倉の長谷寺。が、観光名所になるくらいの紫陽花スポットは紫陽花をたくさん一気に見ることができるのは素晴らしいけれど、ごく普通の住宅街を散歩をして色々な場所にある色々な紫陽花をポツリポツリと見て楽しみながら歩くのもよいと思う。「ポケモンGO」が色々な場所で色々なポケモンを集めるのなら、さながら「紫陽花GO」。色々な紫陽花を見つけて写真に撮って画像をコレクションする。摘み取るわけにはいかないので、代わりにシャッターを切る。

 「キレイ☆」
 と写真を撮りまくっていると、一緒に歩いていた夫に、
 「ウチの紫陽花も綺麗だよ。見た?」と言われ、ハッとした。
 確かに、家の庭に咲いている紫陽花は「咲き始めたな」くらいに目の隅に捉えても、じっくり見たり写真に撮ったりはしていない。玄関先の一つの風景になってしまっていた。
 「よその子ばっかり写真に撮って~って、思われているかもよ。」
 確かに。
 「でも、まぁ、『青い鳥は実は家にいた』的なことはあるんじゃないかな?」
 等と、もごもごと言い訳をつぶやいてみる。

 帰って、家の玄関にある紫陽花を改めて見てみると、まだまだだと思っていた色がすっかり濃くなって綺麗な花をつけていた。
 「隣の芝生は青い」というけれど、「隣の紫陽花は青い」ともいえるかもしれない。