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【劇】高校演劇の面白さ「青春舞台2022」(全国高等学校演劇大会)感想

 録画していたNHKの番組、「青春舞台2022」を観た。第68回全国高等学校演劇大会(2022、7/31~8/2)を追いかけたドキュメンタリーだ。もしかして毎年やっているような番組なのかもしれないけれど、私は今年たまたま初めて見た。
 大昔になるけれど、高校生時代に、友達がこの「演劇大会」に出場するということがあった。その劇では、すでに上演されたことがある鴻上尚史さんの脚本を使っていた。私自身が演劇部所属ではなく、演劇部所属の友達がいた、というだけなので、大会に行くほどではなく、後日、関係者に向けて上演した劇を観ただけだ。なので、こんなにオリジナル脚本の高校が多いとは思わなかった。面白かった。
 審査員をしたというゲスト、鴻上尚史さんのコメントもよかった。
 今年から仕事としてエキストラをするようになって、演技に関する本にも目がいくようになったが、鴻上尚史さんの本はわかりやすく、面白い。改めて、鴻上尚史さんを見直していたところだった。最近、鴻上尚史さんづいているなぁ、と思った。


 優秀校に選ばれた「青森中央高校」の「俺とマリコと終わらない昼休み」は、昼休みの5分間が何回も繰り返されるタイムリープもの。昼休みに、ミサイルが飛んできて爆発する。爆発するまでの時間が何回も繰り返される。最初は未来なんて変えられないと思っていたけれど、主人公ガクトがまわりに働きかけ続けることで、少しずつ変わっていく、という話だ。ガクトの他にもう一人、5分間が繰り返されていると気づくリコ(マリコ)という女生徒と2人がキーパーソンとなる。
 これは、戦争を扱いながら、今の自分達もリアルに表現できる&コメディタッチなことも盛り込める、「タイムリープもの」にしたことがよかったと思う。真面目なことを扱っていても「一発芸」というような「抜け」があるのもよい。青森弁をそのまま使っていたのもよい。ただ、映像だととり直しがきいたり繰り返し映像を使うことができても、舞台では「全員が正確に何度も繰り返さないといけない」、その精度がタイムリープの説得力になる(そこがずれるとタイムリープみが薄まり嘘くさくコントっぽくなる)、という難しさもあったと思う。が、そこに挑戦することで、演劇の「技」(?)を見せることもできたと思う。鴻上尚史さんにもほめられていた。
 「リコ」(マリコ)役の女生徒に惹きつけられた。スポットライトが当たると映えるタイプの人だと思う。プロになるかどうかはともかく、演劇でも映像でも、表舞台に立つようなことを続けてほしい人だと思った。主人公のガクトも「クラスに一人はいそう」と思える生徒でリアリティがあった。そもそも「使命という言葉をちゃんと言えていない」と悩む「悩みレベル」が高い。OBに相談できる、という環境もすごいなぁ、と思った。高校演劇ならでは、だと思う。
 脚本を演じるだけ、とはいっても、高校生一人一人に言いたいことはあると思う。2020年の大会がコロナで中止された、ということも含めて。自分が当事者だったかもしれないし、その頃は後輩として、悔しい思いをする先輩を見ていただけかもしれないけれど。その思いも含めて。
 全くの別人を演じるのは、かなり難しいと思う。そして、それは高校生が向き合わなくてもいい難しさだと思う。プロの俳優養成所ではないし。自分からやりたいと思うなら別だが。「コロナ」とか「高校生」とか、何か「今の自分」とつながることを、今この時の自分が演じることに高校演劇の面白さがあるように思う。


 舞台美術賞を受賞した秩父農工科学高校の舞台美術は、高校生と思えないくらいにすごかった。私は中小劇団の劇が好きなので、きっと一般的な人よりたくさんの舞台を観ている方だと思うが、ちょっとした小劇団でも充分ありえるくらいのセットだった。センスもよかった。とるべくしてとった賞だと思う。

 最優秀校に選ばれた愛媛県立松山東高校「きょうは塾に行くふりをして」は、まさに等身大で、面白かった。この作品だけは、番組の最後にノーカットで放送されたので、通して全部観ることができた。(リンク先のYouTubeでもノーカットで観ることができる)
 演劇部の、本番前日のドタバタ。部長である「いぶき」のしきりで展開されるリハーサルが、劇となっている。急に演者として応援に駆り出された湊斗(みなと)君が、親には塾に行くと言いつつリハーサルに参加したことから、この題名になっている。演劇部の日常、という感じだけれど、起承転結もしっかりしているし、伏線回収も見事だ。あらすじを聞いただけでは「何が面白いのか?」「なぜこの作品が最優秀賞?」と思っていたが、この面白さは実際に見てみないとわからない面白さだと思う。まさに、演劇の醍醐味。  
 部長のいぶき役の子は、本当に「部長っぽい」というか、「こういう子、部長任されがち」という子で、湊斗(みなと)君も、その役らしさがある(運動部をやめて帰宅部になって、でも頼まれてセリフのない役くらいなら引き受けてくれそうなところ&色々と冷静な指摘をしそうなところ)。工事で「養生8割」というように、劇やドラマは「配役8割」くらいに思うけれど、配役だけでも成功していたと思う。
 そして視点が絶妙だとも思った。「いぶき」が主人公のようで、でもリハーサルで急に応援に来て初めて参加する湊斗君の視点を軸にすることで、初めて見る観客が無理なくその世界に入ることができる感じ。わざと下手に演じるところと全力で本気を出す部分の演じわけもすごい。複雑な立ち回りをサラッとやってのけるところなどもグッときた。そして、「ワクチンの副作用で参加できない」というwithコロナの世界あるあるの悔しさ。本当にリアルだ。

 おそらく、ここで賞をとったからといって、女優や俳優になったり演劇の美術を仕事にしていくような人はあまりいないのではないかと思う。演劇部にいた友達も、映画で役名はつかない程度の役をしたり、働き始めてからも数年は休日に小さな劇団で活動したりしていたという噂は聞いていたけれど、そのくらいだ。ただ、高校生の頃、確かに友達はいきいきとしていて楽しそうだったし、その様子を見て私は演劇部を兼部したいと思ったくらいだった。(結局、しなかったけれど(^^;))
  将来なんてわからない。でも、だからこそ、「どんな役でもできる俳優を目指す」のではなく、「今この時の高校生活で表現したいことを伝える」という自分の要素が多く入った演劇こそ貴重で面白いのだと思う。
 その時代の中にいると、価値に気づきにくいかもしれないが、「大人」である時期は成人してからずっと死ぬまで、だけれど、「高校生」である時期は(留年したり入学し直さなければ)たった3年だ。その貴重な高校生活のリアルが見える「高校演劇」、貴重だし面白い、と思った。来年も観たい番組だし、なんなら機会があれば優秀校東京公演を観に行きたいくらいだと思った。