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クリパ

※この物語りは2016年12月18日、東京の国立市において国立駅から徒歩六分の距離のクリパ・パーティーが行なわれている会場にて実際に読まれたものです。その事を念頭において読んでいただけるとよりリアル感が湧いてくると思われます。
尚、この物語りにはエレクトリック・トランぺッター近藤等則(こんどうとしのり)氏の著書「イズラエル」の一部を引用しております。

「イエス様より日本担当の皆様に緊急の連絡があります。皆様、良〜くお聞き下さいませ。イエス様は大変お怒りになられております。私がイエス様に変わりまして、これから皆様にやっていただく対応の模範をお聞かせします。終了次第すぐに皆様にもやっていただきます。イエス様がこれほどお怒りになられたのは初めてのことで私はとても恐ろしゅうございました。なぜいきなりこうなられたのか我々には理由は分かりませんが、何かがイエス様の心に触れたのでしょう。
『特に最近の日本人はひどい。他の国と比べても節操のなさが目に余る。これまでは目くじらを立てることはないと思っていたがもう耐えられない』
と、こうおっしゃっております。では見本をお聞かせします。尚、これはイエス様もリアルタイムでお聞きになられていますので、私の模範対応にミスがありましたらすぐにイエス様より修正のご意見が入ります。では始めます」

「山本さん、こんにちは。山本さん、山本惣兵衛さん。はい、気がつきましたね。私は神の使いです。あなたの頭の中に話しかけています。あなたに質問があります」
「ひえっ、なんと、神様とな。はい、なんでもお聞き下さい。山本惣兵衛七十八歳。曲がったことは大嫌い。常に人生の王道を歩んで来た自負があります。我が人生に一点の曇りもありません」
「山本さん、私はそんなことに興味はありません。あなたはこれまでにクリスマスパーティーに参加されたことはありますか?」
「え?クリスマスパーティー?そんなものに参加する年ではありませんし、関心もありません」
「そうですか。それではお子さんやお孫さんにクリスマスプレゼントをあげたことはありますか?」
「あぁ、孫にあげたことはあります。孫は可愛いですからなぁ」
 担当者の息をのむ音が伝わった。
「あなたのお孫さんはクリスチャンですか?」
七十八歳の山本惣兵衛は激しく顔を振った。
「クリスチャンでもアグネスチャンでもありません。うちは代々真言宗ですからな。ワッハッハ」
 担当者がテーブルを叩く音が聞こえた。
「死刑。あ、間違えました。あなたを八キリストの刑に処します」
 死刑の部分は聞こえなかったのだろう。
「八キリスト?なんの単位ですか、それは」
「山本さん、あなたはキリスト教を侮辱したことに気がついていないようですね、悲しいことです」
 曲がったことはして来なかった山本は確信を持って応えた。
「私は他人の悪口を言ったこともありませんし、ましてや他の宗教を侮辱したことなどただの一度もありません」
「ではお聞きします。イスラムの信者の方が大日如来様のお教えを理解せぬまま、ただその存在がめでたいからとお祭りをしたらなんと思われますか」
 曲がったことは嫌いだが知識のない惣兵衛は言葉に詰まった。
「つまりはそういうことです。よってあなたは八キリストの刑になります」
 真面目な惣兵衛は青ざめた顔でもう一度聞いた。
「そんな大変なことじゃとは気がつかなかった。申し訳ありません。ですがその八キリストの罰とは一体どのような……」
「やっとご自分の罪を理解されましたね。八キリストとはあなたがいつか命を終えられて天国へ召される時、あの世で歴史上の人物八人にイエス様の生涯のお話をすることです。簡単でしょう。武田信玄でも石田三成でも構いません。あ、聖徳太子は駄目ですよ。あの人の別名、厩戸皇子は馬小屋の前で生まれたと言うのはイエス様のパクリですから。ですからまずはイエス様のご本をお読みになって下さいね。聖書を八冊購入されても良いですよ。今ならお安くしておきましょう」
 惣兵衛の苦しそうな息づかいが聞こえていたが電話を切るように、その担当者はブチッと惣兵衛との会話を切った。

「もう一人だけ見本をお聞かせしましょう。はいはい君たち、クリスマスパーティーをしている君たちに話しています。聞きなさい。君たち」
 担当者はクリスマスパーティー真っ最中の若者九人グループ全員に声をかけた。
「なんだなんだ。なんか頭の中でおっさんの声が聞こえたぞ」
 オレもオレも。私もよと言う声が響く。
担当者は先ほどと同じように説明したが一人の青年が、
「え〜〜、関係ねーじゃん。クリパはサイコーに楽しいしさ。イルミもキレイだしさ。良いじゃんか、別にぃ」
 担当者はひきつけを起こしそうな声で、
「ク、ク、ク、クリパ?クリパって言った?クリスマスさえ言わないのですか。あなたたちは?」
「クリパはクリパだよ。な〜、みんな」
 お酒が入っているのだろう、イエ〜イと騒ぐ声が聞こえる。
「し、し、し、死刑。あ、間違えました。イエス様、イエス様。もう私にはこの日本人たちにどう対応したら良いのかわかりません。お教えくださいませ、イエス様」
 すると、突然野太い声が分けいってきた。

「あの〜、ちょっと良いですか」
「え〜?あなたは誰ですか。私たちの話しに入ってこれるなんて、一般人じゃありえません。一体あなたは誰なんですか?何ものなんですか?人間ですか?」
「あ、どうも。僕はエレクトリック・トランぺッターの近藤等則と申します。さっきから僕にも話しが聞こえていたのですが、イエスさん、ちょっと違うんじゃないですかねぇ」
「あ、コンドー君じゃないか。久しぶりだねぇ」
 イエスが突然会話に入って来た。
「十数年前になるかなぁ。あの時は君に居酒屋に連れて行ってもらって嬉しかったよ。ありがとう。元気かい?」
 担当者は突然の展開にうろたえながら、
「あの、イエス様。コンドー氏とお知り合いなんですか?」
「そうなんだよ。十数年前イズラエルの教会でコンドー君が『イエスさん、二千年間も立ちっぱなしじゃ足が疲れているでしょう。そこから降りて来ていっぱい飲みに行きましょうよ。おごりますよと』言ってくれてなあ。二千年間でお祈りではなくてお酒を飲みに行こうって誘ってくれたのはコンドー君が初めてだったんだよ。あの時飲んだワインは美味かったなあ。ワインも良いけどその後で飲ませてもらった日本の焼酎のお湯割りもグッドだったねぇ。イズラエルの居酒屋にもあるんだねぇ〜」
 クリパの若者たちもこの会話が聞こえているようで時折「イエ〜イ」という声が聞こえてくる。

「イエスさん、さっきの話しを聞いているとなんかケツの穴が小ぃせぇなあと思ってしまって声をかけたんですよ。別にクリスチャンじゃなくたってクリスマスパーティーしても良いじゃないですか。節操のなさこそが日本人なんですよ。真言宗の教えには全ての宗教・思想が包み込まれているんでっせ。それが曼荼羅です。ワテのとこなんか、天照大神、スサノオノ様、神武天皇、おしゃか様、弘法大師、大黒様、えびす様、弁天様、オイナリサン、琴平さん、何でも飾ってます。オテント様が東から登って西なのも、日に三度のオマンマがいただけるのも、カミサマ・ホトケサマ・ゴセンゾサマのおかげどす。御利益のあるものなら何でもパアーッと飾ってニギヤカにしとれば、ええんどす。そうすれば福来たる、と言うやありまへんか。オタクらのエルサレムなど、三つの宗教の御本尊をおもちになって、あんなニギヤカな御利益のあるところなど、おまへん。大阪も東京もかないまへんわ。せいぜいお二人が仲良うして、エルサレム、イズラエルの御利益をいただいた方が理にかないますよって、しっかりしておくんなはれ」
「そうだそうだ。イエ〜イ」
と声がかかる。

「そうか。コンドー君が言うことは一理も二里もあるなぁ。私の心の狭さが出てしまったようだ。このことは無しにしよう」
「イエスさん、それが良いですよ。でも、クリパと言ってるヤツらは成敗しましょう。クリパじゃこの間のアメリカ大統領選で負けたクリントンのパーティーかと思う人もいるかも知れないし。何でもかんでも言葉を省略するヤツらはガツンと一発シメテ、お仕置きしてやらね〜と」
「おぉ〜、コンドー君、それは良いねぇ。じゃまずどこからやる?ヤツラを成敗した後、久しぶりに焼酎のお湯割り奢ってほしいなぁ〜」

 近藤が椅子から立ち上がり、スタジオのクローゼットから取り出したマリリンモンローのヌード姿が背中に大きく描かれている革ジャンをはおる音が聞こえて、
「今、東京の国立でクリパだとほざいている連中がいます。まずはヤツらをシメましょう」
 イエスが近藤の腕を取り、瞬間移動で国立の駅前に降り立った。六分後に二人はそこへ着く。


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