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初めてうんちを拭いた、福祉で働いていた時の話。

初めて人のうんちを拭いた、初めて下を洗った、初めて人の死を目の当たりにした。

そして、初めて心から「ありがとう。」と言われた。

16年前、21歳の僕は、福祉施設で働いていた、

「おい、ゴリ!茶、持ってきてくれ!」

おじいちゃんが杖で尻をつついてくる、

「やめてください!」と言いながらも僕は嬉しそうに笑う。

僕はおじいちゃんおばあちゃんからゴリと呼ばれ、福祉の世界で奮闘していた。

12時食事介助!13時入浴介助!

「ゴリ、お茶!」

「ゴリ、トイレ!」

ひっきりなしのゴリコール!

「ヒーッ、忙しい!」

額に流れる汗を拭い、時計を見たらアッと言う間に15時で送迎の時間!

福祉の仕事は僕が思ってた以上に忙しかった。

僕が働いていた施設では、昼食後、リハビリを兼ねたレクリエーションがあった、

若手の僕はレクリエーションのリーダーを任されていた。

「レクリエーションリーダーの上山です!今日は風船バレーをします!」

ボーッと天井を見つめるおじいちゃん、袖をまくりヤル気満々のおばあちゃん、

色んなおじいちゃんやおばあちゃんがいる中で、

「〇〇さん惜しい!」「〇〇さんナイス!」と懸命にレクリエーションを盛り上げていた。

そんな中、気になることがあった、レクリエーションの輪から外れて一人ポツンと車いすに座っているおじいちゃんがいた。

僕は思った、「あのおじいちゃんいつも輪から外れているよな。」

そのおじいちゃんは目が見えず、手足もほとんど動かせず、蚊の鳴くような声で話すだけ。

気になった僕は、レクリエーションが終わったあと、僕の上司である師長に聞いてみることにした。

「すみません、、。一つ聞きたいことがあるんですけど、、。」

上司はデスクに座ってカルテを記入していた。

「何?」

上司は手を止めてこっちを見た、ガマガエルみたいな顔をしている。

僕は緊張しながら気になったことを話した。

「あの車椅子のおじいちゃん、いつも一人ですけど、みんなの輪の中にいれないんですか?」

するとガマガエルは、いや師長は僕を見てこう言った。

「あのおじいちゃんは動けないおじいちゃんだから、あのままでいいんだよ。」

僕はレクリエーションに参加できなくても、輪の中にいるだけでも価値があると思ったのだが、

僕よりはるかに経験を積んできた師長の言葉に何も言えなかった、

「そうですか、、。分かりました、、。」と頷き引き下がった。

【自分の中の優しさを見て見ぬふりする癖】

僕は今まで自分の中に生まれた気持ちを何度も見て見ぬふりしてきた、

目の前で親友がいじめられていた時も、冬の夜、女性のホームレスが毛布にくるまり震えていて時も、

「何かできることがあるんじゃないか!?」と思っても、「ありがた迷惑になったらあかんし、、。」とか、

色んな理由をつけて自分の中に芽生えた気持ちを見て見ぬふりしてきた、

そして後から何もしなかった自分に後悔してきた。

「ここで見て見ぬふりしたらまた後悔する。」

僕はそう思い自分を奮い立たせ、何でもいいからできることをやってみようと思った。

それから僕は毎日そのおじいちゃんと一緒に昼食を食べるようにした。

食事介助を担当することで何か発見があるかもしれないと思った。

そうやって毎日、おじいちゃんの食事介助を担当していたある日、僕は大きな発見をした!

おじいちゃんをよくよく見ると、おじいちゃんの指先が動いているのだ!

この瞬間、僕は自分の思い込みに気付いた!

僕は勝手に、「動けないおじいちゃん。」と思い込んでいた。

でも、このおじいちゃんを正しく認識するなら、

『動けないおじいちゃん』ではなくて『指先が動くおじいちゃん』だ!

おじいちゃんに対する見方が変わった瞬間、一つのアイデアが頭に浮かんだ!

僕は昼食後そのアイデアを試してみることにした。

使うのはクッションのサッカーボール、

「〇〇さん、今日は僕と一緒にレクリエーションをしましょう!」

そう言って机を挟んで僕とおじいちゃんが対面に座る。

「〇〇さんボールを転がしますね!」

僕はドキドキしながら机の上にボールを転がした、

ボールがコロコロと転がりおじいちゃんの指先にコツンと当たる、

「何か起きるかも、、。」と期待したが、

おじいちゃんの反応はないし何も起こらない、、。

「やっぱり、あかんか、、。」

そう思った時!

なんと!おじいちゃんが指先を動かしボールを自分の前に手繰り寄せ始めた!

そして、ピシッ!おじいちゃんがボールにデコピンをかましたのだ!

僕の元に向かってボールがコロコロと転がってくる!

この瞬間またもや自分の思い込み気付く!

このおじいちゃん、『動けないおじいちゃん』でもないし、『指先が動く』おじいちゃんでもない!厳密に言うと、『デコピンができるおじいちゃん』じゃないか!

僕の中で、ピチュウ、ピカチュウ、ライチュウとポケモンが進化するようにおじいちゃんの見方が進化していく!

驚きながら、僕は再びおじいちゃんに向かってボールを転がした、

するとおじいちゃんは再び、指先を動かしボールを手繰り寄せ、

ピシッ!ボールにデコピンをかました!

またもや僕の元にボールがコロコロと転がってくる!

それを3回4回と繰り返してる内に、気づけばそれが、僕とおじいちゃんのキャッチボールみたいになっていた。

そして、レクリエーションの時間が終わり、

興奮冷めやらぬままおじいちゃんに、「ありがとうございました!」と声をかけて席を外そうとしたとき、

「上山君、、。」

おじいちゃんが初めて僕の名前を呼んでくれた、

僕は慌てておじいちゃんの口元に耳を持っていくと、

おじいちゃんは蚊の鳴くような声で続けた、

「わしな、若い頃、公園で息子とようキャッチボールしたんや、久しぶりにそのこと思い出したわ、ありがとうな、、。」

僕は泣きそうになった。

僕は泣くのを必死に堪えて、

おじいちゃんに、

「こちらこそ、ありがとうございます。」と伝えた。

【3Kと呼ばれる仕事】

16年前の話やけどね、

排泄介助、入浴介助、当たり前のように残業して、初任給14万6千円、もろもろ引かれて手取りが12万くらい、

人の嫌がる、きつい、汚い、臭い、3Kと呼ばれる仕事、

でも僕にとっては、たくさんの気付き与えてくれた、

感謝、感激、感動の3Kの仕事だった、

結果的に僕は2年で福祉の仕事を辞めて、書家として独立するが、福祉の世界で学んだことが、今でも大いに役立っている、

人を思いやること、

どの世界においても、これがなければ何も始まらない、

走ることですらこんなことを思う、

確かに大変やったけど、あの時、培った、

自分の中の優しさに正直に生きる強さは、

今の僕の人生の土台になっている。

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