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「ウマ娘」第5章「scenery」感想【サイレンススズカへの祝福】

※ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」のメインストーリー第5章「scenery」のネタバレを壮大に含んでいるので、ご注意ください。


まず、演出がいい

1枚目、スズカがラストスパートに入るところの演出。
2枚目、言いしれない不安とともに走るレースシーンでの、他のウマ娘が見えない演出。

その他にも様々、素敵な演出がありました。個人的には第1話でスズカの登場シーンや勝利シーンでさりげなく流れているサイレンススズカのキャラクターソング「Silent Star」のオケバージョンがとっても好きでした。

史実から、アニメから、世界線を分ける「ウマ娘」公式の宣言

天皇賞「秋」を勝利するサイレンススズカを描く。

第5章を読んだ時、史実とも、アニメとも違う物語を、公式「ウマ娘」が選んだことと、その描写の仕方に、なにかものすごく感動してしまいました。

大欅の向こうで世界線を超えた

ただ秋の盾を取ったわけではなく、スズカへの呪いは存在していた

第13話の天皇賞「秋」に向けて、アグネスタキオンの登場やトレーナーの悪夢によって、スズカの故障は仄めかされてきました。史実やアニメのサイレンススズカを知る僕たち視聴者にとっては、その出来事は自明のことでもあります。

しかし、第5章の中で実際にスズカが左足に違和感を感じるような描写は一切なく、ただ周囲が不安に思う描写だけが第13話に向けて重ねられていきます。

それを違和感なく受け入れられたのは僕たちが史実を知っているからであって、もし史実もアニメも知らないファンが、大欅の向こうで暗闇に飲まれたスズカを見ても、唐突な展開に思ってしまうのではないでしょうか。

何が言いたいかというと、「scenery」の世界線にあっても確実に、天皇賞「秋」におけるスズカへの呪いのようなものは存在しているということ、少しだけ飛躍が許されるなら、「史実、アニメ」の世界線の存在自体を「scenery」の世界は認めているということ。

だからこそ、あそこで唐突にスズカが暗闇に飲まれてしまい、そして、そこから蘇るという一連のシーンが成立しているし、それが必要なのだと思います。

「想い」が世界線を超越させる

「ウマ娘」の世界でも時折語られるように、あの世界においてウマ娘とはその存在理由が解明されておらず、「まだ謎に包まれていることが多い」存在です。5章でもアグネスタキオンからそのような発言がありました。

第12話のサブタイトルにもあるように、ウマ娘は何らかの「想い」を背負うことで、人智を超えた力を発揮するようです。

大欅の向こうの暗闇の中で、スズカを救ったのは間違いなく仲間たちの想いでした。真っ暗闇のなかで「想い」は明るい光として描かれています、まずは闇の沼に嵌ったスズカの背中を、光り輝く手がトンと押し、スズカの足は動くようになりました。

そして極めつけは次のシーンです。

これはサイレンススズカの左足。史実・アニメの天皇賞「秋」では故障してしまう左足です。

その左足が、「scenery」では光り輝く「想い」によって護られ、スズカは暗闇を抜け出します。

この左足がまさに世界線を超えた一歩であり、ここでゲーム「ウマ娘」は、史実ともアニメとも違う、スズカが「秋」を勝つ世界線を選んだのだと思います。

ウマ娘だから、「ウマ娘」のスズカは生き延びる

少し脇道にそれますが、アニメ「ウマ娘」でスズカが命を落とさなかった理由は、彼女たちが馬ではなくウマ娘だからだ、という考え方が僕は非常に好きです。

・スズカが転倒/激突するよりも早く、スズカのもとに駆け寄れる脚
・スズカを介抱し、「左足を地面につけない」ようサポートできる腕
これらを兼ね備えていなければスズカを救うことはできず、そして、史実にはそれが存在しませんでした。
しかし、「ウマ娘」の世界にはスペシャルウィークがいて、アニメではいち早くスズカのもとに駆けつけた彼女によって、スズカは一命を取り留めるのです。

この「馬ではなくウマ娘だから」という理由は、史実を軽んじず、それでいてウマ娘であるスズカを救える唯一無二の方法なのではないかと思います。

そして少しファンタジックではありますが「scenery」の「想い」によって生きるという物語にも、「ウマ娘だから」という理由は通じるところがあり、それも僕がこの話が好きだった理由です。

ウマ娘「サイレンススズカ」は特別扱いされない

史実の世界線に触れ、しかしそれを超えるという物語と描写。
僕が「scenery」に痺れた理由は以上に尽きます。

実は僕はこの5話を読むまで、ウマ娘はサイレンススズカのために作られたゲーム・物語だと思っていましたし、今もまだその思いはあります。

Half Anniversaryのイベントで配布されたこのカードが、なぜスペシャルウィークではなく、サイレンススズカなのか。
いつか、サイレンススズカと天皇賞「秋」の物語に、ゲーム「ウマ娘」も決着をつけなければならないし、それはなんらかの節目に行われるだろうと思っていました。(たとえば、10月末のピックアップは衣装違いスズカだと思っていましたし、この第5章を読むまでは、それは1周年で行われるだろうと思っていました)

ですが、その決着は今回の「scenery」で完了し、スズカには天皇賞「秋」を勝利するという物語が与えられました。

だからこれから先、スズカはなんらかの特別扱いを受けることはなく、ほかのウマ娘と同様、いつか普通に衣装違いが配られるのでしょう。

そのことに少し、卒業式を終えた寂しさを感じなくはないのですが、それ以上に、5章にしてついにその足が地についた、サイレンススズカへの祝福をおくりたいなと思っています。


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