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内と外のあなた

猫ちゃんへ

お元気ですか?
先月一ヶ月空いてしまってごめんなさい。
まずはその話をしようと思います。

あなたが旅立ってから、私は生活の端々にあなたの幻をみていました。
夕飯を作っていれば足元にあなたがすり寄ってきた気がしていたし、置いたままの段ボールですうすうと寝息を立てているような気がしていました。
それはそれで幸せだったのです。

なのに、6月の頃にはだんだんあなたの気配が薄れて、幻を見る回数も減ってきました。私はそのことに対して罪悪感を抱きました。全力で愛していたあなたを、こんなにも早く忘れるのかと失望さえしました。生活の中からあなたの気配が消えていくことに、焦りを覚えました。
メンタルの調子はどんどん悪くなりました。

この現象を「同化」というそうです。
私と同じ世界にいたあなたは、旅立ち、時間を経ることで私の内側へと入り込み、同一の存在になったということらしいです。俗にいう「心の中に住んでいる」というものでしょうか。
この体験はひどく苦しく、ですがあなたの夢を見ることで救われていました。
そういうわけで、先月はあなたに手紙を書くことができませんでした。ごめんなさいね。

8月はひどく暑い日々が続いています。あなたのいるとことはどうでしょうか。毎日あなたの安寧と快適を祈っていますが、届いていますでしょうか。少しでもあなたの幸福に繋がることを信じて、毎朝お線香を立てています。お盆はどうぞゆっくりしていってくださいね。
毎日シーバをお供えして歓待します。

あなたは朝、涼しい木陰で目覚め、昼には新しい友達と草野原を駆け抜け、夕暮れには満足するまで美味しいものを食べ、夜には猫の集会に参加して、それから好みの硬さのベッドでぷうぷうと寝息を立てて眠ります。
そんな暮らしに飽きると、あなたは時々私の枕元にやってきて、布団に入れろと鼻先で私を突っつくのです。
私の中のあなたは、そういう暮らしをしています。

私の外のあなた、今きっと星々を渡り歩き、しんとした宇宙を征くあなた。その大きく丸い瞳で誰も知らない景色を見て、静かにたたずむあなた。どうか心ゆくまでこのうつくしい世界を楽しんで。

あなたの最高の幸福を祈って、ミツビシより。

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