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【実体験】アムウェイでの3ヶ月と退会の理由

「アムウェイに勧誘された」。そんな経験をした人は意外と多くいるのではないだろうか。アムウェイというと「ネズミ講」「宗教」というイメージを抱く人も多いだろう。本記事ではアムウェイの勧誘を受け実際に登録し、最後は退会の道を選んだ著者の3ヶ月間を記録として残す。

第1章 再開

『よかったら、今度ご飯でも行かない?』大学時代の友人Aからのメッセージ。Aとは大学時代、同じ学部でお互いにSNSをフォローしてはいるが、プライベートで遊んだりはしない程度の付き合いだった。社会人3年目のある日、インスタの投稿にコメントをくれたのをきっかけに、しばらくメッセージの送り合いが続き、ご飯に誘われる流れとなった。

特に断る理由もなく承諾。数日後にカフェを楽しんだが、結論を言うとこの時は「アムウェイ」という言葉は出てこなかった。話は思いの外弾み、また会おうねと約束を交わしその日は解散した。私も卒業後に大学の友人と仲良くなれるとは思わず、とても嬉しかった。

2回目の遊びのお誘い。弟を紹介したいから、弟の家でご飯しようとのことだった。扉を開けると、溜まり場になっているようで、学生くらいの若者が数人いた。薄暗くおしゃれなワンルーム。ただその部屋の中央に置かれたホワイトボードを見たとき、私は少し嫌な予感がした(我ながら察しが早かった)。しばらく談話した後、Aは立ち上がりホワイトボードの前に立った。

『私達、ネットワークビジネスをやってるの』

そう言うとホワイトボードに「Amway(アムウェイ)」と書いた。その後30分ほどだろうか、慣れた手つきでビジネスの仕組みについてホワイトボードに図を書きながら私に説明した。

アムウェイとは何か。簡単に説明すると家庭日用品を販売する企業である。ただし一般企業と大きく違うのは、販売といっても広告を打たず「口コミ」で商品を宣伝し、多くの人を購買に至らせた口コミ主は現金で報酬をもらえる点にある。商品を買って、別の人に紹介する。ピラミッドのように上の人から広がれば広がるほど、手元にお金が入る。これだけ聞くと「ネズミ講だ!」と思うが、アムウェイ関係者が言うには「ネズミ講ではない」とのこと。(アムウェイ公式サイトでもネズミ講でない旨を説明している)まあ厳密にはネズミ講でないにしても仕組みはほぼ同じだ。

話を戻そう。私は「ああ、またこれか」と思いながらAの話を聞いていた。アムウェイの勧誘をされるのは、これで2度目である。大学時代に先輩から勧誘を受けており「一生労働者の人生と、不労収入を得ながら好きなことして暮らす人生とどっちがいい?」と誘導尋問を受け嫌な印象を持っていた。アムウェイにとって労働は「悪」だった。

普段愛想のいい(と自分では思っている)私だが、Aがアムウェイの説明をしている間、相当しかめ面だったのだろう。『大丈夫?もしかして知ってた?』とAは私の顔色を伺いながら聞く。私は正直に、過去にも勧誘を受けいい思いをしなかった旨を伝えた。Aは言った。『確かに、紹介者の中には金儲けばかりに目を向けてアムウェイの印象を悪くしてしまう良くない人もいる。でも、私は(著者)ちゃんにも商品を広めてほしいわけじゃなくて、商品を使うだけでもいいと思うの。実際アムウェイで「広げる」活動をしてるのは1割で、9割は使うだけのユーザー。みんなが良い商品を使って、みんなに幸せになってほしいの。』

私の心は動かなかった。アムウェイには入る気はないことを伝えた。食事の後、皆当たり前のようにサプリケースを取り出し、10粒ぐらいのサプリを一気飲みする光景はまさに何かの宗教のようだった。

第2章 本社突入・登録

3度目にAに会うのは『絵を描いて欲しいから打ち合わせをしたい』と言われたからであった(私は本業の傍ら、絵の仕事をしている)。待ち合わせは渋谷。待ち合わせ時間に渋谷に着いたがAはおらず、代わりにメッセージが届いた。『今渋谷近くのビル中にいるの、ここまで来れたりする?』

とりあえず、向かった。渋谷駅から10分くらい歩いただろうか。通ったことのない静かな道。目的地はもうすぐ。そしてビルが見えた。入り口には「Amway」と書かれた看板があった。

とりあえず、入った。エントランスは広々と綺麗で、若めの人が沢山いる。カフェも併設しており活気があった。奥にはきっとアムウェイ製であろう商品がずらりと販売されているコーナーがあった。しばらくするとAは現れ、ラウンジに行こう、と私を2階に連れて行った。その際、アムウェイ商品であるドリンクを購入し、私にくれた。

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▲アムウェイの中でも定番商品の砂糖0のエナジードリンク。モンスターとか飲む人はきっと好きな味だろう。

2階にはよりたくさんの人がいた。ほとんどが若者。ラウンジを歩いてるだけで、「お、Aじゃん!隣は友達?よろしくね〜」と声をかけてくるコミュ力の高い人種が多くいた。ここにいる人みんな顔見知りなんかな…すごいな…と思いつつ、空いてる席を見つけ着席。今日は絵の打ち合わせという名目で集まったので、私はしっかりヒアリングを済ませた。早々に帰ろうかと思ったが、まあそうもいかなかった。『今日は弟もここにいるから呼んでくるね、あと他にも紹介したい素敵な人がたくさんいるの!』Aはそう言うと次々とテーブルに人を呼び、私は少しずつ皆と話をした。中には「商品紹介の練習をさせてください!」と言って私にアムウェイの商品を説明する人もいた。素直に説明を聞いていると、「ありがとうございます、お礼です」と、推しの商品を私にプレゼントしてくれた。

何人か話してみた印象として、みんな基本的に雰囲気のいい子だ。とても人を騙してお金を儲けようなんて思ってる雰囲気ではない。とはいえ私もアムウェイで活動しようという気は全くおきなかったが、ついに『(著者)ちゃんも入ってみる?』と誘いの言葉をかけられた。断った。それでも勧められる。『確かにアムウェイは悪く見られがちだけど、人の成功が自分の成功につながるハッピーなビジネスだよ。それに、別に他の人に商品を広めたりしなくてよくて、ただ良い製品を使って良い生活をして欲しいだけなの』。私は困った。もともと断るのは苦手な性格な上、相手との関係も崩したくない。でもアムウェイで活動する気はない。……一旦、この場を丸く収めようと思った。もし会員登録しても、必ず登録解除の手はあるものだ。年会費は1年目はかからないし、入会だけしてすぐ辞めてしまえばいい。私は「わかった、とりあえず登録はするね」と伝えると、Aはとても嬉しそうだった。こうして私はアムウェイの会員になった。

会員登録を済ませると、Aはその日アムウェイにいた様々な人に 私のことを紹介してまわった。私は何度もニコニコと挨拶を繰り返した。アムウェイにいる人はさすが一筋縄でない人が多く、経営者や何かしらの偉業を成し遂げた人、刺青のオニーサンなど個性の強い人がたくさんいた。「スゴイデスネ〜」と繰り返しながら談話したりSNSを交換したりなどした。

第3章 中間報告

SNSを通して眺める、彼ら生活はいわゆる「意識高い系」だった。「やりたいこと全てやる人生」「何よりも仲間が大事」「稼ぎたければ努力が必要」…どれも間違いではない。いつも頑張れる人はすごいと思う。ただ、少なくとも私は、この手の内容は聞きすぎると疲れることがあった。人としての波長が私と合わなかったのだと思う、彼らの投稿はそのうちミュートにしてしまった。「PCに牛乳こぼしちゃった ><」とストーリーにあげる友人の方が私には心地よかった。

人と人を繋ぐのが得意な彼らは、時に私にモニター案件を紹介してくることもあった。乗ってしまった話の中で一番怖かったのは、歯科矯正の無料モニターを募集していると言われ、紹介されたクリニックで話を聞いたら「先払いで185万頂戴します、治療後にキャッシュバッグしますので」と言われたことだ(さすがに断った、というか無理)。その後ムリヤリ勧誘してくることはなかったが、とにかく疲れた。

Aからは定期的に電話がかかってくる。栄養、空気、水の大切さをよく説かれた(もちろん、それらの話にアムウェイ製品のサプリメント、空気清浄機、浄水器を交えたトークだった)。入会直後は割引が効くので今のうちに製品を買ったほうが良い、とのことだった。

辞めようかな。そう思い始めた。というか、もともと辞める前提で入ったのだからもっと早くに退会してしまえばよかったのだ。私はアムウェイの会員ページに入り、退会メニューを探し出した。そこにはこう書いてあった。「パートナー双方の同意/資格解約手続きには、登録者とパートナー双方の同意が必要です」。同意はしてくれないだろうなあ…

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▲この頃は日々ストレスが溜まり、社会人にもかかわらず全頭ブリーチをキメた。食欲も体重も減り、健康診断の判定は軽度異常だった。

第4章:実験、洗脳

とある金曜日の仕事終わり。私はAの新居へ向かっていた。今日は絵を実際に飾る場所の下見にぜひ来てと誘われていた。…と言いつつ、きっと今日もアムウェイの商品を紹介されるだろうというのも自分の中でも薄々わかった。それでも、私は彼女のことを決して嫌いなわけではないので、断れなかった。我ながらちょろすぎる。

新居の扉を開けると、そこはモデルルームのような綺麗な部屋だった。聞いたところ、お風呂すらまだ使ったことがない新居ホヤホヤとのこと。家具や家電は一式揃っており、所々に見覚えのあるロゴが見えた。『全部アムウェイの製品だよ。今日は色々試してみてね。』

絵を飾る場所の下見は数分で終わった(見るだけだからな)。その後は料理の得意なAと共に夕飯作りをした。もちろん、アムウェイのまな板、包丁、ミキサー、鍋で。感想としては、とても良い。包丁なんか、本当に力を入れずにスン、と食材が切れる。オレンジやキウイのような果物も果汁が滲み出ることなく綺麗な薄い輪切りが次々に量産できた。その日はハンバーグとフルーツケーキを作った。美味しかった。食後にはアムウェイのサプリメントが渡された。

時刻は0時近くだった。終電はない。その日は泊まっていくことになり、私はお風呂を借りた。シャンプーやトリートメントはもちろん、クレンジング、シャワーヘッド、ドライヤーに至るまで全てアムウェイ製だ。感想としては先ほどと同じになるが、どれもとても良い製品だ。ドライヤーなんかは髪が痛まない温度感と強烈な風量で私の傷んだブリーチ頭がすぐにサラサラになった。

ここから長いのがスキンケアタイム。Aは美容にも力を入れている。私を椅子に座らせると、10種類を超えるスキンケア商品が化粧品売り場にいるようにずらりと並べられた。ブースターに始まり、化粧水や複数の美容液、乳液、クリームに包まれた私の肌はもう絞れるのではというくらいヒタッヒタになった。正直化粧品はある程度の期間使わないと合ってるかわからないが、確実にここ数年の自分の肌で一番ベト…モチモチだった。

スキンケアはパックなどもあり1時間弱かかった。時刻は午前2時を回っていた。このクリームを塗った直後の肌で新品のお布団を汚さないように寝ないとな…などと考えていた頃に、私の前に謎の箱が置かれた。『見てほしいものがあるの。』

箱の中には見覚えのある洗剤や調味料と、アムウェイのの商品が置かれていた。そして「普段使っている市販品がどれほど体に良くないか」「アムウェイの商品がどれほど良いか」を伝えるための実験が開始された。

・食器用洗剤の比較。油汚れが落ちるのは市販品とアムウェイ製品のどちらか。→アムウェイ製品。市販品は皿の汚れを落としきれず、さらに残った洗剤は普段の食事を通し少しづつ脳に蓄積され、血管が詰まると言われた。

・ボディソープの比較。肌に優しいのは市販品とアムウェイ製品どちらか。→もちろんアムウェイ製品。アムウェイのボディソープは肌と同じ弱酸性。市販品は安さを追求してアルカリ性の原料を使い、使用感をよくするために油を混ぜてしっとり感を出してるだけ。油を塗ったくってるようなものだというのを、中学生ぶりにBTB溶液を使って説明された。

その他にも、襟の汚れ落とし、ハンドソープ、除菌スプレーなどの比較を見せられた。彼女の説明っぷりは実に見事だった。時に難しい化学用語のようなものも出てくる。相当練習しただろうというのはしみじみと伝わってきた。(「ほら、どっちの方が汚れが落ちてる?」のような誘導尋問をされるのは少し不服だった)

時計の短針は4の数字を指していた。私の思考力は鈍くなっていた。「あれ、私が日常的に使ってる市販品って実は毒なのかな…アムウェイの商品を使わないと、不健康になるのかな…」『そう!みんな広告のイメージだけで商品を選んじゃうけど、たとえガッキーがCMしてても実際ガッキーがその商品を使ってるわけでもないし、イメージじゃなくてちゃんと中身でものを選ばなきゃダメだよ!みんなに真実を知ってもらって、みんなに健康で幸せになってほしい!』彼女の言ってることは、正論に感じた。外が明るくなり始めた。

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▲実験の様子。赤と青の入れ物に、市販品とアムウェイ品を入れて比べる。

第5章 周囲の反応

「辞めなよ。」友人達の反応は決まって否定的だ。信頼できる数人にアムウェイでの体験談を話したが、1人を除き他の人は皆アムウェイの存在を知っていた(思った以上の認知率である)。私も別にアムウェイが好きになったわけではないが、中にいる人や商品自体は悪くないことを感じていたので、そこまで否定されるのか、という気持ちがしてしまった。私は友人達を勧誘する気はさらさら無かったが、「勧誘しないよね?」と言われると冗談でも警戒されていることが悲しかった。

一番刺さったのは後輩からの言葉だった。「(著者)さんは優しいけどだれこれ構わず付き合うのはではなく、人を選んで付き合ってください!そんなことで自分の価値を下げないでください!」

「自分の価値を下げる」。そうか、私自身がいくら勧誘をしなくとも、付き合ってる人が悪いと私自身の評価も落ちてしまうのか、と改めて思った。自分では悪い人と付き合ってると思わなくても、まだまだ世間一般的にアムウェイのビジネスモデルは受け入れられておらず、印象が良くないのは確かだ。失った信用は戻らない。私の大切な友人たちが、私に不信感を抱いて離れていくのはどうしても避けたかった。後日、その後輩はわざわざ法学に強い知り合い相談してくれたらしく「特定商取引法的に、公衆の出入りする場所以外での勧誘は法律違反みたいですよ!同意がないと辞められないなんて無視です。辞める権利はバッチリありますし、たとえ裁判になっても味方します」と言ってくれた。本当に私は周りの人に恵まれてるな、と思った。

ある日、アムウェイの会誌がポスト届いた。のを、同棲中の彼が家に持ってきた。(彼にはアムウェイのことを話していない。言わずもがな大ピンチである。)

「なんでアムウェイのカタログがうちに届くの」。元商学部だからだろうか、当然のごとくアムウェイのことは知っていた。隠せないな、と悟った私は全てを話した。「辞めな」。返ってきた反応は予想通りだった。

タイミングがいいというのか悪いというのか、Aから連絡が来た。『明日仕事で(著者)ちゃんの家の近くに行くから、最近オススメの商品紹介してもいい?』。私は伝えた。「ごめん、彼にアムウェイやってるの伝えたら、辞めてほしいって。だから抜けようと思う。」

簡単には承諾されなかった。『彼氏さんはなんでアムウェイ嫌いなの?も別の人から勧誘受けて嫌な思いしたとか?私から正しく説明したいから、よければ話させてもらえるかな』。こうして私、A、彼の3人で音声通話が始まった。

「今使ってる日用品で、何も不便してません。今後も一切アムウェイの商品は買わせません。」彼ははっきりとAに伝えた。(彼は物事に動じない頑固な人だ。敵にすると怖い。褒めてる。)もちろんAも引き下がらない。『(著者)ちゃんは実際にアムウェイの商品がいいねって言ってくれましたよ。使ってみればわかると思うので、今度直接説明させていただけませんか?』Aも強い。私が一番何もできなかった。「家計は共同管理なので、一切買わせる気はありません。」『では、(著者)ちゃんが使う化粧品だけでも買わせてあげられませんか』「ダメです。」2人の会話はどちらも引き下がらない。その後Aはアムウェイのおかげでバラバラだった自分の家族仲良しになった自分の実体験を語ってくれた。だからと言って彼の心が動くこともなく、もう埒があかないので私は「今日はここまでにしよう、2人ともごめんね」と、通話を切った。自分のどっちつかずな決断力のなさで全く関係のない彼まで巻き込んでしまったのは本当に申し訳なかった。

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▲家に届いた会誌。製品の紹介や、アムウェイでの成功の仕方などが載っている。

第5章 退会

その後、私はアムウェイを退会した。理由は3つだ。

・疲れた。ただアムウェイに籍があるかないかというだけなのに、いろんな人に会ったり製品の説明を受けたり、自分の時間をたくさん割いてしまった。自分がアムウェイに入ってるのがバレてないか?など人からの目線も気になり、心労が多かった。

・アムウェイの健康論を受け入れきることができなかった。「Amwayの空気清浄機や浄水器じゃないと有害な物質を取りきれない」「市販品は安い原価で大量に売ることを考えられた粗悪品だ」。本当にそうだろうか。仕事柄メーカーの方と話す機会も多いが、どんな商品であれ一生懸命ユーザのことを考え開発してくれていると思う。アムウェイ製品を使わなければ健康な体が手に入らないかのようにデータを使って説明されるたび、何度も納得しそうになった。でも、事実アムウェイ製品を使わなくても健康な大人が、周りにはたくさんいた。

・何よりも、今自分の周りにいる人たちを大事にしたかった。一度失った信用は戻らないと思う。私がアムウェイに入っていることで離れていく人がいるかもしれないと思うと恐ろしかった。

いざ退会しようとすると、手続きは一瞬だ。1分もかからず手続きは終わった。退会すると、紹介者(A)には私が退会したのがわかる仕組みになっているらしい。構わない。本当にご縁のある人なら、私がどこに所属していようといなかろうと、仲良くすればいいだけのことだ。

今でも、アムウェイで出会った人々や製品は決して悪いものばかりでなかったと思う。ただただ何も知らずに「アムウェイなんて良くない」というのではなく、自分の体験をもとに判断できたのは良い経験だった、と思うことにする。

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