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シシャモの恐怖

夕食にシシャモを食べた。長男の好物。
次男は「にがい」と言って、卵のみをほじくって食べる。残骸は私。

「あっちゃん、ほんとは頭からしっぽまで全部食べられるんだよ」
長男は自慢げにバリボリ丸かじり。

苦いものは兄のが得意で、辛いものは弟。
お互い得意分野の時は相手に見せつけるように食べる。
が、実は牛乳を飲んで苦味や辛味に耐えているのが面白い。

「今さ、シシャモがこれ見てたら、怖いだろうね」
箸でシシャモをつまんで眺めながら、長男が言う。

焼かれて一列に並べられた同胞。
そこに大きな手が伸びてきて、頭からかじられたり、卵をほじくられたり。

「そうだね。怖すぎるね」
進撃の巨人を思い出しながら相槌をうつ。
自分以外の視点で世界を見られるようになったんだなぁ、と長男に感心する。

卵をほじるのに飽きた次男が、会話に参加してきた。

「つくえの下とか、カーテンから見ていたら、こわいってこと?」

ん?

私と長男の思考が一時停止した。

「つくえからひょこって出てきたり、カーテンのすきまにいっぱい並んでるの。こわいよね?」
次男がさらに詳しく話してくれた。

こ、この人、シシャモ(野良?)が今こっちを見てたらこわいって話をしている?!

さっきの兄の発言(「今さ、シシャモがこれ見てたら、怖いだろうね」)からそう考えたのもわからなくない……かも?

ペールブルーのカーテンの隙間から銀色のシシャモがずらりと並び、意思疎通できない魚の目でこちらをじっと見ていたら……
ふと気づくと机の下にもいっぱいいたら……

たしかに、こわっ!

三人で「こわっ!」「こわーい!」と盛り上がった。

毎夜、子供らの寝息が聞こえだすころ、とーちゃんがカギをあける音がする。
仕事が忙しいとーちゃんは、平日ほとんど子供と会えない。
疲れてぐったりとしていて気の毒。

とーちゃんの夕ご飯を準備しつつ、子供らの話をする。

「今日ね、シシャモ食べてたら、あっちゃんがさ……」

シシャモを食べながら、
「まったく、あっちゃんってば……」
とーちゃんはくっくっくと笑った。

私はとても満足した気持ちになった。

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