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深夜のSA 寝たい親と眠らぬチビたち

「もう限界なんだよ!今すぐ黙って寝ろ!
 このままじゃ事故ってみんな死ぬことになるからな!
 俺が寝ないと、これ以上進まないんだよ!」


深夜1時のSA、寝静まった巨大トラックだらけの駐車場。
車の中でだんなは叫んだ。

だが、チビ二人の泣き声にほとんどかき消され、その叫びは私をうんざりさせるだけだった。

ああ、半日前の私よ、考え直せ!
チビ二人連れて10時間の深夜ドライブは無謀だ!
寝てる間に着いちゃうからいいよね、とかバカじゃないの。
甘すぎる!
オールドファッションハニーにはちみつかけるくらい甘い!!


前日午前、3歳長男は幼稚園に行っていて、1歳次男とのまったりタイム。
生意気なマシンガントークのない至福の時間。
それで頭に花が咲いていたのかもしれない。

そこにテレワークのだんなが二階から降りてくる。
「じいさん亡くなったって。葬式一緒に来る?」

だんなの祖父は1か月前からそろそろと言われていた。
90歳を超えているので大往生だ。

年に一、二度、帰省のたびにお会いしていた。
耳は遠いがにこにこと穏やかに息子らを抱っこしてくれた。
忘れないようにと、壁に息子らの名前を貼ってくれていた。

遠い親戚のお葬式って、出ないとほんとなんにも変わらなくて、亡くなったって実感が持てない。いつまでも生きてる気になってしまう。
あっもういないんだっけってたまに気づいて、切ないようなどうでもいいようなぽわんとした気持ちになってしまう。

コロナもあったし、だんなの親戚とは1年近く会ってない。チビたちの成長も見せたいし、よし行くか、と重い腰を珍しく浮かしてしまった。 

それにもし、だんなだけ葬式行ったら、4日間チビ二人をワンオペだから。
なによりそれが無理!ってのがあった…んだけど多分その方がまだラクだった…。


その日は出かける準備に明け暮れてた。
数珠はどこ?
幼稚園に連絡しなきゃ。
着替えは何日分?
葬式用の子供服を買いに行こう。
冷蔵庫を整理せねば。
明日の生ゴミをフライングで出させてもらおう

などなどやること目白押しかつ優先順位がだんなと合わず、お互いムカつきまくりの出発。
予定の1時間遅れ。
「けんかだ、けんか!けんか、やめなさーい!」と長男に叱られる。
このフレーズは最近長男のお気に入り。
祭りだ!祭り!ってノリで言ってくる。


この時点で、あれ?これワンオペのが気楽だった?と後悔しだす夜9時。
そしてチャイルドシートが気に入らない次男、スタートからずっとギャン泣き。
機嫌が良く、手のかからない次男だが、束縛だけは許せないタイプ。
歩けるようになった彼は、常に歩き続けていたいのだ。

私は助手席から、チビ二人のシートの間に移動。
両手を両側のチビたちにそれぞれホールドされる。でかいお尻が隙間にぴっちり。いと窮屈。

とにかくなんとか眠らせたい。
チャイルドシートに座らせたまま、覆いかぶさって授乳という新しい技を編み出した。
私の方もシートベルトをしてるので、結構難易度高い。
あとちょっと届かなくて、胸と乳首をなるべく縦に伸ばす。
「メントスがあと3個増えたら…!?ポポポポポン!」
ってCMあったよねぇ、って旦那と盛り上がった。え?なんの話?
まあそのくらいは余裕で伸びたって話…。

並走するトラックのうんちゃんに見られてたとしても、気にしてられない。

母はつよし!母はずぶとし!

30分の格闘の末、次男は眠った。そして普段ならまだ寝ない長男もすやすやと。

やった最高!朝まで安らかに!
って安易に喜び、だんなとちんたら無駄話を楽しんだ。
何を話したかひとつも思い出せない話。
ああ自分よ、今なら言える。
だんなはほっとけ、その時間に少しでも寝てくれ。


で、12時。だんなは走り疲れてSAに駐車。
(ちなみに私は完全なペーパードライバーなため運転を代わってあげられない、すまぬ。)

ちょっと仮眠となるはずが停車したとたん、起きて泣き叫ぶチビ二人。
おっぱいで次男の口を塞ぐ。長男は暗いの嫌だ!寝たくない!とぐずる。
おっぱいに飽きた次男もそれに加勢。
耳が痛いレベルの騒音。

この状態で寝られたら、全日本鈍感選手権の近畿地区代表ぐらいにはなれる。
しかしだんなはなれなかった。
なんなら神経質大会にエントリーできるタイプなもんで、てんで無理。  

そして冒頭の叫び。
「俺が寝ないと、これ以上進まないんだよ!」
…ちょっと名言っぽい。

しかたなく次男をおんぶし、長男の手をひいて、私は車から去ることにした。

だんなに静寂を与えるため。
快い仮眠で完全復活させるため。
とっとと目的地まで運転させるため。


が、深夜のSAはひんやりと肌寒く寂しい。
だだっぴろいトイレと、林立する眩しい自販機以外は何もなかった。

とりあえずトイレに行く。
それからあたたかいミルクティーを買い、時間かせぎ。長男と半分こで飲むつもりだった。
ところが私がふたくち飲んだだけで、あとは自分のだと言い張る長男。
イラッとしておっきなひとくちを飲む。
怒るのも疲れるのでそれであとはもってけどろぼー!私も大人になったもんだ。

寒がる息子に、私の灰色のカーディガンをかけてやった。
マントのように首で結んだら大喜びで走り回る。
それを見て次男も興奮し、おぶわれながらぴょんぴょん跳ねた。腰にくる…。

さぁ、このあとどうするべぇ。
暇をもてあまし、まだ起きてる母にラインのビデオ通話をした。
まぁそんな、家でのんびりしてりゃよかったのに、と同情されるが今更どうしようもない。

長男は自販機のそばでだんごむしを発見し夢中になっている。
土はないのに、だんごむしは大量に歩いていた。座った姿勢で5匹は捕まえられるくらいの出会い率。

しゃがみこんで、だんごむしの触角の研究がはじまる深夜1時。
まわりは見事に誰もいない。
もし見回りの警察とか来たら職質されるんじゃないか、これ。
昼の1時なら平和な光景だけどね、12時間ずれてますよ、これ。

いやでも、だんごむしって夜行性だから!
だんごむしのほんとのポテンシャルを知るためには、やはり深夜じゃないと!

職質されたら、だんごむしが夜行性だからってことで乗り越えよう。
眠い頭は名案を編み出した。

そのあとは、アジサイ見たり、月見たりして時間をつぶした。
(ともに10秒で飽きられたので所用時間20秒)

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それから広いテーブル型のベンチで次男も解放して歩かせた。もうおんぶは腰がやばかったので。

深夜1時半、ハイテンションなチビたちは踊りだした。
男子って馬鹿じゃなかろうか。
寝ろや、ばか!

と思っても外で眠れるわけもなく、1時間半近く時間をつぶしたので、車に戻ることにした。
最後にもう一度トイレ、と次男を抱っこしたまま用を足す。
すると突然、お尻に水がプシャー!
やだ!なに?なにが攻めてきた!?
驚いて立ち上がったら、スカートの後ろにもプシャー!
次男の足がウォシュレットのボタンを押していたのだ最悪。

もう、いいだろう。もう帰ろう。
自分の睡眠と腰を犠牲にし、スカートを濡らし、だんなに睡眠時間を作ってやった!
えらい、私!
大いばりで車に戻ると、仮眠から起こされただんなはどんより言った。
「え、1時間半?まだ1時間20分じゃない?サバ読んでない?」と。

ここでブチッとキレた私。
充分時間作ってあげたつもりなのに感謝もなく、ちっちゃいことを言いやがって!

すると向こうも運転の大変さやら、命がかかってることのプレッシャーやら言いかえしてきた。そりゃ運転する人には敵わなくて、よりムカついてわあわあ言い合った。

そこでさらに、
「けんかだ、けんか!けんか、やめなさああああい!」
長男が楽しそうに爆音で叫びだす。

けんかは、
き、さ、ま、が、寝ないからだあああ!!!

もうヤケになって長男をくすぐりたおしてやった。


そうしてやっとSAを後にし、走りだすとすぐチビたちは眠った。
私も今度はだんなと無駄話せず、すぐさま仮眠。
だんなは眠気覚ましのガムを噛みすぎて舌を痛めながら(本人談、なぜそうなるのか私はわからない)黙々と深夜の高速を進んでいった。


3時過ぎ、だんなは二度目の限界を感じ、またSAに停車。
途端に目覚め、泣き叫ぶチビ二人。

だんなが寝るため車をとめると、チビらは起きる。
そういう摂理。
もうコントのよう。

そこでまた私が二人を連れてSAを彷徨った。
長男は物心ついて以来ほぼ初のガチャガチャに挑戦。
これ以外ならどれでもいいや、と思ってたハズレを引き当てる。
リベンジしたいとぐずるので、普段ならあり得ないが2回目をやらせた。


そうこうしているうちに、空が明るくなりだす。
3時50分くらいだったか、この時季ってこんな早いんですね。
取りつく島のなかった暗闇が、深い青になりしらじらと明けていく。
チビたちと初めて一緒に夜明けを眺める・・・

次男は「あ!」「おぅ!」と不意にどこかを指差しては、ぽかんと何かを見ている。

「おひさまが いなかったのがぁ、やってきてぇ、それで、あかるくなるんではない?それが、あさ、なんではない?」
長男は自分の発見に有頂天になっている。

寝たいとか寝かさなきゃとかもうどうでもいいや。
この非日常を楽しむしかないや。

ぼんやりほほえんでいたら
「ご苦労様でした〜、ありがと〜」
と少し寝てさっぱりしただんながやってきた。
(先ほどの諍いから学習してねぎらいの言葉をかけてくれるや、よし!)

「さて、もう一度、いきますかぁ」

全身がギシギシ痛く、怠く、眠い。
この先の道程を思うと憂鬱ばかり。
それでも進むしかない。家族四人で。
「けんかだ、けんかだ!」と言い合いながらも。


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