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ヤードポンド法は滅ぼすしと考える次第


ヤードポンド法とは?

  ヤードポンド法とは、度量衡のための単位系で主に英語圏の国々で使われている身体尺の一種。ヤード、フィート、インチ、ポンド、オンスなど様々な単位が存在するが、これが世界中で混乱を引き起こしている。石油だとバレル、ガロン、農場のエーカーもヤードポンド法。

身体尺とは?

 身体尺とは身体の一部を利用して長さを測る方法である。伝統的な身体尺はメソポタミアやエジプトをルーツとする1キュビットで肘から指先までの長さを差し、概ね50cmになる。ヤードポンド法で言うとインチは親指の幅で、フィートは足の長さになる。中国の度量衡、尺は親指と人差し指を伸ばした時の長さを示す身体尺になる。身体尺は定規などが近くにないときは便利だが、経済が発展し共同作業が当たり前になると人によって単位がバラバラになるため逆に問題を引き起こす。そのため国家権力による統一がなんども行われた。

ヤードポンド法を滅ぼすべき理由

単位がデタラメなヤードポンド法

 従来の身体尺は、進法が滅茶苦茶だがヤードポンド法は特別酷い。1ヤードは3フィート、1フィートは12インチと一貫性がない。これは先に単位があり、単位の換算があとから作られたからである。実際のところ綺麗な整数で計算できるわけがないので時代によって進数が変わるケースもある。これが身体尺の最大の欠陥になる。ポンドは7000グレーン(大麦1粒の重さ)で、これ16で割ったものがオンスになる(正確には違う、後述)では1オンスは、何グレーンになるのだろうか?日常生活レベルならともかく、精密さを要求される分野では全く実用に耐えない。

 さらに同じ単位でも都市ごとに大きさが変化する。

 一方、メートル法は単位を十進法に揃えておりkmは1000m、1mmは1/1000mと一貫している。フランス革命時、時計やカレンダーも十進法にしていたが、さすがに使いにくかったようでこれは十二進法/六十進法にもどっている。

単位の混乱による事故の原因

 精密機器の設計に於いてnmオーダーの精密度要求される時代である、そのような時代にインチとmmを間違えたら大事故の原因にしかならない。

  • 1983年、エア・カナダ143便が燃料切れを起こすトラブルを起こした。これは、キログラムで計算すべき燃料の消費量をポンドで計算したことで引き起こされた事故である。この事故においては運良く、犠牲者はいなかった。

  • 1999年、NASAの火星探査機「マーズ・クライメート・オービター」が火星に墜落した。これはソフトウェアがヤードとメートルを間違えたことが原因だとされている

  • 2023年にタイタニック号ツアーの潜水艇「タイタン」が爆縮して一瞬にして消滅する事故が起きた。この事故は、耐久深度のフィートとメートルを取り間違えて設計したのではないかと取り沙汰されている。強度をメートルで計算すべきところをフィートで行ったため、深度に絶えられず一瞬で圧壊したと言われている。

工業化に伴うヤード・ポンドの非身体尺化

 工業化の進展により、ヤードポンド法の単位もまた標準化されており、元々の身体尺からはかけ離れたものになっている。つまり身体尺なのに、標準化により身体で計れない単位になっているのである。現在のヤードポンド法はメートル法により定義されており、例えば1フィートは0. 3048mになっている。これはメートル原器から1フィートを計算すると言うことである。つまりヤードポンド法を使うメリットは既に存在しない。しかし、それでもアメリカやイギリスではヤードポンド法が使われ続けている。これは工業化の時、ヤードポンド法をベースに機械を作ったので、それを全てリプレイスするのにコストがかかるから面倒だからやりたくないと言う理由に過ぎず、惰性のまま使い続けているだけになる。むしろ、先端分野や自然科学ではメートル法を使わないと論文すらかけないため併用しないと行けないのだ。特にアンペアやボルトと言った電磁気に関する単位はヤードポンド法で定義出来ず、メートル法をベースに無理矢理組み立てたモノが存在するが定着していない。アメリカでもイギリスでもメートル法で定義されたボルトやアンペアを使って居る。

 1Aと1Vを掛け合わせると1Wになる。1Wは「1秒で1Jの仕事をさせる」と言う仕事量の単位、1Jは「1Nの力で1m動かすエネルギー」を差す、1Nは「1kgの質量を持つ物体に1m/s2の加速度を生じさせる力」である。つまりkg、m、秒と言うメートル法の基本単位から計算されている。なお1Vは1Aの電力を流したときに1Wのエネルギーが発生する電圧と定義されている。つまり電気回路や電子回路を作る為にはメートル法しか使えないため、アメリカやイギリスではヤードポンド法とメートル法を併用せざるを得ない。併用する分だけ無駄なコストがかかっている訳だ。

 また十進法で表記出来ず、伝統的に分数表記を多用していたため、デジタル化に対応できない。錘と天秤で量っていた時代ならいざ知らず、デジタル重量計でポンドを計るのは面倒なので、計量には既にgを使って居るのが現実だ。アナログならメモリを2つ用意すれば良いのだが、デジタルでヤードポンド法に変換するには追加回路が必要になりコスト高にしかならない。

ヤードポンド法が身体に基づいているから合理的だと言う嘘

ヤードは身体尺ですらない

  ヤードは身体尺ではない。ヤードの歴史をひもとくと中世の初期のイギリスにおいて1ヤードは15もしくは16. 5フィートと定義されている。つまりヤードは歴史により長さが変化する単位なのだ。1300年頃には2ellと同じとされていた。ellはキュビットの事を差しており、1フィートは45インチ(1m強)だった(この時代はフィートは法的に認められていなかったらしい)。同時期に1ヤードが3フィートに決まったとも言われている。そもそもヤードとは囲いやフェンスが原義、その境を決める為の棒(rod)をさしていた様である。つまり身体尺ではなく、適当な長さの竿の事をさしていたのだ。つまりヤードは身体尺ですらないのだ。ヤードポンド法はこのように、いい加減の極みなものを基本単位としているのだ。ちなみに当時のインチの定義は大麦三粒の長さだったらしい。

 一応古代メソポタミアにはrodに相当する単位が存在する。しかし、その長さは12キュビット(約6m)だ。ヤードは身体尺ではなく伸び縮みする単位なのだ。

ポンドが4種類も存在する

 単にポンドと言った場合、以下の4つが存在する。これを文脈で理解しないと行けない。この混乱は、現代社会では大事故の原因にしかならない。なお、ポンドは、フランスではリーヴルと呼び、古代ローマのlibraから来ている。この単位は天秤が原義になる。それがイギリスでポンド(重さ)になった理由は不明だが、libera pound からリベラが取れた可能性が高い(単語の前もしくは後ろが省略されるのは言語学的に良くある現象。例えばソーシングマシン→ミシン)。ただし古代ローマの痕跡は載っており、略称のlb.や£はラテン語から来ている。

  • 常用ポンド:一般的に使われるポンドで、約453. 6グラム。古代ローマでは320g前後とされる。

  • トロイポンド:金・銀・宝石の重さを測るのに使われるポンドで、約373.2グラム。 シャルルマーニュの時代では408g、500g近い時代もあったらしい。

  • 薬用ポンド:古くから薬品の重さを測るのに使われたポンドで、約373.2グラム(現在の薬用ポンドとトロイポンドは同じになっている)

  • 貨幣のポンド:イギリスの通貨単位だが、シャルルマーニュが240デナリウスに相当する銀を1ポンドと定義したところから来ている。

 なお、これは現在残っているポンドだけのリストであり、かつては無数に存在した。

ポンドが一日分の穀物と言う嘘

 このようなデタラメが嘘が多いので有名なWikipedia日本語版に書いてあった。またかよ(うんざり)

 現代において1常用ポンドは7000グレーンだ。グレーンは大麦1粒の重量を差すメソポタミア起源の単位である。しかし実際には大麦の量は枡で測っていたので一日の穀物を測るのに使われていたのは体積であり重量ではない。メソポタミアにおいては60進法を単位にした重量単位を利用しており、大麦180粒を1シェケル(8.33g)とし、60シェケルを1ミナとしたらしい。つまり1ミナは約500g、1ダブル・ミナは約1kgになる(ダブル・ミナが1ミナだった時代も存在するらしい、バビロニアにおいては640gだったとされる)。また大麦の種の横幅を1シェイとし、180シェイを1クシュとした。1クシュは約50cmになり、概ね1キュビットになる。そして1ダブル・クシュは約1mになる。実はメソポタミア人はメートル法に近い単位系を採用しており、歴史的正統性はヤードポンドではなくメートルにある。

 古代ギリシャでは重量単位としてミナが使われて居た。なお古代ローマに於ける1ミナは20/12ローマン・ポンド(20ローマン・オンス)の様である。つまりメソポタミアの単位とポンドは無関係。なお、メソポタミアにおけるシェケルもミナも貨幣の為の単位で食糧は無関係。実際、シェケルは現代イスラエルの通貨単位として使われて居る。

1ポンド=7000グレーンと言う半端な数字が採用されたのは、イギリスの常用ポンドがグレーンと無関係に定義されていたためポンドとグレーンの関係を再定義したからだ。そのため常用ポンドをメートル法を基準で再定義するときに1グレーンを換算するときにメートル法で循環小数が出ない様に7で割り切れる数字を採用したと言う本末転倒なことを行う必要さえあった。ポンドが穀物を基準としたグレーンと無関係と言うのはポンドがパンに使うための単位ではなかったことを示唆する。

 中世ヨーロッパに於ける農民の1日の穀物消費量は700-800gとされており、決して1ポンドではない。クリュニー派修道会の1日のパンの割当は2マール7オンス5ドゥニエ(約720g)で、絶対に1ポンドではない。ある修道院ではパンの配給を1リーヴル(仏ポンド)に制限していたが、これは1日の必要量が1ポンドだからではなく粗食を美徳とし、食事のバランスを考えていたからである。そもそも中世でパン1ポンドでは明らかに生活出来ない。穀物1ポンドで計算すると1日1600kcalになるため明らかに栄養失調だ。中世の庶民の食べものは粥と薄い豆のスープぐらいで、他にエネルギー源になるものが無い。

 そもそも1ポンドを「古代メソポタミアの1日のパンに必要な穀物の量」したいならば「0.5kg」が正しい数字だ。しかし、メソポタミア人は大麦を重量ではなく体積で計量していたので、この話自体が与太話の可能性が高い。重量が重要になるのは貨幣経済が発展し、銀で交易をするようになってからで、それ以前は重量は、さほど重要ではなかった。重量を量るときは天秤に錘をのせて微調整する必要があるため、大雑把に計量するだけなら升ですくった方が遙かに楽だからだ。出所は料理をしたことが無いのだろう。そしてメソポタミアに於ける体積の単位1silaは約一リットルだ。一リットルの水の半分の重量が1ミナと言うことなる。歴史的正統性はメートル法にある。なお一リットルの小麦粉は500g〜550gで概ね1ミナになる。余談だが、ヤードポンド法の質量単位クォートも約一リットルである。

 また中世の粉挽き税や塩税を調べたところ、これも重量ではなく体積を基準に税がかけられていた。そもそも中世では計量器は、高級品だった気がする。

 日本でも米を炊くときの単位は質量(合)であり、重量ではない。要するに穀物を量るのに重量を使って居た事自体が嘘だろう。

 現代アメリカ人が料理で計量する時の単位は、カップとスプーン(約15cc/約5cc) を用いる。アメリカの場合、1カップが250cc(1/16ガロンか?)で概ね120gぐらいになる。そもそもアメリカ人が料理するときに重さを量るわけないだろ(偏見)。通常パンを焼くときは重量ではなく質量を使うのだ。ちなみにイギリスのBBCのレシピサイトではgを使って居た。

 さらに中世のポンド(リベラ)を調べると350g~560gとかなり幅が広い。倍近い差が出る単位で1日の食事量が計れる訳がなかろう。

 そこで、よくよく調べてみるとポンドと言う単位は、フランク王国における貨幣の定義、デナリウス(ペニー)銀貨240枚の重量から逆算されたものらしい。食糧は完全に無関係。(共和政ローマ時代のリブラは48デナリウスだが、度重なる改鋳によりネロ帝時代は、1リブラ=96デナリウス)

  英文サイトをいくつか調べたがローマン・ポンドの基準が食糧であるという証拠は見つからず、由来は不明であると言うサイトがほとんどであった。古代ローマのローマン・ポンドもグレーンに換算すると異常に計算しにくく、1ローマン・ポンド=5076グレーン前後になる。実際のローマでは1/12ポンド(Uncia)が基準単位として使われていため(Unciaは英語圏でオンスになる)。1/12ポンド=423グレーンなので計算できないことはない。またローマの重量単位にはアス(銅貨のアスとは別物)があり、これは6Uncia=1/2ポンドと定義されていた。アスは貨幣の為の重量単位と分かっている。

 そもそも、身体尺の場合、基準が単位名になる(フィート、インチ、尺など)。そしてローマの身体尺は中世ヨーロッパでは、現地語に翻訳されて使われて居た。しかし、リブラは天秤と言う意味であり、英語に訳す事が出来なかった。これは貴金属を計量するためのものだと示唆しているとしか思えない。

 中世ヨーロッパにおいて食糧の重量を量るケースは、体積で計算できないものや誤差が価格に影響する高級品。つまり肉や魚、そしてスパイス類ぐらいになる。

 ヤードポンド原理主義者は、捏造してまで正統性を作りたいのだろう。大体、2倍近い誤差のある単位で食糧配給なんかできない

メートル法も身体尺

 概ね欧米の単位は古代メソポタミアにルーツがある。そして、先程書いたように基準単位の中に1m、0.5kg、1ℓに該当するものが存在する。その中で一番重要な単位はキュビットになる。そういう意味ではメートル法はダブル・キュビットを基本単位として身体尺を再定義したものになる。その理由は地域によって度量衡がまちまちで不便だった事が大きい。しかし1メートルは約2キュビット(ダブル・キュビット)であり、メソポタミアやエジプト古来の身体尺と一致する。当初1メートルは子午線から計算することが考案されたが、これは1メートルの定義を統一的に定義するためのものに過ぎない。大雑把な数字が分かっていたものを厳密に計算しなおしたものだ。最初に大まかな一メートルは定義されており、どうやって厳密な一メートルを定義するかを複数の案から決めた結果、子午線の長さを利用することになっただけなのだ。しかし、ヤード、フィート、インチはこのような身体尺では無く英語圏でしか通用しないガラパゴス的な単位だ。

ヤードポンド法は滅ぼすしと考える次第

 進法がデタラメで身体尺ですらないヤードポンド法には、社会的合理性、経済的合理性、教育的合理性が存在しない。そしてメソポタミアはメートル、kgが基準単位にあり歴史的正統性も存在しないしかもメートル法を併用しないと現代社会では使い物にならない(二重コストの発生)。つまり産業革命においてアメリカとイギリスの影響が大きかったゆえ全てをメートル法に切り替えるにはコストがかかり、老害に妨害されるため惰性で使って居るだけの滅ぼすべき代物だ。

 航空業界では未だにフィートが使われて居るが、これは切り替え時に事故が多発ことを恐れているからだろう(実際にカナダではメートル法の切り替えで事故が起きている)

 それはともあれ、ヤードポンド法は滅ぼすべしと考える次第である。

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