元史卷一 本紀第一 太祖 2

 ある日、次男のサルジ(忽思之)が言う「ボドンチャル(孛端叉兒)は一人出て行ったが便りが無い。近況を知りたい、凍えて飢えていないだろうか?」そして自ら訪ねに行き、ともに帰るようにもとめた。ボドンチャル(孛端叉兒)はその道で兄に言うには、「トンゲリク(統急里忽魯)の民はどこにも属して降りません。よって兵を持って望めば服するでしょう。」兄はこれを然りと、家に戻ると壮士を選び、ボドンチャル(孛端叉兒)に率いるように指示し、これを降した。

一日,仲兄忽思之,曰:「孛端叉兒獨出而無齎,近者得 無凍餒乎?」即自來訪,邀與俱歸。孛端叉兒中路謂其兄曰:「統急里忽魯之民無所屬附,若 臨之以兵,可服也。」兄以為然。至家,即選壯士,令孛端叉兒帥之前行,果盡降之。


 (孛端叉兒)が無くなると子の バリン・シイラトゥ・カピチ(八林昔黑剌禿合必畜)が後を継いだ。その子は、メネン・ドトン(咩撚篤敦)と言う。メネン・ドトン(咩撚篤敦)の妻はモムルン(莫挐倫)と言い、7人の子を生んで寡婦になった。

※元朝秘史 バリン・シイラトゥ・カピチ(八林昔黑剌禿合必畜) 、メネン・ドトン(咩撚篤敦) 、ノムルン[元史の表記は:モムルン](莫挐倫)

孛端叉兒歿,子八林昔黑剌禿合必畜嗣,生子曰咩撚篤敦。咩撚篤敦妻曰莫挐倫,生 七子而寡。


 モムルン(莫挐倫)は剛急な性格だった。時にジャライル(押剌伊而)部があり、子ども達が、田畑の間の草の根を掘って食べていた。モムルン(莫挐倫)が車に乗って出て、たまたまそれを見て怒り「この田畑は我が子が馬を駆ける場所であるのになぜ、ガキ共がこのような場所にたやすく入り込んで滅茶苦茶にしているのだ。」と車を動かして道に出た。子らは、轢きキズを負い死ぬ者も出た。

※ジャライル(押剌伊而)

莫挐倫性剛急。時押剌伊而部有群小兒掘田間草根以為食,莫挐倫乘車出,適 見之,怒曰:「此田乃我子馳馬之所,群兒輒敢壞之邪。」驅車徑出,輾傷諸兒,有至死者。


 ジャライル(押剌伊而)はこれに激怒し、莫挐倫の馬をことごとく連れ去った。モムルン(莫挐倫)の子らはコレを聞くと鎧を着ける間もなくコレを追った。モムルン(莫挐倫)は憂いて言うには、「我が子らは、鎧を着けずに出て行ったので、敵に勝てないだろう。」子婦に命令して鎧をつんで赴いたが、間に合わなかった。既に勝敗は付いていて、6人の子は死んでいた。ジャライル(押剌伊而)は勝ちに乗じてモムルン(莫挐倫)を殺し、その家は滅んだ。

押剌伊而忿怨,盡驅莫挐倫馬羣以去。莫挐倫諸子聞之,不及被甲,往追之。莫挐倫私憂曰: 「吾兒不甲以往,恐不能勝敵。」令子婦載甲赴之,已無及矣。既而果為所敗,六子皆死。押剌伊而乘勝殺莫挐倫,滅其家。


 唯一、長孫のカイドゥ(海都)はまだ幼く、乳母が積み木の中に匿ったので、それを免れた、これより先、モムルン(莫挐倫)の第七子のナチン(納真)は、バルグト(八剌忽)の家に入り婿していたので難を逃れた。家に及んだ禍を聞き、これを見に行くと、病んだ老婆十数とカイドゥ(海都)がまだ居るのを見つけ、それをつれだした。

※カイドゥ(海都) ナチン(納真) バルグト(八剌忽)

唯一長孫海都尚幼,乳母匿諸積木中,得免。先是,莫挐倫 第七子納真,於八剌忽民家為贅壻,故不及難。聞其家被禍,來視之,見病嫗十數與海都尚在,其計無所出。


 幸いにも馬を駆るとき、兄の黄馬は三度の掣套竿(馬を捕らえる竿?)をそらし帰ってきたので、ナチン(納真)はこれを得て乗馬した、また西の牧場者に成りすましジャライル(押剌伊而)の元に行った。道で父子が二騎を前後にして行くのにあい、鷹を肘に乗せ猟をしていた。ナチン(納真)はその鷹を知っていたので言った「これは我が兄を撃った者だ。」小走りに前にでて少者をあざむくて言うに「赤馬を率いた群れが東に行ったのをみたか?」「いや?」少者が問うて「あなたは鳥や雁が通り過ぎたのを知ってますか?」「知っている。」「その場所に私たちを連れて行ってくれますか?」「わかった」とそれに付いていった。河隅にいたり、後ろの騎馬との距離が遠くなったのを見計らって、これを刺し殺した。

幸驅馬時,兄之黃馬三次掣套竿逸歸,納真至是得乘之。乃偽為牧馬者, 詣押剌伊而。路逢父子二騎先後行,臂鷹而獵。納真識其鷹,曰:「此吾兄所擎者也。」趨前紿其少者曰:「有赤馬引羣馬而東,汝見之乎?」曰:「否。」少者乃問曰:「爾所經過有鳧雁 乎?」曰:「有。」曰:「汝可為吾前導乎?」曰:「可。」遂同行。轉一河隈,度後騎相去稍遠,刺殺之。


 馬と鷹をつなぎ、後の騎馬を迎え入れると、先のようにあざいた。騎馬は聞いた「前で鳥や雁を射っていたのは我が子であるが、なぜ伏せたまま起きないのか?」ナチン(納真)は鼻血(?)を飛ばすと騎者が怒ったので、ナチン(納真)はその隙に乗じて刺し殺した。

縶馬與鷹,趨迎後騎,紿之如初。後騎問曰:「前射鳧雁者吾子也,何為久臥不起耶?」 納真以鼻衄對。騎者方怒,納真乘隙刺殺之。

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