マヨネーズ。存在してはいけないチート

 この世から抹殺すべき異世界チート、それがマヨネーズである。マヨネーズはそもそも油の塊であり、植物油が手に入りにくいナーロッパ(南欧をのぞく)では唐揚げより作るのが難しいだろう。ドレッシング類には常温で固まる油脂が使えないので、利用可能な植物油も限定されている。ただ火を通さなくて良いのでオメガ3の油が使える。そうなると概ねアマニ油と胡桃油の二択、しかしこれらの油は、バターより高く、ラードよりも高く食べられるのは富農層以上。植物油は上級国民御用達である。

 その原型はサラサ・ド・マオンであり、一説によればスペインのマルカノ島のマオンで作られていた伝統的なソースとされている。さらにこの原型になるソースが存在したらしく、それは、ゆで卵と油を混ぜたソースらしい。中世のイタリア、アラゴン王国などに存在していたようで、この時点でチート自体がそもそも成立しない気もする。

 それ以前のドレッシングの歴史をたどると野菜に油と酢をかけるサラダは紀元前2000年前のバビロニアまで遡るらしい、それがギリシャ、ローマに伝わった様である。しかしオリーブが潤沢な南欧で留まり、西欧にはなかなか広がらなかったようである。

 サラサ・ド・マオンを一八世紀中頃の七年戦争時にリシュリューの軍がマルカノ島からフランスに持ち帰ったとされている。それをあたかもフランスが発明したかの用に一九世紀にネームロンダリングしたのがマヨネーズの正体である――とスペインは主張している。

 サルサ・ド・マオンは、卵黄と油を乳化させたものにレモンや酢と塩で味付けしたものらしい。

 しかし現在のマヨネーズは米帝の産物である。米帝は、バターを油で揚げるような食文化なので油まみれの調味料が受け容れやすい素地があった様である。米帝におけるの需要は17世紀のネーデルラント植民地のニュー・アムステルダム時代まで遡れるようである。今のニューヨークのことである。しかしドレッシングが商業ラインに乗るのは20世紀の話らしくトマトケチャップより時代が後の様だ。フランスのサラダの味付けは本来酢と塩が主体で油を使わないものだったようであるが、ヴィネグレットソースと言われる酢と油を主体にしたドレッシング(フレンチドレッシング)が18世紀にロンドンで大流行したようである。マヨネーズより少し前のタイミングになる。フランス革命の時にロンドンに逃げたシュバリエ・ダルビャニックと言う人物が持ち込み、イギリスの上流階級に大流行しヨーロッパ全域に広がったらしい。

 しかし、マヨネーズの問題は中世の衛生レベルを考えると恐らくサルモネラ食中毒でもだえるだろう。これを回避するには新鮮な卵の低温殺菌と毒性菌の繁殖を防ぐ為の酸性化が必須だ。ちなみに日本で生卵が食べられるのは20世紀の洗浄技術の産物。

 さらに商業ベースに載せるには卵の大量生産、油の大量生産、酢の大量生産の三つが不可欠だ。それに加えて卵黄の殺菌、そして乳化の安定がいる。マヨネーズの乳化にはミキサーが居る。そしてこのミキサーは20世紀の発明(スクリュー式泡立て器ですら19世紀)。ミキサー無しに作ろうとすると膨大な手間がかかるのだ。そもそもブリキの泡立て器ですら近世の産物で、中世で泡立てると言うのは、その辺の小枝を束ねて、ひたすらかき混ぜることである。マヨネーズは油と卵黄が乳化しているのであるが、商業生産するには、この乳化が再び分離しない用にしないと行けない。粘性が高いため、他のドレッシングの用に使う前に降ってくださいが出来ないのである。現在は乳化剤を使用していないマヨネーズも販売されているが、きめ細かい乳化が難しい20世紀前半には乳化剤が必須だろう。

※ ――と自信たっぷり書いたのは良いが、卵黄の主成分レシチン自体が乳化剤と――

 これを異世界でやろうとすると魔法使いを集めて風魔法で一日中攪拌させることになるだろう。それか水車や風車を動力源とするかだ。しばらくするとブラック労働に対して反乱が起きるだろう。マヨネーズの乱でマヨラーは断頭台送り。

 卵の殺菌も重要であり、ここには20世紀の化学が必須である。次亜塩素酸である。これを回避するとサルモネラ菌による食中毒が待っているのである。異世界だと卵を聖女様に消毒してもらうしかなさそう。聖女様が裸足で逃げ出しそう。

 要するに問題は、アイデアではなく量産技術なのである。アイデア自体は古くから存在するがコスパが悪いから作られなかっただけだからだ。

 取りあえず価格を計算するぞ。

 卵……卵2ダース 1ペニーで、1リットルのワインより安い(単位はガロンなんだけど)が、下層労働者の給与が1日1ペニーぐらいだから1個300円ぐらい?これはイギリスの価格で、フランスだと卵100個3スーらしい。そうすると1ドゥニエ(銅貨一枚)で三個かな。1個30円ぐらいではないかな。最低賃金が無いので、これでも高そう。

 植物油の値段が分からない……そもそも市場にない可能性を感じてきたぞ。酢と油を大量生産するだけでtueeeできる気がしてきた。ドレッシングだけで十分チート可能だ。

 そういえば江戸時代の寿司は、安い赤酢を大量生産した酒屋、要するに中野又左衛門(今のミツカン)の一人勝ちだしな。


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