アドベントリレー小説 20日目

「アドベントリレー小説」とは、25人の筆者がリレー形式で
1つの小説を紡いでいく企画です。
ここまでの物語と企画の詳細は↓から
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『緋色のヒーロー』 #20


.....うぅっ......

頭に鈍い痛みが走り、目が覚める。

......気が付くと、俺は狭い牢のような場所に閉じ込められていた。

一体何が....?

........そうだ、思い出した........

ちひろを探していて......
渋谷を走り回って、ようやく見つけて.......
彼女は......この時は俺を知らないから......
仕方ないから.....蒼時硝を......
でも......何故か効かなくて.........


「.........全く、寝坊助なのは相変わらずね.....」
俺の思考は、牢の外から聞こえてきた聞き覚えのある声に、全て吹き飛ばされた。

「.....ちひろ!?」

そこにはちひろと.....タイチが並んで立っていた。
「おい、何だこれは...!?お前ら、一体......!?」
何が起こっているんだ。まるで初めてループした時のような焦りを覚える。
「君は、“気付いて”しまったんだ。
彼女が蒼時硝の被曝者であるということに......」
そう淡々と喋るタイチの表情は、既に失われていた。
.......そうだ。確かに彼女は......蒼時硝を吸収しても、何事も無かったようにしていた。
「ま、待て!だから何だって言うんだ?ちひろが被曝者だったからって......」
俺は、混乱する思考と破裂しそうな心臓を無理やり鎮め、そう尋ねる。
「.....あの“運命の日”から、色々あったのよ。」
ちひろはそう言うと、置いてあった椅子にそっと腰掛けて喋り始めた。


「ー1999年7月31日。
忘れもしない、この運命の日。
あなたは“緋色のヒーロー”として、空中で『炎洞圧縮《ファイアホール・コンプレッション》』で隕石を極限まで収縮させ、人々にそれを認知させないまま隕石を燃やし、跡形もなく吸収した。
でも、運命の神様が悪戯したのでしょうね.....ほんの一欠片だけ、蒼時硝が地上に落ちていた.....偶然にも、篝火から自宅に帰っている途中だった、私の目の前に。
それを偶然拾って吸収してしまった私は、“被曝者”となった。
そして私はそのまま引き返し、篝火の科学室にこの物質の欠片を持ち込んだ。

私が事情を話すと、科学室の連中はこの物質を警戒して重装備に着替えた。
何があるか分からないから、と......
私は意味の無いことを、と思っていたけど.....今思えば正しい選択だったようね。
彼らに誘導され、部屋に入った。
........そのタイミングだったわね。
そして、そこで初めて....『ループ』を経験したのよ。」

「......ループを?」
「えぇ。私の意識は、そこから石を拾った瞬間.....その時まで巻き戻った。」
彼女は頭を抑える。
当時のことを思い出しているようだ。

「最初は何が起きたか....まるで理解できなかったわ。
でも、意識だけ置いていかれて.....肉体は過去と同じように運動をし、再びループが始まる。
原因も分からなかった私は、“錯乱”し.....意識を失った。
でもね.....その後の時間軸で、科学室の連中が私の体内から蒼時硝を取り出してくれたの。
.......それでなんとか私は、ループから抜け出すことが出来たの。
今では“恐炎中”を覚えて、自在にループを操れるようになったわ。」

.......まさか。
あの“恐怖の大王”は、俺が間違いなく一欠片足りとも残さずに燃やし、吸収しきったはずだった。
......地上に欠片が残っていたなんて。

「まぁ、そういうことだ。.....悪いな、これは篝火の最高機密.....お前にも伝えられないことだったんだ。」
タイチはぼやくように言う。
「そんな.......でも、何のためにそれを隠していたんだ?隠す理由なんか無いじゃないか!?」
そう俺が訴えると、タイチがゆっくりと口を開いた。
「..........ヒロシ、お前は賢い。実は、もう気付いているんじゃないか?」

「何を.......」


そう言いかけた瞬間、俺の脳裏に一筋の閃光が走った。



青い雪......あの“青い雪”は、2019年に地上に降り注いだ。
蒼時硝はもう全て俺が吸収して地球上に存在しないはずなのに.....
それは、俺が隕石を消滅させ切れなかったからだと思っていた。
確かにそれは正しかった......
しかし、“蒼時硝”そのものに自己増幅機能は存在しない.....
なのに雪は降り注いだ......
それは何故か?

ちひろは......1999年7月31日から、自身の炎心に焼き尽くされた......いや、俺達がそうだと思い込んでいた、2019年の“あの日”までの20年もの間......ずっと俺達の前に姿を表さなかった。
それは何故か?

あの真紅のドレスを作ったのは誰だったのか?

そして、突如として現れたちひろと、俺が2人で食い止めたあの“疫病”の正体とは何だったのか?

何故、タイチは篝火の“最高機密”を知っていたのか?



最後に........篝火には、俺の知らない“深層”があった。

そこには、俺のまだ知らない“真相”がある.........

これら全ての謎を結ぶ、たった一つの真相が........



《.....主人公になりたかったんだ.....》

アイツの声が、ふと過ぎった。


#20 終

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