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「はじめの一歩を踏み出そう」が学びの合言葉になる。/日本初の全寮制国際高校設立者・小林りんさんインタビュー


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☆様々な分野の「学びのプロ」に桜木建二が話を聞く!

ドラゴン桜2-LINEタイトルカット20年08月〜青

「余白」や「遊び」を生む学校という場の重要性を再認識せよ!


ISAKの授業は4月からすべてオンラインで実施

学校に通うことすら、ままならない……。

コロナ禍でかつてない事態に直面した生徒、そして学校側はまだまだ対応に追われる日々だな。

世界中から生徒・先生が集うユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン(旧インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢)は、どんな影響を受け、また現状をどう乗り越えようとしているのか。

代表の小林りんさんに話を聞くことができたぞ。

小林りんさん顔写真ークレジット不要

小林りん
1974年、東京都生まれ。学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン代表理事。カナダの全寮制高校、東京大学経済学部を卒業後、モルガン・スタンレーや国際協力銀行勤務を経て、スタンフォード大学教育学部修士課程修了。2006年から国連児童基金(UNICEF)のプログラムオフィサーとしてフィリピンに駐在した経験からリーダーシップ教育の重要性を痛感。14年に日本初の全寮制国際高校を軽井沢に開校、代表理事に就任。17年、同校は日本初のユナイテッド・ワールド・カレッジ(UWC)加盟校になる。17年、イエール大学の「グリーンバーグ・ワールド・フェロー」選出。19年、「EY アントレプレナー(起業家)・オブ・ザ・イヤー2019ジャパン」大賞など受賞歴多数。

「軽井沢に拠点を置く私たちの学校では、83か国から集まった約200人の高校生が学んでいて、7割以上が各地からの留学生。先生は9割が外国人です。

 今は物理的に国境をまたいで留学することが難しい状況になってしまい、『従来通り』の活動が継続できない状態。

 そこで、3月末から生徒たちを帰国させ、4月からすべての授業をオンラインで進めることとしました。

 今は私たち教育に携わる者と学ぶ側全員の、進化や適応能力が問われているのだと思っています」

オンラインとオフライン、双方の活用が今後の主流に

ーー学びと学校生活を、オンラインでどこまで代替できるのか。

「試行錯誤してきましたが、オンライン化を進めれば進めるほど、オフラインでの活動の価値を再確認する思いです。

 たしかにオンラインで授業はできます。トピックを決めて意見を自由に交わすこともできます。

 でも、やはりどうしても足りない面は出てきます。

 たとえば、生徒たち同士が寮で夜な夜な語り合うことだったり、顔を寄せ合ってともに作業しながら学業や部活のプロジェクトを進めることだったり、それこそ文字通り同じ釜の飯を食うようなことは、オフラインでなければできません。

 そうしたリアルの場での活動が、価値観のぶつかり合いや、計画されていなかった学びを生んで、人の成長を促していたのだと実感します。

 現在の状況は、人が集まることで起こる『化学反応』のようなことや『余白』『遊び』の大切さを、改めて見直すきっかけになっています。

 生徒からもやはり、『早く学校に戻りたい』という声は多く寄せられていますね」

20年8月小林さん漫画コマ 配信1回 三田紀房/コルク「ドラゴン桜2」から

ーーオンラインとオフライン、双方のよさを活用していくのが、これからの学びのかたちの主流になるだろうと、小林さんは見ている。

「とはいえ、オンラインの可能性もひしひしと感じていて、もっと開発し活用していかなければと思っています。

 私たちも7月に『ISAKx』をローンチしました(リンク参照)。」

「私たちの提供する学びを、今年9月から来年5月までの週末に、オンラインで受講できるプログラムです。

 受講者のみなさんは、世界中どこにいても、普段どおりご自身の学校に通いながら参加することができます。

 このプログラムを通して、私たちがISAKで提供している学びをもっと多くの方へ広げていきたい」

ドラゴン桜本文08月-1

オンラインとオフライン、双方のよさを活用して、学習効率を上げていくんだ!

withコロナの学びは、オンライン活用で加速できる

ーーここ数年来、ずっと唱えられてきた「教育改革」の動きも、昨今の事態を受けていったん歩みがストップしているように見える。

「withコロナ」の状況がまだ続きそうな情勢の中、教育の変化はどう生じてくると、小林りんさんは見ているだろうか?

「数年前からアクティブラーニングや探究型学習がキーワードとして語られるようになりましたね。

 その方向性は間違っていないと思いますし、私たちの学校でも開校当初からそれらを全面的に取り入れてきました。

 ただ、実際にオンラインでアクティブラーニング、探究型学習をするのは、なかなか難易度が高いとも言えます。

 ある調査では、日本の教師の中で、オンラインを使って双方向の授業ができる知識・能力を有している人は5%程度だと言われています。

 今はまだ、授業動画を一方的に流したり、ドリル的な問題をこなしていくようなスタイルが主流となっているようです。

 オフラインでも一方向になりがちだった旧来の教育が、オンラインでよりその傾向を強めてしまっているのかもしれません」

習熟度に合わせた基礎固めをオンラインで

ーーいったんオンラインの導入が始まったのだから、世情が今後どう変わっても、うまく活用していくことを心がけていくべきと、小林さんは言う。

「登校ができるようになったら、もうオンラインはやめた、となってはもったいないですね。

 OECDの2018年の調査では、日本の教育現場におけるデジタルデバイスの普及率は、調査参加78か国中、68番。教員のデジタルリテラシーでは、78番でした。

 オンライン教育はうまく使えば、学びの個別最適化を実現できる大きな機会にもなり得ます。

 教育現場はこの危機をチャンスと捉えて、学びを加速させるよう取り組みたいところです」

ーーたとえば、基礎的な知識の習熟や反復練習はオンラインでこなし、習熟度の高い子はどんどん先の内容へ進めるよう設定する。

逆につまずいている子には、わからなくなったところまで戻って繰り返し学んで理解を深める。

そうした個別の基礎学力固めをオンラインでしたうえで、リアルの場ではグループディスカッションなどインタラクティブな活動をする。

そんな組み合わせが考えられるというのだ。

「オンラインの環境が整わない家庭もあるでしょうし、問題は山積するでしょうけれど、それらを一つずつ乗り越えて、教育現場でのオンラインの活用を加速させていきたいところですね」

ドラゴン桜本文08月-2

「はじめの一歩を踏み出そう」が、学びの合言葉になる!

進路は大いに迷っていい、一歩を踏み出し続けよう

ーーオンラインとオフラインの組み合わせなど、教育現場の課題は数々あれど、学ぶ側に必要なマインドはさほど変わらない。

小林りんさんは先ごろ『世界に通じる「実行力」の育て方 はじめの一歩を踏み出そう』を上梓。

ーー学び成長する気持ちを抱くすべての人に向けて、まずは一歩を踏み出すことの重要性を説いている。

「そうなんです、世の中の状況や自分の周囲の環境がどうあれ、自分なりの『北極星』を見つけようという言い方をしています。

 一個人として本当に情熱を捧げられるものは何かを見定めることと、その先に自分の思いが社会とどう結びつくだろうかと考えること。

『内向きの問い』と『外向きの問い』というふうに本書で紹介していますが、そのふたつの問いに対する解を見つけるために、最初の一歩を踏み出すことが大切だと思っています。

 そこに至る道のりは、かならずしもすぐ見つかるとは限りません。『あっちかな、こっちかな』と迷うのは自然なことだと思います。

 とにかく歩みを始めようという意志を持ち続けるのが大事なのではないでしょうか」

ーーあれこれと進むべき方向を迷ったって、オーケー。

そう言われれば、気が楽になる向きも多そうだ。

「私も迷いまくってきましたからね。小さいころから好きなことはたくさんあったけれど、これをやるんだ!と見定めるのにはかなり時間がかかりました。

 今のように学校教育に携わろうと決めたのは、あれこれ悩みながら4回も転職した末、34 歳のときのことですから。

 時間はかかったけれど、一歩を踏み出し続けたからこそ今、ここにいられるんだなと実感しますよ。

 これからの社会は選択肢がますます多様になっていく気配があります。

 だとしたら、『一歩を踏み出し続ける』というマインドセットは、ますます大事になっていく気がします」

親は子の踏み出す一歩を見守り、そっと背中を押して

20年8月小林さん漫画コマ 配信3回 三田紀房/コルク「ドラゴン桜」パート1から

ーーそうしたマインドセットは、子どものみならず親の側にも必要だと小林さんは強調する。

「こと教育の問題においては、たいていの場合、親御さんのほうが保守的な考えから抜け出せていない気がします。

 周りの目を気にしたり、世間からのプレッシャーに自縛されていたり。

 または、自分がうまく一歩を踏み出せなかった後悔なども、頭を渦巻くのかもしれません。

 もしそうなのであれば、せめて子どもが一歩を踏み出そうとしているとき、まずは止めずに見守ってほしいし、そっと背中を押してあげられたらいいですよね」

ドラゴン桜本文08月-3

小さいころは、感情が大きく動く体験をできるだけ多く通り抜けろ!

学校で手を挙げて質問してみるのも立派な一歩

「一歩を踏み出すクセをつけると、困難に直面したとき、周囲の人や環境のせいにせず、自分でなんとかしてみようという態度をとれるようになります。

 このマインドを身につけるのは大事なことだと思っています」

ーーみずから考えて動き出せる人になる効用を、小林りんさんはそう説明してくれた。

まず自分で一歩を踏み出す人こそ、周りのせいにしたりあきらめたりせずに、自分らしい人生を歩んでいける人になるのだ。

「困難を乗り越えるには、まずは動いてみよう、失敗してもそこから学び、気持ちを切り替えて次の行動に移ろう、といったフットワークの軽さも必要です。

 一歩を踏み出すクセがあるかどうかで大きく結果は変わってきます。

 それに、外から降ってきた難題はつい投げ出したくなるけれど、みずから動いて見つけた課題なら、最後まで投げ出さずに取り組みたくなるのではないでしょうか。

 粘り強く事にあたるうえでも、自分が本当に信じるものに忠実に、臆せず動くクセは小さいころから身につけたほうがいいでしょうね」

ーーでは「みずから踏み出す習慣」は、どのように養うといいだろうか。

「何か劇的なことや特別なことをする必要はありません。

 ワクワクドキドキすること、うれしいこと、くやしいこと、そういう感情が大きく動く経験をいっぱいするのが大切。

 学校で手を挙げて質問してみるとか、もっと学校がこうなったらいいのにと思うことを提案してみるとか、それくらいのことでいいんだと思います。

 子どもが思い切って新しいことをできたら、すかさず大人が褒めてあげるのも必要ですね。

 ちょっと大げさなくらいに褒めてあげれば、仮にその小さい挑戦が失敗に終わっても萎縮せずに済みます。

 思い切って跳べたことの喜びが、ちょっとした失敗を大きく上回るようにしたいものです」

20年8月小林さん漫画コマ 配信4回 三田紀房/コルク「ドラゴン桜2」から

大人になっても一歩を踏み出すクセは強みに

ーー自分の意志をまずは大切にする姿勢。

それは大人になってからも強みになっていくと、小林さんは言う。

「大人になると社会的な要請が強くなって、周りにも気を使うし、失敗をするのはもっと怖くなるし、あれこれ折り合いをつけなければいけなくなるのは事実ですよね。

 誰しもある程度は外からの声に振り回されてしまうわけですが、それでも自分らしさを失わず打ち出せるようになるためには、まず自分の内なる声に耳を傾けそれに従ってみる習慣があったほうがいい。

 小さいころに身につけた『自分で一歩を踏み出すクセ』は、生涯自分の強みや財産になってくれるはずですよ」

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子どもが「一歩を踏み出すドキドキ感」を親も共有せよ!

小6で受験を決意、みずから探した塾へ通う

ーーときに、小林りんさん自身の子ども時代はどんなものだっただろうか? 何か特別な面はあった?

「いえ、東京・多摩地区のごくふつうの子どもでした。

 ただし、自分の足で初めて一歩を踏み出した経験は覚えていて、それは中学受験をするぞとみずから決意したこと。

 小学4年生あたりから、生意気が高じて学校の先生と反りが合わなくなってきたんです。

 宿題で漢字は15回ずつ書きましょうなどと言われると、『もう覚えた漢字をなんで繰り返し書かなくちゃいけないの?』と言い張るような面倒な子だったので(笑)。

 このまま地元の中学校に進んだら、もっとこういう辛い思いをすることが増えるんだろうな……と考えて、中学受験を思い立ちました。

 自分で駅前の塾を突然訪ねて、「中学受験をしたい」と言うと、「もう小6でしょう、間に合いませんよ。高校受験を目指しましょう」と。

 でも、そこにいた大学生のアルバイトの先生が、私の素質を見抜いて、夏休みも冬休みもつきっきりで指導してくれたんです。

 なんとか合格したときに実感しました。自分が動けば苦境は切り開ける、支えてくれる人も現れる、人生は変えられるんだと。

 それで中学時代は楽しく過ごし、高校へ進学。

 1年生の最初の定期試験で、数学で赤点をとってしまいました。先生からは『このままじゃ大学なんて行けない、もっと数学に注力しろ』と言われました。

 そのときも違和感を覚えました。先生は私のよさをみようとしない、わかってくれない、と。文系科目はまずまずできたのに、それを褒めてもくれなかった。

 そこで唐突に、留学を夢見はじめます。聞けば海外では、いいところを伸ばす教育をしているというのです。

 ならば留学しようと決意し、奨学金の試験をうけて、ラッキーなことにカナダの全寮制高校へ2年間、全額奨学金をいただいて留学しました。」

一歩を踏み出し続け、34歳で見つけた天職

「そんな調子で、小さいころからいろんなことを試してみる人生でした。

 遠回りもたくさんしたと思いますけど、今こうして教育にまつわる仕事を、天職のように感じながら続けていられるのは、私の歩んできた道のりすべてがあってこそだと強く思います。

 これから自分の道を切り開こうとしている子どもたちには、何も恐れず伸び伸びと、いろんな世界をのぞいてみてほしいですね。

 親御さんも、子どもの自由闊達さを、ゆめ邪魔したりすることなく、いっしょに楽しんでいくくらいの気持ちでいられるといいですよね。

 今の子どもたちが生きていく世の中は、私たち大人が見たこともない世界になるはずです。

 こうしたらいい、ああしちゃいけない、などと私たちが既成概念に捉われて制約すべきでは、もはやないのだと思うのです」

ドラゴン桜本文08月-5


*  *  *

ライター・山内宏泰 
主な著書に、『親が知っておきたい 学びの本質の教科書 教科別編』(朝日学生新聞社)、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。

☆この連載はLINE NEWS「朝日こども新聞」(月、水、金 8:30配信)でも配信されています。LINEアプリ(news.line.me/about)をインストールして「朝日こども新聞」を検索! 

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