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「『遊び』と『創造』の心を忘れず、駆使できる人が強い」/独立研究者・山口周さん

☆様々な分野の「学びのプロ」に桜木建二が話を聞く!

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教育改革も揺れるいまこそ、美意識を磨け!

時節柄しかたのない面もあるが、教育改革の行方はかなり混沌としている印象だな。

大学受験の「共通テスト」こそスタートを切る予定となっているが、以降のビジョンやスケジュールは揺れている。

予測のつきづらいこんな世の中になったいまこそ、教育と学びについて、改めて考え方の指針が欲しいところだ。

そこで、この人のもとへ言葉をもらいに行ってきたぞ。
独立研究者・著作家・パブリックスピーカーの山口周さんだ。

プロフィール写真—クレジット不要

<プロフィール>
山口周 1970年、東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。慶應義塾大学文学部哲学科を卒業後、同大学院文学研究科修士課程を修了。電通、ボストンコンサルティンググループなどで戦略策定や文化政策、組織開発などに従事した後に独立。著書『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)はビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)が広く共感を呼んだ山口さんは、同書でこう説いたものだ。

"混迷する現代では、科学的であることを標榜して、論理一辺倒で意思決定をしていても、正解にはたどり着けない。"

"これからは美意識など、「アート」と呼ばれる領域から新しい基準を持ち出してきたほうがいいだろう"と。

なるほどこれはたしかに、どんな分野で仕事をしている大人にとっても、昨今の「行き詰まり感」を打破する方策として大いにうなずけるところだ。

美意識は必ずしも芸術科目の成績とイコールではない

では、現在教育を受ける立場の10代は、どんな心がけをしたらいいだろう。

学校の授業で、論理を扱うように見える数学や理科よりも、感性が先に立つような音楽や美術に力を入れるといい? 
そう短絡的に考えるわけにもいかないと、山口さんは教えてくれた。

「学校教育には、まずは最低限の知識・技能を身につけるという目的がありますから、そこを飛ばして感性や美意識ばかり強調するわけにはいきませんね。

 それに、学校の教科としての音楽や美術が、どこまで美意識を伸ばすものになっているかも少々疑問です。」

「私は音楽がずっと好きで、いまも研究を続けていますが、中学時代の音楽の成績はずっと『1』か『2』でした。タテ笛などの実技におもしろさを一向に感じられなかったからですね。

 美意識を鍛えることの重要性はより高まると思っていますが、現状は学校の教科などとは分けて考えたほうがいいやもしれません」

ドラゴン桜本文10月-1

他国に比べ、日本の教育制度はうまく機能している

我々は事あるごとに、「教育が大切だ」と唱えるのが習い性になっているものだな。

この連載自体もその一環となっているわけだが、教育を変えれば万事うまくいくと思ってしまいがちだ。

そんななかで山口周さんは、一歩引いた視座を与えてくれる。少なくとも学校教育に対して、過度な期待はしないほうがいいのでは、と言うのだ。

「読み書きや四則計算など、人が生きていくうえで必要となる基礎知識を身につける。また、そうした知を得るための学び方を教わる。

 それがきちんとおこなわれていれば、まずは教育が一応は機能していると納得すべきでしょう。」

「実際のところ、PISAなどの国際学力調査において、日本の生徒たちの成績は決して悪くないようです。

 他国と比べて学校に通わせる経済的負担が特に高いわけではないなかで、よく成果を挙げていると見ていい。

 これ以上を望むのは、かなりぜいたくを言っていることになる。日本の教育制度は、なかなかうまくやっています。」

音楽や美術を好きになる、それが授業の目的になるといい

「それを踏まえたうえで、もうすこし欲を言えば、生徒が優れたものに触れる機会や、心を動かす時間が増えたらいいんじゃないかとは思います。

 たとえば音楽の時間は、鍵盤ハーモニカやタテ笛といったあまり魅力的に映らない楽器を演奏させられ点数をつけられるばかりでは、音楽自体が嫌いになってしまう。」

「美術にしたって、写生がうまくできるかどうかだけじゃなく、いろんな作品を観てひとつでも気に入ったものが見つかれば、その美術家の作品を卒業してから『観に行こうかな』と思うかもしれない。

 音楽や美術を好きになる、それが授業の目標になるといいですよね。

「これはもちろん国語や数学といった『主要教科』でも同じこと。

 各教科におもしろさのツボはあるはずで、それを伝えられていないのだとしたら、カリキュラムの欠点と言えるかもしれませんね」

ドラゴン桜本文10月-2

AI×ロボット技術の台頭で、学歴社会にもメスが

日本の教育制度は、なかなかしっかり成果を挙げている。まずはそれを認めるところから始めたい。

そう山口周さんは話す。ただし、時代に合わせて方向性は修正していく必要があるとも。

そもそも日本の教育制度は、根幹の制度設計が明治時代に成され、戦後に現行のかたちが出来上がった。

7歳になる年に小学校へ入り、きっちり配分された時間割に沿って集団で同じ学習内容が授けられる。

習熟度は一律の試験によって測られ、成績順に進学先、さらには就職先も決まっていく。

機会の平等を担保したうえでの学歴社会が、しかと確立されたのだった。

この教育・社会制度は、勤勉で優秀な労働者を大量に育てたいというねらいから築かれたものだった。

「高度経済成長社会を支えるインフラとして、この制度は非常に効率よく機能してきました。

 それで戦後まもないころから最近まで、数十年にわたって変更を加えずにそのまま用いられてきたわけです。」

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「ただ、ここへきてさすがに、そのままでは立ち行かない事態が生じてきました。
 きっかけは、テクノロジーが進展し、人工知能が本格的に社会に組み込まれてきたことにあります」

人工知能(AI)とロボット技術の組み合わせは、辛い労働を機械に肩代わりさせようとしてきた人類の「進歩」の歴史を急激に加速させた。

人の労働が機械へと置き換わるペースは、このところ極端に速くなっている。
勤勉で均一な能力を持つ労働者は、もうそれほど大量に必要とされなくなってきたのだ。

これにより、戦後長らく維持されてきた日本の教育・社会制度も、さすがに見直しを迫られるようになってきたわけだ。

学歴順に企業が新卒一括採用をするという習慣がずっと続いて、世の中に出るときは偏差値の高い大学にいたほうが圧倒的に有利というシステムはかなり強固だったが、それも時代とともに揺らいでいるのが現状なのである。

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詰め込み教育の知識はAIに敵わない

学歴が生涯年収や地位の安定を生むというのが、戦後の日本のメインシステムであり続けた。

その根っこが変わらないかぎり、どんなに学校で創造性を養えだの、これからは情緒教育が重要だなどと言っても、受験勉強に特化する詰め込み型の教育方針は変わらないように見えた。

だがいま、時代の変化が、システムの変更を促し始めている。

AIが世の中に広まり、人間の労働と仕事はどんどん機械に置き換えられるようになってきたのだ。

それにより、均一な労働者を育む目的で制度設計された教育のみを受けた人材は、仕事や居場所を見つけづらくなっている。

「では、どうしても機械には置き換えることのできないこととは何か。最終的に残る仕事とはどういうものか。

 考えてみるに、おそらくは『遊び』と『創造』しかないでしょう」
 と山口周さんは見ている。

「それが人間に残された最後の仕事だということになれば、教育のカリキュラムも、AIと競合する部分はある程度捨てて、遊びや創造の力を伸ばすものへと、時代に則して見直していかなければならなくなるでしょう

たしかに、いまやいくら知識を詰め込んで、単純なクイズ形式の知識を豊富にしたって、記憶能力において人間はAIに敵いやしない。

「与えられた問いに上手に答える能力」は価値にならない時代

ならばどうすればいいのか。「遊び」や「創造」は、どう養えばいいのか。

そもそもそのあたりは、教育によって育めるものなのかどうか。

ものさしを代える必要がありますね。

 これまでの学校教育は、与えられた問題に対していかに素早く正確に答えを導き出すか。そのパフォーマンスを競っていた。

 問題は先生が与えてくれるので、それにいかに反応するかが勝負だった。

 けれどこれからの時代は、上手に解答することが価値にならなくなるというわけです」

ものさしを代える、つまりは価値観の転換が求められているのだ。

どういうことか、引き続き見ていこう。

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AIに解かせる問いをつくることが人の仕事になる

与えられた問いにうまく答えるだけでは、価値を生まないようになってきているのだと、山口周さんは時代の変化を説く。その真意は?

「問いに答える作業はこれからの世の中にも もちろん必要ですが、それはAIの得意分野。

 人間よりずっと速く正確にこなしてくれますから、どう考えても任せたほうがいい。」

「ならば人は何をするか。
 問題をつくる側に回るしかありません。

 AIに解かせる問いを生み出すのが、これからの人の役割であり仕事となるのです。」

「自分で問題をつくらなくてはいけない時代には、これまで学校のなかで評価されてきた『問いに素早く正確に答える』優秀さが、意味をなさず通用しなくなっていきます。

 学力・学歴の高さと、世の中が求める能力のズレが、大きくなっていく懸念はありますね」

好きなことやりたいことに突き動かされ、問いを生みだす人になろう

これから人が真に求められるのは解答能力ではなく、「問いをつくる能力」となれば、では問いをつくる力を養うにはどうすればいいのか。

「遊び」と「創造」の心を忘れず、駆使できる人が強いだろう
と山口さんは言う。

『これをしていると、とにかくワクワクする!』といった内発的な動機があると、問いは自然にどんどん湧いてくるものですよね。

 好きなことがあり、やりたいことがあり、自分の足でどこまでも歩いていける人が、これからの時代には活躍できるんじゃないでしょうか

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「あなたは何がしたいですか?」と聞かれたら喜々として答え、自分の好奇心に駆動されてどこへでも出かけていっては問題を投げかける。

 そんな人間像がこれからの時代のひとつの理想であり、そうしたたくましさを養うのがこれからの教育の目指すところなのだな。

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ライター・山内宏泰 
主な著書に、『親が知っておきたい 学びの本質の教科書 教科別編』(朝日学生新聞社)、『ドラゴン桜・桜木建二の東大合格徹底指南』(宝島社)、『上野に行って2時間で学びなおす西洋絵画史』(星海社新書)、『文学とワイン』(青幻舎)などがある。

☆この連載はLINE NEWS「朝日こども新聞」(月、水、金 8:30配信)でも配信されています。LINEアプリ(news.line.me/about)をインストールして「朝日こども新聞」を検索!


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