CosmoCommunicatorを使って1週間


本当に今さらではあるがCosmoを入手した。
夏のセールで6万円台になっていたことと、6月に注文したDevTermがいっこうに発送されないイライラも相まって半ば衝動的に購入した。
発売されて4年ほど経過しているデバイスなので、スペック的に最新とは行かない。Androidは9だしCPUは今のミドルロー程度のものだし。
時代遅れな端末であり、2023年現在に6万円出して購入する意味は薄いように思うのだけれど、重要なのは1点だけ。
ハードウェアキーボードを搭載しているということ

ハードウェアキーボード

携帯端末においてハードウェアキーボード(以下ハードキー)を搭載している機種はかなり少ない。
縦型で有名なのはBlackBerryで、自分もPassportを一時期愛用していた。
あとはNokiaも出していたけど、1998年から2000年初頭くらいの話で、今は手に入らない。
Psionも同じくらいの年代だったと思う。

現在でも新規に製造販売しているメーカーで言うと
・Unihertz
・BlackBerry
・Planet Computers
あたり。今回購入したCosmoはPlanet Computersの製品。
CosmoはPsionの遺伝子を色濃く継いでいて(キーレイアウトがほとんど同じ)、所謂フルキーに近い配列を持っている。
自分はこのサイズのキーボード搭載ガジェットに非常に弱くて、快適にタイピングできる携帯端末として発売開始時からずっと気になっていたんだけど、当初は10万を超えていて気軽に試せるモノでもなかったのと、どちらかと言うとミニノートPCの方を好んでいたこともあって手を出してこなかった。

Cosmoに決めた理由

Android機であること。それは大きい。
iosデバイスと違ってカスタマイズの門戸が大きく開かれており、prootでLINUXのインストールまで可能な環境は魅力的。更にCosmoは公式にroot化を認めているので、更になんでもできる。更に更にAndroidとLINUXのデュアルブートまでサポートされている。

実際Web上ではLINUXをインストールして小型PCとして使っている例も上げられていて、購入前のテンションはぶち上げ状態だった。
LINUXを使用しない場合でもTermuxを利用してapache2, php, nodeなどWeb開発に必要なものをインストールし、単体で開発環境を作れてしまうのもプログラマーとしては魅力を感じる。

そういう訳で、「なぜ今まで購入しなかったのか」くらいの感情で注文した。公式の発送対応はかなり素早くて、香港からの発送で1週間足らずで自宅に届いた。

ファースト・インプレッション

予めWeb上の開封記事を読んでいたので新鮮な驚きはなく、とにかく使い始めようとセットアップを始めた。日本語入力にいつものGboardをインストールし、キー配列にUSを選択し、自分のwikiに設置している日記を書き始めた。それはもう快適な体験でVaioPの再来かと言わんばかりの喜びが心に溢れた。
…訳ではなく、入力を始めた自分は1分と経たず非常に動揺していた。

動揺のワケ

 Web上の記事でもわからず、実際に触ってみて初めてわかった極めて凶悪な不具合。
それは「Keyboard Ghosting」であった。海外フォーラムでの現象の呼称であり、日本では「チャタリング」と呼ばれていたりする。
ポイント と入力したつもりが ッポイント になったり、
happyと入れたつもりが haapppyになったり、
一度しか叩いていないキーの入力判定が残ってしまって複数回入ってしまう現象。これが稀にだったらマシなんだけど、1段落ごとに発生する、ひどいと数文字入力すると発生するほどひどい。文章なぞまともに入力できない。
購入して早々に絶望感に支配された自分はCosmoをそっと閉じて忘れることにした。

忘れたかったけど…

そうは言っても6万はたいた機械が1日で使い物にならなくなるのは流石に精神衛生上悪すぎる。リリースかなり経っていることもあって日本国内では生きためぼしい情報はヒットしない。海外ではまだCosmoのコミュニティフォーラムが息をしていて、現在購入した人たちがキーボードの不具合に悲しみのコメントを寄せているスレッドが見つかった。
曰く
・ソフト的というよりハード設計の問題(仕様)
・前作のGeminiPDAでも動揺の問題があって、有志がカーネルパッチを作成の上Planet Computersに連絡していた。が、Cosmoでも全く改善されなかった。
・ファームの最新V25ではかなり改善している。
ということで、出来ることと言えばファームの更新で様子を見るくらいのようだった。

ファーム更新できません

最近の携帯端末ではファームウェアの更新はOTA(OnTheAir)と呼ばれるリモートアップデートの仕組みを取っておりCosmoも例外ではない。
インターネット接続があれば本体だけで更新できるので、今や主流の方法となっている。
が、Cosmoはこの更新用サーバが死んでいるらしく、自分のバージョンがいくつであろうと「既に最新のバージョンです」と言われて更新できない。
基本的にOTA更新の端末はこうなると詰む。幸いCosmoの場合製造元がファームウェアのイメージを公開してくれているので、オフラインアップデートがV23までは可能。最新は前述の通りV25であり、そのバージョンが最終リリースとなっている。しかしV25はOTAのみでファイルは提供されていない。
フォーラムでもこの点について議論が交わされており、誰かV25のアップデートファイルを持っていないかとか、V25インストール済みの端末からストレージのダンプを出せないかとか、どうにかしてV25に更新しようとみんながもがいていた。
どうしてV25に拘るかというと、「キーボードドライバを更新した」とV25の公式リリースノートに記載があるためで、今やCosmoユーザの最後の希望となっている。

それでどうしたか

V25は待っていても降りてこない。有志による提供も見込めない。
当然PCには問い合わせを送っているが2週間ほど経過しても返事はない。
Cosmoの次作であるAstroについての問い合わせには当日中に返事が来たりするので選択的に返事をしないことにしているらしい。
(そういうこともあってPC社の評判はよろしくはない)
となると出来ることはもう無いのかということなんだけれど、
同じフォーラムにAndroidカーネルビルドについてのスレッドがあり、そこにはキーボードドライバ部分に修正パッチを当てたV23用カーネルへのリンクも書かれていた。遥かな道のりに思えるがそれしか手段はなさそうだったのでVMにDebianを入れて久しぶりにカーネルをビルドしてみた。
 結局1日くらいかかってしまったが無事にビルドできた。

それでどうなったか

確かに改善はしている。カーネルレベルで手が入っているので、使用するアプリを選ばずキーボード入力するシーンでは分け隔てなく恩恵を受けることができる。
ただまぁ完璧には遠い印象で、ダカダカ入力すると相変わらず取りこぼすしゴーストも発生する。頻度はかなり減ったので耐えられるかどうかで言うとギリギリのラインまで持ち上がっている。ので大変素晴らしいしスゴイことだなぁと思うんだけど、そもそも耐えながら使う時点で終わっているとも言える。
「気を使いながら入力するデバイス」というのは使うのが億劫になるもので、メモしたいなと思った瞬間に開いて入力して閉じる。本来5秒~10秒程度でできることが20秒かかる。それって結構なストレスであり、向き合って使っている分にはまだしも、打ち合わせ中に議事録をメモするような場面だと信頼の置けないキーボードは割と絶望的に感じる。

人類には早かった

そんなだいそれた事でもないと思いたいけれど、フォームファクタとしては完璧で、所有欲は間違いなく満たしてくれていて、スペックも必要十分であり、あとはキーボードさえまともに使えれば問題なかった。
神は完璧な存在を許さないのかもしれない。

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