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聞いたぞ! イエス「Mirror To The Sky」全曲感想

聞いたぞ!

ディスク 1
01.Cut From The Stars

 先行配信第一弾。なのだが、前にも書いた通り、本格的にデイヴィソンとビリーのハモリが聞けるのがやっぱり嬉しいし、晴れて正式メンバーとなったシェレンが活き活きと叩いてるドラムもいい。それにしてもこのドラムが全部後録りとは驚きである。ビリーは本当に優秀な人材を連れてきてくれた。ありがとうビリー。

02.All Connected

 先行配信第二弾(そういえば前作もアルバムの一曲目と二曲目がそのまま先行配信の第一弾と第二弾になっていなかったか?)。なので当然この曲も公開時点で聞いていたのだが、曲の長さが8分を超えていたためにyoutubeで再生すると聞いてる途中で必ず広告が挟まるという禍事が発生し、その度にガン萎えしてまともに聞く気になれず、評価を保留していたのだ。
 個人的に「良い曲は書けるがプログレっぽい曲が書けなくなってきているハウ」と「プログレっぽい曲は書けるが良い曲が書けなくなってきているビリー(ごめん)」がガッツリ共作に取り組んでくれたら、「プログレっぽくて良い曲」ができるのではないかとずっと思っていて、それが現行イエスに望んでいることでもあったのだが、この曲でそれはある程度達成されたと思う。まあどっちがどのパートを書いたか丸わかりなので、本格的な共作というよりは個別の曲をくっつけただけと言えなくもないが、それでも十分に効果は出ていると思う。ビリーが書いたと思われる、2:42〜あたりからの下りが特にいい。何だまだ良い曲書けるじゃん、ごめんビリー。

03.Luminosity

  前作『THE QUEST』以降の現行イエスの典型的な作風が現れた曲。特に4:08〜のフレーズが美しくてとても好きである。
 なんだけど一つ気になるのは、3:18〜あたりで聞かれるビリーの歌声である。ビリーには、自分でミックスした曲において、ステレオというものが出始めた時代に面白がってミックスしちゃった曲みたいにギターソロとかをやたら左右にパンする癖があって、私はこれが鬱陶しくてハッキリと嫌いなのだが、その悪い癖がカーティス・シュワルツに伝染していないか。

04.Living Out Their Dream

 申し訳ない。スティーヴ・ハウには怒られるかもしれないが、この曲が一番好きです。逆回転ピアノなんて古典的な技を平気で使ってるところだけにとどまらず、全体に漂う形容し難いおちゃらけ感と、なのにやっぱりどうしてもカッコいいというこの感じ? たまらなく好きです。

05.Mirror To The Sky

 前曲と打って変わって、冒頭の時点で「プログレやりますよ」みたいな雰囲気を全身から発散させてくるタイトル曲。しかし、歌が始まると泣きのメロディでグイグイくるタイプの曲で、そういう作風として全然成立しているんだから歌の前後のプログレっぽいくすぐりは不要では、とさえ思ってしまう。もちろん『Talk』収録の「I Am Waiting」のように「無駄に長い」とかいう訳ではなく(こういう表現をすると「好きなものを上げるために嫌いなものを落とすなと言われそうなので控えたいのだが具体例は必要なので書きましたごめんなさい」)、ちゃんとバリバリに展開はしてくれるのでまあ良いっちゃ良いんだが、あんまり一つの曲を聞いてるっていう感じがしないのだ。実はハウって大曲の素材となるいろんなパートを作ることはできても、それらを一曲としてまとめるのはあんまり得意じゃないのかも知れない。

06.Circles Of Time

 デイヴィソンの単独作。彼女であるムーディー・ブルースのジョン・ロッジの娘(だから前のライブ盤でロッジと共演してたんですかね)とツアーで離れ離れになる辛さを歌にしたとかで、「そんな個人的なことをバンドで歌うんですか!?」と一瞬思ったが、ボーカリストというものはそれぐらいナルシストじゃないとやってけない気もするのでまあ良いだろう。ただやっぱりアコギを左右に振るミックスが鬱陶しい。

ディスク 2
01.Unknown Place

 いきなり曲と関係ない話で申し訳ないが、前作から引き続いてるこの「別に1枚のCDに収まる尺の曲を2枚に分けて収録するシステム」、要るかなぁ?SDGsブームに真っ向から逆らってるから、とか言うつもりは無いんですが、前作は「おちゃらけ枠と小品枠だけ分けて収録する」という意図が伝わったのでまだ分かるが(断っておくが私は「Mystery Tour」はかなり好きな曲です)、今回は「Living Out Their Dream」と「Circles Of Time」がディスク1に入っているのでそういう訳でもないし。本人たちは「ディスク2に入ってるからと言ってボーナストラックみたいなつもりで作っては全くない」みたいなことを不自然なほど必死に説明しているが、だったら尚のこと本曲をはじめディスク2の3曲も本編に組み込んであげたらいいのに、と思う。アナログ盤だけ削ればいいじゃんか。
 
で曲自体なんだが、ハウ単独作だけあって地味になりかねない所をビリーのベースとダウンズのオルガンとピアノが救っている。(救っているとまで言うと失礼かもしれないが)。特に本作で存在感の薄いダウンズにとって貴重な目立ちどころである。その後2回ほど展開があるのだが、例のごとく一曲としてまとまっているというよりはそれぞれを繋げた感じで、先述の説が自分の中でますます補強されてしまった。

02.One Second Is Enough

 これまたハウ単独作。というかここまで書いて気付いたがディスク2は3曲ともハウ単独作だった。前作のディスク2が「おちゃらけ&小品枠」なら、本作は本編をある程度ビリーに任せる代わりにハウが「自作枠」としてディスク2をまとめたということなのかな、と一応の納得はできた。曲はシリアスに始まって爽やかに展開していく不思議な感じ。終盤のギターソロは、「そういえばこのアルバムってハウのギター自体はいっぱい聞けるけど俺の好きなハウのギターってそれまであんまり聞けてなかったな」と思い出させるような、弾ききれなくて無理やり弾いたみたいな危なっかしさがあってカッコいい。

03.Magic Potion

 歌の裏で鳴っているビリーのベースが凄い。本作のビリーは前作にも増してベースを弾きまくっていて、ベースラインを追ってるだけでも楽しい。
 
あとあまり関係ないが、本作のダウンズのクレジットはあまり信用できない。本曲でシンセしかクレジットされてないのにピアノもオルガンも鳴ってるのは「まあシンセで出してるのかな」とまだ納得できるが、「Cut From The Stars」でシンセが鳴ってるのにオルガンしかクレジットに書いてないのは流石に記入漏れとしか思えない。前作の盗作疑惑(無実)のせいでダウンズの扱いがぞんざいになってるのか?


 なんか読み返すとあんまり褒めてる感じがしないがそんなことはない。本作で現行イエスは現行イエスの作風を完全に確立したと思う。メンバーもしばらくの間はもうよっぽどのことがない限り入れ替わることもないだろうし、このまま突っ走って欲しい。そしてライブで新曲をいっぱいやって欲しい。


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