【資産運用】「シュレディンガーの猫」と株価の関係


ニュートン力学と決定論

アイザック・ニュートンは、1687年に刊行した『プリンキピア』で、後にニュートン力学と呼ばれる古典力学を完成させた。

彼の唱えた運動の法則を用いると、3次元空間における位置と速度という初期条件(6つのパラメータ)を与えられさえすれば、全ての物質の過去から未来に至る挙動を寸分の狂いもなく計算することが可能となった。実際に、身近な物理現象から天体の動きまでが、彼の運動方程式によって精密に予言できた。

我々人間の体を含めて、この世界は物資で構成されており、その物質の運動が同じ微分方程式で表現できるとするならば、星の動きと同様に、我々人間の運命も予め決まっていることになる。そこには自由意志などが介在する余地はなく、自分の意志で切り開く人生などというものは、単なる幻想でしかないのだ。

これは、いわゆる決定論と呼ばれる思想であるが、古典力学を突き詰めて考えていくと、そのような考え方に辿り着く。

ニュートンは、彼の力学を完成させるために、その数学的表現方法の必要性に迫られて、微分積分の概念を編み出してしまったほどの人物で、間違いなく、天才物理学者にして天才数学者でもあった。

しかし、その天才をもってしても株式相場は計算不能の世界だったようだ。1720年、政府が売り出した『南海会社』の株価が暴騰し、それに乗じて大量に発行された実体のない会社(今で言うところのペーパーカンパニー)の株式によるバブル騒動に巻き込まれて、ニュートン自身も多大な損害を被ってしまったというエピソードが残されている。

決定論の立場からすれば、宇宙の構成要素の1つである人間の営みにより決まる株価についても未来永劫あらかじめ決定されているはずであるが、彼自身がこの点についてどのように考えていたのかは、いささか興味をそそられるテーマではある。

量子力学と非決定論

ニュートン力学は17世紀に完成されたので古典力学と呼ばれているが、20世紀初頭に完成されたのが、現代物理学を語るときに欠かせない2大理論である相対性理論量子力学だ。

相対性理論は、特殊相対性理論と一般相対性理論に分かれるが、いずれも20世紀の天才物理学者であるアルベルト・アインシュタインがほぼ独力で完成させた理論である。

時空の歪みや延び縮みを精密に取り扱った一般相対性理論の完成により、我々の時空に対する認識は根底から見直しを迫られることとなった。

それに対して、量子力学の方は、誰か1人の独力ではなく、数多排出された天才たちによって完成された理論体系である。

相対性理論が光速度不変の観測事実を説明する必要に迫られて生まれたのに対して、量子力学は、ミクロの世界における現象を説明する必要性から誕生した。その頃、もっぱらマクロの現象を取り扱うニュートン力学では、とても説明できない奇妙な現象がミクロの世界では次々と見つかってきていたのだ。

量子力学では、ニュートン力学と違って、現象を確率的に表現する。物の状態は、確率を示す波動関数によって記述され、観測されるまでは一意的には定まらないと解釈される。

Aという状態とBという状態は重なり合って存在していて、どちらでもあるというのがこの世の真実の姿であり、観測したとたん、AあるいはBの状態に収束するのだ。

これはとても奇妙な世界観であり、物理学者の間でも長らく論争が続いた歴史がある。かのアインシュタイン「神はサイコロを振らない」と確率的な解釈を否定する論陣を張ったが、量子力学はミクロな世界の奇妙な現象を正確に記述できていることから、今日では確率的な解釈が正しいとされている。

量子力学の出現により、世界の解釈は、ニュートン力学決定論から、非決定論の世界に移行したのだ。

ニュートン力学では、運動方程式が物質の状態を表現する唯一の法則であったが、量子力学では、シュレディンガー方程式がそれに取って代わった。

なお、シュレディンガー方程式に従うとされる波動関数は、現実世界に存在する波ではなく、複素空間に存在する波であることから、果たしてその空間はどこに存在しているのかという新たな疑問も生じるなど、まだ完全には解明されていない部分も存在する。

しかし、量子力学が現代物理学の根幹を担う理論であることに変わりはない。

シュレディンガーの猫

量子力学の世界観を端的に表しているのが、シュレディンガーの猫と呼ばれる思考実験である。

箱の中に、一匹の猫と放射性元素を封じ込めておく。放射性元素は50%の確率で崩壊し放射線を放出するが、箱の中には、この放射線を検出する装置と、放射線を検出したら毒ガスを出す装置も同時に備えておく。

これは何とも残酷な実験であり、よりにもよって、猫ちゃんを実験に用いるとは何事かと文句を言いたくもなるが、これはあくまでも思考実験であるから、ここでは我慢しよう。

この場合、箱の中の猫は生きているのであろうか?それとも死んでいるのであろうか?

量子力学的な解釈で言うと、猫は50%の確率で生きており、残り50%の確率で死んでいる。すなわち、『生きている状態と死んでいる状態が重なり合って存在している』のだ。

これは、『本当は猫の生死は決まっているのに、我々が箱の中を見ていないから猫の生死がわからないだけだ』という意味ではない。文字通り、『生きている状態と死んでいる状態が重なり合って存在している』のだ。

そして、箱を開けた途端、すなわち観測した途端、生きているか、死んでいるかが確定するのだ。半分生きていて、半分死んでいる・・・とても奇妙な世界観だ。

株価との関係

この話、何かに似ていないか?

そう、株の値動きと似ているのだ。

もちろん、株の値動きは量子現象ではあり得ないが、確率分布関数に従って、出現する現象である意味において、株の値動きは量子現象と、よく似てるように思える。

シュレディンガーの猫が、生きている状態と死んでいる状態の重ね合わせで存在していて、箱を開けるまで生死が決まらないのと同様に、1年後の株価は、上がる状態と下がる状態が重ね合わせで存在していて、箱を開けるまで値動きが決まらないのだ。

これは、まさに非決定論の世界であり、アインシュタインの言説に反して「神はサイコロを振る」のだ。

投資をする上では、株価が上がるか、それとも下がるか、蓋を開けてみなければわからないのは非常に困った事態ではあるが、逆の視点から考えてみると、やってみないとわからないからこそ、この世界は面白いのだ。

この世の中が、ニュートン力学の決定論の世界ではなく、量子力学の非決定論の世界でよかったと、心底思う。

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