見出し画像

【医療】「ジェネリック医薬品」を選ばないとペナルティーが科せられる?


ジェネリック医薬品の案内

先日、2か月に1回の頻度で通っているクリニックの隣にある調剤薬局で、ジェネリック医薬品の案内をされた。

蛇足であるが、調剤薬局はなぜ病院のすぐ脇に存在するのだろうか?

ウチの近所では地元に根を張る調剤薬局が2社あって、その2社が競い合うようにして、新規クリニック開業に合わせて次々と支店を開設してきた歴史がある。

同じ看板の薬局が駅周辺にもう何軒できただろうか。完全に2社寡占状態である。

利用者にとっては、あまり歩かずに薬局に辿り着くことができ、かつ処方箋に書かれた薬は必ず常備してくれているので、たいへん助かる存在であるのは間違いない。

しかし、パチンコ店と景品交換所の関係にも似た何とも形容しがたいクリニックと薬局の関係性には、若干の闇を感じてしまう 笑

それは兎も角として、今回のテーマは、ジェネリック医薬品の話である。

ジェネリック医薬品とは、既存の先発医薬品と同じ有効成分を用いた後発の医薬品のことで、後発医薬品とも呼ばれている。

ジェネリック医薬品を供給するメーカーは、薬の開発費を新たに負担する必要がないため、安く医薬品を供給できるらしい。

そして、ここからが重要なところだが、「今年の10月以降は、ジェネリック医薬品を選ばないとペナルティーが科せられる」らしいのだ。

「厚生労働省チラシ」より

ペナルティーとは、具体的には特別料金が科されるということだ。

自分は今、先発医薬品を処方されているが、10月以降はジェネリック医薬品に変更しないと、自己負担額が増えてしまうようなのだ。

既にジェネリック医薬品を選択している人にとっては、影響のない話である。


特別料金はいくら?

特別料金はいくら取られるのだろうか?
チラシに計算方法が載っていた。

「厚生労働省チラシ」より

現在でも、先発医薬品ジェネリック医薬品とでは価格差が存在するが(もちろん先発医薬品の方が高い!)、10月以降も先発医薬品を使い続けた場合には、更に価格差の1/4に相当する特別料金が新たに徴収されるのだ。

  • 特別料金=(先発価格-ジェネリック価格)×1/4

しかも、特別料金は属性によらず全員10割負担となるので、窓口での負担割合が低い人(高齢者で低所得の人)ほど影響が大きくなる。

下記は、薬局で渡された試算表だ。

※自分の処方薬の例。薬代のみ。調剤技術料や管理料が別途加算される

「調剤薬局資料」より

自分は3割負担なので、仮に次回以降も先発医薬品を希望した場合は、560円の負担増となる。

  • 840円(今回)⇒1,400円(次回) +560円 +66.7%

上の表によれば、自己負担なしの患者も負担金が発生してしまうようだ。


特別料金導入の背景

なぜ先発医薬品を希望した場合には、特別料金という名のペナルティーが科せられるのだろうか?

それについてもチラシに書かれていた。

「厚生労働省チラシ」より

高齢化が進んだ影響で医療費総額が年々増える一方、保険料の負担割合をこれ以上増やすのは難しい状況下で、国民皆保険制度を維持するためには、価格の安いジェネリック医薬品の使用を推し進めて医療費総額を抑制したいという趣旨のようだ。

先発医薬品ジェネリック医薬品かの選択は患者に委ねられているが、どちらを選択した場合でも保険収支の改善に寄与する仕組みのようだ。

  1. ジェネリック医薬品を選択:薬代の支出減

  2. 先発医薬品を選択:特別料金で収入増

うまいことを考えたものだ。

しかし、直近(2023年9月時点)でのジェネリック医薬品の使用率は全国平均で81.86%と既に高率の為、健康保険の収支改善に大きな効果は見込めそうにない。


ジェネリック医薬品とは

厚生労働省のチラシには、ジェネリック医薬品の特徴として以下の記載がある。

  1. 国の厳しい審査を受けているから安心

  2. 新薬に比べて開発費が抑えられているため低価格

「厚生労働省チラシ」より

低価格で安心って、いいこと尽くしのようにも聞こえる。

しかしチラシをよく読むと、ジェネリック医薬品の有効成分は先発医薬品と同一であるが、添加剤が異なる場合もあるようだ。

また、有効成分の構造は特許で開示されるが、ノウハウに相当する製造プロセスは通常公開されない。そのため、原料は一緒でも作り方が異なることもあり得そうで、その場合には副生成物などの含有が異なる可能性も否定できない。

要するに、「ジェネリック医薬品は先発医薬品と主成分は同じではあるが、厳密には同一の薬とは言えない」のだ。


ジェネリック医薬品の安全性

ジェネリック医薬品は本当に同等の有効性・安全性が確保されているのか気になったので、少し調べてみた。

下図が厚生労働省のHPに載っていた医薬品の開発プロセスである。

後発医薬品について, 厚生労働省 医政局・保険局, 2017.5.17

図より、先発医薬品の開発には莫大な開発費と時間を要するのがわかる。

基礎研究の段階を経て有望な化合物が動物実験に回され、その試験をパスした化合物のみが人を対象とした臨床試験に臨める。その過程で多くの物質がふるい落とされてゆき、一説には臨床試験までたどり着ける確率は1万分の1とも言われているようだ。

臨床試験は3段階あって、その全てのステップをパスしなければ、その薬を販売することは許されない。

薬の作用・副作用は人間の命に関わるだけに、有効性・安全性が厳密に試されるのだ。

それに対して、ジェネリック医薬品では、開発費、時間ともに劇的に短縮されている。

開発費は薬価に上乗せして回収する仕組みの為、ジェネリック医薬品先発医薬品と比較して大幅に安く供給できるのだ。

先発医薬品
 開発費:数百~一千億円
 開発期間:8~15年
ジェネリック医薬品
 開発費:1億円
 開発期間:2~3年

ジェネリック医薬品先発医薬品の承認審査・市販後管理項目の差は、以下にまとめられている。

医薬品承認制度について, 平成19年度第1回福岡県ジェネリック医薬品使用促進協議会, 2007.8.31

大きな違いは、ジェネリック医薬品では臨床試験品質再審査が不要となっている点だ。

簡単に言うと、「ジェネリック医薬品は臨床試験に合格していない医薬品」なのだ。

「これって大丈夫なのか?」疑念が湧いてくる。

厚生労働省の考え方は、「有効成分が先発医薬品と同じなのだから、有効性・安全性も同等。だから臨床試験は不要」というものだろう。

しかし上記のとおり、「ジェネリック医薬品は先発医薬品と有効成分は同じではあるが、厳密には同一の薬とは言えない」のだ。

ほとんどの場合は大丈夫だと思われるが、それを統計的に実証するのが臨床試験であり、科学的な態度というものだ。

ジェネリック医薬品の採用有無は患者に任されているが、選択する際には「ジェネリック医薬品は臨床試験に合格していない医薬品」であることを認識した上で判断したいものだ。

とは言え、薬価を下げる取り組み自体を否定するものではない。

今後もジェネリック医薬品の普及を推し進めるのであれば、品質再審査を課すべきだと考える。

品質再審査とは、承認後一定期間(4年~10年)使用の成績等に関する調査を行わせ、その結果から医薬品の有効性、安全性を再確認する制度である。

医薬品承認制度について, 平成19年度第1回福岡県ジェネリック医薬品使用促進協議会, 2007.8.31

要するに、承認後の実績データで有効性・安全性を再確認する制度であるが、せめてこれくらいはジェネリック医薬品にも課して欲しい。

そして、データを公表することで患者がデータに基づきジェネリック医薬品の採用有無を判断できる体制にするのだ。


結局どうする?

自分は今、先発医薬品を処方されているから、次回の受診日までに対応を決めなければならない。(いつでも変更できるが)

  1. 先発医薬品を継続して特別料金を支払う

  2. ジェネリック医薬品を選択して薬価を下げる

多分一生飲み続ける薬だからこそ慎重に判断したいと考えている。

住んでいる自治体からのお知らせチラシに、下記文言が付記されていたら猶更のことだ。

先発医薬品とジェネリック医薬品は有効成分は同一ですが、個人によって効き目や副作用などは異なる可能性があります。

「自治体のお知らせチラシ」より

最後に卓袱台をひっくり返すようで申し訳ないが、ここまで書いてきて1つ思い出したことがある。

コロナ禍で何度も接種したワクチンのことだ。

事態の緊急性に鑑み、海外の治験データと国内は第一相の治験データのみの不完全な状態で、特例承認が行われたのだ。しかも製法が従来とは全く異なるmRNAを用いたワクチンに対してだ。

かなり危ない橋を渡った認識だが、そのリスクに比べればジェネリック医薬品のリスクなど大したことではないようにも思えてきた。

コロナワクチンの時は、けっきょくリスクよりベネフィットを優先して判断したわけだが、ジェネリック医薬品についても同じように考える必要があるのかもしれない。

コロナワクチンの接種の時は自己責任を求められたが、ジェネリック医薬品についても自己責任が求められている。

それはまあよしとしよう。

しかし、自己責任を求めるのであれば、判断に必要な情報開示が必要だ。
情報開示しないまま判断を迫って、結果に対しては自己責任と言われても納得感がゼロなのである。

ここまでいろいろと調べてきたが、結論はよくわからないというのが正直なところだ。

「さて、どうしたものか」


追記(2024.08.31)

記事を投稿したところ、コメント欄でジェネリック医薬品に関する有用な情報を提供していただいた。

情報を提供してくれたのは、富谷あさひさんだ。有料老人ホームに勤務している看護師さんとのことだ。

提供していただいたのは次の内容だ。

ジェネリック医薬品の中には、原薬、添加物・製法等が新薬と同一のジェネリック医薬品もあります。これをオーソライズド・ジェネリック医薬品(AG)といいます。

「当記事コメント欄」より

なんと、添加物・製法等が新薬と同一のジェネリック医薬品が存在し、これをAG(オーソライズド・ジェネリック医薬品)と呼ぶそうだ!

すべてのジェネリック医薬品AGが存在するわけではないそうだが、モヤモヤを抱えていた自分には天の声にも聞こえる朗報に感じた。

有効成分が同じことに加えて、原薬・添加物・製法まで同じなら、同じ薬として扱っても問題ないように思える(下図)。

自分の服用する薬にAG(オーソライズド・ジェネリック医薬品)が存在しているか確認してみる価値は十分にあると考えられる。

富谷あさひさん、有用な情報提供をありがとうございました。

オーソライズド・ジェネリックとは, 興和AGファーマ, 2024.8.31
オーソライズド・ジェネリックとは, 興和AGファーマ, 2024.8.31

もしかしたら上記の情報は、医療関係者にとっては常識の範疇なのかもしれない。

しかし、調剤薬局や自治体からの案内には掲載されておらず、一般国民に対して積極的には開示されていない内容である。

AGを指定する患者が増えたら、それ以外の製薬メーカーが困ってしまったり、調剤薬局の業務が煩雑になったりするから周知していないのかもしれない。

しかし、薬の情報は命に関わる情報だから、国民の知る権利を尊重して、もっと積極的に周知されるべきだ。

それにしても、noteにはさまざまな経験や知識を有する人が集まっているんだなと実感した。

今回の追記情報は記事を書かなければ得られなかった情報であり、記事を書いて本当によかったと思う。


※薬剤の安全性に対する考え方、感じ方は人それぞれです。ここでは私の個人的な意見を書きました。正解は1つとは限らないと考えています。

※この記事は、個人の見解を述べたものであり、法律的なアドバイスではありません。関連する制度等は変わる可能性があります。法的な解釈や制度の詳細に関しては、必ずご自身で所管官庁、役所、関係機関もしくは弁護士、税理士などをはじめとする専門職にご確認ください。
また本記事は、特定の商品、サービス、手法を推奨しているわけではありません。特定の個人、団体を誹謗中傷する意図もありません。
本記事を参考にして損害が生じても、一切の責任は負いかねます。すべて自己責任でお願い致します。


お知らせ

資産運用に興味のある方は、拙著『資産運用の新常識』をご覧ください。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?