⭐️フルスイング⭐️角材⭐️

※殴られた直前直後の記憶が薄いため全て曖昧
全部私の中では面白かった話のカテゴリーなので、そう思って読んで欲しいです。

その日上京して初めて、雪が降った。
お気に入りのdazzlinの白いノーカラーコートを着ていて、東京で雪を見られたことが嬉しかった。
終電も終わり人気のなくなった駅から自宅までの道を15センチヒール(当時のこだわり)で歩いていると、植え込みの影から人が出てきた。
その出てき方がちょっと変な感じで、不審に思ったのは覚えてる。それで何となく振り返ったところを何かで殴られて(後に角材だと判明)、気絶した。
角材がおでこに当たった音がして、首が後ろにしなったのは覚えている。蓮くんの首が取れた動画がバズったけど、あれの後ろバージョンみたいな感じ。多分。

目が覚めたら見知らぬ天井だった。
麻酔のせいでぼーっとしていて、横にいた看護師さんに起こされたとわかるまでしばらくかかった。
自分の名前を聞かれて、私って名前なんだっけ?と思った。名前と生年月日と他諸々のことはすぐ思い出せたけど、警察の事情聴取で犯人の心当たりとか見た目をしつこく聞かれても、何も覚えてなかった。このときに角材で殴られたことを聞いた。おでこは4針縫うハメになっていた。傷は一生残りますと言われた。
割とバイオレンスな家庭環境で育った私も角材で殴られたのは初めてだったので、悔しさと悲しさと怖さもありつつ、包帯の下はどうなってんだろう?とちょっと冷静だった。おでこを縫った以外に怪我はなくて、「普通は頸椎にも何かしら影響が出るはず」ということだったけど、当時ヘドバン曲が多いバンドのライブ通っていたから、首は相当鍛えられていたんだと思う。ということは病院には言わないでおいた。
退院の許可がでて、当時のマンションにめちゃくちゃ近い病院に入院していたので、徒歩で帰宅した。着ていた真っ白なコートは病院側で紙袋に入れてくれていたけど、血痕がついていて縁起が悪いので即捨てた。
帰宅中、まだ重たい頭で考えた。おでこからはみ出すくらいの大きめのガーゼに視界を遮られながら、犯人って女なんじゃないか?とふと思った。
別に私を恨んでいる人間に心当たりはなかったけど、仮に男だったら武器なんか使わないだろうし。現場になった場所から、植え込みまで歩いて、座ってみた。気分はアンフェアの篠原涼子だった。まぁ別に何がわかるわけでもなくて、すぐに飽きて家に帰った。痛み止めが切れると熱が出て、おでこの傷が脈打つのが分かった。ちょっと泣いた。誰だよ、私の有給を溶かした犯人は。と思って怒りが湧いて、悔しくて傷が開きそうだったので、寝た。この月はほぼ働けなかった。

 犯人はすぐ捕まった。多分抜糸が終わるか終わらないかくらいの頃だったと思う。
元カレの元カノだった。私は知らなかったけど、元カレが元カノと付き合っていた期間と私と付き合い始めた期間が少し被っていたことが原因だったみたいだった。「愛と執着は人を狂わせるんだな」と思った。別れるとすぐに何も思い出せなくなる私にとって、元カレなんか「あーいたな…。」ぐらいの存在でしかない。
もうすでに別れた人間のために殴られるなんて損だったなと思ったけど、そうか、あの人間のことをそこまでするくらい好きだったのかと思った。激しい愛、交わしてんね。私抜きでやって欲しかったけどね。と思いながら、示談には応じなかった。
自分の狂気の責任は自分で負うべきだ。と思う。
愛と狂気は紙一重だね。
でも拳で殴られてたら、示談にするかどうか迷ったと思う。武器を持ったことが良くなかった。

よくおでこの傷を見た人の方が気まずそうな顔をするけど、自分の顔に傷が残ったことには本当に何も思っていない。身体の前側の傷は逃げなかった証なので。私は目が大きいのが取り柄なので、目に何もなくてよかったなとは思う。

私の心残りは裁判所でこの写真を撮らなかったことだけ。

D.O(ラッパー)の初公判のときの写真
世の中で5本の指に入るくらいのいい写真

※どれだけムカついても人は殴ったらいけないぞ。
裁判は面倒だぞ。

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