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問いのデザイン


◾️授業中の質問は「問いのデザイン」

 まちづくりのファシリテーションの技術を巡り「問いのデザイン」という概念が取り上げられることがよくある。人々のアイディアを引き出し、あるいは合意形成をするにあたり、ファシリテーターが会合(ワークショップなど)の参加者に向けて発する「問い」は、人々の議論の論点を噛み合わせ、あるいは方向転換することに役立つからだ。
 そのようなことを考えてみると、今年の春学期の授業中に起きていた出来事が思い出される。このコラムを読んでいる方々の多くはご存知のように、筆者・三矢は2023年4月より大学で教鞭をとることとなり、例えば担当した授業の一つに「基礎セミナー」という一年生向けの演習科目がある。この授業で、ある学生(仮にAさんとする)がよく質問をしてくれていたのだが、それは即ち、上記に示した「問いのデザイン」に相通じるものがある。
 例えば、基礎セミナーでは、学生に向けて各種の演習課題が出され、実際に手を動かしてもらう場面が多々ある。教員である三矢からは「***をやってみてください」という指示を出すと、比較的多くの場合、Aさんが手を挙げてくれて「〇〇のやり方がよくわかりません」とか「△△はどうしたらいいですか」という質問をしてくれていた。その質問は、およそ三矢の指示出しの曖昧性や説明不足が前提となっていたことが多いため、Aさんからの質問に対する返答を準備した上で、学生全体に向けて解説や補足説明することがよくあった。
 このようなAさんのさりげない質問や疑問、即ち「問い」は、基礎セミナーの進捗全体の精度を引き上げることに貢献していたと言って良い。自分に何がわからないかをわかる能力がないと、この「問い」はデザインできないため、比較的高度な能力が求められる。しかしそれこそが「問いのデザイン」に問われる基礎的能力でもある。ファシリテーターは、ワークショップ参加者は何がわからないのか、どのように作業手順を説明すれば、スムーズに議論や作業が進められるのかをイメージする必要があり、その課題解決の一場面が「問いのデザイン」という関係にある。

◾️正しい答えと正しい問い

 話は脱線するが、昨今、「プロンプトエンジニアリング」という概念が注目されつつある。これは、生成系AI・人工知能を使いこなすにあたり、自分が欲しいアウトプットをAIから出力させるために、いかに適切な指示(プロンプト)を駆使するのかを指す。指示(プロンプト)の適切さが高まれば高まるほど、AIは質の高いアウトプットをしてくれるのである。このように考えると、ファシリテーターの「問いのデザイン」とAIの「プロンプトエンジニアリング」には相通じるものがあると言える。
 話が遡ると、自分が名古屋工業大学の学生時代(今から20年以上前)に、恩師・高橋博久先生から教わったこととも内容は同じである。それは「三矢君。正しい答えが導けていないとすると、それは、問いが間違っていると思うよ」と聞いた。これは研究を進める上でも重要な考え方であったし、今にしてみれば、まちづくりのファシリテーションがうまくいくために日頃から研鑽してきたのは、この「正しい問い(正しい答えを導くためのプロンプト)」をデザインする力を高めることであったようにも思う。

◾️ファシリテーションのコアスキルとしての「問い」

 もちろん勘違いしてはいけないのは、物事は「段取り八分」と言われるように、実際にまちづくりワークショップが創造的で実際的なアウトプットをするためには、ワークショップ本番前の下準備や資料作成、関係者への調整こそが重要である、ということだ。とはいえ、上記の「問いのデザイン」はワークショップ本番の品質を大きく左右する。ゆえに、段取り八分の残り二分を決定するのは、当日のファシリテーションスキルであり、そのコアスキルが「問いのデザイン」ということになる。

◾️必ず質問しよう

 以上の話を総合すると、ファシリテーションのスキルを高めたいのであれば「問いをデザインする力」を高める必要があり、その最も身近な機会は「(Aさんのように)質問をすること」だ。それが授業であっても、講演会であっても「自分が今参加している場において、必ず質問をする」という姿勢で臨むことを大切にしたい(いきなり良い問いをデザインするのは難しいので、まずは沢山質問をすることが重要である。故に「必ず質問をする」という言葉が入れてあることに注意)。それこそが、ファシリテーターを目指すすべての人に求められる基本的姿勢である。

※冒頭の写真は、Unsplash愚木混株 cdd20が撮影した写真です。

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