いつかはノスタルジー

11週目

産婦人科を受診してから既に1週間が経過してしまった。
彼に伝えるべきか、伝えるならどんな言葉でどんな表情で向かい合うべきなのか、あれこれと悩んで気が付けば眠りに落ちてしまう。
来週末からはゴールデンウィーク、10日間の大型連休が始まる。休日を少しでもスッキリした気持ちで迎えるためには、何としても今週中に行動せねばならない。もっとも、彼に伝えることだけが悩みの種というわけでもない。私は天涯孤独でもなければ、働かずに生きていけるような資産家でもない。両親(と、姉もいるが、お姉ちゃんはさして問題にはならないだろう)と、職場にもシングルマザーになることを伝えなければならないのだ。一つ一つの対応にこんなにもモタモタしていたら、あっという間にお腹が大きくなってきてしまう。今日中に、彼へ連絡をしよう。

気合を入れてきっちりと定時退社した。しかし、帰宅する、すなわち彼に連絡するという公式ができてしまったが故に、帰りたくない。帰りたくないという感情の持ち主は自分自身であるから、ごまかすことの無意味さはわかっていた。だけどれども、思い出したかのように「あ、豆乳なかったな」と心の中で呟き、コンビニに寄り道する。わざわざ値札に目を向けて、「やっぱりスーパーで買ったほうが安いよね」と再び心の中で呟いた。題して、「ウィンドウショッピング・アット・コンビニ」の猿芝居劇場に幕を下ろした。スーパーは帰り道から少し外れており、普段は仕事帰りのちょっとした買い物はコンビニで済ましてしまう。だからこそ、スーパーへの寄り道はよりわざとらしいとわかっていたが、徒歩5分ほどの散歩を追加した。観客のいない劇場にカーテンコールなど起こるはずもなく、豆乳の入ったレジ袋を片手に自動ドアをくぐったると言い訳もできなくなったと悟り、家路についた。コンビニとスーパーでの時間つぶしは、多く見積もっても30分程度だっただろう。無駄なあがきだったなと反省してつつも、レジ袋で荷物が増えたこともあってかさらに足取りが重くなってしまった。


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