見出し画像

私の好きな北海道の風景 石山緑地(札幌市) 2024 - 薪能「あたら夜の月影-覧古考新-」を堪能する

 先日、札幌市南区石山緑地で、北海道内ではほとんど開催される機会のない「薪能」を鑑賞したので記しておきたい。

 この公演名「あたら夜の月影- 覧古考新-」とは、主催者によると「あたら夜」とは万葉集のことばで「明けるのが惜しいくらい素晴らしい夜」といった意味。「覧古考新(らんここうしん)」とは、前漢の歴史書「漢書」からのことばで「古いことがらに鑑みて新しい問題を考察すること」という意味とのこと。いささか難解ではあるが、この公演にかける強い意気込みが感じられる。

 会場となる石山緑地は札幌軟石の石切り場を活用した公園で、存在は知っていたがまだ訪れたことはなかった。地下鉄の真駒内駅から無料のシャトルバスが出るというので、混雑を避けるために早めに出向く。7分置きに出るというバスの第2便に着席で乗ることができて会場までは15分ほどである。

公園内オブジェ
公園内
30分並んで待っていた
公園内
公園内
私の席から 早い時間なのであまり客はいない

 公演内に入っていき、会場の「ネガティブマウンド」という階段状に掘り下げた古代ローマのコロシアムを彷彿とさせる巨大な石の造形物に向かう。17時30分から受付なのに30分も早く着いてしまい、炎天下で並んで待つことになったが、見回すと壮大な景観に圧倒されてあまり苦ではなかった。受付が始まるとブロックごとにスタッフに席まで案内される。私の席は石に座るかたちになり、ちょうど柱で視界がふさがれる場面もあるが高さが舞台とほぼ同じだったので、パイプ椅子に座り下から見上げる正面席よりもよかったと思った。

開演前 暮れなずんできた
プログラムと席に敷くシートを無料配布 便利でした

 メインの能の演目は有名な「安達原(あだちがはら)」だが、そこに至るまでにアイで出演する演者による前置き説明でもある「狂言 道しるべ」、弦楽四重奏とのコラボレーション、通常は説明のない、「安達原」の鬼女がなぜ鬼になったのかを説明する語り「焔-鬼女の伝説」などが繰り広げられて、夜も更け、期待が高まったところでの登場となった。能を見に行く人はたいてい筋書きを予習して概略を頭に入れていくが、それをしなくても能楽師の動きを目で追っていけば内容が理解できる、優れた構成だと感心した。そして堪能することができた。

そろそろと登場
「狂言 道しるべ」 「安達原」以外は撮影・録音可 ハッシュタグをつけて拡散してほしいとのアナウンスには驚き
「焔 -鬼女の伝説」
橋から鬼女登場
鬼女の舞
能と弦楽四重奏が非常によく合っていた
石山神社の宮司による火入れ

 この「安達原」の、鬼女はただ怖ろしいのではなく、哀れを誘う存在として描かれることが多いように感じるが、たしかに旅人を泊めてやったり、わざわざ薪を取りに行ったり、人間らしい心も持ち合わせているようだ。必ずしも客を喰らう気はなかったかもしれない。それに反してこの山伏たちときたら、泊めてもらっただけでもありがたいのに、あの糸車(枠裃輪・わくかせわ)はいったい何だなどと好奇心満々で、嫌がる女に無理やり糸繰りをさせたり、約束を破って寝室を覗いたり、あまり徳の高い人たちとは思えないのは私だけだろうか。だから、最後にはお約束で鬼女が退治されるのであるが、ここで鬼女が勝って彼らが命からがら退散したら面白いのにな、などとつい思ってしまった(笑)。

 2時間はアッという間に過ぎ、スタッフの誘導に従って退出したが、帰りのシャトルバスにもスムーズに乗れて、野球観戦からの帰りのように遅くなるかと覚悟していたのだが、早く帰宅することができた。

夜の石切山 キャッチ画像再掲
終演後の舞台


 好天に恵まれ、さわやかな風を受けつつ自然と融和した素晴らしい舞台であった。石山緑地での開催は実に23年ぶりとのこと。コロナ禍の中、準備に3年以上かけての一大プロジェクトを成功裡に、(おそらく)無事に開催してくださった演者や関係者の方々に改めて感謝したい。そして、ぜひまたここで薪能を鑑賞したいものである。