レイシズムの幻影

レプリコンワクチンの接種への危惧から制作した、レイシズムの幻影というタイトルの文章作品を紹介致します。



 CONTENTS
 1 禁断のGOLD RUSH
 2 市民メディアXに喝采を
 3 飯炊き紅坂
 4 進駐軍のピアノソナタ
 5 CONVENIENCE STORE LABYRINTH
 6 幽界の証言
 7 FLAT EARTHの世界線
 8 アンダンテの終止符
 9 DEAR MICHAEL
 10 THIRD EYEの落日



 コロナワールドという名の原生林が、人の世の剥き出しの欲望を隠すように覆い尽くしているかのようであった。

 西暦二〇二四年の春。
 煌びやかな原色の虚飾に塗れた摩天楼には、時代の風が吹きつけていた。



 紫陽花が咲く頃になると、梅雨空を見上げてふと秋葉の事件のことを思い出す。
 自殺大国にて、仕切られた禁猟区指定のDead Zoneに踏み入る。一体何が正しいことなのか。
 もう誰も正義や真実なんて口にしなくなったような街が、何だかとても悲しく見えた。



 mRNA。
 ロットナンバーが打たれワクチンが管理された組織内部では、流出禁止事項の入力されたパソコンの画面に死亡者数予測データのグラフが描き出されていた。
 腕組みをし近未来の野望に燃える男は、眼鏡に手を伸ばして掛け直しながらパソコンの画面を覗き込むと満足気な笑みを零した。



 ヒトラーは、自分が描かれている壁に掛けている肖像画を見上げた。
 軍服の鉤十字が独裁を誇る。ナチスドイツ最高司令官。彼はこの世で野望を抱き、夢を見ていたのであろう。
 優生思想に歪んだレイシズムの影に人々は脅え、ファシズムの台頭が街の暮らしから正義や真実や自由を奪い去っていた。



 THIRD EYEが世界を完全に支配下に納めんと、ギョロリと水平線の彼方まで見渡している。
 生態系の頂点に君臨しながらも、悲しみの奴隷であったのは実はあなた達自身だったのかもしれない。



 1 禁断のGOLD RUSH

「マリモソルジャーの禁断ゴールドラッシュが今夜も始まりました!どうも。皆元気してた?えっ?!元気も糞もねえ?金ねえ、飯ねえ、暇もねえですって?…」
「ハッハッハッ!」
 人気司会者で男性タレントであるマリソルことマリモソルジャーのプックリとした巨大の横で、アシスタントを務める男性タレントであるケイシー田辺が爆笑し腹を抱えている。


「ちょっと、あなた。そんなに笑っちゃってるけど、巷は大変なのよ。私もネタにはしたけどさあ。わ・ら・え・な・いって!!笑えないのよー」
 鋭い眼光をしたマリソルの言葉に、ケイシーの愛称で親しまれていたケイシー田辺がコクリコクリと頷く。
「ちょっとー。政治家の皆さん、何とかならないのおー?貧困が半端なくてさあー。こんな風にテレビで司会者やらせてもらえてて私はどうにか生きてるけど、巷は飯が暖房かですってよー!駄目じゃない!!でしょ?!ちゃんと政治やってよー。これ以上言えないんだけどさあ」
 マリソルはそこまで言うと、ピタリと黙り真顔をして見せた。そして言葉を呑み込むような素振りで、額の汗をわざと拭うポーズを取った。
 隣のケイシーは若干目を泳がせながら、スタジオ内に視線を走らせている。


 二人の共同司会者が立つテレビ局内のスタジオには、巨大カジノが建ち聳えるセットが組まれている。金の延べ棒が高々と積まれ、コインが夜空に星の如く散らばっている。そして禁断のゴールドラッシュ!!と番組タイトルが書かれている。


 桜木理は週一で放送の深夜のテレビ番組である、マリソルの禁断のゴールドラッシュを観るのを楽しみにしていた。
 深夜のコンビニでバイト店員をして働いていた理だったが、花金の夜二十三時からの一時間はこの番組を極力観ることが出来るようシフトを組ませてもらっていた。大して楽しみのない自分の暮らしに、何となく安らぎを与え癒してくれているように思えていたマリソルのこの番組のファンであった。大学時代には哲学を専攻し学んで来た理だったが、マリソルを見ているとタレントとして生き抜くたくましさの中に秀でた哲学的な感性を備えているように思えてなかなか興味深い存在だった。
 照明を落とした自室は夜の闇に包まれている。
 草木も眠る丑三つ時に向かい、白々と夜が耽て行く。理はお気に入りのテレビ番組の放送が始まり、自室のソファーに腰掛けながら癒しタイムを満喫するお供に用意していた大好きなロゼワインをボトル飲みしている。

 禁断のゴールドラッシュは、巷ではゴールラと呼ばれていてなかなかの視聴率を稼いでいるらしかった。
 マリソルは男だがお姉言葉を使い、歯に衣着せぬストレートな物言いが好感を得ていた。衣装もメイクも内面は女であるのか、女性の衣服を身に付けメイクも女性のように施していた。

 若干煙た気にまったりとした口調で話す、マリソル独特のトークが進行している。
 途中で相槌を打ちトークに絡むケイシーは、なかなかインテリ風なキレのあるコメントを残すのが印象深いと理は思っていた。世の中に出てちゃんと活躍出来ている人だけに、頭の回転が早く空気を読む力にも長けていて、迂闊なことを安易に話し出すということもなかったのかもしれない。
 理がケイシーを初めて知ったのは、歌手としてヒットした時のことだった。
 人気バンドであったフラッガーズのシンガーソングライター、深沢心による楽曲提供に恵まれていた。一見ごく普通の青年に見えたケイシーが、何故芸能人として強運を発揮しているのか理には分からなかった。ただ何かが気になる。気になるが上手く言葉に出来ない。理はもう何十年かくらい前のそんな思い出をふと思い出していた。

 テレビの世界というのは、なかなか掴み辛い。
 ケイシーは予言めいた直感を語っていることがあり、その鋭き発言の源泉についてもなかなか不可思議なものがあるように理には思えていた。ゴールラにはおそらく番組の放送作家がいて、どこまでがショーでどこまでが本音なのかはテレビ業界について素人の理には分からず、人気タレント達は社会の掟の中で上手くやっていたことは確かだったのだろう。


 マリソルがいきなり真顔になり、咳払いを一つする。
 そしてゆっくりと口を開いた。
「金ねえ、飯ねえ、暇もねえって日本国民の今の暮らしだけどさあ。コロナ自粛の果てにどうなの?…」
 マリソルは思うことがある含みのある話し方をしているようである。
「えっ?何々」
ケイシーがマルソルが何を言わんとしているのか首を傾げ眉間に皺を寄せ返答し、このショーの花形で主役であるマリソルの顔を覗き込んでいる。
「私は専門家じゃないからさ、ハッキリした意見は言えないし番組的には避けるべきだと考えてるのよ…。でもね。政府のコロナ対策ゴテゴテ過ぎでしょ?コロワク接種についてはどうなのよ?」
 マリソルがポロリと本音を口にしたようだった。
 スタジオ内に一瞬若干緊張が走り、沈黙の間が生まれた。
「うーん。巷や特にSNSでは色々言われてんね」
「でしょ?私は巷やSNSの声をちゃんと拾ってかないと不味いと思うわー。報道に捩れがあることに異議を申し立てたいのよ。分かる?」
「そうかあー。俺もそうは思うよ。でも科学的に研究されてるコロワクを政府が推進してる以上、巷から生まれる誤情報に惑わされるべきではないんじゃないの?副反応の問題とか確かに出て来てるけどさ、打ってなきゃ更に重症化してたって話でしょ。ちゃんと打っとくことが賢い選択だと俺は思うけどね」
 ケイシーが持論を展開した。
「どうなのかしらね。タレント風情の私には真実は分かんないわ。あなたの考えは分かったけどさー…。今までのやり方を振り返んなきゃならないケースもあるでしょ?」
 マリソルはそう言うとケイシーに視線を向けた。
「まあそうだね。その辺りは陰謀論にならないように注意しながら議論してかないといけないかな」
 ケイシーが返答する。
 マリソルは少し沈黙した。
「この番組の看板タレントとしては、これ以上持論を無闇に展開して無責任なことは言えないわ。ただ確かに何か潮目の変わりみたいなものは感じてるのよ」
「なるぼど」
 マリソルの言葉にケイシーが頷きながら返答した。
「あなたの政府の提示してる科学に基づいた意見と、巷にある政府やメディアから偽情報と言われてるものとの温度差を、今後埋め合わせて行かないといけないと私は現時点ではそう思っているのよ」
「OK」
 コロワクについての平行線を辿るマルソルとケイシーのトークが、暗礁に乗り上げた。


 理は鬱々とした思いで、マリソルとケイシーのコロワクについてのやり取りを聞いていた。
 コロワクについて理は、完全に陰謀論者と呼ばれるカテゴリー内におさまっていた。
 あれは生物兵器!
 完全にアウトの代物だ!
 だが証明する手立てはない。
 感覚で察知しているコロワクへの危険性について、第三者を説得する術を理は持ってなかった。


 ケイシーはスタジオ内に視線を走らせると、慌てるような身振りを見せた。
「はい!今夜の議題は、ヅバヅバ物言いはあなたにとって塩?それとも神対応?です。マリソルはヅバヅバ物言いタレントの代表みたいなもんだよね」
 ケイシーのこのトークの切り出しにより番組の話題が移ろい、今夜の番組のテーマについてテンポ良くケイシーがお喋りし出す。
「はっはっ!そうね。それくらいしか私取り得ないからさあ。あなたも私と同じような生き物でしょ?」
「だね。ごもっともで御座います。口から生まれたタイプ」
 ケイシーが少しおどけるように目を見開いてそう言った。
「あー、そうねえ。私も同じかしらね。まあ私の場合はさあ、美味しい物に目がないから口から生まれたのに拍車掛けちゃってるかもねえー」
「ハッハッハッ!!だね。たぶん」
 ケイシーがマリソルのジョークに受けながら返答した。

「じゃあ早速、えー、コアラちゃんがアンケート調査部隊になってくれて街の人達の声を聞いて来てくれてるから、皆さん観てねー!」
 ケイシーがそう言いながら右手をどうぞと差し出すポーズを取った。すると空かさずテロップが出せれ、街頭アンケートの調査部隊員役を引き受けた、人気急上昇中の男性タレントであるコアラことコアラコアラ斉藤のロケシーンの映像が流れ出した。


 塩対応に神対応と、様々なケースに対しての街角を通行する人々の意見を聞く。
 時代により感性は磨かれ、そして流行によって知性は退化して行くようなこともある、この国での暮らしについて理は考えていた。


 文化圏が複雑でない単一民族としての共通言語や、無言の申し送りによる意思の疎通みたいなものがあり、何だかんだ言ってもこの国の民度や精神性には確かに素晴らしいものがあるような気がした。
 同胞達への親馬鹿的な甘さから来る馴れ合いみたいなものがあるのだろうか。
 いや。そんなこともあるまい。
 時代はコロナワールドなる摩訶不思議な世界を流離っていた。
 そんな暮らしの中で、マルソルのゴールラがエンタメ界をリードしていた。
 理は日本人の優しく辛抱強い民族性が大好きだった。
 ただ危惧する点がある。
 それは戦後のGHQによる洗脳により、余りにも自覚が薄い平和ボケが蔓延していると思えてならなかったことについてであった。
 例えば日本語に乾杯という言葉がある。これは戦後に作られた言葉らしく、完敗と表記し完全に負けるという意味であるらしかった。発音は完敗と同じだった。戦前は弥栄という言葉が使われていたとのことだった。言霊が強く、それが不都合だったGHQにより言葉の擦り替えがなされたらしかった。そしてその事実が隠されて来たようであった。日本人はそのことを知らず、冠婚葬祭で完敗しているということらしかった。無知とは恐ろしいなと理は思った。
 日本人にはYAP遺伝子が存在し、他の諸外国とは全く異なる言語体系などから、特殊な言霊を東洋の神秘として呪い的に操っていたのではなかろうか。人間の持つ潜在能力を飛躍的に拡大発揮させて行くような、神秘の力を日本人はたぶん秘めている。理はそんな気がしてならなかった。
 考えてみれば戦後焼け野原の街を、割合短い時間の間に世界有数の経済大国にまで築き上げて行ったと言えたのかもしれない。
 そんなことどの民族にも成し遂げることが可能だったのか不明だが、なかなか簡単に行くことではなかったのかもしれない。
 西洋人達から東洋の神秘と不思議がられるのは、その辺りの日本人独特の潜在能力を感じるからこそであったのではないか。理はそんなことを考えていた。
 震災に遭っても炊き出しのご飯を礼儀正しく順番を待ちながら、自分よりも弱い立場の人を気に掛け譲り合いの精神すら見失わない。それは尊い思いやりであったに違いなかったのだろう。

 そんな潜在能力をGHQは日本人に感じ恐れ、封印したのだろうと思われる。
 世界が調和し平和が実現したならば、自分達の支配構造が覆されてしまいお陀仏となる。きっとそう直感していたのではないだろうか。
 テレビでは決してその辺りの話には触れられない。利権塗れの社会の中で、スポンサー有りきの世界の話である。コロナ茶番についてだって、人気者に本音を語れるような場は用意されてはいないのだろう。

 ひと時の安らぎをもたらすマリソルのゴールラであったが、遮断された世界の半分は水面下にあり、人気タレント達は支配者達の掌の上で踊らされている道化師であることは確かなのだろうと理は思っていた。


 やがて番組はエンディングを迎え、次週の予告が簡単になされると、魔法の掛けられたエンターテイメントショーは夜の帷の中に姿を消して行った。
 ゴールラの放送が終わり、理はリモコンでテレビを消した後そのままぼんやりとソファーに佇んでいた。

 さて。もう寝ようか?
 背伸びをしながら大きな欠伸を一つする。
 あっ!そうだ。ツイッターでも覗いてみるか。
 理はふとそう思った。

 2 市民メディアXに喝采を

 理はソファーの片隅に置いていたスマホに手を伸ばした。

 四月の風は柔らかくて、窓から吹き込む微風が草花のいい香りを鼻先に届けて来る。自ずと体はリラックスしていて、表情を柔らかく和ませている。
 部屋の壁には昔好きだったバンドやアイドルのポスターが貼られている。長い間実家を離れて暮らしていた時期があり、再び実家で暮らし始めていた理であったが部屋の模様替えをする余裕もなく日々に追われ過ごして来てそのままになっていた。八十年代中場から九十年代前半辺りで時が止まり、ややノスタルジーを感じさせている。窓際に置かれた鉢植えにはベンジャミンが、スヤスヤと居心地良く寝息を立てているかのようだ。


 理はソファーに体制を立て直して座り直す。
 足を組み、左手に持ったスマホの頭を下から上に軽く振り上げて起動させた。明るくなった画面には、部屋の壁に貼られたバンドの近影のフォトを壁紙に使用していて表示されている。理が画面をスワイプすると暗証番号入力画面に切り替わり、慣れた手つきで素早くタップし暗証番号を打ち込む。するとトップ画面が表示された。

 スマホを起動させた理は何となく道草する子供みたいに、ツイッター界隈に出掛け夜の散歩を楽しむような気持ちになった。
 こんな気持ちになったのは久しぶりのことだ。いつ以来だろうか。理は記憶の糸を辿る。たぶん一年三ヶ月ぶりくらいのことになると、過去を遡り思い出した。途中少しくらいは覗いたことがあったかもしれないが、はっきりとは覚えていなかった。

 理は精神的に疲弊してしまって来たツイッター等、SNSを覗くこともなく過ごして来た日々を思い返す。
 人は余裕なく生きている時、必要最低限の物以外を生活から削ぎ落としなから暮らして行くものなのかもしれない。理が正にそうであった。

 世の中のことを気に掛ける余裕はろくに持てなかった。そしてどんな風に生きていたにせよ、人の暮らしに訪れては消えてゆく季節は足早に過ぎ去る。置き去られた愛が、暮らしに孤独を幾ら募らせていようとも。

 理はツイッターのアイコンを探すが見当たらない。
 確かここに並べていたと記憶している場所には、黒の背景に白いXの文字が描かれたアイコンが並んでいた。ツイッターといえば、青い背景に白い小鳥の絵柄のアイコンが馴染み深かった。だが画面をスライドさせて探せど見当たらない。
 理は良く分からないが、ツイッターのアイコンを確かにここに並べていたと記憶する場所にあるXなるアイコンをタップしてみようか迷った。
 このアイコンはもうだいぶ前からここにあったのだろう。はっきり覚えてはいないが、ある日初めて見掛けた。SNS等がリニューアルされたのかと思いつつ、どういうことか調べることまではせずにいた。
 タップを躊躇う理。
 料金発生等ということになるのだろうか。詐欺が多いのであろうネットの世界に、猜疑心が生まれ余計な心配をした。
 その後、まあ大丈夫だろうと思い直し、人差し指をXなるアイコンに初めて伸ばしタップした。


 何ということはない。
 Xとは紛れもなくツイッターのことだと表示された画面を見れば一目瞭然であった。若干仕様が変わってはいるようだが、馴染み深いSNSである。振り返れば二〇一〇年から利用して来た。
 理はこのXと変更されているツイッターらしきものの運営状況を理解すべく、ネット検索でXについて簡単に調べてみることした。
 するとイーロン・マスク氏によりXと変更され、旧ツイッターであるとの説明がなされていた。利用再開に問題はなさそうであった。そんな風な経緯により、理のXライフがスタートすることとなった。


 旧ツイッター時代よりも、Xでは政治的な話題やコロナについてユーザーが自分の意思を素直に伝えている印象を理は受けていた。
 ツイートはポストと呼ばれるようになり、一四〇文字の文字制限については変わらず、人々のそれぞれの気持ちが表現されていた。

 タイムラインを流し読みして行く理。
 特に気になるポストは十分に時間を取り、細かく文字を読んでいた。
 すると人気作家である大宮悦子のポストが目に留まる。

  二年近く前のことかもしれない。
 ある日理が旧ツイッターのタイムラインのツイートを流し読みしていると、悦子のツイートを見つけた。何となく心惹かれるが、何がそうさせるのか興味を抱き理は丁寧にツイートの文字を追った。アイコンは本人の着物姿であるようで、白髪の老女が微笑みを湛え佇みながらこちをを見ていた。

 今日は作家のお仕事はお休みして、最近凝っている生花に夢中になり過ごした一日でした。まだまだ若い人に負けないように人生を楽しんでいます。

 そうツイートされ、着物を着て菊を生けた背筋の伸びた凛とした悦子の写真が一枚添えられていた。沢山のフォロワーがいる様子である。コメントにいいねにリツイート等数が桁外れに高い。ユーザー名の後に付いた青バッチが、本人であることを証明していた。
 理は日本人女性としての健全そうな美を兼ね備えたこの老女に、直感的に興味を持ちフォローしてみることにした。悦子とはそれ以来の関係が続いていた。

 理は久しぶりとなる元ツイートで今はポストと呼ばれている悦子の文章を読む。
 ポスターが貼り付けられていて、悦子の新刊についてのポストであると直ぐに分かった。新宿ノベルハザードと大きめのフォントで書かれている。何だろう。
 丁寧に初めからポストの一文字一文字を目で追い読んで行く。
 すると日付が変わり今日のことであるが、新宿にある書店ノベルハザードにて悦子の新刊である飯炊き紅坂の刊行記念イベントが開催され、本人のトークライブ並びにサイン会が取り行われるとのことだった。
 理はまだ悦子の著書を読んだことがなかったが、気になり読んでみたいと思っていた。理はこの機会を逃すまいと、直ぐにイベント参加を決意した。


 市民メディアXに喝采を。
 長い時間得体の知れなかったコロナワールドについて、様々な情報が川の水の流れのように溢れ、やがては時代という名の大海原へと注がれて行くかのようだ。
 一つ一つのポストがまるで巨大なる世界を描き出すジグソーパズルのピースとなり、不可能なことではあるにせよ少しずつ実態の掴み辛い世の中を組み合わさりながら可視化して行くかのようである。
 現実に良く似た青写真となるかもしれない。

 デマや悪質な詐欺もあるだろう。
 それらも含め、全てが最後にはおそらく真実を語るものとなるのかもしれない。
 ハンドルネームとなり姿を隠した者が神の名を語る。仮想空間に似た世界であるからこそのレイシズムの反乱。百回嘘をつけば本当になると盲信しているような人もいたかもしれない。
 決して報われぬ世界で、直向きに生きる人の信念とは何だったのであろうか。
 その問い掛けの答えを理は自らの抱いているかもしれぬレイシズムの幻影の背後に浮かび上がる、紅の空の遠き彼方に探していたのかもしれない。

 Xは情報封鎖され傾向報道をする嘘つきなメディアより、ずっと信頼することが出来ると理は思っていた。
 政府は偽情報を取り締まる構えであったが、偽情報は政府とメディアが流して来たと思われ、そのことについてコロワクによるとみられる大量死が無言で語っていたであろうことは疑いようがないと理は思っていた。

 3 飯炊き紅坂

「大宮さん!今回の新刊飯炊き紅坂を、早速拝読させて頂きましたが良かったですよ」
 新宿にある書店ノベルハザードの男性店長である西川優が、晴々しい笑顔を手向ながら作家の大宮悦子に声を掛けた。


「あら、西川さん。姿をお見掛けしないと思ってたらいらしたのね」
「ええ!急にお客様から電話での専門書の入荷の依頼があり応対していたもので、大宮さんの新刊発売記念イベントに顔を出すのが遅れました」
「そうだったのね。新人の白石純君がお世話してくれてたから、難なくやれたわ。いい子ね」
 今年の夏がやって来たら八十六歳を迎える高齢者である悦子は、そう言うと愛情深き笑みを湛えた。
「あっ!白石には僕の方からイベントの段取りについてよくよくレクチャーしておいたので、たぶん上手くやってくれてるだろうと思ってました」
「バッチリよ」
 大宮がそう言いながら、西川に左目でウインクを一つ投げ掛けた。
「そうですか。それは良かった」
 西川は部下を褒められたことに誇りを覚えながら、返答して少し胸を張った。
 大宮と西川の二人は、それなりに長き付き合いになって来ていた。アイコンタクトで何となく互いの気持ちが通じ合っている。

「サイン本を百冊揃えて頂き感謝です!」
「いやいや。私こそ。こんな老いぼれにでも何かしらニーズが有り、有り難いわ」
 悦子の言葉に一瞬どう返答すべきが西川は迷った。
「いやいや。大石さん人気はずっと健在だし、生涯続く筈ですよ」
 西川は本音を柔らかな口調にトーンダウンさせながら伝えた。西川が建前でなく話していることが、悦子には分かった。悦子は遠くに視線を向けながら、腰掛けている椅子に座り直す。そして西川の声のトーンに合わせながら、言葉を選ぶような一瞬の間を置いた。
「嬉しいわね。有り難う。そんな風に言ってくれる仕事仲間がいてくれて、私は本当に幸せ者ね。遂年老いて生産性が下降し、生きてる価値がなくなって行くような気持ちになるのよ。でもそれじゃあ駄目ね。まだまだ若い人の為に役立てるような自分でありたいわ。自分虐めはよさなきゃね」
 そう言うと、また有情深そうな目尻の皺を刻み笑った。
 西川は深くコクリコクリと頷いた。


 理は予定通りにノベルハザードを訪れていた。
 今日の自分はなかなかラッキーなようである。何と兼ねてから興味のあった作家である大宮悦子が来店していて、彼女の新刊である飯炊きの紅坂刊行記念イベントにひょんなことから偶然参加する運びとなったが、たぶん吉運である気がする。願ってもないこの機会に大宮の新刊をゲットすべきだと、血が騒ぐような感覚に突き動かされてこの場所へと辿り着いていた。

 ノベルハザードの一階にあるこの大宮悦子の刊行記念イベントの会場には、沢山のファンが集っている。
 多くのファン達は、悦子が帰るまでこの場を立ち去らないつもりらしい。悦子に握手してもらいながら買ったサイン本を手に、沢山の笑顔の花が咲き乱れている。理は大宮の人気ぶりを感じながら、イベント会場の片隅で福々しき雰囲気を楽しんでいた。
 そして、大宮から直接サイン本を手渡してもらえる人集りの列に並んだ。
 大宮からサイン本を受け取る人々は、大宮さん、いつまでもお元気で!とか沢山の愛と勇気と励ましを本からもらっています、とか、Xで菜の花プランターと名乗り、一昨日やり取りさせてもらった者です!!凄く有り難い人生の教訓になる言葉を頂きました。私はずっと大宮さんの本の読者でファンなのですが、今日は初めてお会いすることが出来ました!!感激です!!直接大宮さんにお会いすることが出来るし、新刊を買って読みたくてやって来ました!!悦子に会い新刊を購入するファンらしき人達からは、そんな様々な悦子への言葉が贈られていた。悦子は気取ることなくフランクに応対している印象で、理はその人柄にとても好感が持てるなと思った。
 そしていよいよ理の番がやって来る。
 理は初対面の悦子を目の前にして、やや緊張し大して思いを伝えることが出来なかった。たった一言、Xの大宮さんのフォロワーで応援しています!!とだけ告げた。すると悦子は真っ直ぐに目を見つめありがとうと言って笑ってくれた。
 悦子本人から直接手渡してもらった新刊飯炊き紅坂は、おそらく理の生涯の宝物の一つになるのかもしれない。


「お母さん、お帰り!!」
 悦子が都内の自宅の玄関を開けると、台所にいるらしき長女寺島結花の声が出迎えた。
 その途端、もう時期五歳の誕生日を迎える孫の大陸がバタバタと廊下を掛けて来た。
「お婆ちゃん、お帰り!!」
 大陸は息を弾ませながら、いつもの屈託のない無邪気な笑顔を悦子に向けた。
「只今!大陸さん、いい子にしてたかなあ?」
「うん!ママと晩ご飯を一緒に作ってた!」
「あら。偉いわね。お手伝いしてくれてたんだね。有り難うね」
「うん。僕一杯、いっぱーいママのお手伝いする!!」
「大陸さんがいっぱーいお手伝いしてくれたら、ママは一杯助かるねえ。バアバも嬉しいなあー」
 悦子がそう言うと、大陸はピョンとその場でジャンプした。
「うん!!」
 明るい笑顔で大陸が答えた。


「頂きまーす!!」
 大宮家で夕食が始まる。
 結花特製の稲荷寿司とポテトサラダと味噌汁のシンプルな夕食だった。


「お母さん、それで今日の刊行記念イベントはどうだったの?」
 結花が最初に味噌汁を飲みながら、悦子に尋ねた。
「最高にハッピーだったわ。若い読者さんが増えて来てて、何だか嬉しいわね」
 悦子はそう言うと、ポテトサラダに箸ですくい頬張った。
「うん!美味しいわ。結花ちゃんのポテトサラダの味ね」
「お母さんの味に似てるでしょ?」
 結花が答える。
「あら、そーお?」
 悦子がピンと来ないのか、味を確かめ直すようにまたポテトサラダに箸を伸ばし、すくって頬張る。
「ママ友の奏恵が良くそう言うんだ。結花のポテトサラダはお母さん譲りの味だよねって」
 結花は満足そうな笑みを浮かべそう言うと、自分もポテトサラダを食べた。
 大陸は二人の話には関心がないらしく、今はアニメクレヨンしんちゃんの録画を結花につけてもらい観ながら、稲荷寿司をパクパク美味しそうに食べている。

「正孝さんは今日はどうしてるの?」
 悦子が家を留守にしている結花の夫のことを気に掛け尋ねた。
「寺島さんは友達と遊びに出掛けてるから、私の食事作り当番はなしなのよ。本当に手が掛からない人で楽だわ」
「結花ちゃんは私とお父さんの関係に似てて、お父さんに似た人と結婚したわね」
「うん。たぶんそうね。歳取ると段々私お母さんに似て来たわ」
「はっはっ!良い所だけ似たらいいけどね」
「お母さんは私の自慢の母だから、どんな所が似ても大丈夫よ」
「あら、まあ。嬉しいこと言ってくれるわねえ。サンキュー!」
悦子は上機嫌な笑顔を見せてそう言うと、稲荷寿司を箸で摘みかぶりついた。

 4 進駐軍のピアノソナタ

 焼夷弾の雨の降り注ぐ街を、逃げ惑う悦子。
 父譲りで運動神経が良く、脚の速さには自信があった。同級生で幼馴染であった深津美咲と一緒であることは心強かった。戦闘機B29の恐ろしきエンジン音に脳をやられ、神経が参ってしまいそうな中、必死で生き延びるようと鈍り気味に思える思考回路を動かし続けている。正しき判断は出来ているのだろうか。


「美咲!!あの柳橋の下に潜るよ!!」
 悦子が勇ましき大声を挙げて叫んだ。
「うん!!」
 威勢良く返事をする美咲が大きく頷くのを視界の端で捉えると、悦子は空を見上げながら一目散に柳橋の袂へと駆け出した。
 美咲も共に駆け出す。
 息を付く間もなく、二人は必死で歯を食い縛り駆けた。悦子の両手は知らぬ間にベットリと汗をかき、強く握り締めている。大人達はいなくて、右手の手の中の母からお祭りで買ってもらったお守りを握り縋っていた。だが幾ら祈っても、誰も助けにはやって来てはくれないのだろうということは悦子は分かっていた。
 家族は今別の場所に疎開している。
 父と母は幼き妹二人を連れ、空襲を逃れる為に街から離れた山に移動して暮らしていた。

 後少し…。
 逃げ惑う二人は空を見上げながら、焼夷弾の雨を交わして柳橋付近まで駆けて来た。
 が、その時だった。
 二人の直ぐ側で同じように必死で空襲を避け駆けて逃げて来た、悦子の実家の二軒隣に住む古谷正吉の右足に焼夷弾が着弾した。
 その瞬間、正吉の姿は赤い炎と煙に包まれた。
 二人は完全に身を恐怖で固めながら正吉の無事を願ったが、どうすることも出来ず自分達の身を守るしかなかった。
 取り敢えず石造りの小さな柳橋の下に潜り込んだ。用水路としての川は乾き、水は枯れていた。

「おい!!大変だ。子供が脚をやられたぞ!!」
 どこかの見知らぬ叔父さんが叫び声を挙げた。悦子は紅橋の下に潜みながら、声を挙げた叔父さんの様子を見ている。叔父さんは恐ろしい顔付きをしていた。修羅の如くである。仁王立ちしていたかと思うと、自分の側に倒れ蹲った切り動かなくなってしまっていた正吉の体を、エイヤーコラショと叫びながら右肩に担ぎ挙げた。そして自分と美咲の避難している、この柳橋の方に駆け出した。

 正吉は柳橋の下に担ぎ込まれた。
「しっかりしなさい!意識はあるか!?」
 正吉を担ぎ込んだ筋肉質な叔父さんが叫ぶ。
「あぁ…」
 正吉は悶絶するうめき声を挙げた。
 それもその筈である。
 右足が焼夷弾により吹っ飛ばされ、失っていたのだ。赤き流血が止まらず、叔父さんは自分の着ていたシャツを素早く脱ぐと、正吉の右足の付け根をシャツで強く強くいわいた。
「これで良し!!意識があるから大丈夫だ。負けるなよ。俺が着いててやるからな」
 叔父さんは力強く正吉にそう告げると、脅え震える正吉の肩を強く抱いた…。


 あとがき。

 拝啓、ふる里様。
 もう二度と会うことの許されぬ父ちゃんと母ちゃんのことを、今でも時々思い出しては泣いている泣き虫な私です。
 戦争は本当に嫌いです。
 人生の中の大切なものを、一切合切否応なく根こそぎ奪われて行くような体験でした。
 黒塗りした小学校の教科書のことが忘れられません。
 政府は戦中に言っていたことを戦後にはすっかり変えていて、この世には正義も真実もないのだなということを、私達は肌感覚での実感の中で思い知らされて行きました。
 もしも正義があるとするならば、アメリカの掲げていた偽りの正義でしかなかった。
 あの頃、進駐軍を慰問しピアノを弾いていた私。
 楽器の腕前は自分でもなかなかのものだと思ってた。脚の速さと同じく、父譲りだったのでしょう…。
 進駐軍の慰問。
 それがどういう意味なのか、私はすんなりと納得することは出来ませんでした。
 戦中は敵国であったアメリカ。
 戦後を迎えると、街には進駐軍の兵士の姿がありました。
 ギブミーと言えば、優しい笑顔を向けながらチューインガムやチョコレートをくれました。
 うちに持って帰った時、母はそれらを口にし食べることに抵抗を示していました。母のその気持ちが私には分かりました。
 私達はプライドを捨てながら、戦後の街で復興の夢を頼りに生きて行くしかなかったのでしょうか。

 進駐軍の若い兵士達と触れ合うことに、私は恐れを抱いていました。
 だけどいざ進駐軍に出向いてみれば、私達と何ら変わらないようなアメリカ人である普通の気の良さそうな兵士達の姿がありました。私は彼らに対する思い込みだった負のイメージを考え直していたのでしょう。
 ふる里を離れ、征服した敵地にて過ごしていた進駐軍の兵士達。戦中の敵国アメリカの兵士の素顔は、青春の日々を生きる私達日本人と変わりないようでした。そして彼らの祖国を思う気持ちが、私に伝わって来ていました。私達日本人と何ら変わりはなく、祖国に誇りを持ち愛する思いを胸な秘めた同じ人間同士なのだなと感じていました。

 彼らにアメリカで流行っているらしき音楽を日本風にして奏で楽しませる。
 どうやらそんな役割を私は知らぬ内に請け負っていたようです。私達の奏でる音楽を楽しんでいる彼らの笑顔を見ていると、慰問に対する私の抵抗感にも変化が生まれていた気がします。国が違えど同じ人間であり、そしてそれぞれの社会に属していて逃げ出すことの出来ぬ掟がある。人はみな何かの支配の囚われ人なのだなということを知って行った、進駐軍の若き兵士達と関わる日々がありました。
 小学校の水飲み場に現れ、水道から水を飲む進駐軍の兵士の姿もありました。
 気さくに私達に声を掛け、進駐軍に遊びにおいでと迎え入れる思いを表しコミュニケーションを取って来て来ていた彼らは、祖国を離れ暮らす寂しさの中にあったようだと後になり気付いて行きました。


 ああ。
 あの頃仕事帰りの母が、夕飯を炊いていた思い出が実に懐かしいです。
 平野部の街には海抜ゼロメートル地帯があり、日が長くて真っ赤な夕日に滲んでいました。少しだけ隆起した平野部には珍しい坂道に、それから小さな橋もありました。坂道に付けたれた名前の由来について私は知りませんでしたが紅坂と呼ばれていて、あの坂道を下る人々はきっと家族の待つ温かな我が家への家路を急いでいたのでしょう。

 大学生になり知ったのですが、夕飯時に我が家の温もりが恋しくなった地元の詩人である伊藤時次郎が、作品の中で紅坂と表現しふる里での子供時代を過ごした風景を謳ったのがこの坂道の名前の由来とのことでした。元々は特別な名前はなく、ただの街通りに過ぎなかったのだそうです。
 私は紅坂で夕飯までの時間、手鞠を突きながら自作曲したてんてん手鞠の子守歌をいつも歌っていました。背には幼き一番下の妹をおぶっていたこともあります。
 何故でしょう。
 あの頃とても苦しい時代だったけど、振り返ればどこか幸せでもありました。日本はきっとまだやり直せる。そんな希望を私達は信じていたのでしょう。

 あの焼夷弾の雨の降り注ぐ中を逃げ惑った記憶は、決して忘れられはしないでしょう。
 小学校に通う為に実家の直ぐ側の父の本家に預けられていた私。ふる里の街が空襲に遭い、赤く燃え上がる空を、父達家族は疎開先から見ていました。父は私の身を案じ、直ぐに自転車に乗り探しに来てくれました。私と美咲の無事でいた姿を見るなり父が、お前達これは奇跡だぞと言ったことを思い出します。
 あの夏の日に奇跡の少女となった私。
 きっと生かされたからには、何か重要な使命が神様により私に与えられていたのかもしれません。そんなことを考えていたことを時々思い出しながら、私は作家として強く生きて来たつもりです。

 ベンは機関銃よりも強し。

 どうかこの世界が平和である為に、私に与えられた物書きとしてのペンが奮いますように。
 最後までお付き合い下さいました読者の皆々様。大変有り難う御座います。それではまた作品の中でお会い出来る日を楽しみにしております。

 旧姓杉林悦子こと、大宮悦子。


 理は息つく間もなく一息に、飯炊き紅坂を読んだ。
 戦争体験の中で刻まれた悦子の平和への思い。それは現代に通じる幸福論を探り出す為に、必要不可欠な議題を提示しているように感じていた。


 飯炊き紅坂に記されていた内容によると、どうやら進駐軍の兵士達は思いの外親切だったようであった。
 沖縄戦が終わり戦後を迎えていた日本で、戦勝国となっていたアメリカの進駐軍の兵士の見せる姿は日常化され気さくな雰囲気になっていたのだろうか。
 理は自分がまだ生まれていなかった時代の、飯炊き紅坂に書かれていた悦子の戦中や戦後の体験談を興味深く感じながらこの本を読み耽っていた。

 進駐軍にて悦子の奏でたピアノソナタが、今も尚時代を越えて遥か戦後の焼け野原の街から理の耳には聴こえて来るかのようであった。

 5 CONVENIENCE STORE LABYRINTH

 作家三島由紀夫に扮する男が、池袋のデモ隊に紛れ闊歩している。
 頭に白い捻り鉢巻きを締め、日の丸がおでこの上に来るように結び祖国を讃美している。手にはプラカードを抱えている。

 コロナパンデミック条約にNo!!


「おい!!スゲー人集りじゃねー!!?こりゃあメディアも流石に無視出来んだろう?」
「いや。奴らは来てないみたいだせ。X見てたけど、大手メディアは皆スルーだってさ」
「えっ!!!?マジな話なのかよ!!!!許せんなあ…」
 デモ集会に参加中の二人の青年が、このデモの行方を占うように雑談をしている。

「まあさあ。結局はテレビ局もメディアも、日本を潰したい外国の会社だからな。来るわきゃねえんだよ」
「ああ。そう聞いたことはあるけどさあ。それにしてもこれだけの群衆の叫びを本当に無視するのかよ」
「ああ。間違いなくな」
「ひでえ話じゃねえ?」
「酷過ぎだ。大量虐殺そのものだね。マジでヤバい」
「おっかねえーなあー。マジかよ。政治家も大体帰化人らしいね」
「そうさ。売国奴達だよ。誰も日本なんて守る気はサラサラないんだよ」
「あー!!嫌だ嫌だ。ここまでこの国が腐ってるとは思ってなかったぜ。格好だけ日本で、動かしてるのは実質外国ってことを痛感させられてんなあ。糞ったれの売国奴達、皆投獄させたいよ」
「それが真面な国民の本音じゃないのかねえ。五人に一人が貧困で、自民の裏金議員が捕まることもなく、改憲を目論んでんだぜ。堪んないね。悪が天下を大手を振って歩いてるよ。ナチの台頭だな。まっ、取り敢えずやれることやんないとね」
「だよな。俺動画撮っとこ。で、Xで拡散すんべ」
「俺もだ!!ハンドルネーム、真実を求めロックンロールは、愛や夢や自由を勝ち取ることを決して諦めはしないぜ!!」


「何か凄いことになってんなー!!!」
 理は思わず一言そう独り言を呟いた。
 何気なくXのタイムラインを覗いていた四月十三日の土曜日。知らなかったのだが池袋にてコロナパンデミック条約反対デモが開催していて、物凄い群衆が政府等に意思を伝えていた。
 いきなり遭遇した巨大国民運動であった。
 これは凄い。理は嬉しくなり、そう思った。

 このデモに参加した真実を求めロックンロールというユーザー名の男性らしき人物が、撮影した動画にメッセージを添えてXにて拡散していた。

 凄く沢山人が集まってます!!
 マジ感動!!!
 本日山が動いた。日本人がやっとだが立ち上がったと感じています。ですが大手メディアはスルーで取材しに来ていません。国民の真実を知る権利が奪われています。是非拡散を宜しくお願いします。

 そうポストされていた。
 理はそのポストを見終わるとリポストの表示をタップした。


「お支払いは二千円からで宜しいですか?」
「ええ」
 全国で展開中の大手コンビニチェーン店であるキャピモンことキャピタルモンスターにて、理はレジ打ちの仕事をしながら街の人々の暮らしを垣間見ている。今接客中のヤンママは、どうやらこれから食べる家族の夕食と明日の朝食を揃えに来店したようであった。雇ってもらい売り子をしている身分で言うのも何だが、決して食べることをお勧め出来る品物ばかりではなかった。添加物が山に盛られていて、食品衛生上問題を起こさないように定められた基準なのかもしれないが、殺人的な毒の量で正気の沙汰とは思えなかった。生活の為の労働でなければここで働くのは本当は御免だという思いを、理はずっと拭えないで来た。
 おそらく食への意識は、その人物の精神性の有り様をかなり正確に表しているのかもしれない。
 自分の命を繋ぐ行為であり、生きて行く上で最も基本的欲求を満たす日々訪れる大切な課題だった。そのテーマをどう乗り越えて行くのか。


「ママ!大谷だよ。カッコいい!!」
「あっ!本当ね。力は大人になったら大谷みたいになりたいんでしょ?」
「うん。僕は大谷みたいになるんだ!」
「そっかあー。じゃあ一杯色んな勉強をして偉くならないとね」
 本の棚の女性週刊誌の表紙をド派手に飾る、ホームランを放った大谷翔平の写真に釘付けになる小学校一、二年生くらいに見える少年の姿があった。

 巷の大谷人気は凄い。
 ちょっとした英雄伝となり、大谷は日本人メジャーリーガーとして庶民の希望の星となっていた。
 理のうちの裏からもよく近所の子供達が集まり野球をしている時、大谷になってはしゃいでいる声を聞くことがあった。理自身も子供の頃に覚えがあることで、有名スポーツ選手等に憧れを抱く子供達の気持ちは良く分かった。

「じゃあ、ババが車で待ってるから行こうか」    
 ヤンママがそう息子に声を掛けると、親子連れはコンビニの自動ドアを出て行った。
 店内に客がいなくなり、理は商品の陳列された棚を整理して回った。
 有名ブランドメーカーの駄菓子がズラリと並んでいる棚を仕分けていると、現代について様々なことを思った。
 子供の頃慣れ親しんだロングランヒット商品達もあったが、今のご時世では安心して口に運ぶことが出来ない不審物に様変わりしてしまっていた。
 原材料として遺伝子組み換え使用なんて当たり前になされていて添加物塗れとなり、消費者層にはその危険性に対する意識がない人々が溢れ返っていた。
 そんなこと気に掛けていたら何も食べれなくなる。そんな声があちこちに溢れているようであった。

 だが本当にそれを許して良いものなのだろうか?

 理には危険極まりなく理解し難い消費行動だった。
 政治には無関心であり、食品を生産する企業の不正にも消費者としての目を光らせ監視する気がない。人は権力を握れば、徐々に人間として大切なことを忘れて行くという愚かさを持っている。今の日本人は、政治家や企業人に何をされても、まるで他人事みたいに無関心なまま自ら何も考えようとしない。炎に飛び込む夏の虫の如く、自滅する運命を背負い生きているかのようである。

 実体経済の中、金が常に物を言う社会。
 庶民の消費行動が社会的不正を抑止する力の源であるべき筈であるが…。
 そうはならない現実に、理はこの国の滅亡の危機を感じずにはいられなかった。
 正しき行いをする者は常に少数派であり。それはイエス・キリストの生きていた時代から変わらない。
 街には同調が常に働き、魔女狩りが始まる。
 そして娯楽を与えられては、思考停止の悲しき生き様に拍車が掛かる。
 僕らは今、一体何に自分の生きる権利を丸投げし依存して生きていたのだろうか。
 コンビニ店内で繰り返されて行く日常的消費行動のドラマに、日本人の食や道楽への決して高いとは言えない意識が滲み、理の危惧する思いは深まるばかりであった。


「おっ!ご苦労!」
 店長の早川洋一が従業員室から現れ、棚の品の整理をしていた理に声を掛けた。
「お疲れ様です」
 コクリと頷きながら挨拶する理の脇を、恰幅の良い中年太りした腹を座らせるようにして早川は通路を歩いて行く。店の売上状況に常に鋭い睨みをきかせていて、一瞬の怯みも許さないといった武士の戦の最中を演じているかのような姿だと理は思いながら、店の支配人である早川をチラリと横目で見ていた。
 生産性のない者は社会から振り落とされて行く。
 それがこの国の今の暮らしだったのであろう。自己責任論は鬱社会の代名詞となり、気持ちが休めない人が溢れ返っている。心が死んでしまう前に止める安全装置が鬱であったのだろうか。血液型占いによる所の、周囲の反応を気にする真面目なA型人間の占めるパーセンテージの割合が高い社会である。自分で調整がきかなくなった本音との折り合いを、きっと現代病である鬱が引き受け取り仕切っている。理には何となくそう思えていた。
 巷は鬼のダブルワークで、政府もそれを推進しているように思える。具体的なことは知らない理であったが、ぶっ壊れた労働基準に人権なんてないことは明らかだと思っていた。

「チィーッス!」
 そう言って自動ドアを入って来たのは、商品の配送業者である梅田正弘だった。
 いつものように段取り良く、手推し車に乗せた商品を素早く運び入れて来る。
「お世話になります!」
梅田に挨拶する理。
「チィーッス!」
 梅田が肉体労働者独特の軽さで、挨拶し返して来た。
 細かいことには気を留めず流し、生き延びて行く為に身に付けたような処世術に長けているように理をいつも梅田を見ると思っていた。
 現実主義。
 そう呼べただろうか。
 腰を屈めて棚の商品の陳列の整理をしている理の脇を、梅田の押す手推し車が通過して行く。
 その時有名企業のワインがチラリと理の目に付いた。
 あっ!あれは…。

 理はその瞬間、記者会見にてマイナンバー推進派として庶民にレクチャーしていた、そのワインの販売者である社長のことを思い出した。
 これは日本社会に於いて歴史的に厳守されて来たルールで、国民にはそれを行う義務がある。浮遊者層にいたその男は経団連絡みの仕事を引き受けているのが、明らかに政治絡みのアドバイザー役を任され利用されていたのかもしれない。互いに旨味のある政策であれば、喜んで政治利用されてしまいます。そんな風な意識を感じるようで、理はその社長の会社の商品は不買にすべきだと考えていた。国民を舐めてる。そう思えたからだ。


 その日、深夜のコンビニを利用する客は決して多くはなかった。
 結局移民政策で来日しているらしき外国人達が賑やかに来店し、何だか乱雑に棚を物色するように買い物をして出て行っただけであった。
 彼らには獣的な荒々しき雰囲気があり、テロリストの来日かと思えてならなかった。
 政府は手厚く移民を歓迎していた。
 入国後数日で生活保護の認定を認め、税金で養っていた。日本人への優遇措置は取られず、まるで反日思想である。つまりはここは他国のあじと化が進められているのであり、移民は略奪の為に流し込まれた兵士に他ならないと理は思っていた。
 日本はもはや日本でなくなりつつある。
 東京都の火葬場は他国に買い占められているようであるし、北海道等の土地にしてもそうであるようだ。
 ヤバ過ぎる政治的状況の続く中、国民には事実がまるで伝えられてはなかった。
 現代版の侵略が静かに進行している。

 その夜は三度救急車のサイレンが聞こえて来ていた。
 日本人の謎の大量死。
 謎で何かあるものか!
 あれしかないだろ!

 大量虐殺の為に生まれた生物兵器。
 その真実が一刻も早く拡散され、広く社会に伝わって欲しい。
 理はそのことを強く願っていた。
 遂に始まるレプリコンなるワクチン接種。
 第三の原子爆弾の投下まで、もう大して残された日々はなかった。


 CONVENIENCE STORE LABYRINTH。
 浅はかなる砂漠の迷宮での暮らしに、真の希望の夜明けあれ!!
 理は心の中でそう祈っていた。

 6 幽界の証言

 アルバイトを終えた理は、帰宅後車に乗り込み夜明けの首都高のドライブに出掛けた。
 夜の帷に包まれた街。
 明日は仕事休みなので、このまま寝ずに夜明けを迎えようか。そんなことを考えながらハンドルを握っていた。
 その次の瞬間。
 突然の眩い光に視界が塞がれたかと思うと、ドスンと何かにぶつかったのだか、その後とことは何も覚えてはいない…。


 ここは一体どこなのだろう。
 深い霧に覆われていて視界は塞がれている。

 気が付くと理は白装束の自分の姿に思わずハッとした。
 そして微かに晴れて来た霧に目を凝らす。
 すると静まり返った音の消えた世界で、静々と口を閉ざし沢山の人がそれぞれの向かう世界へと歩いて行くのが分かった。
 ここは俗にいう死後の世界であるようだ。
 理はそう直感した。


 見たことがないようでいて知っている。
 真っ白き世界には神殿のような建物が点在している。
 その建物まで続く道は、標高の高い山に登山した際歩く雲の上の道のようだ。
 理と同じように白装束に身を包んだ人々は、死するまでの人生を回想させられ審判を受けた後なのだろうか。
 既に行き先が確定されていて、それぞれの魂の学びに適した世界へと続く入り口になる建物へと吸い寄せられ歩いているように思えた。

 自分はまだ死ぬ気なんてなかったのに…。
 そう理は心の焦りを急に抱き出した。
 まだ沢山やらなくてはならなかった筈のことがある。
 自分の背負って来た罪と、その罪から解き放たれるまでの懺悔について一瞬にして理解するような意識の覚醒が起きた。
 そうだった。
 生まれる前に果たすと誓った人生の約束。
 まだ道半ばにあり、いよいよこれからという所だった。

 神様、もし許されるならば生き返らせてはもらえませんか?

 理は心の中でそう祈った。
 だが魂の世界では厳正な審判が下され、どんなに抗おうが人の意思等では変更されることなき神の法が働いている。
 そのことについても思い出していて、良く分かっていた。


 その時不意に、ダイアモンドプリンス号が見えた。
 ワイドショーでは、武漢肺炎なる新型肺炎についての情報が流されている。
 数年前の冬のある日の出来事だ。
 政府は感染症に対する水際対策の初動の遅れを批判されている。

 暮らしは移ろい、マスクや手洗いうがい、三密を避けたコロナ自粛生活が始まる。
 ホームステイ。在宅ワーク。リモート学習。
 消毒薬を手に擦り込みながら、社会的機関を利用する人々の姿が映し出されている。
 悲しき人気コメディアンの訃報のニュースがあり、分断と助け合いとの二極化が進行しているかのようであった。

 嘘か本当か、実しやかなコロナワールドを彷徨う人々。
 やがてコロナワクチンの集団接種が始まる。


 人々は政府の煽動を信じていた。
 御用学者がテレビ番組に出演して、ワクチン接種へと国民を誘う。厚労省は嘘をついている。理には直ぐにピンと来た。
 騙されて行く国民は、ある種宗教信者であるかのようだ。
 理は政府の偽善性に惑わされることはなかった。


 意識の留まる次元が現実よりも高ければ、社会的偽善は意識圧の隔たりにより障害となり心は跳ね返って同調に呑み込まれることはない。
 だが多くの国民が同調圧力に屈し、楽な方の道を選択している。

 その選択は誤りだ!!

 理はまるで第二次世界大戦中の神風信仰を見る思いで、人々の生き様に心の中で悔い改めるようメッセージを発していた。
 だが混乱の中では誰にも小さな心の叫び等は届かないみたいだった。
 旧ツイッター等SNSを利用し自分の思いを社会に伝えようとしたが、まるで焼け石に水だった。無名の自分の発信する情報等キャッチしてくれる人はいないようであった。
 どうでもいいような娯楽や俗っぽい話題には直ぐに関心が集まり、情報が拡散されて行く…。
 日常を覆う同調と反ワク潰し。
 魔女狩りの街では、真実は誤情報であり陰謀論であるとの酷い扱いを受けていた。
 社会の根深きいじめ構造が剥き出しとなる。

 つまりこれが戦争か。
 理はそう思った。
 国が自決を迫れば、沖縄戦で防空壕内にて集団自決をした国民性である。
 その精神は、現代にもまだ根はなくならず受け継がれていたのだろう。敗北の美学であろうか。だが武士道の示して来た美学とは違っている。これは敵による擦り込みに違いない。諦めの中での生きる権利の放棄であるかのようだ。美化され語られるべきではないだろう。

 コロナワクチンは生物兵器であり、後遺症という名の効能が発揮されて行くであろうことを理は始めから予見していた。
 大量虐殺の目的によるものであると。
 コロナは真っ赤な嘘であり、実際にはワクチンによる人体の免疫システムを破壊して皆殺しにするフォロコーストである。
 ナチの果たされなかった野望の復活祭の始まりだ。
 だがその真実を伝えても誰も信じない。
 陰謀論だと排除するように、始めから感情と思考のプログラミングを受けている。
 それが正しく真面な人間のする判断であると、洗脳されてしまっていた。
 カルト教団を人々は嘲笑うかもしれない。
 だが実は国家そのものもカルト教団みたいなもので、自分がその信者である等とは人は決して思わない。
 羞恥心や罪悪感を司る観念の言葉により、巧みに呪いの洗脳を受けて育った人々。
 カースト制度を成す条件反射運動の果てしなき大スペクタルが、人類史を延々と展開して行く。終わりなき輪廻の旅。罪の発生と因果の刈り取り。肉体次元での学びをリピート再生させる、人間社会の恩着せがましき災いの種が人の心に植え込まれている。


 緊急事態条項を持ち出す政府。
 政権の目指す本丸が現る。
 独裁政権の誕生と、デジタル監視社会の確立。
 大手を掛けられた民衆。
 奴隷社会に落ちぶれて行くか、愛と調和の次元に至るかの瀬戸際にあった。
 独裁者達は、次のレプリコンでトドメを打つ気だ。
 偽善者達である奴らの言うこと等一切信じるな!!
 日本は治験大国にさせられ掛けていて、イエローモンキーと蔑まれている。
 人体実験動物扱いだ。
 そして第三の原子爆弾であるレプリコンの生贄として捧げられて行く。
 分かるか?

 ワクチンなんて概念自体が相当に狂っているんだ。
 信じ難いかもしれないが。
 教育を捨てよ。
 盲信した常識から解き放たれよ。
 良い意味でキチガイであれ。
 君の自らの考えを聞かせて欲しい。
 教えられて来た言葉ではなく、本当に感じている気持ちを話して欲しい。


 そう思った時だった。
 理は搬送された病院のベッドの上で、静かに意識を取り戻し目覚めた。


「気が付いたね」
 白衣を纏ったドクターは、理の顔を覗き込みながら声を掛けた。
「あっ!はい…」
「自分の名前は言えるかな?」
「桜木理ですが、ここは?…」
 理は部屋の照明の眩しさに目を細めながらそう言った。
「ああ。ここかい。ここは国立病院で、私は君の担当医の増田だよ」
 増田圭介はそう言うと白衣の胸のネームプレートを見せた。
「病院…、ですか」
「ああ、そうだ」
 担当医の増田だと名乗る人が、自分の容態を伺っている。確か首都高に乗り…。ああ、そうか!!あの時、対向車のベッドライトであったのか、突然眩き光に視界を奪われて、それでたぶん中央分離帯に…。
「君は首都高の中央分離帯に接触する事故を起こしていてね…」
 増田が理の推測通りである事故について語り出した。

「刑事さんがお見えになっていたが、帰ってもらったよ。調書を取るのはまた後日改めということになっている。たぶん君の運転には何も落ち度はなかったとの現場検証による判定が下されるだろうと、やって来ていた刑事さんが言っていたよ」
「はあ…。そうなんですね。それを聞いてホッとしました」
 理が本音を口にした。
「それから君の事故後の容態についてだが、運良く擦り傷一つなく無事だったようだ。だだ頭部を強打はしていて、頭蓋骨に若干ヒビが入っているのをレントゲン撮影により確認はしたが、さして問題のないレベルだったよ。刑事さんが君の事故を知らせる身内がいるか免許証から調べたが、家族はいないことが分かった。そんなこんなで今に至っているよ。時刻は間もなく朝の十時だ」
 理の遭遇した事故について大まかなことを本人に伝えた増田は、白衣の袖を少し捲り腕時計で現在時間を調べて理に伝えた。
「十時ですか…」
「ああ。この分なら今日の午後にはもう退院出来るだろう」
「そうですか。それを聞いて安心しました」
 増田がコクリコクリと頷いた。


 僕はまだ…、死ぬ訳にはいかない。
 この世でまだ何かを果たさなくてはならない使命が…、きっとある。
 理は天国の扉を開け魂の世界に一旦帰り掛けるという経験をしたことにより、自分の生まれて来た訳を何となくだか思い出したような気持ちになっていた。

 7 FLAT EARTHの世界線

 地球を果てしなく広がる無限の銀河に浮かべ、神様が望遠鏡で覗いて見ている。


 人類存続の危機を伝える世紀のコロナパンデミック。
 大統領要請のロックダウンを受け入れるべきなのか。様々な正義が入り混じり、世界が激震する。

 パンデミック百年周期説は、一体何を物語っているのかテレビは語らない。
 一七二〇年、ペスト。一八二〇年、コレラ。一九二〇年、スペイン風邪。二〇二〇年、新型コロナ。一人一人の情報との関わり方が問われていたのであろう。
 コロナパンデミックは、海外の情報を調べれば人為的感染であったという事実が明かされていた。それでも尚情報封鎖する政府。偽情報として取り締まり、言論弾圧が始まっていた。

 あっと驚きの嘘ばかりの進化説についても、もう隠しようがなくなっていた。
 フラットアース説が出回り、世界の常識とされていたことが覆されて行くようである。
 あの有名な発明家であるアルバート・アインシュタインは、大人になるまでに覚えた常識が如何に非常識であるかを解いていたがその通りであったのだろう。
 某有名ファーストフードチェーン店のハンバーガーの肉が、様々な動物の肉が入れられている等といった以前から囁かれていた情報が徐々に証明される形で明るみになって行く。
 利権塗れの医療業界とワクチン産業。
 ワクチン接種後に拡大した感染症の歴史があった。
 つまり人為的パンデミックが繰り返されて来たという結論しか残らなくなる。
 エイズは人が作り出した人工的病だと暴かれていて、コロナワクチン後遺症はエイズだとバレてしまっている。

 衣食住。
 様々な環境がトータルで破壊されて行く。
 全ては予定通りであるかのように。

 理は首都高での事故後、使命感に燃え日本に襲い掛かかって来る災いを注視し、より良い社会の実現に対して以前よりも強い意志を持ち自分に出来ることを実践しようとしていた。
 そんな中、壊滅的な日本の様々な現状が加速度を上げるように浮上し続ける日常を感じていた。


 理はいつものように、Xにてポストを流し読みして行く。
 するとこんなポストが目に留まった。

 韓国のソウル市の調査にて確認されたもので、浮き輪からは基準値の218.5倍、ビーチボールからは148倍の発がん性物質が検出されたとのことだった。
 本体だけではなく、空気の注入口からも確認されたという。
 このニュースには何か人為的な目論見が働いているのかと、理は考えていた。
 

 大手食品会社が食糧危機に備えバイオ技術が導入されて行く。
 粉末ワクチンが製造され、商品への混入が疑われていた。製造するとは、つまり使用することを目的としていたことは明らかだったのだろう。日本人のワクチンに対する洗脳が流石に解け出して来ていて、一気に別の作戦に変更しての大量虐殺が実行されて行くようにしか思えない社会的な動きが急速に目立ち始めていた。夏場は暑くてアイスクリームを口にする人は多いのではないかと思われるが、今年の夏はレブリコーンかもとの夏場に向け製造され売り出される商品への忠告がさなれていた。
 お酒、漬物、梅干、紅麹、納豆と食品の危険が指摘されていた。
 普通に考えて体に良さそうな物ばかりであった。
 そして焼き過ぎたら焦げた部分を食べるのは危険であると、農林水産省による発表がなされているようだった。
 きな臭いニュースだと理は思った。
 如何にもコロワクにとって解毒化が進む食品ばかりのようであった。体内に入ったコロワクの解毒の為に、キーを握っていたのは発酵食品のようであった。

 いじめに遭っていた優良企業であったであろう老舗の小林製薬は、遂に外国により乗っ取られてしまい潰されてしまった。
 日本社会のエゲツない闇が露呈していると理は嘆いていた。
 戦後GHQによる言葉の魔女狩りが行われた時と同じである。
 優れた和食の文化が魔女狩りに遭っていたのであろうと思われる。日本人の潜在能力を発揮させる物全てが、支配者層にいた人間達にはきっと憎かったのだ。
 良いものを徹底的に潰す。
 日本人が日本人としては生きて行けぬよう、弾圧して行く。そういったことが行われていたに違いない。和食の文化が奪われて行く。日本人よ、気付け!!理は心の中でそう叫んでいた。


 日本に移民が流れ込み、本国に戻れば生きて行けないと、日本人に自らの生活の負担を泣き脅し的に仕掛けて来る。
 来日後、数日で生活保護を取得。
 貧困で食うに食えない日本人は、門前払いの行政の姿があった。
 明らかなる移民による侵略キャンペーンであったのだろう。
 移民達は日本の景観の美しき河川等でBBQをし、辺りを食い散らかしていた。
 交通ルールは守らず危険運転は日常的で、移民にレンタカーを貸し出す会社も責任問題に問われるのかもしれない。
 トラックへの荷物の積載量や高さの基準は守られず、建造物をなぎ倒し破壊し、荷物を載せ過ぎたトラックはバランスを崩し横転する事故を起こしていた。

 土産物屋の団子を食べ、不味いと言い買わない中国人。
 買う前に棚の商品を勝手に開封してしまう外国人。店の対応が気に入らないと暴れ出す外国人。奈良公園の鹿に乗り、乱暴を働く中国人。
 民族が違う者達の日本への流入は、こんなにも日常を破壊的にしてしまうものなのかと理は驚きながらニュースを見ていた。街通りにはかつてのような安全が消え去って行っていた。強盗、殺人、レイプ。移民達のし出かすことは、目に余るものがあるようで、犯罪の温床と化しているようだった。
 政府は移民による侵略を推進する立場だったのだろう。
 口先で言っていることは嘘であり、やっていることを見ればそういうことになると理は思った。犬HKも警察も役には立ってくれない。売国奴達の巣窟であったのだろう。
 中国人女性が子供を産めば、日本人が税金から生活を負担させされていた。
 筋違いな日本人いじめとしか取れないような、可笑しなことが山のようにあった。
 日本人の民族浄化が進んでいる。
 現実に起こっていることが、無言でそれを伝えていると理は思っていた。

 新貨幣が発行され出回り出す。
 移民が理解出来るようにと、お札の金額の表記が変更されたとの情報を理はXのポストで見掛けていた。そのポストをした同じユーザーによるポストであるが、新紙幣にも新しい暗号や隠れメッセージが載っていて、全てはDSロスチャイルドによる策略との指摘がなされていた。

 自らをコロワクの運び屋だと言った河野太郎大臣は、Xではデマ太郎と揶揄されていた。
 以前はコロワクで問題が起きれば責任を取ると言っていたようだったが、実際に問題が起きれば詭弁を使い自分には責任はないと逃げているようだった。口先でコロワクは安全だと言っておいて、やっていることを見ると犯罪者だと理は思った。コロワク推進派は、確信犯的要素が強いならば厳正に取り締まるべきであろう。犯罪を容認はしないと国民の意思を示さなくては、どこまでもつけ上がるだろうと理は考えていた。コロワク推進について、今の日本社会の有り様はもうこれは大犯罪でしかないと理はそう思っていた。

 宮崎県のえびのにある高校では、学生の九割が中国人留学生で体育館らしき場所で起立し君が代ではなく中国国家を歌い、校長は中国語で挨拶をする。一六七人中日本人は十六人だけとのことだった。中国人留学生達の勢いのありそうな雰囲気の脇で、小さく息を潜めて固まっているように見えてしまった少数に留まる日本人学生が折りたたみ椅子に座っているようだった。日本を外国人が占拠し、どんどんと売られて行く日常。様々な日常の不穏な動きに危機感を持たない多数派の人々。早急に手を打たなければ、手遅れ寸前だと理は思った。

 長崎大学で子宮頸がんHPVワクチンを全校生徒の女子学生対象に無料集団接種が開始されていた。
 副作用が報告され社会の闇で人が利権争い等の餌食にされていたのだろう。若き者達の人生が奪われて行く。医療倫理等働いていないワクチン産業による、ワクチンという名の兵器による爆撃と評するに相応しき光景であった。

 都議会のヤバい映像が流れる。
 女帝小池百合子の本性を垣間見たと思えるような、背筋の凍る独裁体制が既に完成されていた。
 都知事に詰め寄る議員。
 質問に返答しない都知事がニヤリとほくそ笑む。都知事にものを言った男性議員は、多数決で締め出しを食らう。日本の政府もテレビ等のメディアも外国に乗っ取られていた。腐敗した政治を終わらせなければ。
 善良な民衆の無関心による沈黙こそがファシズムだ。心の中にいるヒトラーを殺す為に、僕らは今立ち上がらなくてはならない。


 そんな日本の良さが潰されて行くようなニュースが流れる日々の暮らしが続く中で、明るいニュースもあった。

 ある日都内の駅で、ホームと電車の十センチほどの隙間に落ちてしまった女性を救出する為に、その場に居合わせた人々が電車の車体を押し傾けて一致団結するというリハーサルもない結束をぶっつけ本番で成立させているポストを理は見掛けていた。
 おそらくはこれこそが、世界の国々には余りないのかもしれない日本人の稀な結束力の高さであり、分け合い助け合うという優れた精神性だったのかもしれない。日本にいれば当たり前のことのように感じたりもするが、移民が増えてからは特に当たり前ではなかったのだなと理は強く感じるようになっていた。
 戦後GHQが日本人に対して恐れていたのは、たぶんこれだ。
 理は何だかピンと来るような思いがした。

 日本の未来に栄光よあれ!!
 弥栄!!

 理は心の中で素晴らしき駅での救出劇に感嘆の思いが溢れ、心の中でそう声を挙げた。


 日本列島の地形は、世界地図の各大陸の縮図であると言われていた。
 これは日本は世界の雛形であるとの説についての話である。


 実際に日本列島には、世界の各大陸が相似形で詰め込まれていた。
 世界にある大陸の形を地図で見ながら確認すれば、おそらく誰にでも分かるのではないかと思われる。
 そして対応する地域は、それぞれの国々の気候や風土や文化的営み等ありゆるものに不思議と通じていた。

 日本列島は体の各臓器に対応して考えると、心臓に当たった。
 小さいが肉体を動かす原動力であるポンプである。
 日本は国土面積の狭い割に、緯度の関係上と外国ではとても広範囲に渡り栽培されている農作物を生産することが出来た。
 四季の移ろいがあり、人間的な情緒を育む上でも非常に恵まれた環境と言えたのではないだろうか。喜怒哀楽を季節が表しているかのようである。

 資源は国民そのものであると言われていた。
 人である。
 心臓という臓器に対応した国で、人が表すものは血液に相当するだろうか。
 おそらく日本人が多彩な四季の移ろいの中で、単一民族として長い時間を掛け育んで来た知性や感性等の各栄養素が、世界中に広がることでこの世界の恒久平和が実現するのではないかとの仮説を理は立てていた。
 つまりは日本的文化の発信が、世界を生かし救うというシナリオである。

 だがDSサイドは、その人類の資産を根こそぎ絶やそうとしているようであった。
 敵視している者達、つまりはDSサイドをも救う資産であるかもしれぬものを放棄していたのかもしれない。

 人間は非常に愚かな側面を持っている。
 今だけ金だけ自分だけとなり、本当に大切なことが見えなくなってしまう。
 悪魔すら神の化身である。
 悪魔崇拝者達はその事実を忘れてしまっていたのかもしれない。
 深き闇の中でこの世に神などはいないと絶望し、最後の希望の砦として理想をディストピアとして描き上げたのかもしれない。
 だがこれはおそらく上手くは行かない。
 核分裂組織細胞であるかのようなディストピアには、初めから未来永劫の繁栄は望めなかったのかもしれない。

 世界を一つにしてしまう恐れのあった日本人の資質。
 これを忌み嫌う支配者達がいたのではないだろうか。ディストピアの繁栄を崩す危険因子として、日本人は長い歴史の中でマークされ愚民政策により骨抜きにされて来たのだろうと思われる。

 血管に注射器の針をぶち込み、白い謎の血液を流し込んで免疫系等を破壊しエイズに仕立て上げる。
 大量の添加物に塗れた食品やゲノム編成食品を流通させて食の安全を奪い、大量の移民を流し込み文化を破壊して、日本人が二度と経済大国を築かぬよう民族浄化してしまう。支配者達によるそのようなシナリオが用意されていたであろうことは、もう隠しようがなかったのではないだろうか。日本の科学テクノロジーについての情報が盗まれるという事態も起きていたようであった。

 血液を失った体をどのように維持し続けるというのだろう。
 代用品に賄える生命維持の効力には、おそらく限界がある。神が作った血液に及ぶ代物はなしであろう。幾らAIを悲しきロボットのように従えど、自然の摂理に背いた悪魔の帝国には未来などは決してないのだろうと思われる。
 理はそのことの意味を悪魔崇拝者達が理解すれば幸せになって行けるかもしれないのにと、いらぬお節介な思いを時に抱くことがあった。
 世の中余りにも根暗過ぎて。
 もう誰も愛や正義を、本当には信じてはいないかのように思えてしまっていた。
 もっと伸びやかで自由で、楽しき明るい未来がきっとある。
 理はそう信じて止まなかった。

 ちなみに世界の大陸を日本列島に当て嵌めて説明すると、このようになるらしかった。
 北から西へと順に紹介してみる。

 北海道はアメリカ。
 東北はロシア。
 関東は中国。
 静岡より西になるのか、インドとアラビア半島がある。
 西日本はヨーロッパ。
 スカンジナビア半島、英国と並び、そして四国はオーストラリア。
 九州はアフリカと、世界の国々に対応して考えられるようであった。

 全てが相似形となっている、この世界の不思議である。
 神が創造したとしか言いようがなかったのかもしれない。


 まるで毎日はハリウッド映画のジム・キャリーのトゥルーマンショーのようでもある。
 神様は宇宙から望遠鏡を覗き込み、人類一人一人の人生をトゥルーマンショーのように観ているかのようだ。
 割り当てられた配役。
 真実を知らされないままに、偽物の人生に生かされているトゥルーマン。

 タレントや政治家や沢山の著名人がゴムマスクを被り、偽物が代役を演じていた。
 そんなペテン等は当たり前で、ルールなんてあるようでいてない。
 若返りのアドレノクロムに、児童の人身売買。地下帝国の存在や、悪魔儀式の生贄として子供達が誘拐され殺されているという情報が伝えられていた。以前からあった情報であったが、もう既に一般大衆の目にも日常的に触れ易いくらい表立ち隠し切れなくなって来ているようであった。

 食の安全はなくゲドム操作が行われ、食卓には毒物が混入されたご馳走が並ぶ。
 空からはケムトレイルが散布され、人口削減計画が進行する。
 水道局が外資系企業に売り飛ばされ、命の源である水が人質に取られて行く。
 日本は特に酷い。
 第二次世界大戦の敗戦国に主権はなく、今や世界の使用済み核廃棄物の最終処分場であり、またワクチンの治験大国へと陥れられていた。

 それでも民衆は、まだ政府を性善説的に信じようとしているようであった。
 広島長崎に次いでの兵器の治験が、またしても繰り返されようとしていた。これは日本の背負った運命なのか。人々の多くはまだ気付かない。

 ある日誰かが救済してくれる等ということはもうない。
 日米安全保障条約により生温い平和を享受し、侵略もなく甘ったれて生きて来た。GHQによる戦後の愚民政策は見事に完了し、もう誰も飛び跳ねもしないノミのようになっていた。
 ノミはコップに入れられて逃げようと飛び跳ねるが、天井の蓋に跳ね返る度、やがて跳ぶことをしなくなる。人間もそれと同じなのだろう。もう誰も自ら進んで物事を自分で考え、正しいと思う方へ人生の道のりを歩き出そうとはしない。ただ行儀良く躾られた家畜のように、資本主義社会の牧草地帯に設けられた檻の中で静かに身を寄せ合って生きている。いい子だいい子だよと言われ飼い慣らされてしまっている。

 理は正直、もう日本は駄目かと思っていた。
 国なんてあってないに等しい。
 政府の政策を後押しするタレントの発言が目立つ。
 その中に人気番組であるゴールラに出演中のケイシーの姿もあった。陰謀論を信じている人間は今の人生が辛過ぎるからだとの持論があるのが、攻撃的で排除の意識を発言に滲ませていた。理はこれは明らかにDSサイド加担の表明だと思った。

 そんなある日、ケイシーが人気タレントの死を前もって予知する発言をしていた過去の話題がXにてポストされていた。
 数年前のことになるが、若き俳優であった当時二十六歳の早乙女紀州が謎めいた突然死を遂げたことが世間の話題に上り様々な憶測を生んでいた。その死に纏わる話であった。
 早乙女は当時二十六歳で、特別持病もなく元気一杯の爽やかな好青年であったとポストで伝えられていた。
 理は早乙女について名前すら何も知らなかった。早乙女が突然死したことについても知らなかった理だが、芸能人の謎めいた突然死は今に始まったことではなかったのである程度その本当の死因は別にある案件なのだろうなと思い、おそらくは何か裏があり他殺であるのではないかと疑っていた。どうやら正解であるようだった。

 ケイシーの映る写真のビールの注がれたグラスに囲いマークが添えられていて、そこには亡くなった早乙女の左目が薄っすらと浮かび上がっていた。
 悪魔崇拝者達は、敢えて黙示録を世界に示すことを儀式として行っているようだった。ケイシーはDSお抱えタレントであることが明かされていた。芸能界にて出世するには、カルト教団に入ったりDSに忠誠を誓うことが多くの場合必要なようであった。

 理が兼ねてから感じていたケイシーのやたら腹の座ったような雰囲気や、また理知的に思えるようなキレのあるトークが生まれていた源泉に当たる情報にどうやら出会しているようであった。
 話を聞いているだけでも悪寒の走るような芸能界の闇は、余りにも深いようであった。
 結局自民党は統一教会であると言われていたし、創価学会が力を持ち芸能界を動かしているといった話がネット時代になり巷に溢れ返るようになっていた。政界や芸能界に於けるカルト教団の反乱。歯向かえば殺され兼ねない。そんな世界での話であったようである。


 ある日理はこんなポストを目にした。

 日本のメディアが、日本企業だと思っている方がおられるようです。
 と始まり、
 日本のメディアの親企業は、日本企業ではないとのことであった。
 更に、韓国企業(一部中国企業)であり、その背後にいるのはグローバルDSであるロスチャイルドとロックフェラー、そして日本DSである創●学会です。
 とのことだった。

 朝日新聞、東亜日報。産経新聞社、京郷新聞。読売新聞社、韓国日報。毎日新聞、朝鮮日報。時事通信社、中央日報。共同通信社、聯合ニュース。NHK、中国中央電視台並びに韓国放送公社。TBSテレビ、韓国聯合TVNEWS。フジテレビ、韓国文化放送。日本テレビ、韓国SBS。

 との情報が記載されていた。
 日本を本気で潰したい隣国がいたとしたならば…。
 メディアとは何かについて、その正体を各々が知ろうとしなくてはもはや生き延びることの許されぬような時代であったのだろう。
 新聞社やテレビ局側に悪意があるとすれば、人が良く従順で信じ易いであろうと思われる日本人に偽情報を与え、簡単に洗脳して騙し意のままに操ることさえ可能というメディアの状況があったものと思われる。


 政治家の殆どが帰化人であり、売国奴であった。
 帰化人でないと市長にはなれないという約束事があるらしかった。そんなこととは大抵の日本人は、おそらくはたぶん知らなかったのかもしれない。
 芸能人やプロ野球選手にも帰化人が多く、社会構造上出世し社会の表舞台で活躍するには、どうやら条件として日本社会を事実上支配していた国をルーツとして持つ外国人である必要があったようである。

 コロナワクチン後遺症や突然死が多い世の中では、何故副反応のデータに基づき危険を回避することなく政府はコロナワクチン接種の推進を続けるのかと、いまだに国民の多くが首を捻っているようであった。
 この時点で相当に人が良過ぎると理は思っていた。
 悲しいが疑いたくはなくても、現実を直視して答えを出さなくてはならなかった。
 世の中とってもダークであったに違いない。
 だから殺したいんだよ。

 それがたぶん答えに違いないと理は思っていた。
 正常性バイアスが日常に混乱をきたさぬよう働き続ける街。
 誰もがきっと、人生の中で教えられ覚えて来たことに裏切られたくはなかったのだろう。
 だが過ちを認めることからしか、もう希望のあすに繋がる道を歩むことは許されない。
 そのことをどうか分かって欲しい。
 理は祈っていた。


 五月三十一日の大手メディアからは大して報道されることのなかった、日比谷での国民運動としてのデモ集会。
 その後直ぐにWHOのコロナパンデミック条約は暗礁に乗り上げたが、たちまち強行に成立させて行った。
 イカサマだらけの世界。
 自分から情報を取らぬ者は、もうこの先の世界では生き延びることが許されないという状況になっている様子であった。
 正しい情報を教えられなかったという主張は、実効支配を進める詐欺師達には通用しない。

 七月に入ると都知事選があった。
 小池百合子が再選を果たす。
 どう考えてみても民意にそぐわぬ選挙結果に、不正選挙を疑う声が溢れていた。
 ムサシによる表の改ざん等怪しまれていたが、法による取り締まりはなく、公職選挙法の違反が大手を振り街中を闊歩するような民主主義の廃れた現実があったのであろうと思われる。
  自民党が徐々に独裁政権を誕生させて行く。
 自民党とは統一教会であると伝えられていた。
 
 何年も前の話のようだったが、選挙の開票の現場に立ち入った石丸勝子議員が不正選挙を明かしていた。
 同じ文字で候補者名が書かれていて、完全にイカサマが行われていることに対し石丸議員は詰め寄る。
 そんな出来事があった後、不可解な死を遂げていた。
 もう何も語る必要はなかった。
 つまり消された…、ようであった。


 シークレットサービスの男は、マシンガンを構え標的である犯人を捉えてその身をぶち抜いた。
 その時世界は震撼していたのであろう。


 Xのタイムラインを見ていた理に衝撃のニュースが飛び込んで来た。
 アメリカのレオナルド・トランプ氏の暗殺を目論む人物がマシンガンで銃撃したらしい。
 その際の動画が流れている。
 聴衆の前に立ち演説をしていたトランプ氏は、一瞬首を捻り頭の向きを変えた。
 その時、犯人はマシンガンを撃つ。
 レイコンマ数秒の永遠なるドラマであろうか。
 トランプは紙一重で頭の向きを元に戻し、弾丸を避けた。
 とされている。
 が真実はどうか誰にも分からないようであった。
 全ては劇であるとの見方もあった。


 トランプやプーチンといえばメディアからダークなイメージを刷り込まれていたが、支配者達にとって不都合な人物であったのだろう。
 本当に世界はあべこべである。

 トランプは暗殺未遂として難を脱したが、あの時古き友達である今は亡き安倍晋三の声が聞こえた気がしたようだった。
 安倍元首相はトランプと同じように暗殺に遭い、彼は命を奪われたとされていた。トランプと友情を育んでいたらしき安倍元首相は、あの世からこちらの世界の出来事を伺っていたのだろうか。
 トランプは、古き友達である安倍元首相の声のした方へ顔を向けた。
 それが結果弾丸を交わす動きに繋がったようであった。Xでは随分その話題が出回っていたようだった。安倍元首相を襲撃した犯人と、トランプを襲撃した犯人は同じ服装であったとのことだった。暗号化されたメッセージがあったものとしか思えない、二人の犯人の服装の一致であった。

 シンプソンズの予言というものがあり、トランプの暗殺を予言していたが未来は別のシナリオに書き換えられて行った。
 シンプソンズは、DSサイドの計画を告げる役割を果たしていたものと思われる。日本のケイシーにも重なる役所であったのだろうか。だがDSサイドの思惑通りには事は運ばない。そんな現実の出来事が起きて来ていた。
 トランプは、暗殺未遂事件に遭った翌日にはゴルフを楽しむという圧倒的な精神的タフさを見せつけていた。どこまでが本当のことかは分からないが、表面上そう見える状況があった。


 そんなこんなでドタバタの世界が回る。
 トランプが暗殺される事態を免れたことにより、世界線が変わり始めたとの見方をするXユーザー達か存在していた。
 理にしてもそう思えていた。
 デジタル監視社会の奴隷にされる未来しかもうないのかと思われるような生活の中で、もしやまだ残された希望の未来が訪れる可能性があるのかもしれない。トランプが生き延びたということが、その希望の象徴ではなかろうか。何にせよディープステートなる人々は、滅びて行く運命にあると確定したのだろうなと感じていた。後は悪足掻きがどれだけ続くかという違いがあるくらいなのかもしれない。


 理が感じているような世界観について、幾ら伝えようと伝わらない人にはどうやっても伝わらなかったのだろうと思われる。

 これはそれぞれの意識による現実の捉え方に関係しているようだった。
 おそらくそれぞれの意識により、現実をスキャンした上での答えは全て正しい。ただ三次元的意識の限界を通過しない場合、淘汰され肉体次元での死を迎えるという因果は作用するのではないかと理は考えていた。それが聖書に記されたノアの箱舟の物語で、僅かなパーセンテージの人々しか生き延びれないという意味に通じていたのかもしれない。

 こういった話はともすればカルト扱いとなる場合が多いように思われるが、実は人類がまだ到達していないであろう科学の話だと理は考えていた。
 波動学が進歩していたが、宇宙法則による作用反作用の原理が徐々に明かされていたのだろう。同じ現実を目の当たりにしたとしても、個々人の意識の隔たりにより別々の階層へと現実は枝分かれし体験する未来が変わって行くものと思われる。因果法則であろう。
 IQが隔たると会話が通じなくなると科学が伝えていた。
 それぞれが違う階層にある現実を見ているからなのかもしれない。物質的現実は一つであれど、幾重にも分かれた階層がおそらく存在していて、どの階層に意識をフォーカスさせるかで体験して行く事柄が分岐して行くものと思われる。

 他者を支配するという社会システムの構造の中で、分かち合い分け合う生き延び方を実践する者だけが生き残るというような時代の過渡期に差し掛かっていたのかもしれない。


 フラットアース説が浮上した世界。
 パラレルワールドと呼ばれている世界は、確かに存在するのかもしれない。
 トランプが暗殺されることを逃れたように、レイコンマ何秒の世界の狭間でたった数センチの違いを生みマシンガンの弾丸を避けるといった運命のシナリオが、意識のフォーカスの仕方により毎瞬毎瞬枝分かれしながら無限に生み出されているかのようであった。

 8 アンダンテの終止符

 若き日にこの街に住み着いた頃、歌声喫茶として繁盛していたG7は、今は先代の意思を引き継ぎ二代目がお洒落な飲み屋を経営している。


 この店に悦子はちょっとした自慢のエピソードがあった。
 先代から譲り受け二台目が経営するG7。
 名前は今も変わらない。
 外観や内装はリフォームされ、当時の面影はもう余り残ってはいなかった。現代風にアレンジされ客受け良くするのは自然な成り行きなのかもしれない。

 悦子の自慢のエピソードについてだが、何とあの歌手の坂本九と作詞家の永六輔にこの店主催のオフレコにて直接会ったことがあり、人生の財産となっていた。
 坂本九は、バンドをバックにヒット曲を聴かせるミニライブを開催してくれていた。
 永六輔はというと、あの全米で大ヒットしたスキヤキこと上を向いて歩こうの歌詞誕生秘話を話した。学生運動にて命を落とした学生運動家の樺美智子を思い、どうやらレクイエムとしての意味が込められていたようだった。
 日米安全保障条約に反対する学生達。
 あの頃まだ日本の若者達には、政治的思想がありイデオロギー闘争があった。
 悦子は地元の広島大学を出た後、青春の逃避行で東京に出て来ていた。ひょんなことから知り合いに頼まれた物書きの仕事を引き受け、後に本業の作家にまでなってしまう。
 広大では三年の時ジグザグデモを経験していた。
 大学の机や椅子を積み上げ、バリケードを作る学生達。
 歌手坂本九とは二学年違いで、自分が年上だったのではないかと悦子は記憶していた。
 ほぼ同世代であり、親しみを感じる九ちゃんこと坂本九のことが好きだった。懐かしき思い出である。

 そんな思い出を懐かしみながら、悦子はG7を横目にしながら歩いて行く。
 そしてふと気付けば路地裏から姿を現したらしき、野良猫の後を静かに尾行する。
 何だかこの街に来たばかりのあの頃の自分の姿に似ていて、おっかなビックリしながらの心許ない野良猫の足取りにシンパシーを覚えてしまう。


 突然、少し先にある踏切の警報音が鳴り出した。
 ポールが下ろされ、踏切内は無人と化す。電車のやって来る音がする。野良猫が魚屋の前を通り過ぎながら、舌舐めずりをしている。電車が走り去り、ドップラー効果に酔う。
 街の風景はだいぶ移ろい様変わりし、あの頃から随分時間が流れ去ったけれど、気持ちはまだまだ二、三十代のままだと悦子はそう思った。
 身動きの取り易いカジュアルな衣装を身に纏い、麦わら帽子を被っている。悦子は近くの自然が残る風景に出会いたいと思い立ち、晴天に恵まれた街を散歩し目的地を目指していた。


 向日葵畑の空は果てしなく高く青く、夏の太陽が輝いている。
 雑木林を越えて辿り着いたこの場所は、都内にしては珍しくカントリー調のブルースが似合いそうな風景が望めた。
 悦子は可愛らしき草花にスマホのカメラを向ける。
 シャッターを切り、撮影した写真の仕上がりに小さな微笑みを浮かべる。細やかなる幸せを感じて深呼吸をする。


 悦子はXを開き撮り立てのフォトにメッセージを素早く入力して行く。

 今日はお日柄も良く、執筆の仕事は早々に切り上げて近所に散歩に来ています。
 皆様、如何お過ごしでしょうか。
 どうぞ良い一日をお過ごし下さい。

 散歩道にて。

 文字を入力し終わった悦子は、ポストの表示をタップした。


 夜勤明けの理は目覚めると、直ぐにスマホを手にXを開きタイムラインをチェックしていた。
 すると悦子のポストを見つけた。
 3分前と表示されている。
 写真が一枚添えられていて、名前の知らない小さな草花が写っていた。
 先日読んだばかりの飯炊き紅坂を思い出す。
 もう三度ほど読み返していた。
 ノベルハザード購入した本には、開いた最初のページの余白部分に悦子のサインがなされている。好きな作家の直筆サイン入とは、なかなか良いものだと理は思っていた。作家が身近なる存在に思え、親しみが込み上げて来る。

 悦子の今について知った後、理はタイムラインのポストを流し読みして行く。
 加速して行く日本社会の崩壊。沢山のポストが多面的に社会の現実を映し出し、現在地点を何となくおおよそ言い当てて行くようである。


 翌朝理は夜勤帰りで朝食を摂った後、スマホでXを開くと悦子の変わらぬバイタリティー溢れる様子が伝わるポストを見つけた。
 家でじっとしていても体がなまるばかりなので、今日はこれから合気道に行きます。
 そう伝えられていた。
 その後数日、理はXにて悦子のポストを見掛けることはなかった。


 悦子の娘です。
 今日は皆様にお知らせがあります。
 母悦子が本日永眠致しました。
 取り急ぎお知らせ致します。


 えっ!
 遂この間ノベルハザードでの飯炊き紅坂の刊行記念イベントで、あんなに元気そうな姿を見たばかりなのに…。
 理は悦子の娘を名乗る人物のポストに驚いていた。余りにも唐突な悦子との別れ。信じ難い。
 ショックを受けた理は、暫く放心状態に違い感覚であったのかもしれないがタイムラインをぼんやりと眺めていた。
 心の中には、悦子の優しい思い出の数々が蘇って来る。
 一体何故?…。
 まさか…。

 Xにて合気道に行くことをポストし伝えていた、人生の晩年に心の張りを持ちハツラツとした雰囲気を漂わせていた悦子。
 僅か四日前のことだ。
 まさか悦子との関係にこんな急展開が訪れようとは…、理は迂闊にも予測してなかった。


 悦子の傍らに身を寄せる結花は、余りにも突然のことに気持ちが着いて行けないでいた。
 母悦子が何の前触れもなくいきなり倒れ、そのまま息を引き取ってしまったのである。


 悦子が亡くなっていることに気付き、その死の第一発見者となっていた結花。
 悦子は書斎に引き籠り小説の執筆をしていた筈だが、昼時になっても食事を摂りに書斎から出て来ず、余りにも静か過ぎることが気になった結花は悦子の様子を見に書斎を訪れた。
 ドアをノックし、お母さんお昼食べようよと声を掛けてみた。
 返事がない。
 結花は入るよと言いドアを開けた。
 すると書斎の机にノートパソコンを開き執筆中であった様子の悦子が、前屈みになり机に伏せていた。
 ピクリとも動かない。
 寝ているのではないと、結花は直ぐに嫌な予感がした。

 お母さん!!

 結花は思わずそう大声を挙げ、悦子に呼び掛け駆け寄り背中を摩るが…、正気がなく既に死んでいることが分かった。
 人生の中でどれだけ母にこう呼び掛け、その度に母は何度自分からの呼び掛けに答えてくれて来たのだろう。
 走馬灯のように一瞬結花の心の中をそんな思いが駆け巡る。

 結花はお母さん!!ともう一度大きな声を張り上げ悦子に呼び掛けてみたが、もう二度と結花からの呼び掛けに悦子が答えることはなかった。

 悦子が書斎の机の上で起動させ開いていたノートパソコンの画面には、最新作である執筆中であった小説対岸の火事思い耽りなりが表示されていた。
 カーソルが点滅し続け、主人公である福島伊鈴が小説の主題となる物事を他人事だと傍観することへの危惧の念について、思いを語っているシーンが描き出された直後であった。
 著者である悦子の急死により、遺作となった原稿には不意のピリオドが打たれた結果となる。大方完成していたと思われる対岸の火事思い耽りなりが、悦子からの遺言書であるかのように結花には思えていた。


 元気がトレードマークだった母。
 今の自分の気持ちを上手く表す言葉が見つからない。結花は明らかに動揺していた。
 特に持病を患うことのなかった母。
 健康面には気を遣う人で、死因になることがパッと思い付かなかった。
 医師の診断によると心不全とのことであったが、心臓に特別問題になるようなことはなかった筈であった。
 なのに何故?

 母悦子が不可解な謎を残し他界してしまった。
 悦子の死因について、結花には何となく気になるのことが一つだけあった。良く良く考えてみて、もしやあれが原因ではとしか思えなかったのである。幾ら高齢であったとはいえ、健康体であった人がいきなり不調をきたす等ということは明らかに素人目にも不自然であった。きっと人体はそんなに柔には出来てはいない…。


 理はXから一旦離れ暫くした後、悦子の突然の訃報についての死因の謎を追いぼんやりと部屋に佇んでいた。
 日常の雑用をこなしていた筈だが、何をしていたのか良く分からないような心ここに在らずの状態になってしまっていた。
 そして次の悦子に関する新情報はポストされていないかと思い、再びXを開きタイムラインの流し読みをしていた。先程Xから一旦離れてから再開までの時間は、十分から十五分くらいほどだったのかもしれない。

 理がタイムラインの流し読みをしていると、悦子に関するポストを目に留まった。
 悦子の突然の訃報を知ったユーザーのポストであるようだった。
 そのポストによると、悦子は二ヶ月ほど前になる五月に六度目のコロナワクチン接種を受けていたとのことであった。
 理はやっぱり…、と思った。


 医学の力を信じ、早目の対策を取るのが好きな悦子だった。
 戦後の高度経済成長期を生き抜いて来た悦子は、文明の最先端を行く科学の力を強く信じて止まなかった。同世代の人々には同じ気持ちでいた人が多かったのかもしれない。
 敗戦国が世界有数の経済大国へとのし上がって行く過程を、全て目の当たりにして来たのだ。西洋文明に憧れ、科学的に物事を解明し生きる選択を成して行くことを心情としていた行動力のある世代であったことだろうと思われる。
 だがその世代が、人生の有終の美を飾る手前にて科学信仰の罠に倒れた。理にはその因果法則がはっきり見える気がした。とても残念である。旧ツイッター時代に悦子の存在を知り、フォロワーとなって彼女のツイートを目にして来たが、そういえばコロワクについてどうしているのか知らないままでいた。


 理が机の上に置いていた悦子の最後の著作物となってしまった飯炊き紅坂を手に取ると、温かな涙がジワッと頬を流れ落ちて行った。

 9 DEAR MICHAEL

 これは夢が幻か。
 もう亡くなっている筈の男の映像が流れている。
 彼は伝説の世界のスーパースターだった。


 誰もが知っていると言って良いのかもしれない。
 彼が帰って来た。言葉通り生きている。
 いや。
 これはフェイクニュースなのかもしれない。
 様々な思いが理の胸の中を過ぎる。
 星になったあの日から随分時は流れ、年齢が上がっていた彼は肉体が衰えていただろうが、映像を観る限り彼本人であるように思える。

 事の細かな経緯については分からない。
 だが世界の闇を暴き、悪魔崇拝者達と闘い、囚われて死を偽装させられ姿を消していたということらしかった。
 今更説明する必要もなかったかもしれない。
 彼の名はマイケル・ジャクソンである。


 スティーブン・スピルバーグ監督のハリウッド映画グーニーズの中で、甘い物好きの太っちょの少年が仲間からマイケル・ジャクソンがうちのトイレを借りに来たって嘘ついてみろよって印象的なシーンを理は思い出す。
 八十年代のアメリカの少年の心には、古き良き時代に夢見たスタンドバイミーの精神が受け継がれ息づいていたのかもしれない。マイケルは共に世界を冒険するクリーの一人であるかのようだ。天井裏に眠っていた宝の地図を元に、海賊船に乗り込んで金品財宝や冒険とスリルを手に入れる。

 スピルバーグ監督の作品であるハリウッド映画のバック・トゥー・ザ・フューチャーにしても、二〇一五年のカフェ80'sにはビート・イットが流れていた。
 大衆娯楽と人々の深層心理に眠る願い。
 マイケルは、大衆の抱く夢の未来への橋渡し役を請け負っていたのだろうか。


 理はマイケルのアルバムであるBADを、街のレコードショップで買い聴いたことを思い出す。
 あれは一九八八年のことだったかもしれない。東京ドームの柿落としとして、マイク・タイソンのボクシングの試合が取り行われる等していて、バブル期のとても勢いのある時代だった。
 お笑い界ではトンネルズが大躍進を続けていて、トンネルズのテレビ番組であったみなさんのお陰ですの人気は凄かったと記憶している。
 仮面ノリダーがヒットし、番組の放送があった翌日学校に行けば沢山の子がギャグを真似るといったことが流行していた。理も番組を楽しんでいたのだが、内心反面はとても気掛かりにも感じていた。それはどんなことかというと、娯楽を与える社会風潮の中で失われて行くと感じていた細やかな感受性の損失のようなものが、やがて日本の未来に打撃を与えるのではないかと不安視していた。

 マイケルはそんな時代の中にあり、アルバムBADをリリースしていた。
 キングオブポップでありながら、トレンドの流れにアンチテーゼを投げ掛けるようなマイケルの芸術家としての資質に理は感激していたような覚えがあった。
 不思議なムーンウォークのパフォーマンスに酔いしれる圧巻のステージ。
 テレビ放映され、歌だけではなく映像作品として視覚的に働き掛けるステージングに魅了されていた。

 マイケルの放つBADのシャウトが向けられていた相手は一体誰であったのか。
 理は未知なる世界のBADなる存在を、初めて自覚を伴い意識したのかもしれない。その思いを発議させたのは紛れもなくマイケルだった。
 巷のマイケル人気が気になり、いきなり街のレコードショップでリリースしたばかりらしかったアルバムBADを購入した理であった。
 時代はアナログからデジタルへと移行し始めていた頃で、CDがとても新鮮なものに感じていた。
 BADでは、ベースが楽曲のモチーフとなるフレーズを繰り返し何度も奏でていた。
 マイケルはアルバムBADをリリースし、悪魔崇拝者達と闘っていたのだなと今ならより具体的な相手として理にも良く分かるようになっていた。
 子供の頃から音楽業界に浸かり込んでいた感受性の強かったであろうマイケルは、おそらくカースト社会の構造を肌身で強く感じ取っていたのではないだろうか。
 真実を知った以上歌わざるを得ないような純粋さから、見返りを求めなず自己犠牲を厭わぬ反逆の精神に目覚めて行ったのかもしれない。

 アルバムBADの次回作であるDANGEROUSでは、より具体的にメッセージが強く伝えられているように理は感じていた。
 マイケルとの心の旅を、理は回想していた。
 星となってしまっていたマイケルは、歌を武器に闘って来た人々により暗殺されたとの裏情報がネットにはあり定説化しているようであった。マイケルの死因についての真実は分からず、謎めいたキングオブポップの死が心に何か引っ掛かる不可思議さを残したまま、時代は流れ続けているように理は感じていた。


 Xでは、近々マイケルが復活するとの予告がポストされていた。
 死んだとされていたマイケルが生きているとのことであった。


 嘘か真か良くは分からないが、理にはフェイクニュースではなさそうに思えた。
 世界の希望の星であったであろうマイケルが生きていて欲しいと願う余り、そう思えていたのかもしれない。理は自らの自己分析を心の中で続けていた。
 世界的なカオスが続く時代。
 マイケルが生きているというこの情報はフェイクニュースである可能性があるが、久しぶりに届いたような世界の明るい知らせに理は気持ちを明るく弾ませた。
 マイケル・ジャクソンについては、昔から色んな憶測が付いて回りゴシップが絶えなかった。

 マイケルのプライベートでの酸素室の謎やエレファントマンの骨がどうとか、自宅にネバーランドと称する遊園地を建設し所有していたことを中傷する人々がいた。
 これらの話はマイケルの存在を疎ましがる人々による捏造記事であったり、またマイケル本人から直接事細かな話の経緯を聞いてみなければなかなか凡人には理解し辛く立ち入ることの出来ないセンシティブな問題であったのかもしれない。
 ゴシップ記事は絶えないようであった。
 挙げ句の果てには楽曲はマイケルが自分で作っておらず、他者の作品の中から選んでいるという情報まであった。だが当時理はそれらの情報を信じなかった。


 ミュージシャンであるマイケルにとって、作品こそが自らの全てである筈だと理は考えていた。
 各楽曲から伝わるエネルギーは同一の周波数帯であり、他者の作品を寄せ集めた形跡はないと感じられていた。マイケルはシンガーソングライターであろう。そして自らの生み出した作品をヒットさせて来たに違いないと思った。


 あれは一九九二年のことではないかと理は記憶していた。
 マイケルの自宅に黒人であった気がするが何かで見掛けたことがあるようである女性芸能人が訪問して、様々なマイケルに纏わるゴシップ記事について直接質問するという番組が放送されたことがあった。
 理はビデオに録画して、その番組を何度も繰り返し観ていた。
 この番組はやらせなのかもしれないという疑念がついて回ってはいたが、マイケルの放つ雰囲気から彼の誠意の言葉として信じるしかないと理は思っていた。
 質疑応答形式で番組は進行していた記憶が残っていたが、マイケルの発言に違和感はないようだった。ファンの少年に対しマイケルはシャイな反応を見せていたりもした記憶が残る。理の世界のスーパースターという存在に向けられていた思い込みによるこうあるべきという概念は、マイケルの無垢であったのだろう魂の稚拙なような純粋な反応のようなものにより容易く打ち消され意識が更新されて行くように感じていた。マイケルには虚勢を張り無理をしているような態度は感じられないと理は思って、そのテレビ番組を観ていた。どうやら世界のスーパースターであったマイケルは、等身大の本当の気持ちを告白しているようだった。

 マイケルはアルバムDANGEROUSにてグラミー賞を獲得した頃で、ミュージシャンとしての経歴は輝かしきピークを迎えているようであった。
 日本はバブル崩壊の頃であったが遠く記憶を振り返れば、西洋文明の繁栄の流れの一つの終焉をマイケルのアルバムDANGEROUSは象徴しているようなタイミングでのリリースとなっているように理には思えた。
 マイケルの時代は、ある意味ここで一旦終焉したような印象が残る。
 アルバムDANGEROUSの次回作であるHISTORYは、マイケルのミュージシャンとしての総纏めが成されているようであった。理が小耳に挟んでいた情報としてマイケルは映画の世界に興味があり、自身が監督する映像作品を残したいようであった。ミュージシャンとしてはやり尽くした感が本人にあったのかもしれないと理は思っていた。

 細かな話をすれば切りがないようであるインタビューだったが、理はこのテレビ番組を通じてマイケルの実像が何となく分かった気がした。
 マイケルにインタビューしていた女性は、マイケルが自宅に所有していたステージでムーンウォークをマイケル本人から直々に教わり興奮し楽しんでいるようだった。
 魔法の掛かったようなダンスは、きっと誰にとっても魅力的だったのかもしれないと理は思いながら観ていた。


 その後時代は流れ、IT革命により世界はインターネットの時代を迎えていた。
 結局マイケル・ジャクソンの実像について確かなことはたぶん誰にも良くは分からなかったのかもしれないが、インターネット時代となり様々な情報に触れる中で、ゴシップによりマイケルを陥れようとする勢力が存在していることがよりリアルに感じられるようになって来ていたのではないかと思われる。
 理はそんな世界の動向を感じ注視していた。
 そしてマイケルの作品から伝わる彼の思いは、やはりリアルなものだと益々理は確信して行くような気持ちになっていた。
 マイケルを嫌う勢力。
 ディープステートと呼ばれていて、略してDSとも呼ばれていた。芸能界や政界等を支配していて、その歴史はなかなか長いようであった。悪魔崇拝者達であり、巷では陰謀論だと真面に取り合ってはもらえぬ種類のカルト的な話で、差別を向けられる社会構造が根強く定着していたのだろうと理は感じていた。マイケルをゴシップ記事を捏造し叩き、繰り返し大衆の心理に負のイメージを打ち込む手法により、洗脳民を量産して行ったのだろう。某有名ハンバーガーチェーン店が展開している宣伝でも起用されていて、サブミナル効果があり、催眠術の呪いとなり人々の思考と感情を支配し心の病んだ夢遊病者になるよう洗脳キャンペーンが仕組まれていたものと思われる。様々な娯楽の中でもこの刷り込みがなされていて、余程しっかり自分の意見を持っていなければ煽動されて行ってしまう。多くの人はおそらく人生に強い目的意識は持ってはおらず、たちまち社会的力に押され流されて行くのだろう。


 八十年代に心の友となっていたスーパースター、マイケル・ジャクソンは見事生還し再び人々の目の前に本当に登場するのだろうか。
 理はそのことについて思い巡らせていた。

 マイケルのアルバムであるBADとDANGEROUSは、直接的にDSに物を言っていると感じられていた。
 闇の支配者達に逆らったと思われるマイケルは、その報いを受けさせられDSサイドに囚われ偽の死を強要されていたようであった。
 マイケルの残して来た全てのアルバムがそうであるが、理にとって特にマイケルの世界平和への切実なる思いが結晶化したように感じていたアルバムであるBADとDANGEROUSに収録されていた楽曲が理の心の中に思い出と共に流れて来る。

 DSに立ち向かったとされる初めの人物はリンカーンであり、マイケルは二人目であるようだった。
 人類を支配して来た闇の勢力との攻防が、どうやらフィナーレを迎えて来ていて、世界のパワーバランスが逆転し始めているようであった。


 たぶんきっと、やがてマイケルは復活するのだろう。
 世界が希望の未来へと辿り着くことを願う理は、そう信じていたいと思った。

 10 THIRD EYEの落日

 私の夫は昨年二回目のコロナワクチン接種後に突然亡くなりました。

 ハンドルネームをピンクパンサーと名乗る主婦のポストが流れていた。


 詳しいことは私には分かりませんが、これは私の人生に起きた事実です。だからより多くの人に知って頂き、ワクチンの危険性について考えるきっかけになればと思いました。

 そんな痛ましい内容が赤裸々に綴られていた。


 THIRD EYEの包囲網の隙間を掻い潜り、真実を告げるポストが拡散されて行く。
 まるで伝書鳩が、遥か軍事基地への機密情報を伝え翼を羽ばたかせた昔の出来事に重ねるように、理は心の窓を開け放ち世界の片隅で泣く人宛にリポストの文字をタップする。

 似たような内容のポストが沢山存在していたのだろう。
 だが社会はこれを取り上げず黙殺していた。それは意図してのことに違いなかった。

 政府やメディアは国民の敵。
 多くのX民がそれに気付き始めていた。

 だがXを離れれば、まるで違い異次元世界が主流の日本社会であるようだった。
 売国奴により国が乗っ取られて行く。それでも無関心な人々は、何事もないように暮らしに流されていくばかりであるようだった。


 あれからもう四年か…。
 流れる月日の速さを理は感じていた。


 福島のアンダーコントロール。
 当時安倍首相の語った日本のセキュリティーについて等、東京五輪開催の地として日本が相応しい環境であることをブレゼンし五輪招致に躍起であったものと思われる。
 莫大な国費は利権に消え、オリンピック後は直ぐに廃棄物になりそうな巨大施設が建設されて行った。
 311により避難生活を余儀なくされていた東北の人々は、明らかに社会から省かれ切り捨てられていた。
 東京湾は福一事故により核汚染が酷かった筈であるが、放射性物質の安全基準自体を変更され、人体に危険なレベルの汚染であっても問題なしとされていたようであった。
 人々は公の報道を信じ、夏に海開きとなればこぞって海水浴を楽しみにピーチを訪れた。
 生憎直ぐに核汚染の被害が出る訳ではなかったのだろうから、福島由来の核汚染の実態については専門家でもない限りなかなか証拠を挙げて真実を明かすことは難しかったように思われた。
 放射能については、日本ではなかったことにされたままの日常が続いていたように思われる。
 大衆は政府の情報を信じ疑わなかったということであったようだ。コロナワクチンの安全性や有効性についての情報を政府が流した際、多くの国民が信じたという事実が福一事故由来の放射性物質に対してどう考え対処して来たのか国民の意識状態の実態を明らかなものとし証言した結果になっているように理には思えていた。
 311発生当初、この国ではメルトダウンの話をすると陰謀論者扱いを受けた。
 安全神話の嘘が国民意識に広く浸透していて、現実を直視する鋭い洞察力や真っ当に働く感性みたいなものが欠落していたようだと理は感じていた。
 その大衆心理は、コロナワクチン集団接種に対しても同じように働いたものと思われる。
 これはおそらく神風信仰だろうと理は理解していた。なんておぞましく恐ろしい社会なのか。軍国カルト思想丸出しではないのか?日本はファシスト集団なのか?いや。そうとまで言い切るのも悲しい。だがやはりどう考えてみても、社会は狂っていて可笑しい。日本人よ、本当にこれでいいのか?集団自決へと向かう未来を自らで選択するというのか?理は心の中で情熱の言葉を叫んでいた。だが誰にも届かないように思えてならなかった。


 日本が悲しくも総崩れして行く。
 自民党が支配して来た三十年ほどの時間。
 国は衰退し続けて来た。
 そんな中、パリ五輪開催の夏が訪れていた。


 マリー・アントワネットがギロチンにて処刑された場面から始まるパリ五輪の開会式について、賛否両論意見は分かれているようであった。
 理はきちんと開会式を観てはいなかった。
 Xを開きタイムラインのポストを流していくと、パリ五輪の開会式についての様々な意見から大方事実はこの辺りなのではと推測を巡らせることが出来た。相対的に言って不評のようであった。
 世界は大恐慌の気配が取り巻いていた。
 パリ五輪の開会式は、結果的に悪魔崇拝者達の儀式やディープステートと呼ばれて来た人々が確かに事実存在しているということが描き出され世界中の人々に認知されてしまうという結果に至っていたようであった。
 世界のパワーバランスが変わり、独裁者達の思惑が空回りしていたのだろう。苦し紛れに権力を行使するが、現実の壁に跳ね返り諸刃の剣となった自らの暴力が悪き思想を行動化させた者達を傷つけて行ったものと思われる。因果応報のサイクルが、ごく短時間で完結する世界が現れているようであった。

 世界的スポーツの祭典が如何に不誠実なものになり、落ちぶれ果ててしまっているのかを証明するかのような大会になっていたようだった。
 女子ボクシングの試合で、ジェンダーの身体的特徴は男性である選手が女性を打ちのめす。
 こんなことはあってはならない筈だが、多様性の名の下に不平等が蔓延していた。まるでフェアではなく、スポーツマンシップの欠片も感じられない。女性ボクサーは敗北し泣いていた。
 この試合はオリンピックが死んだ瞬間だったのかもしれない。
 なんでもありのカースト制度が、世界的スポーツの祭典を支配し社会正義を殺している。
 ジェンダーである身体的特徴は男性である選手は、幾ら認められていようと女性選手として女性の試合のリングに立てば、いやこの競技に参加を志願した時点で大敗北だ。理はそう思った。
 パリ五輪にてこんなパワハラ色に滲んだボクシングの試合が取り行われている間も、ウクライナの戦場では尊き命が奪われていた。
 世界では移民が大量に発生し、暴動が起きていた。日本も例外ではなく、事故や凶悪犯罪を起こすクルド人等移民達による問題が起きて来ていた。
 移民政策は、動物園の猿の檻の中にライオンを入れて共同で暮らさせるようなものだったのかもしれない。
 種が違えば、初めから共生には無理な部分があったのではなかろうか。生態が違い、上手く馴染むことはない。地域を隔て国際交流を進めるべきであり、無理矢理に見合い話を持ち掛けられたかと思うと村社会の村長による権限で結婚させられ、仲良くやれと命令されているような人間的でない暴力を受けていたものと思われる。

 そんな日常の最中で、ディープステイト達はコロワクによる大量虐殺は難しいと判断したらしく、金融危機からの世界支配へと作戦変更したようであった。
 目まぐるしく移ろう世界の動向。
 大宮悦子の訃報の知らせが、時事通信社から報じられているのをXにて理は目にしていた。
 何か自分の心の中にある大切なものが、暴力により日々奪われて行く。
 岸田総理の地元の広島は遂に立ち上がり、自民の落選運動を始めデモにより民意を訴えていた。


 翌朝。
 八月六日の八時十五分が、今年もまた訪れた。
 秋から始まる人体実験であるレプリコン接種を目前に控えた広島の日には、今年は特別な意味があったのだろう。
 三発目の原子爆弾を国民に対して、政府が落とすと表明しているのと同じであった。
 ここまで明から様な宣戦布告が、近代にあっただろうか。
 理は許し難い気持ちでいた。


 レプリコンワクチン接種推進の政治家や医療関係者や、また著名人等社会的に影響力を強く持つ立場の人間は刑事責任を追求したい。
 これは明らかなる犯罪行為であり、大量虐殺である。
 殺人犯を投獄せよ!!
 話しても分からない者は、そうするしか他に策はない。
 日本は民主主義の国だ。独裁国家にされて堪るか!!日本人ファーストで政治をせよ!!帰化人の奴隷ではない!!脱税犯が改憲を語るな!!速やかなる議員辞職と自民党解体を強く求める!!公職選挙法違反を厳正に取り締まれ!!犯罪者は投獄しろ!!警察はDSの犬になるな!!正義とプライドを取り戻せ!!売国奴の帰化人は本国に帰れ!!クルド人等移民政策を進め、侵略をするな!!日本の食文化を壊し、優良企業である小林製薬を潰した政治家を投獄せよ!!コロナ後遺症を治療する小林製薬の製品やイベルメグチン等、有効であると既に証明された治療薬を速やかに国民の元に流通させる措置を取れ!!戦争讃美者は真っ先に自衛隊に入り、戦場に自ら行け!!

 NO MORE HIROSHIMA!!
 NO MORE NAGASAKI!!
 STOP mRNA!!

 レプリコンワクチン接種反対!!
 レプリコンワクチン接種反対!!
 レプリコンワクチン接種反対!!

 コオロギ等、昆虫食はいらない!!
 食の安全を守れ!!ゲドム編成食品を取り締まれ!!水道を外資系企業に売り払うな!!日本の土地を外国に売るな!!売国政策反対!!
 日本人を民族浄化するな!!
 全部魂胆はバレている!!
 農家を潰すな!!不正選挙を取り締まれ!!
 不都合な人間をポワするな!!
 メディアは真実を伝えよ!!原発利権社会を野放しにするな!!
 
 グローバリズム断固反対!!
 グローバリズム断固反対!!
 グローバリズム断固反対!!


 裸足のゲンが原爆ドームを見上げている。
 ゲンは小学校の図書室にあった漫画の主人公の少年の名前であった。

 読書が苦手だった理。
 図書室に置かれていたアニメ裸足のゲンを見つけ、呼吸を忘れているくらい集中して読んでいた。漫画だがリアリティーが迫って来るのが分かる。本当のことが描かれていると感じられた。裸足のゲンは、一九四五年八月六日の広島であったピカドンについての真実を伝えていると思えた。

 ピカッ。
 眩き熱戦に射抜かれる。

 時間差でドンと音がした。
 そして大津波のようであったのか、想像力の限界に迫るような恐ろしき破壊力を持つ爆風に広島の街は呑み込まれて行ったようだった。
 体感したことのない爆風の音…。
 理は想像力の限界の中で、広島のピカドンを追体験していた。
 地獄に吹いた轟音。
 悪魔の怒りの低い唸り。世にも恐ろしく吐き気のするような恫喝の怒号のように、永遠の時空を彷徨う地獄絵が浮遊しているようだった。

 路面電車が飴玉みたいにクチャリと捻じ曲がり溶ける。
 原爆投下の目印とされていたらしきドームに佇んでいた人は、影だけを残して蒸発したと伝えられていた。
 建物のガラスが割れ、粉々に砕けたガラス片が爆風と共に人々に突き刺さる。目の中に入る等、想像の継続をすること自体心理的に無理が来そうなくらい惨たらしい光景が伝えられて行く。

 元安川に水を求め飛び込む人々。
 目が飛び出したり皮膚は焼け爛れ、手の先に向かいぶら下がり、爪で留まるらしかった。それで幽霊みたいに両手を前に差し出しながら、街を彷徨っていたようだ。
 死体の山を踏み付けながら、身寄りを探す者もいたか。
 父も母も兄妹達も、この地獄絵の中に投げ出されたことは間違いがない。
 そんなことを考えていたのだろうか。
 見渡す限りの焼け野原。
 人間らしき姿をした人に出会えたのだろうか。
 広島の空を覆ったきのこ雲に見下ろされ、遥か未来等は全て奪われていたのかもしれない。
 尊き一四万人が亡くなったとされていた。
 原爆症に苦しむ人生を長く生きた人がいる。
 差別に遭い苦しんだり、また被爆ニ世として健康不安に怯えながら生きた人々がいた。
 何故こんかにも惨いことが起き、非人道的出来事をもって世界を統治しよう等という愚かな人々が生まれ育って来たというのか。
 いまだ現代に語り残された人類の抱えた課題であった。

 核のない世界を!!
 そう言えば現代では既に綺麗事になるのかもしれない。
 日米安全保障条約によりアメリカの傘に守られての平和が続いて来た時代は去る。
 核の抑止力が叫ばれていた。
 一つの答えが生まれ、また直ぐに矛盾に変わり、理の抱く理想は偽善に染まって行く。
 あの日広島で見た悪夢の中で、戦争とはと確信めいたものを体験を通し学んだ人がいた。
 その意味は必ず風化して行く。
 刻一刻と。
 決して変わってはいけない筈の祈りの言葉も、幾つもの眠りの中で色褪せ誓いは忘れられて行く。平和を守る命懸けの行為の中で、現実はそうも言ってはいられなくなるということなのか。

 何にせよ核なき世界を実現させなければ、理想社会や幸福論は完成されないことは確かであるように理には思えていた。
 完全なる正義等見つけられぬままに。


 コロナワールドで仮想空間に、あの日の広島の焼け野原の街が広がっている。
 コロナワクチン接種は、B29の焼夷弾による空襲にどことなく重なるように理には思えていた。


 兼ねてよりB29が青空から街に空襲予告のビラを撒き通知していた通り、真夜中に空襲警報が鳴り出す。
 悦子は防空頭巾を被り、うちの外へ飛び出した…。
 飯炊き紅坂の悦子の物語が、再上演されて行く。


 もう直ぐピカドンに成り変わったレプリコンが、世界で日本にだけ投下される。
 治験大国になんて、国民は誰もそんなこと望んでなどなかった筈だった。
 だが帰化人主導による売国政府は、勝手な取り決めをして行った。
 皆、もう騙されているような時間はない!!
 レプリコンの製品名はコスタイベだ。
 僕はこのワクチンは余りにも危険だと感じている。
 絶対に打たないで欲しい。
 熱戦も爆風も可視化されないピカドンが、治験の名の下に皆の体の中で鮮やかに…、炸裂させられて…、行く。
 無関心や陰謀論等と言って論争をしている時等ではない。
 それは余りにも愚かで悲しい。

 日本人は立ち上がる!!
 そして世界に愛を叫ぶ!!
 そうだろう?

 人類は助け合い分け合うことから、誰もが天国で暮らすことが出来るのだと理解しなくてはならない。
 豊かさを感じ幸せになる為に、奪い合い争う必要はない。
 世界の恒久平和実現の為に、僕達は今一度過去の悲しみの前で誓いを立てたことの意味を知らなくてはならなかったのではないか。
 理は平和を実現する為の確信を掴みたいと、心の中で葛藤していた。
 裸足のゲンみたいに強くたくましく、この腐った街の中で生き抜いて行かなくては。
 胸の奥で自らを鼓舞する言葉を、まるで呪文のように繰り返し唱え続けていた。

 原子爆弾が投下された街で強く生き抜くゲンの姿が、漫画裸足のゲンでは描かれ後世に広島の真実を伝えて来たのだろう。
 あろうことか政府は、漫画裸足のゲンを魔女狩りの対象にして社会的に排除して来た。コロナの時代に反ワクを偽情報発信者として弾圧したのと同じだった。政府こそが偽情報の発信者だ。コロナワクチンで日本人を大量虐殺しておいて、惚けるのもいい加減にして欲しい。科学的データが出され、既に証明済みだ。それをテレビやメディアが伝えない。気のいい日本人はいつまでも騙されている。気の毒だ。自分が何故死んだのかも理解出来ぬまま、殺され兼ねない。

 もう直ぐ、また日本人はゲンにされて行く。
 覚悟はあるか?
 現代のピカドンが静かに熱線も爆風もなく、平和な佇まいの内に偽善の中で炸裂する。
 レプリコンを侮るな!!
 皆やられて集団ゾンビになる。
 焼け野原で皮膚が爛れ、彷徨った人々のように。
 裸足のゲンを読もう!!
 明日の日本だ!!
 目を覚ませ!!
 平和ボケでいるな!!
 周りに合わせるな!!
 自分の心で感じ、ちゃんと頭を使って考えろ!!そして立ち上がれ!!沈黙するな!!政治的意見を言え!!逃げるな!!目を背けるな!!愚民のままで殺されてしまうな!!おとなしく都合良く利用される、馬鹿な羊のままでいるな!!

 もううんざりだ!!
 こんな日本は。

 日本人が今どうしても立ち上がり阻止しなくてはならないこと。
 一択である。

 売国裏金自民による緊急事態事項の決議!!
 そして、第三の原子爆弾であるレプリコンの投下!!
 
 アウシュビッツ収容所を、日本列島に決して作らせるな!!


 理は思いの全てを言葉にするように、八月六日の朝心の中で叫んでいた。
 例えば作家大宮悦子の飯炊き紅坂での、尊き平和を願う一遍の詩に心を重ねながら。
 戦争を知らない世代の無知が、どうかナチの台頭を許してしまわぬようにと理は祈り続けていた。


 僕のこの主張は陰謀論だと思うかもしれない。
 だがパレスチナによるイスラエルのガサの攻撃をごらんよ。
 ジェノサイド。
 非人道的社会の暴力の恐ろしさを知らなければならない。

 テレビやメディアは反日勢力であり、きっと日本人を洗脳する為の情報を垂れ流している。
 そう思っておかなければならないように思う。
 これは僕の個人的な思いであるが、日本社会に向けて心の中で叫んでいる思いを、毎日の生活の中自分に出来る行動を通し誰宛という訳でもなく伝えようとして来たような気がする。
 平和なお花畑だった日本。
 だが…、それは過ぎ去りし日のこと。
 略奪、侵略、民族浄化。
 そんなの当たり前の、信じたくないかもしれない悪魔的な人間の心が確かに存在しているんだ。
 そして今後益々厄介なデジタル監視社会に突入して行くのだろうと思われる。
 不勉強ならば改めるべき時なのだろう。
 無知は本当に自分自身の首を絞め、そして社会的に罪を生み出してしまう。誰もが政治的思想を語らなくては無責任になってしまう。かつての日本社会で許されて来たこと。または生きて行く上で処世術となり、敢えて語らない方が得になって来たようなことが逆転してしまって来ているようだった。
 感性を磨き、知的財産を増やして行くことで、カオスの時代を生き抜いて行かなくてはならなかったのではないだろうか。日々勉強が必要な時なのかもしれない。

 残念ながら勉強方法を、テレビやメディアは教えてはくれない。
 自分で情報を集め、自分自身の身は自分で守るしかない。サバイバルだ。面倒がったり諦めた人は、たぶん神様の元に早目に帰らなくてはならなくなるような気がする。まだ人生の中でやりたいことがある人は、どうか頑張って欲しい。現実は厳しいが、ネット等がある今は学び得ることの出来る情報が多くて、人生の喜びが大きくなるのかもしれない。

 究極的にはおそらく人はこの世に一人だ。
 全ては自分を多面的に映す鏡で、僕達は自分という名の神であったことをいつかきっと思い出すのだろう。
 人は自分の心からは決して逃げることは出来ない。
 世界にある悲しみは全て僕自身のものだ。
 そして世界に見る奇跡や愛や喜びも、また僕自身のものなのだろう。

 どうせ人生は夢を見ているようなものならは、折角だからいい夢を見たいね。
 願わくば皆と共に。
 この世界で、きっと人は神にも悪魔にもなれる。


 紅に燃ゆるヒトラーの最敬礼。
 それを美しきかなと讃美する聴衆の群に檄を飛ばした斜陽の射し込む歴史には、崩れ掛けたレイシズムの幻影であるハーケンクロイツがいつまでも青褪めた時代の風にはためいていた。

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