VRヘッドセットを捨てよ、現実世界へ出よう

VRヘッドマウントディスプレイ「Quest」シリーズの販売台数が2000万台を超え、多くの人がメタバースを体験している。
2023~2024年の年末には、メタバースプラットフォームの1つ「VRChat」に6~10万人の人が集まり、多くの人がフレンドと一緒に新年を迎えたようだ。

まあ、こんな記事を読もうと思う人は、VRとは?メタバースとは?という話は聞き飽きていると思うので、前置きもほどほどに本題に入ろうと思う。

「ファントムセンス」という言葉がある。VRChatでは、一般的に「VR感覚」という言葉で呼ばれている。
VR機器をつけて遊んでいると、ヘッドマウントディスプレイからの視覚や聴覚の情報しか得られないはずなのに、視覚や聴覚以外のいろいろな感覚を感じることがある。
たとえば、アバターの顔を撫でられた時に実際に触られる感覚があったり、高い所から落ちたときに浮遊感を感じたり、温泉に入った時に体がぽかぽかとしてきたりする。
このようなファントムセンスは、視覚や聴覚の情報から、脳が補完することで生じているらしい。

2023年末に行われた「ソーシャルVRライフスタイル調査」では、ソーシャルVRのユーザーを対象に、メタバースでの生き方についてアンケート調査が行われた。
アンケート項目の中には、ファントムセンスに関する内容もある。

結果を見てみると、一番ファントムセンスを感じる人の割合が大きいのは「高いところから落ちる時の落下感」で、実に70%の人に経験があるようだ。
他の項目を見てみると、「落下感」ほど多くはないが、触覚や温度などを感じる人もいる。
アンケート項目には含まれていないが、狭いところで感じる窮屈感なども、広い意味でファントムセンスの一部かもしれない。

私は、VR体験による感動でこのファントムセンスが担うところは大きいのではないかと考えている。
2023年にVRChatで話題になったワールドに「Complex 7」がある。
このワールドは、ロボットが暮らしている近未来の街を探索することができる。まだ行ったことのない人は是非行ってみてほしい。

始めてこのワールドに足を踏み入れた時、あなたはどんなことを感じただろうか。
私が感じたのは、そびえ立つビルの圧迫感や、そこにひしめくロボットたちの雑踏のにぎわい。ただの画面の情報であるはずの彼らの息づかいまで感じられるようであった。
それは、今までずっと田舎で過ごしてきた私が、始めて東京を歩いたときの感覚と似ていた。
おそらく、人混みの中を歩いた経験がある人

なら、似たような感覚を得られたのではないかと思う。

ロボットたちによる路上ライブ

他にもVRChatには、「Kazahana Peak 雪の嵐」という雪に閉ざされた民家のワールドがある。割と有名なワールドなので、訪れたことのある人も多いだろう。

皆さんは、現実世界で夜の雪道を歩いたことはあるだろうか。
しんと静まりかえった道に、自分が雪を踏みしめる音だけが響いている。凍てつくような空気に、自分の吐いた息が白く広がっていく。
雪の降る地域に住む人であれば日常茶飯事の風景だが、暖かい地域の人はほとんど雪を見たことがない人もいるだろう。
かつて、私は数年に一度雪が積もるような地域に住んでいたが、去年北海道に引っ越して、雪国で暮らすようになった。日常的に雪が降る環境過ごすことで、「Kazahana Peak 雪の嵐」で感じる冷たい空気感や、聞こえないはずの足音がより鮮明に感じられるようになった。

雪の降りしきる民家のワールド

先ほども書いたように、このようなファントムセンスは、視覚や聴覚からの情報を元に、温度や触覚があると脳が「勘違い」してできる。
VR体験の感動を高めるには、このような「勘違い」をいかに上手く起こすかが肝要だと思う。
「勘違い」をするには、その元になった経験が必要である。その経験が鮮明であればあるほど「勘違い」の質も良いものになる。
ソーシャルVRにはまった人が、可処分時間の多くをVR空間で過ごしている。
休日は何をしているの?と聞かれて、ずっとVRで遊んでいますと答える人も多いだろう。
しかし私は、VRでの生活を大事にしている人こそ、より現実世界での経験を大事にしてほしいと思う。
VRヘッドセットを外して、外に出よう。買い物をしたり、近所の山を歩いてみたり、出会う人とおしゃべりしてみたり、いろいろな新しいものを見てまわろう。
なにも現実世界を軸に生活をするべきだと言っている訳ではない。全ての経験がVR生活の糧になる。
そして、現実での経験をたくさんVR内に持ち込んで、メタバースでの生活がより豊かになれば重畳だ。

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