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天皇賞(春)回顧 2020.5.3

平成と令和を繋いだ偉業、新たな時代に演じた名勝負


フィエールマンの連覇か、キセキの奇跡なるか

2019年4月28日、平成31年最後の日曜日に第159回天皇賞(春)が行われた。フィエールマンとグローリーヴェイズがゴール前で熱い叩き合いの末、フィエールマンが制した。平成最後の名勝負と書いた。

2020年5月3日、暦の都合上、令和2年となってしまったが、令和初の天皇賞(春)は淀の舞台の長丁場で例年通りの熱き展開が待っていた。

天皇賞(春)は京都競馬場を舞台に3200mの長丁場を争う伝統あるスタミナレースだ。よく言われるのは、同競馬場で行われる菊花賞馬の勝ち馬に活躍馬が多いということ。
菊花賞は京都競馬場3000mを舞台にしているのだから、親和性があるのは頷ける。違いは200mの距離だけではない、菊花賞は皐月賞、ダービーと続く3歳クラシック第三冠。同世代のチャンピオンを決めるレースだが、天皇賞は4歳以上の世代を問わないいわゆる古馬の最高峰のレースだ。

なぜこんな初歩的な話をまず書くかというと、今回の天皇賞(春)には世代を超えた菊花賞馬が鍵を握るからだ。

フィエールマンとキセキ。
この2頭の菊花賞馬がこのレースの主役だ。
フィエールマンは2018年の菊花賞の覇者。この時負かしたハナ差2着のエタリオウ、1馬身半差3着のユーキャンスマイルも当レースに出走している有力馬だ。
フィエールマンは菊花賞を七番人気という伏兵扱いで勝ったのちに、翌年のG2アメリカジョッキークラブカップ(AJCC)で久々復帰のシャケトラに土をつけられる。そのシャケトラが天皇賞直前に不幸にも亡くなってしまう。シャケトラのいない天皇賞(春)をグローリーヴェイズとの大接戦演じ、これを制した。その後、フランスの凱旋門賞に参戦するが、馬場が合わず競馬にならず。帰国後、年末の有馬記念では4着と惜しい競馬。秋は勝ち星に恵まれ無かったが有馬記念では存在感をみせた。2020年、初めてのレースとなった今回の天皇賞、連覇がかかるも、鞍上のルメール騎手は涼しい顔で楽しみにしていると答えた。

もう一頭の菊花賞馬キセキ。
これがまた紆余曲折ある馬なのだ。
キセキは2017年菊花賞の勝ち馬。つまりフィエールマンよりも一年先輩の勝ち馬だ。
この日の馬場コンディションは最悪の状態の不良馬場。ぬかるんだ足元に泥だらけになりながらどの馬も苦戦した中、直線だけで他馬をゴボウ抜きして勝ったタフな馬だ。
ちなみにその時の5着ダンビュライト、6着ミッキースワロー、14着スティッフィリオも今回出走している同期の馬たちだ。
キセキはその後、香港遠征に向かうが9着。帰国後、G2日経賞9着、G1宝塚記念8着と振るわない。しかし、秋のG2毎日王冠から手綱をとった川田騎手との「逃げ」への脚質転換が新たなキセキの出発だった。G2毎日王冠3着、G1天皇賞(秋)2着、G1ジャパンカップ2着(アーモンドアイの大レコードを演出)、年末のG1有馬記念は5着と好走を繰り返して、ケレン味のない逃げが代名詞となった。
2019年もG1大阪杯2着、G1宝塚記念2着とG1で連続2着。2019年こそキセキの全盛期かと思いきやフランスに遠征し、フォワ賞3着はともかく凱旋門賞7着と力負け。帰国後の有馬記念では出遅れて5着。2020年、心機一転かと思いきやG2阪神大賞典でまたもや出遅れて7着。ゲートを出る気がなくなったといわれ、天皇賞は回避、キセキはもう終わったともささやかれた。
しかし、キセキは体調を整え、最後に勝ったレースである菊花賞の舞台である京都競馬場に戻ってきた。鞍上には天皇賞を8回勝った男、武豊騎手を新たに迎え、名実ともに奇跡を起こしたい。

フィエールマンの世代からはユーキャンスマイルが阪神大賞典を制して長距離の安定さが評価されてか、2番人気。キセキの世代からミッキースワローが4番人気とフィエールマンとキセキという菊花賞馬の間に入ってくる。

1番手はフィエールマン。そのあとは接戦。あとはキセキがどうでるか。
これが大方の見方ではなかろうか。

どうしたって、レースのカギを握るのはキセキだ。
スタートを無事に出て、先頭に立ちハイラップを刻むのか、それとも、また出遅れて別の馬がレースをつくるのか。
そして1番人気フィエールマンがどのタイミングでしかけてくるのか。

スタートから注目していきたい。

レース回顧(架空実況)

今回も架空実況でレース模様をお届けします。
天皇賞(春)の舞台となる京都競馬場、3200mの長丁場。コースを1週半まわるスタミナレースです。
スタートは向こう正面の坂の手前、スタートしてすぐに3コーナーへ続く、坂が待っています。

さて、注目のスタートです。
キセキのスタートはどうなのか。ペースはどうなるのか。
ゲートが開きます。
各馬一斉にスタート。

何頭か出遅れ。
トーセンカンビーナ、メイショウテンゲンがダッシュがつかない。

キセキは……キセキは問題なく出ています。逆に好スタートと言ってもいいでしょう。
ハナを切ろうというのはダンビュライトとスティッフィリオ。インコースかじわじわと押して出て行き、ダンビュライトがわずかに先頭。その後にキセキが続きます。3番手をキープ。

レースをつくるのはダンビュライトなのか。
キセキのすぐ後ろには最内からモズベッロ。
外からハッピーグリン、一馬身離れてユーキャンスマイルとミライヘノツバサが並びます。
さらに一馬身差で内からエタリオウ、ミッキースワロー、シルヴァンシャー。シルヴァンシャーが外のコースを徐々に上がっていきます。
追いかけるようにシルヴァンシャーがいた位置まであがってくるのはフィエールマン。ミッキースワローのピッタリ併せてきます。
有力馬は揃って、後方に位置どりとなりました。
メロディーレーンがいて、そこから三馬身離れてメイショウテンゲン。出遅れをどこで挽回するのか。最後方はトーセンカンビーナ。

1周目の3コーナーから4コーナー。
隊列は変わらず、先頭はダンビュライト。
直線に入っても淡々と進んでいます。
1000m通過が63秒、スローペースです。
しかし、1周目のゴール前で動きます。
キセキが前に出ます。
まるでペースの遅さが気に入らないかのごとく、先頭に立ち、新たなペースを刻みます。

さて、気分一新、キセキがレースをつくります。
馬群は2コーナーをまわって、キセキはダンビュライトに三馬身の差をつけ、快調に飛ばします。
先頭のキセキからしんがりのトーセンカンビーナまで20馬身。縦長の隊列。一番人気、2連覇のかかるフィエールマンは7〜8番手。
3コーナーの坂を駆け上がります。まだ動きがありません。キセキの手応えはまだ十分。
さあ、坂を駆け降りてくる。フィエールマンが動き出す。ユーキャンスマイルが、ミッキースワローが、エタリオウがそれぞれがスパートをかける。
先頭はキセキ。

4コーナーから直線へ。
先頭はキセキ、リードは一馬身。ダンビュライトとスティッフェリオが続いて馬場の真ん中に進路をとる。
がら空きになったインコースに、ラチ沿いへ手応え良く突っ込んでくるのはユーキャンスマイルだ。
外からはミッキースワローとフィエールマンもくる。
まずはダンビュライトが脱落。
次に脚色が鈍るのはキセキだ。
そんなキセキをかわしていくのは11番人気スティッフェリオ!
ここで先頭に躍り出る!
内のユーキャンスマイルも伸びてくるが、外から大本命がやってくる。

フィエールマン!

ミッキースワローを振り落とし、スティッフェリオに迫る!
この2頭の叩き合いとなった!
内のユーキャンスマイルとミッキースワローが3着争い。

フィエールマンかスティッフェリオか。
残り50mからの壮絶な叩き合い、クビの上げ下げ!
ほとんど同時にゴールイン!

勝ったのはわずかに、フィエールマン。
天皇賞(春)、2連覇!


レース終わって

キセキが後半飛ばして、レースをリメイクした。
満員のスタンドだったら、大きな歓声が上がっていっただろう。
直線、11番人気スティッフィリオが抜けだし、迫りゆくフィエールマン。
この熱き展開、誰もいないスタンドに馬蹄音が響き渡る。

令和初の天皇賞(春)は無観客となった。
しかし、レースは見所たっぷり。例年に負けぬ名勝負となり、終わってみればフィエールマンの2連覇、ルメール騎手の天皇賞春秋4連覇という偉業が達成された。

ルメール騎手はレース後のインタビューで、直線に入って楽勝かと思ったと答えた。しかし、スティッフィリオの思わぬ抵抗に遭い、ハナ差の辛勝。
ファイトしなくてはならなくなったとも表現した。
スティッフェリオは11番人気の低評価を覆し、父ステイゴールドの長距離適性をまざまざとみせつけた。もしかしたら6歳の今が脂ののった時期かもしれない。

来年の天皇賞(春)は満員のスタンドで、フィエールマンの3連覇を期待できるのだろうか。
残念ながら、京都競馬場が改修に入ってしまうので、同じ舞台というわけにはいかないのだが…。

新しい時代の新しい天皇賞(春)、それはそれで楽しみにしたい。


第161回 天皇賞(春)の成績等の詳細情報は以下よりご確認ください


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