その葡萄酒の味わいの

 ああ、ひょっとして明日は金曜日ではないだろうか。
 ぼくの家は讀賣新聞をとっているんだけれど、毎週金曜日になると、一面の左下に、プレミアムモルツの広告が入るわけだよ。それを見て、美味しそう、飲みたいなあなんて思いながら、金曜日は幕を開けます。
 しかしぼくは金欠なのだ。今日だっておつかい頼まれて、スーパーに出掛けたはいいけれど、気づけばお金がない。なんとか小銭掻き集めて、事なきを得たけれど、まあ、だいぶやばいよね。就職してから今日までお前は何をしてきたんだって話だよ。貯金のひとつもなく、いわゆる経済力に欠ける男だ。
 何を云おうとしたかというと、今日は例のボジョレーヌーボーの解禁日だ。ミーハーな父はいち早く買って来たわけ。生ハムやベーコンなぞまたうまそうなつまみをつけて。父はワインがそれほど好きではない。一口味見をしたならば、あとはぼくと母の胃へ消える運命になるというのに、どうしてまあ毎年懲りずに買ってくるのだか。去年なんて五本くらい買って来て余らせちゃったからね。ちゃんとおいしく頂いたけれど。ありがたい話だ。
 明日が金曜という事実は、ぼくをずいぶん楽にさせる。どうにも今度の休日は、つまらないことに時間を費やすべきではない。ある贈り物を買いにショッピングへ出ることは決まっているけれど、それ以外は、なるべくひとの誘いも断るつもりだ。ぼくにとって、優先すべきことなんて、決まり切っているのだから。愛という言葉はへたに重く、チェリーコークの空き缶が電燈浴びて夜の色。知りもしないくせに流したジャズは、狭苦しい部屋に響いてそれから、何不自由なく空へ消えた。

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