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爆走!韓国旅行 その4

 あっ、キムチの香り。Hちゃんに聞いていた通りのにおい。そんなことを思いながら入国審査を通過しました。ポシェットの中を改められることもなく、日本語で対応してもらったのでなにも支障なく入国できました。このあとは迎えが来ているはずなので安心です。通過したところでママが封筒を速やかに回収しました。あの封筒がその後どうなったのかは不明のまま。

 スーツケースを無事ピックアップして到着ロビーに出ますと、いかにもエネルギーに満ち溢れた表情の、細身の女性が手を振っています。あの人がこの後のアテンドのようです。私がどういう立場で紹介されたのかもう記憶にありませんが、当然のように受け入れられたので3人で来ることは分かっていたようです。日本語がお上手なので安心感が増します。私にも「Cです。なんでもおっしゃってください」と自己紹介してくれました。
 女性の背後から小柄なおじちゃんが飛び出してきて、私たちのスーツケースを手際よくカートに積んでくれました。運転手さんだそうです。この方も終始日本語で会話してくれました。
 ロビーの一角にある椅子に座るよう促され、ママとCさんが話し始めました。「ここで待ってれば車回してくれるから」とHちゃんに言われ、ぼーっとキムチの香りをしみじみと嗅ぎました。みんな歩くのがとても速い。日本人より元気がいいような気がしました。
 「女の人の肌、すごくない?唐辛子がいいらしいんだよね。あとサウナ」「ほんとだ、なんかピカピカつやつやしてる」「メイクも独特なんだよね、ぴたーっとファンデが張り付いてて、基礎工事がすごい」とHちゃんと話しました。この数年後から、韓国コスメが大流行りするのも納得です。

 でっかい車がやってきて乗り込みます。どうやらずうっとこれで移動らしい。1時間も走らないうちにどこぞへ到着し、すぐ式典です。私は全く内容を知らないのですが、Hちゃんも「私もよく知らない」と言っていました。
 到着すると車の周りに人が集まって来ます。50人はいるようで圧倒されました。ママは「Kちゃん、これ持っててね」とバッグを私に託して車を降りました。この中にあの封筒が…。そう思うと死んでも落とせないとまた緊張してきました。

 その場にいる全員がママを歓迎し、ママはこんにちはと言いながらピカピカの建物に入ります。私とHちゃんはいつの間にかその他大勢に混じり、ママを見守る立場になっていました。
 事情をよく知らないのでHちゃんに聞いてみると「さあ、私もよく知らないけどみんな喜んでるみたいだからいいんじゃない」との答え。そうか、いいのか。しかし韓国語全然わかんないなあ。書いてあるハングルもなんだかパズルみたい。
 ママがはさみを持たされテープカットをして、ちょこっと誰かの挨拶があって式典終了。30分もかかっていません。そしてアテンドのCさんが「娘さんたち、こっち!」と呼び寄せてくれました。全員で写真撮影するそうです。えっ私も?とHちゃんに尋ねると「そうだよ」と当然だという顔。よく分からない式典の写真におさまる…、政治家や芸能人が「よく分からないけど一緒に写真を撮った」というのも、まあ、ありえない話ではないんだなと思いました。いやあってはいけないことだけど。

 こっちに立って、もうちょっとこっち、など位置を調整しているうちに、外がとても暑いことに気づきました。ほとんど屋内にいたので気づかなかったのですが、いや…暑い。写真屋さんが三脚をたててなにか叫びながら手を振ります。あ、こっち向いてってことなんだなというのは分かりました。大騒ぎの写真撮影が終わるとあちこちで挨拶や会話が賑やかに始まりました。暑い。
 あまりの暑さにぼーっと立っている私に、おじいさんが唐突に「私は日本語ができます」と話しかけて来ました。「私は日本で軍の仕事をしていました」から始まり、日本語で話さないと殴られたので日本語を覚えたことや、ひどい目にあったということをほぼ棒読みの日本語で語るので、ただ聞くしかできませんでした。Hちゃんは隣で頷くこともなく無表情。戦争で日本がしたことによって、韓国では年長者が日本語を話せるということは分かりました。そうですか、そうですか、とだけ言っているうちにCさんがやってきました。移動のようです。

 車に乗ろうとすると今度はご婦人が、これは英語でしたが「ようこそ韓国へ」と言って私を呼び止めました。そして緩く抱き寄せ「過去よりこれからが大事だと私たちは知っているので、気にしないで」と言ってくれて、思わず涙が出ました。ご婦人が私のほっぺたを撫でて、それから車に乗せてくれました。あの人は韓国の妖精…?何者か分かりませんが「ザ・気品」な人でした。
 そしてそのとき、私はママがラウンジで大量にもらってきたあの缶ジュースを運転手さんを始め、その場にいた人たちに押し付けるように渡しているのを見ました。なるほど、このように使うためだったのか。妙に納得しました。

 やっと街の様子を見る余裕ができて、日本より派手な看板を眺めて「やっぱりパズルみたいだね」とHちゃんと話しているうちにまたどこぞに到着。
 お菓子屋さんでした。ケーキがあります。また丁重に迎えられて2階に上がるとカフェになっていました。Hちゃんが言うにはCさんはこのお菓子屋さんの経営者だということでした。

 「日本で言うメリーチョコみたいな規模」とHちゃんがさらっと言いました。えっそれはかなりの会社なのでは。その社長が自ら走り回ってお世話してくれるというのだから、相当な式典なのではないのか。と思っていたらコーン茶が出されました。初めて飲むほうじ茶とも違う香ばしい味。さらに好きなケーキを選んでくださいと言われ、Hちゃんと私は1階のお店へ行きました。ママはもうCさんと話を始めていました。
 綺麗なケーキですが色合いがちょっとヨーロッパとは違います。なんだろうか、黄色と紫という和菓子みたいなケーキが並んでいました。無難に苺ののったショートケーキ風のものを食べてみましたが、クリームの脂の濃さが印象に残りました。
 ママとの話の合間に、「娘さん達もっとケーキ食べてください」とCさんがすすめてくれました。Hちゃんが「このあと会食だから食べない方がいいよ」と囁いてくれました。ありがたく遠慮しますが、山盛りの焼菓子を持たされました。

 30分程度の休憩の後、また車でホテルへ向かいました。チェックインは私か…と思っていたらCさんがやってくれました。ありがたし。次は「18時にお迎えに来ます」とのことで、部屋で1時間ちょっと休憩時間が取れました。
 ぎゅうぎゅうに缶ジュースが詰まっていたはずのレスポのバッグは、空になっていました。確かにビジネスの料金に含まれているものだし、こうやって相手が気を遣わない程度のお土産として活用するならこれはこれでアリなんだろうか。かように効率的にすることでお金持ちはお金持ちなんだ…なんてことを思いました。
 私たちも部屋に荷物を突っ込み、アメニティをチェックしました。「あ、歯ブラシがないや」とHちゃんに言われてびっくりしました。ええー昔の日本も確かなくて、歯ブラシセット持って行っていた記憶があるけど、韓国もそうなのか…。いえ、環境のためにこの当時から韓国では余計なアメニティは置かないよということだったようです。
 Hちゃんとホテルの売店に行き、これが初めての韓国でのお買い物。ママの分も買っておきました。

 たいして休めないうちに18時。ロビーに降りてCさんと共にまたあの大きな車に乗って、見るからに高級そうなレストランに到着しました。看板の色がどぎつくありません。

 宮廷料理なのだそうです。「ほんとの宮廷料理になるとさ、女性がついて食べさせてくれるんだよ」とHちゃん。ひえーそんなのは…と私が引くと「大丈夫ここは自分で食べるやつ」とのことでした。
 30人ほどの宴会でした。山盛りの白米が印象に残っています。全部が辛いのかと思いきや、薬膳のような優しい味でした。わらびみたいな山菜っぽいもののお漬物がおいしかったです。しかし食べきれない量が一度にテーブルにのっていてどこからどこまでが自分のエリアなのかさっぱり分かりませんでした。壮観。
 日本語とハングルが飛び交う宴会でした。ママが疲れちゃったということで、途中で退席しました。車の中でCさんが「うまくいきましたね」と笑っていました。「長くってさ、大変なのよ」とママが言うので、計画的疲労だったことが分かりました。
 ホテルに送ってもらい時計を見ると21時。いや長い一日だった。Cさんが「では11時にお迎えに来ます」といって去って行きました。

 …?11時?ママが空港に行くギリギリまで部屋で休めるように明日は14時まで部屋を確保してもらっていたので、??となりました。「11時って…」と私が呟くと「あ、23時だよ。このあと垢すりに行こうよ」とHちゃんが言いました。
 まだ今日は終わりではなかったのでした。


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