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粛々と手を動かしましょう。

今日はお客さんが来ない。

まぁ、米も無いわ、値上げ止まらんわ、暑いわ、台風に地震だわ。
本?読んでる暇も金も無いわ!ましてや月額払って本屋なんてやらんわ!
ってなる気持ちもあるわな。

当店は駅からも離れているので、それもあるとは思うけど。
それでもわざわざ足を運んでくださる方・フラリと立ち寄ってくださる方が本当にありがたい。

今、世の中で何が起こっているんだろう。
社会主義を先日ようやく理解した私でも、ヤバめなのがわかる。

悲観してもしょうがないので、普段どおり居る。普段通りにしかいられないんだけど。しかし1人で黙ってお店にいると、やっぱり少し気が滅入る。来店者数や売上に一喜一憂してるとほんとに気が狂うのに。

「粛々と、手を動かしましょう。」

夏場のランチタイムでもお客さんが来なかった時、バイト先の店長が言っていた。カフェを併設したお弁当屋さんだった。
その時、初めて『粛々』という言葉を知った。いや、知ってはいたけれど、実際『粛々』としたことがなかったし見たこともなかった。

私の『粛々』の第一印象はとても良かった。
シンとした店内で、私と店長の手は包丁を握り、野菜の皮を剥き、肉の重さを測る。足の向きを変えて鍋を取り、芋を茹でる。「お醤油取って」と店長の声に応えようとするが、一向に見つけられない。「目の前にあるじゃない!」と驚かれる。「探せない女」の異名に拍車がかかる。

人の通らない店先を見る。また粛々と、鍋の柄を握り茹で上がった芋をザルにあげて味付けをする。

ジャガイモは熱いうちに塩をしないと味が入らない。
私は物を探すのは苦手だけど意外と根性がある。
店長は怒ると怖いがいつでも愛に溢れている。
『粛々』は、とても心地良い。

文章を書く。頭の中に道ができていく。進む先はわからないけれど、空気は澄み、その土は踏み心地が良い。

私は深呼吸をして、粛々と歩き出す。



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