誰も報われないことに意味がある「日出処の天子」山岸涼子


息を呑むほど顔の造形が美しくて、どこか寂しげな哀愁漂う綺麗な瞳に線の細い華奢な体。どこかほっとけなくて近づこうとしたら、冷たくあしらう癖にそっと服の裾を掴まれるような稀に見せる幼い顔。そんな全人類の女子がハマったら抜け出せない沼のような男。それが山岸涼子先生が描いた「日出処の天子」の厩戸王だ。


長かった王子と毛人の物語がついに終焉した。毛人は布都姫との未来を、王子は気狂いの少女とともに歩んでいくことを選び、二人の道は別々に別れてしまった。

でもそのどちらの道にもこれから先、光が指すことはないんだろうな。

王子は心の深いところで無意識に母親から与えられる愛情であったり、叱ってもらったり、ただ普通に接してもらえることをずっと求めてたんだと思う。だから不思議な力を見ても怖がらず、一緒に人にはできない領域に踏み込むことができる。一緒にいてくれて、たまにはムカつくことも言うけど自分自身を認めてくれる、受け入れてくれる存在の毛人に惹かれていってしまった。

毛人も最初の初恋は女装して池に潜ってた王子だった。でも男の子だって知ってその気持ちのやり場が布都姫に向かっていったけど、王子の初恋は王子だから二人は惹かれあっていたのに。でも毛人は王子の告白に対して最後の最後で拒絶。どこかで、王子が求めている母親の存在に重ねられてることに気づいたのかもしれないし、王子と一緒にいく道を選んだら、もう王子の暴走を止めることができないと思ったのかも。


母親から得られなかったものを与えてくれた毛人も、結局は離れていってしまう。


王子にとって毛人は、自分の存在に必要不可欠な存在なのに、毛人にとって自分はそうじゃない。← これ恋愛の心理だと思う。

泣きながら苦しむ王子の姿に心を痛められる。

もし、あの夜刀の池で毛人が王子の手をとっても、幸せにはならなかったと思う。王子はあまり自分が興味を持っていない人に対しては恐ろしく無関心だけれど、毛人は色んな人を気にかけ、優しくできるからこそ、正反対の二人が引かれたんだろうけど、この違いが残酷に浮かび上がって二人を苦しめると思う。

もう毛人と同じ道を進むこともないし、やることなす事すべて消えて無くなって無駄だってわかってても、やるしかない未来が待ってるなんて私は耐えられない。そんなの不毛すぎる。でも破滅の道と知りながら進み続ける王子だからみんな引かれるんだと思う。

こんな誰も報われない結末なんてあっていいのか!?なんて初めは思ったけど、誰も報われないことにこそ意味があるって考えたらこの胸のモヤモヤが少しでも昇華出来たと思う。



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