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Vaporwave史 2008-2011年(仮)

こんにちは、みしんと申します。

この記事は、新蒸気波要点ガイド: ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019(めちゃくちゃ面白い本だよ。買おう)の巻末のVaporwave年表を元に、Vaporwaveの歴史をまとめたもの、の未完成品です。

(Vaporwaveがそもそも何かご存じない方はこちらをご参考ください。)

目的

Vaporwaveがどういうものに影響されて作られ、発展していったか。

その輪郭をつかむための出来るだけ正確な情報をまとめあげ、時系列順に並べる、というのがこの活動の目的です。

(記事をご覧になった有識者がいらっしゃれば、その方に資料作成のご協力を仰ぎたい、そのアピールのための未完成品公開でもあります。この情報が足りない!これはこれから取り上げたほうがいいよ!などご連絡お待ちしております)

Vaporwaveのことを知りたいという方の導入、または単なる雑学としてお楽しみいただければ幸いです。

それではどうぞ。

2008年

3/28 We Make Money Not Artに「Interview with Marisa Olson」掲載

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画像は「Interview with Marisa Olson」より。

この記事内でMarisa Olsonは自身のアートスタイルを"Post-Internet"と呼んでいることを明かした。

2009年

6/1 Daniel Lopatin、Oneohtrix Point Never名義でRoot Strataから「Memory Vague」リリース

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Oneohtrix Point Neverのオーディオヴィジュアルプロジェクト。

ここに収録されている楽曲は、80年代のポピュラーミュージックをループさせ、そこにエコー、ピッチシフト、チョップド&スクリュードを加える、という手法で作成されている。

(※チョップド&スクリュードについて 1990年代にDJ Screwが開発した技術。音源のピッチを極端に下げ(スクリューさせ)、それを切り刻んで(チョップして)、並べ直したりする技法。詳しくはこちら)

LopatinはFact Magazineの記事、Oneohtrix Point Never: computer visionにてYouTubeにアップされている動画を無断で使用、編集はWindows Movie Makerで行ったと語った。

DVD-Rでの限定発売。

7/20 YouTubeチャンネルsunsetcorp「angel」「Nobody Here」アップロード

Daniel LopatinがYoutubeチャンネルsunsetcorpにて「angel」「Nobody Here」公開。この2本の動画は「Memory Vague」からの抜粋。

それから数本の動画がこのチャンネルでアップされたが、2010年7月28日の動画を最後に更新停止。

7/27 Hipster Runoffにて「Is WASHED OUT the next Neon Indian/Memory Cassette?」掲載

この記事ではWashed Outが取り組んでいるような音楽に対し名前が必要だとして、色々なジャンル名の候補を挙げながらも最終的にはChillwaveと呼んでいる。これがChillwaveという言葉の初出と思われる。

”将来的には"chill wave"ミュージックと呼んでもいいような気がする。(中略)"chill wave"は、80年代後半から90年代前半に屋根裏部屋で見つけた古いVHSカセットのバックグラウンドで流れているようなサウンドになると感じているよ”
Hipster Runoff、Is WASHED OUT the next Neon Indian/Memory Cassette?より筆者翻訳

9/8 Ernest Greeneの音楽プロジェクトWashed OutがMexican Summerから「Life of Leisure」リリース

”若いながらもChillwaveの期待の星であるWashed Outは、彼の才能を常に発揮し続けている”
Pitchfork Media Washed Out-Life of Leisureのレビュー記事から筆者翻訳

Pitchfork Mediaの評価8/10。収録曲の「Feel It All Around」はPitchforkで2009年のベストトラックに選ばれた。

2010年

5/13 Drowned in Soundの掲示板でスレッド「WITCH HOUSE」が立てられる

BEHOLD!今年はWITCH HOUSEの年”当該スレッドより筆者翻訳

この掲示板がきっかけでWitch Houseが新ジャンルとして注目を集めたとされる。ジャンル名は2009年頃DJ Travis Egedyが作ったもの。

”俺と友人のShamsは、闇をテーマにしたオカルト系のハウスミュージックを表現するためにこの言葉を思いついたんだ。マジカル・ハウス・ミュージックだね”
VICE、Teens, Drugs, and HIV Jokes: Welcome to Witch House in Russiaより筆者翻訳。

8/8 Daniel LopatinがThe Clatorial ClubからChuck Person名義で「Chuck Person’s Eccojams Vol.1」リリース

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タイトルの由来はこのアルバムに収録されているような楽曲のことをLopatinが「eccojam」と呼んでいたかららしい。カセットテープで限定発売された。

Side one #2 A2、#4 A4、Side two #4 B4は、それぞれ「angel」「demerol」「nobody here」というタイトルで、YouTubeチャンネルsunsetcorpで公開されている。

アルバムジャケットにビデオゲーム「Ecco the Dolphin」のメガドライブ版、メガCD版のカバーアートの断片を取り入れているが、収録されている楽曲との関連性はサンプリング元の年代くらいか。

2017年、「Eccojams Vol.1」の後に活動を始めたVaporwaveのプロデューサーについてLopatinはこう語っている。

”eccojamsのポイントは、専門的な音楽技術の知識を必要としないDIYの実践であり、私にとっては、音楽的な意味ではなく感情による、変幻自在で哲学的なやり方でオーディオを扱う方法だったけど、その方法で人々がものを作り、それを通してつながりや意味を見出すことは、私が望むすべてだよ”
Reddit Ask Me Anythingより筆者翻訳

2019年末、Tiny Mix Tapesはこの作品を2010年代のナンバーワン・リリースに選んだ。

10/2 骨架的「Skeleton」セルフリリース

11/2 骨架的「Hologlam」セルフリリース

”ーーアルバム『Hologram』が作られたのは2010年の9月と記されています。これはVektroidがVaporwaveという概念・ジャンルを提唱するよりも早く、また『Chuck Person's Ecoojams Vol.1』と同時期に発表されており、この時点で現在のVaporwaveのスタイルがすでに確立されているものだと私は思います。どういったどういった経緯で発表したのでしょうか。

ポスト・チルウェイブやエクスペリメンタル、あるいはスロウ・ジャムだと思って発表した。

ーー自身が作った楽曲を誰に聴いてほしいと考えていましたか?また、音楽を作る目的はなんですか? 

Sunset Corp.(Chuck Person)の「Angel」がすごく好きだったんだけど、当時他に似たような音楽はあまりなかったから、こういうのが世の中にもっと必要だって感じたんだよね。”

新蒸気波要点ガイド: ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019 38p、39pから引用

11/22 Ramona Andra XaviherがPrism CorpからVektroid名義で「Telnet Erotika」を発表

80s、90sの楽曲がサンプリングされているVektroidとしては最初の作品。Oneohtrix Point Never「Nobody Here」のリミックスが収録されている。

Vektroid自身はこのEPのような楽曲をMS-DOS WAVEと呼んでいる。

2017年4月13日に新曲12曲とオリジナルEP1曲目の編集版を追加して「Telnet Complete」としてBandcampで再リリースした。

2011年

1/29 ベルリンのGentili Apriにて「Post Internet Survival Guide 」開催Katja Novitskovaによる「Post Internet Survival Guide 」2010出品

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画像はPost Internet Survival Guide 2010より。

6/1 Lil Internet、Twitterで「seapunk leather jacket with barnacles where the studs used to be」と投稿

この投稿により、Seapunkという言葉が生まれた。

Seapunkは音楽、ファッションのジャンルと認識され、新たなアートフォームとして各種メディアに取り上げられる。

6/22 Robin Burnett、INTERNET CLUB名義で「Internet Gospel Pt. II」セルフリリース

”最初はturntable.fmで流す無意味なMP3を作ってて、それは単なる冗談みたいなものだった。INTERNET CLUBとして作り始めたのにはとくに具体的な理由はないよ。”
新蒸気波要点ガイド: ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019 44pから引用

7/1 Ramona Andra XavierがBeer on the Rug、PrismCorpからLaserdisc Visions名義で「New Dreams Ltd.」をリリース

後にChicago Readerの記事「Vaporwave and the observer effect」でChaz Allenら複数のアーティストがこの作品に影響を受けたことが明かされる。

カセットテープ版は同年8/22にリリース。

8/2 Ramona Andra Xavier、PrismCorpからFuji Grid TV名義で「Prism Genesis」リリース

日本のCMをコラージュした作品。
2016年2月14日にNew Dreams Ltd.名義でリビルド&リマスター版がリリースされた。

日本語版Wikipediaにサンプリング元のCMがほとんど全て記載されている。

(少し紛らわしいが、Xavierは「New Dreams Ltd.」を作品名としてもアーティスト名としても使用している)

10/13 Weed Templeが記事「Review: Girlhood - Surfs Pure Hearts」で”Vaporwave"というジャンル名を使用

ウェブ上で確認に出来る”Vaporwave"という言葉の最古の使用例

”私はこのような音楽をVaporwave(Vaporwareというソフトウェアに似ている)と呼んでいます。これはshy beat(テンポやピッチを落としたビートのことか)やニューエイジ、昔のコンピュータのイメージで、レトロな雰囲気(アナログシンセなど)を再現しようとするプロジェクトです”
Weed Temple、Review: Girlhood - Surfs Pure Heartsより筆者翻訳

10/25 James Ferraro、Hippos in Tanksから「Far Side Virtual」リリース

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このアルバムのコンセプトは「16曲のダウンロード可能な着信音」である。

”願わくば、これらの曲が着メロとして提供され、アルバムが着メロのフォーマットに凝縮されて、アルバムが中心ではなく、インフラの中に溶け込んでくれればいいなあと思っているよ。レコードは、これらの着信メロディを収録したギャラリースペースに過ぎない”
James Ferraro's Versace Dreamsより筆者翻訳

Appleの無料作曲ソフト「GarageBand」を使って製作されており、効果処理をしていないMIDIサウンド、コンピューターのシステム音、合成音声などで楽曲は構成されている。

”Far Sideを本当に理解したければ、まずドビュッシーを聴いて、次にフローズンヨーグルト屋さんに入る。その後、アップルストアに入って、ブラブラして。そして、スターバックスに行ってギフトカードをもらう。そこにはスターバックスの歴史について書かれた本が置いてあるから、その本を買って帰ろう。 これらのことをすれば、Far Side Virtualがどんなものか理解できるだろうね”
Artist Profile: James Ferraroより筆者翻訳

12/9 Ramona Andra Xavier、Macintosh Plas名義でBEER ON THE RUGから「Floral Shoppe」リリース

当初はデジタル版のみだったが後にBEER ON THE RUGからカセットテープ版Olde English Spelling BeeからLP版が発売された。

Fuji Grid TV名義のPrism Genesisと同じく日本語版Wikipediaにサンプリング元が掲載されている。

YouTubeにアップロードされた、アルバム2曲目の「リサ・フランク420 / 現代のコンピュー」は2018年4月27日、ソニーミュージックに削除されるまでに約4000万回再生再アップロードされたものも約1600万回再生されている。

更にファンメイドのミュージックビデオも作成された。

こちらは現在までで約250万回再生されている。

Floral Shoppeはリリース後、現在に至るまで様々なメディアでVaporwaveを代表するアルバムとして取り上げられ、評価された。

”Macintosh Plus、情報デスクVIRTUAL、Laserdisc Visions、Sacred Tapestryを傘下に収めたNew Dreams Ltd.は、様々な意味でこのジャンルを最もよく体現していたと言えるでしょう。Vaporwaveの最も重要なリリースを提供しただけでなく、バーチャル・カジノを訪れてくれたことに感謝して、絶妙なタイミングで折り畳んだのです。2012年は、Vaporwaveがブレイクした年というだけでなく、Vaporwave自体が淘汰された年でもあります(モーフィング、リブランディング、実践者の移動など)。しかし、記憶に残るべき単一のリリースがあるとすれば、それは間違いなく「Floral Shoppe」です。コンセプチュアルなものと官能的なものを芸術的に融合させただけでなく、この2つが切り離せないことをパフォーマンスで表現したことで、際立っていました”
TINY MIX TAPE 2012: Favorite 50 Albums of 2012より筆者翻訳

2011年、その他の関連作

5/14にBEER ON THE RUGからリリース。

7/27にExo Tapesからリリース。

12/1にAs Above Belowからリリース。


2012年に続く......

参考資料

Special thanks

構成協力 しろ。Twitter
翻訳協力 おかゆの日 Twitter

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