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2021年ブラジル・ディスク大賞関係者投票(yamabra archive)

2021年度のブラジルディスク大賞、関係者投票に選んだアルバムです。2004年から2021年度まで、徐々に試聴リンクをつけてアーカイブしています。アルバムごとに、その当時ブログに掲載した紹介コメントも付します。

この年は2人の大御所Caetano VelosoとMarisa Monteのアルバムが素晴らしかった。変わらぬ創作の力に圧倒された。そのほかもいずれも個性的なアーティストの良作が目立った。


総評:

ビッグネームの久々の新譜があまりに素晴らしく、彼等らしい音に感涙。格別に繊細だったアンドレのピアノソロ、コロナ禍のSNSで大活躍だったヴァネッサの新譜も極上。5)も久々のソロ作。相変わらず甘酸っぱい。6)はピアノのみならずトリオとしても規格外。7)は感性豊かなメランコリアの塊。8)のバイーア産ラージアンサンブルと、音がぎっしり詰まった9)には血が騒いだ。10)はメロウなブラジリアン・ソウルの新星。

1) CAETANO VELOSO / Meu Coco

Caetano Velosoの久々のニュー・アルバム。「Abraçaço」以来、約9年ぶりとなる新作で、SONY MUSICからの初めてのアルバムです。この作品、個人的には「お帰りなさいカエターノ」っていう感じ、Caetanoが戻ってきたって勝手に思っています。盟友Gilberto Gilがこの間「老いてますます盛ん」に、自身の音楽をヴァージョンアップした意欲的な作品をリリースしていたので、不在とまでは言いませんが、Caetanoの活動の物足りなさを対照的に強く感じていました。
全曲がCaetanoの作詞作曲です。実にCaetanoらしい楽曲が並んでいます。紛れもなく彼の旋律であり、彼の展開であり、美しくもあり時に挑戦的な姿勢も見いだせます。Caetanoの声の艶も全く衰えはありません。
北東部のリズムをアルバムの中心にすえて、Thiago Amudのホーンのアレンジや、Jaques Morelenbaumのオーケストレーションとソロ、Mestrinhoのアコーディオンや、Hamilton de HollandaのバンドリンとCarminhoをフューチャーしたファドなど、色彩感に溢れた多様なファクターと先進性を内包した、これは紛れもなく今年を代表する傑作です。


2) MARISA MONTE/ Portas

10年ぶりなんですか?なんかそんな間があいた気もしないのはSNSのおかげかな。動向を見ているからむしろ久々感はないので。で、このアルバム、紛れもなくMarisa Monteの音楽です。変わらない、という人もいるけど変わる必要などあるんですか?彼女らしいサウンドと、楽曲と、そしてなんと言っても蠱惑的な彼女の艶やかな歌声は、唯一無二に確立されているもの。本作も存分に彼女の音楽を堪能できる素晴らしいアルバムです。楽曲の配列も絶妙です。なんてったって、いまだに彼女以上に魅力的な女性アーティストはいないって、思います。


3) ANDRÉ MEHMARI / Notturno 20 > 21

コロナ禍の世界に届いたAndre Mehmariによる「夜想曲」集。今までのAndreのアルバムの中でも、個人的には最も好きなアルバムの一つと言って過言ではありません。Monteverdi、Couperin、Purcell、Bach、Hermeto Pascoalなどの曲を含む、クラシカルで典雅な選曲のピアノソロ・アルバム。彼の作品の中でもとびっきり内省的で、とびっきり繊細なピアノのタッチは、珠玉の美しさを湛えています。災厄の中、人々の不安な気持ちを包み込む様な優美な響きに満たされた傑作だと思います。


4)VANESSA MORENO / Sentido

このコロナ禍にあって、コンスタントにSNS等での発信をし続けているVanessa Morenoのニュー・アルバム。音楽の楽しさそのものを体現しているような、太陽のように明るい彼女のパフォーマンスには、常に誰よりも力をもらっているような気がする。本作は彼女の歌、ギター、ヴォイス・パフォーマンス、ギターや体をを叩て作るリズムによる完全なソロ。愛らしくて艶のある、伸びやかな歌声は今ブラジル一ではないでしょうか。今最も山形に呼びたいアーティストです。コロナが収まったら、お願い。来て。


5)RODRIGO AMARANTE / Drama

現在は活動していませんが、Los Hermanosというロック・バンドがありました。個人的にはブラジルの音楽が好きでも、彼の地のロックを聴くということは実はほとんどありません。そんな私ですが、このグループだけはほんとよく聴きました。Los Hermanosの凄さは、フロントの二人が圧倒的に素晴らしかったこと。シンガー・ソングライターとして、曲も、して歌も。その一人はTamba TrioのBebetoの甥っ子でもあるMarcelo Cameloであり、もう一人がこのRodrigo Amaranteです。本作は”Drama”と題された彼の久しぶりのソロ・アルバム。甘酸っぱい楽曲の愛おしさ、そして胸に迫る切ない歌声は、やはりRodrigo Amaranteだなぁ〜って、ただひたすら酔いしれています。


6)AMARO FREITAS / Sankofa

ブラジル北東部レシーフェ出身のピアニスト、Amaro Freitasの通算3作目のアルバムです。全2作も大いに話題になっていたのですが、例によって私、なかなかピンとこなくって、Far Outからの本作を聴いてやっとその素晴らしさに合点がいったという、なんとも鈍くて申し訳ありません。本作もJean Elton (bass)、Hugo Medeiros (drum)とのトリオによるアルバムです。ダイナミックで、時にアヴァンギャルドで、間があって、リリカルで、執拗に繰り返されるフレーズと複雑なリズムパターンによるユニークな、規格外のピアノトリオです。必聴。


7)JENNIFER SOUZA / Pacifica Pedra Branca

Monnsのメンバーでもある、女性シンガー・ソングライター、Jennifer Souzaの2ndソロ・アルバムです。1作目もよかったけど、これはさらにいいなぁ〜。全編がメランコリックな空気に包まれていて、洗練された優しく深みのあるサウンドと、彼女の感性豊かで儚い歌声が、聴くものの記憶の奥を穏やかに刺激します。心地よくって、でもちょっと切なくて、本作で化けたなぁって思います。Frederico Heliodoro、Felipe Continentino、Leonardo Marque、Moons 、Tigana Santana、Rafael Martiniなど気鋭のメンバーが参加しています。美しいアルバムです。


8) ORQUESTRA AFSINFÔNICA / Orin, A Língua Dos Anjos

あの申し訳ない書き出しなのですが、私、ビッグバンド系が苦手なんですね。だからこれもDLはしてあったのですが、ちゃんと聴かずに放置していました。ところが試しに聴いてみたら、やられました。Orquestra Afrosinfônicaはサルヴァドールのラージ・アンサンブル。バイーアの伝統的なアフロ由来の躍動するリズムと、歌と女性コーラス、分厚い弦と管のアンサンブルには、血が騒ぎます。


9)RAFAEL MARTINI / Vórtice

目下話題の中心と言って良いのでないでしょうか。Rafael Martiniのニュー・アルバムです。圧倒的な躍動感、飛翔感と、そして恐らくはロック魂。Jobimの曲やZeppelinの曲も話題に上っているけど、やはり本人のオリジナル曲の充実度が凄まじくhard driving。ぎっちり音が詰まっていながら、これがよく動くのです。そうエントロピーが大きいという感じ。むしろ本人以外の曲は敢て音の隙間を作った感じかな。しのごの言ってますが、単刀直入に言えば、どえらくカッコイイです。11月リリースだから来年のベスト?


10)YOÙN / Bxd in Jazz

もはや巷間話題にあってますけど、うむむ、これはいいなぁ〜。ブラジリアン・ネオソウル界のニュー・フェイスによる話題のアルバムですね。ジャケットの二人(ジアン・ペドロとシュナ)によるユニットです。なんだろうなぁ〜、テンポがゆったりしていて、旋律がメランコリックで、この手のサウンドの中では出色にまったりしてますね。R&B/ソウル、ヒップホップ、ジャズ、エレクロトニカ、アフロ・ブラジルなど幅広く多様なファクターを、メロウな彼等ら的な音にまとめ上げて、今年一番気持ちいいかもしれませんね〜。



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