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偏愛音楽。 その6:João Donato 90 anos

「偏愛音楽。」の6回目は、本日生誕90年となる故João Donato(1934年8月17日- 2023年7月17日)のアルバムから僕の偏愛するアルバムを10枚セレクトしました。

追悼: João Donatoに記したように、山形に来ていただいた思い出は今も忘れ難いもので、生きていれば90歳となる今年においてもJoão Donatoの音楽への憧憬は常に僕の中にあります。奇人変人として名高かった彼を山形に迎えた時はかなり緊張感もありましたが、少なくても山形での彼は柔和で天真爛漫な愛すべき人でした。

幻のポスター。サイン入りです。

僕が最初に聴いたJoão Donatoは「Quem é Quem」で、お世辞にも上手いとは言い難い歌声の持つ独特の磁力と、跳ねるようなピアノの強靭なグルーヴに、すぐに僕の愛聴盤に為りました。その後、米国でのファンクの時代を経て、そしてブラジルに戻ってからも、溢れんばかりの創作意欲の下に晩年まで数多くの作品を残しました。本人はただただ好きな音楽を、ひたすら楽しんでいたという方が当たっているかもしれません。

例によって試聴リンクと各々に短いコメントを付しました。あくまで僕の偏愛するアルバムで、名盤紹介ではありません。誤解のないように。





Muito À Vontade (1965)

1959年、Elizeth Caldosoとメキシコ・ツアーに向かったDonatoは、そのまま米国へ向かいそこに活動の場を見つける。1962年に一時帰国時しますが、その時に残した作品の一つ。 メンバーはTiao Neto (b), Milton Banana (d), Amaury Rodriquez (perc.)。瑞々しく軽やかな演奏が素晴らしい。


A Bad Donato (1970)

DonatoがUSA滞在時の1970年に彼の地で録音された、ファンキーなアルバムです。サポートにOscar castro Neves、Dom Um Romao、Ernie Watts、Bud Shankなどが参加。編曲はDonatoとDeodado。凡百のfusionとは一線を画す、この時代のDonatoの超弩級名盤。


Donato Deodato (1973)

録音してあったDonatoの演奏に、後でDeodadoがオーケストレーションを施した作品。"Bad Donato"のような強烈なfunknessでは無いけれど、Airto, Ray Barretto, Mauricio EinhornやRandy Breckerの参加したsoundは、Deodadoらしい色彩感があって、極上のBrasilian Fusionに仕上げられています。


Quem é Quem (1973)

Donato本人が初めてvocalをとった1973年の作品であり、僕にとっても初めて聴いたDonato。エレピが入ってくるだけで、瞬時にDonatoの空気が出来上がります。どんなslowな曲でも、Donatoならではの強烈なグルーヴが感じられる、恐ろしいばかりのリズム感。この心地よい浮遊感は、この人にしかでません。


Lugar Comum (1975)

1970年代のJoão Donatoと言えば、"Quem e Quem"が一番人気の高い作品だと思うが、本作もそれに引けを取らない名作。Donatoらしい、「ゆるゆるなのに強烈」なgrooveを味わうことが出来る。"Lugar Comum", “E Menina”, “Bananeira”, “Emorio"などGilとの共作による名作が収められています。


Leilíadas (1986)

リオの"People"でのライブ音源で、1986年作。Donatoの声とピアノを中心に、トランペット、トロンボーン、サックス、フルートによる分厚いホーンのアレンジメントと、Teo Limaを中心としたタイトなリズムによる、白熱のライブ録音。Donatoのピアノとしてはいつもの間を感じさせる演奏ではなく、かなり力強く煌びやかな演奏が印象的。


Coisas Tão Simples (1995)

リサさんの"Minha Saudade"で本格的に復活したDonatoの、1996年の作品。"Quem e Quem"や"Lugar Comun"路線のメロウな作品です。期待を裏切らない素敵な内容で名曲が満載。Claudio Jorge、Wilson das Neves、Teco Cardoso、Marcos Suzanoそして城戸夕果さんが参加しています。


O Piano de João Donato (2007)

piano soloによる作品。本作にはDonatoのオリジナルが8曲と、6曲のJazz Standardが収録されています。しかしDonatoの手にかかるとすべての曲がDonatoの色に。シンプルで天真爛漫な旋律と、美しく複雑なハーモニーと、飛び跳ねるような独特のグルーヴによって、彼だけの音楽として完結しています。


Donato Elétrico (2016)

音楽的に1970年の”Bad Donato”の延長線上にあるアルバム。彼のキーボードとホーンとストリングスの分厚いアレンジによる、47年前のそれと変わらない無邪気で緩やかな、彼ならでは屈託のないグルーヴで満たされている。この時すでに82歳。ほんとすっごいおじいちゃんだった。かっこよすぎ。


Serotonina (2022)

色彩感のある暖かいサウンド、相変わらずのヘタウマな歌、独特のリズムとタイム感覚、緩いようでいて抜群のグルーヴ感も流石の一言。「セロトニン」は、抑制系の脳内神経伝達物質。興奮系を制御することで情動的な安定をもたらす。そのタイトル通り、ほんとに本人もリラックスして音楽を楽しんでいます。これが遺作になってしまった。


ほんと無邪気な方でした。

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