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僕の好きなアジア映画100: パスト ライブス/再会

『パスト ライブス/再会』
2023年/アメリカ・韓国/原題:Past Lives/106分
監督:セリーヌ・ソン(Celine Song)
出演:グレタ・リー(Greta Jiehan Lee)、ユ・テオ(유태오)、ジョン・マガロ(John Robert Magaro)など


さまざまなドラマや映画をみていると、韓国人にとっては米国やカナダに移住することは、留学というと金持ちの子息という日本人の感覚とは大きく異なって、極めて普通にあり得ることのように見える。この映画の監督自身も移民だという。さらに最後のバーでのシーンは実際に監督が経験したことだというから、自身を投影した作品なのだろう。

さて今回は若干ネタバレになる部分があるのでそう思って読んでほしい。この美しく繊細なラブ・ストーリーを読み解く視点が、大きくは2つあるように思われる。

1)主人公達の在り方における時間軸

グレタ・リー演じる主人公は、過去と現在の間で揺れている。「過去」は韓国での恋愛、もしくは相手の韓国人男性であり、「現在」は今のパートナーである白人男性である。ユ・テオが演じる韓国人男性は時間的な「現在」においても常に彼女との「過去」の恋愛に固執している。そして主人公の「現在」たる白人男性は、彼女の「過去」の恋愛が「現在」に連なることに不安を感じている。

2)「アジア的」な価値観、「非アジア的」な価値観から

朝鮮語の「イニョン」という言葉。運命論や前世や来世という価値観を示すいかにもアジア的な価値観を象徴するものだが、韓国人男性は未だその価値観の中にあり、不確定な「来世」に恋愛の成就を期待する。一方主人公は幼少期を過ごした韓国の「アジア的」な価値観を持ちながらも、自立した女性として「非アジア的」価値観に生きていて、彼女はその両方を宿している。そして白人男性は極めて欧米的なアティチュードとして、相手を理解し尊重することを良しとし、悪く言えば物分かりの良いふりをしながらも、彼女を奪われるのではないかという嫉妬と不安に苛まれている。


こういう軸の中で物語が進んでいく。そして美しい最後のシーンで彼女が何を選択するかは、そしてそれを如何に描いたかは、是非実際に映画を観て体感してほしい。デリケートな眼差しの、まさに僕の好きな種類の映画だった。

そして本作はA24と韓国ドラマなどでもお馴染みのCJEとの米韓の気鋭の制作・配給会社がタッグを組んでいる、という点でも画期的である。映画の世界において韓国はもう信じ難いほど先に行ってしまい、日本はもう韓国の後ろ髪すら見えない。グローバルであれば良いというわけではもちろんないけれど、日本の映画界のガラパゴス化も深刻に思える。

インディペンデント・スピリット賞 作品賞・監督賞、ゴッサム・インディペンデント映画賞最優秀賞、全米映画批評家協会賞作品賞、AFI Movies of the Yearなど。


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