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2007年ブラジル・ディスク大賞関係者投票(yamabra archive)

LATINA誌のブラジルディスク大賞、2007年度の関係者投票に僕が選んだディスクです。2004年から2021年度まで、徐々に試聴リンクをつけてnoteにアップしています。アルバムごとに、その当時ブログに掲載した紹介コメントも付しました。コメントが古いのはその当時だけにご愛嬌ということで。

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総評:

1位:マリア・ヒタらしいスタンスのサンバ。わたしゃ好きだね。2位:「欧米の曲をボサノヴァで」というありがちなコンセプトを完璧にやっちゃうルシアーナ。3位: スザーノ、ヴィトール双方にとって良縁と言えましょう。良いコンビだ。4位:サンパウロ的極上ジャズスタンダード。哀悼の意も込めて。5位:渋い。しゃかりきに来なかったのが良い。惜しくも次点は、スワミ・Jr.、マックス・ヴィアナ、マリアナ・ヂ・モラエス。


1. Maria Rita / Samba Meu

Maria Ritaの3rd。今回はなんとsamba回帰。Sambaといってもclassicなarrangeもあれば、choro的な解釈も、contemporaryでsoftなsambaまで振れ幅はあるけれど、結局はMaria Ritaらしい素敵なsamba集。曲はArlindo Cruz, Edu Kriegerを中心にイイ曲揃い。Tr.2ではGonzaguinhaの"O Homen flou"なども取りあげて泣かせてくれる。sound面では1作目からMaria Ritaをback upしているThiago Costa (p)の存在が実に大きい。彼の存在がヘタをすればただのsamba集で終わってしまうところを、contemporaryなMaria Ritaらしい作品にした。Maria Ritaの歌は母Elisのような強烈さや切れ味は無いけれど、その分柔らかい情感と暖かみに満たされている。素晴らしい3rd album。


2. Luciana Souza / The New Bossa Nova

個人的には歌手として今一番信用しているのがこのLuciana Souza。以前にも2枚紹介していますが、Sao Paulo出身の歌い手です。ダンナはJoni Mitchelの元ダンナで、bassist/producerのLarry Klein。本作のproducerでもあります。"The New Bossa Nova"というtitle。この手の命名はむしろ要注意で、ベタなものも多いのだけれど、Lucianaということで入手。で、これ傑作でしょ。Joni Mitchel, James Taylor (guest vo.), Sting, Walter Becker/Donald Fagen, Randy Newman, Michael McDonald, Brian Wilsonなどの曲を採り上げて、上品な大人のBossa Novaに仕上げています。こういう人達の音楽ってもともとBossa Novaが好きな人にとっては、「その前」に聴いていた音楽だったりする。この辺の選曲も憎たらしいし、実に抑えめのarrangeも小憎らしい。英語の歌を歌っていても最終的に浮かび上がるのはBrasilidadeというのがなんとも素晴らしい。それにしてもLucianaの歌の染みること。


3. Vitor Ramil + Marcos Suzano / Satolep Sambatown

Marcos Suzanoと話をする機会を得た時に、Suzanoが褒めちぎっていたのが今回相棒となったVitor Ramil。すでに素晴らしい作品を多数産みだしている南部出身のSSWで、このblogでも何作品か紹介もしている。ただ、むしろArgentineやUruguaiのmusicianと交流があり、Rioの音楽とは一線を画する感のあるVitorの音楽と、Suzanoの音楽がどの様に噛み合うのかが疑問でもあった。期待とすこしの懸念を持って聴き始めたが、杞憂であった。Vitor独特の透徹で美しい曲と、Suzanoのflexibleなpercussion, programが見事に溶けあった快作。見事に"Vitor + Suzano"の音楽になっています。guestにJorge Drexler, Katia B。Jacket workもオタクっぽくて良い。


4. Rodrigo Rodrigues / Fake Standards

これは早くも私の愛聴盤になっています。Musica Ligeiraの一人、故Rodrigo Rodrigues、唯一のsolo名義の音源。採り上げているのはすべてJazz Standard。その選曲からもChet Bakerを強く意識させるものだ。Brasil人がJazz Standardを歌う、と言う意味ではFakeかも知れないけれど、Brasilらしい(Musica Ligeiraらしい)音は、決してFakeではない。むしろJazz Standard的な音の作りではない部分が、Fakeという表現と理解されよう。暖かくnoatalgicなhornやstringsのarrangeと、acoustic guitarの響きはFakeと言うよりは、とてもoriginalなstandardと言える。stringsのarrangeとover-dubにMusica Ligeiraの盟友Mario Manga。しばらくこれにはまりそう。


5. Rodrigo Maranhão / Bordado

要注目ということでは、この人。Rodrigo Maranhãoの初solo作品。"Samba Novo"でもこの人が主役といってもよい活躍でしたが、Monobloco, Bangalafumengaなどblocoでの活動、そしてMaria RitaRoberta Saなどへの楽曲提供でも注目されています。そして初のsolo名義の本作には、多くの人が期待をしていたはず。その期待、決して裏切りません。violão, percussion中心の、ごくごくsimpleな編成で、自曲を丹念にうたう姿勢は背伸びのない自然体。実にnaiveで、愛着の湧く音楽です。世間的には新世代のsambaの旗手って言う期待感もあるのでしょうが、そういう先入観無しに、等身大のRodrigoの音楽は確かな魅力に溢れています。


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