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僕の好きなアジア映画102: 緑の夜

『緑の夜』
2023年/中国/原題:绿夜/Green Night/92分
監督:ハン・シュアイ(韩帅)
出演:ファン・ビンビン(范冰冰)、イ・ジュヨン(이주영)、キム・ヨンホ(김영호)

なんといってもファン・ビンビンです。実は僕はあの事件までこの女優さんについて見たことも聞いたこともなかったのです。あの事件とは、こちら↓

巨額の脱税事件ですが、当局が彼女を富裕層に対しての見せしめ的に逮捕した側面も伺われるものでした。事件当時見たファン・ビンビンさんは、強烈に美しい方だと思ったのですが、しかしメイクがきつすぎて、正直に言えば作り物的印象を持ちました。

事件前のビンビン。

その後彼女は一時期に社会から「消えた」状態になり、やっと本作で映画に復帰を果たしたとのことらしいのです。そして本作ではグッとメイクを抑えて、ほぼすっぴんと思わせる等身大に近い(と思われる)地味な印象で登場します。

地味メイクのビンビンさん。

ファン・ビンビン扮する中国人女性の主人公は、韓国の空港の保安員として働いています。何故かは明らかにされませんが、お金が必要らしいことがわかります。しかし薄給であり、さらには暴力的な韓国人の夫に虐げられて屈辱的な生活をしています。そんな時空港の保安検査所に現れた一人のミステリアスな女性、髪を緑色に染めた麻薬の運び人のようです。彼女の運命的な登場で物語は動き出します。

イ・ジュヨンはすげぇ〜役者だ。

ここから先はもうネタバレになっていくのでできるだけストーリーには触れないようにします。緑の髪の女性にはその演技力で評価の高い韓国女優のイ・ジュヨン。もはやこういう曲者的役をやらせると彼女の独壇場と言って良いでしょう。

さて、虐げられた女性同士としてシンパシーを感じ合った彼女達は、現象的にはどんどん闇の世界に「堕ちてゆく」のですが、しかし精神的にはどんどん抑圧から解放されていきます。パラドキシカルなようですが、彼女達の姿から了解可能です。最後のシーン、彼女達がこのあとどうなっていくのかは明確に示されませんが、その表情から(イ・ジュヨンは犬になってますが)は抑圧から解き放された破滅的な、しかし一種喜びにも似た充足感を読み取ることができます。

緑が実に印象的です。

これが長編2作目という女性監督ハン・シュアイは、昼の自然な緑とは違う人工的な光としての怪しげな「緑」の色彩で、この映画を統一し独特の危うい、妖しい世界観を作り上げています。抑圧された女性二人の破滅的で刹那的なクライム・ストーリーを、リドリー・スコットの『テルマ&ルイーズ』に比肩するような、個性的な物語と世界観で描き出しました。これ、必見です。


2023年ベルリン国際映画祭テディ賞/パノラマ観客賞ノミネート、2023年東京国際映画祭 ガラ・セレクション部門出品


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