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2014年ブラジル・ディスク大賞関係者投票(yamabra archive)

2014年度のブラジルディスク大賞、関係者投票に選んだアルバムです。2004年から2021年度まで、徐々に試聴リンクをつけてアーカイブしています。アルバムごとに、その当時ブログに掲載した紹介コメントも付します。この年選んだアーティストは、モニカ・サウマーゾ、アンドレ・メマーリ、ヘナート・モタ、ギンガ、そしてゴローさん含めて五人も山形で公演をしていただいた方々でした。さらにジャキスも山形に来てくれるはずだったのです。これって結構凄い事じゃないでしょうか?



総評:

①はシンプルな中に意欲溢れる御大の力作。②は共通した音楽的記憶を持つ二人による音の結晶。ソロ東京公演を収録した③は、音の粒が光輝く。サンバの進化形を模索した鋭利な④。へナートらしい変わらぬ美意識と愛に満たされた⑤。⑥は異才ギンガの優美なソロアルバム。そしてモニカのギンガ集⑦も圧倒的。新たな才能が躍動する⑧。父と方向性は違うが、ヴィヴィッドな音が溢れ出る⑨。⑩は注目の二人による知的で静謐な共演。


01: Gilberto Gil / Gilbertos Samba

問答無用で今年のベスト、今のところ(笑)。Gilberto Gilの新譜は、息子Bem GilとMoreno Velosoをプロデューサーに据えて、João Gilbertoの愛唱するサンバを取り上げた好企画。Danilo Caymmi, Rodrigo Amarante, Nicolas Krassik, Joana Queiroz, Dori Caymmiを迎え、Gilの声とギターを中心とした作品。しかしながら、DomenicoやMorenoによるリズムの処理が繊細で斬新で絶妙!Gilの至芸と溶け合って新しい世界観が構築されている。素晴らしい!マスト!


02: Goro Ito + Jaques Morelenbaum / Rendez – Vous In Tokyo

本年8月、ブルーノート東京で共演を果たした伊藤ゴローとジャキス・モレレンバウム。ステージとしては2度目、そして複数のスタジオでの共同作業を経て来た二人だが、双頭の名義を冠したアルバムは本作が初である。今年没後30年を迎えたアントニオ・カルロス・ジョビン、そしてヴィニシウス・ヂ・モラエスの楽曲を中心として、伊藤ゴローとジャキスのオリジナルが各々3曲と1曲収録されている。本作は、二人に共通した音楽的記憶、特に印象主義音楽を中心としたクラシック、そしてそれらをルーツの一つとするボサ・ノヴァを通しての、音による親密なる対話である。二人の宇宙が極めて高い親和性の元に共鳴しつつ、精緻にして芳醇なる交歓が記録されている。ジャキスの妻パウラ・モレレンバウムと18歳の娘ドラがヴォーカルで参加。また、澤渡英一(ピアノ)と小川慶太(ドラム)のセンシティブなサポートも特筆すべき。


03: André Mehmari / Tokyo Solo

2013年のソロ・ジャパンツアーでの東京公演を収録した本作は、企画盤(MPBabyシリーズ)以外では初の、すべてピアノ・ソロによるアルバム。自身の代表曲をはじめ、シコ・ブアルキ、エルネスト・ナザレー、そしてクールビ・ダ・エスキーナのメドレーなどを、豊かな発想で表現した圧倒的な作品。秀でた技術はもちろん、繊細でいて力強い輝く様なタッチと、壮大なスケールは他に類をみない。伝統的なブラジル音楽の革新的な解釈者であり、また自由自在な即興演奏家でもある。端正な演奏と作曲・編曲の底流には、聴く者の琴線に触れる確かな美意識と、魂を揺さぶる豊かな叙情性が感じられる。唯一無二の色彩を帯びた彼の音楽は、降り注ぐ光の粒の様だ。

↑このアルバムの試聴リンクはなかったので山形公演の動画です。

04: Diago Nogueira + Hamilton De Holanda / Bossa Negra

ああ、これは名盤の誕生だ。今や誰もが認めるバンドリンの最高峰Hamilton de Holandaと、故Joao Nogueiraの息子Diogo Nogeira (vo.)の、デュオ名義のアルバム。加えてAndre Vasconcellos (b.)とThiago de Serrinha (perc.)というコンパクトな編成で、サンバの新しい形に挑んだ意欲作。Hamiltonを中心としたタイトでスリリングな演奏と、Diogoの堂々とした歌唱が感動的。伝統的音楽の延長線上において新しい地平線を切り開いている。素晴らしい!


05: Renato Motha / Menino de Barro

ソロ名義としては、2001年の「Todo」以来のヘナート・モタのアルバム。このところマントラの作品が多かったので、個人的にはMPBに回帰した本作を待ち望んでいた。本作はすべてヘナートのオリジナル曲が収録されているが、ミナスの伝承曲モヂーニャをベースにした秀作「アンチーガス・カンチーガス」に連なる、クラシカルでメランコリックな曲想は、まるで伝承曲かと思わせる懐かしさを感じさせる。ヘナートの歌とヴィオロンに、川のせせらぎの音、虫や鳥の声、ヘナート自身に依るヴィブラフォン、そして控えめなストリングスが混ざり合い、穏やかな至福の時を与えてくれる。そういえばミナスの彼の家には、森や川があって、滝もあるのだと言っていた。もしかするとこれは彼の自宅で録られた音なのだろうか。ミナスの美しい自然や大地、そして人への深い愛情に根ざした彼ならではの、慈しみに溢れた音楽です。


06: Guinga / Roendopinho

Guingaのドイツ録音で、キャリア初の完全ソロ・アルバム。誰が言ったか「ブラジル3大変態作曲家」の一人(笑)だが、あり得ない程独自の旋律をここまで美しく、豊かな響きとして表現出来るのは、彼故である。ソロ・アルバムということで、破格のギタリストとしての彼もじっくりと聴くことが出来る好盤。変態であるか無しかは聴く者個人で感じて頂くとして、作曲家/ギタリストとして、現代のブラジルを代表する音楽家の筆頭であることに異論はないだろう。


07: Mônica Salmaso / Corpo De Baile

Mônicaのニューアルバムは、Guinga / Paulo Cesar Pinheiro曲集。常々思うのだけれど、Mônicaの歌と言うのは質感がそれなりに重い。だからあまり重たく生真面目なアレンジは堅苦しくなりすぎる。本作もストリングス入りと言うことで実は若干懸念があったのだけれど、Gingaの曲とMônicaの歌と言う組み合わせにおいては、むしろ色彩感や陰影や、ミステリアスな美しさを良く表現できている様に思う。いつもながらこの歌の力には圧倒される。しかしジャケット、何とかならんですかねぇ。


08: César Lacerda / Porquê Da Voz

またもMinasの若き才能。またか、と嫌がる人もいるだろうけど、率直に才能があると思うし、活動拠点はリオ。20代のSSW、César Lacerda。耳に残る印象的な旋律、疾走感のある洗練されたサウンド・クリエーション、そして哀愁を帯びた歌声、すべてがすでに「彼の色彩」を感じさせるのだ。Marcos Suzanoが全面的に参加、Lenineがゲストで参加している。


09: Frederico Heliodoro / Verano

期待のベーシスト、Frederico Heliodoroのニュー・アルバム。Felipe Continentino (bateria)、Marcus Abjaud (piano)と、彼のbaixo e vozというミニマルなトリオ編成ながら、この躍動感溢れる立体的な演奏は圧倒的である。ミナスだの何だのと言う枠を超えて聴いてほしいホットな作品。 Affonsinhoの息子。だからなんだっつーの。


10: Ricardo Herz E Antonio Loureiro / Herz E Loureiro

またまたAntonio Loureiroがやってくれた。今回はRIcardo Herzのヴァイオリンと、何とLoureiroのヴィヴラフォンとのduoなのだ。ほんとなんでも出来ちゃうんだけど、決して器用貧乏では無いと言う所が凄い。Guiga, Lea Freire, Egberto Gismontiの他、2人のオリジナル。知的で素晴らしい室内学作品でありながら、実にスリリングでもあるのだ。


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