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僕の好きなアジア映画94: サタデー・フィクション

『サタデー・フィクション』

2019年/中国/原題:蘭心大劇院/126分
監督:ロウ・イエ(婁燁)
出演:コン・リー(鞏俐)、マーク・チャオ(趙又廷)、パスカル・グレゴリー、トム・ヴラシア、ホァン・シャリー(黄湘麗)、中島歩、ワン・チュアンジュン(王傳君)、チャン・ソンウェン(張頌文)、オダギリジョー

僕はずっとロウ・イエ監督を誤解して来たのだと思う。彼の映画をそれほど多く観てきたわけではないのだが、これまで観た彼の映画は、どちらかといえば小さな、室内劇的な映画だと思っていて、それが変わったと感じたのは前作の『シャドウプレイ』からだった。

本作は大女優コン・リーを中心に据えての、なんとスパイ映画である。舞台は日本の真珠湾攻撃直前の時期の魔都上海。コン・リーは有名な女優でありかつスパイとして活動しているという役柄。細かいストーリー展開はスパイ映画だけになネタバレしちゃうと全く面白く無くなってしまうのでこれ以上は触れない。

大女優役のコン・リー。

さてコン・リーである。チャン・イーモウ監督の『紅いコーリャン』での鮮烈なデビューから彼女の主演作を数多く観てきたけれど、本作の撮影当時は52-3歳頃だと思われる。しかしその根本的な魅力は衰えず、さらに銃撃戦などのノワール的なアクションも見事である。唯一日本人女性になりすます場面の日本語だけが今一つ辿々しいのではあるが、催眠剤で朦朧としている日本人将校のオダギリジョーにはそれでも違和感はないだろう(笑)。

オダギリジョーと中島歩。

日本からオダギリジョーと中島歩も出演。オダギリジョーはちょっと間抜けな役柄だが(←失礼だ)、中島歩は精悍でおそらくその時代の日本人を象徴するような冷徹で武闘系の将校を演じ、いずれも好演であった。

作風は以前とちょっと変わったようにも感じるが、ハンディーカメラを多用した臨場感とスピード感のある映像はロウ・イエのそれというべきである。劇中での舞台劇というフィクションと、映画そのものが描くフィクションとの境界を意図的に曖昧にしたプロットは、迷宮のようにメビウスの輪のような現実と非現実とを行き来して、観るものを撹乱する。そして最後の回収は見事としか言いようがない。

愛する人の前では愛らしいコン・リー。

前作に引き続きノワール/アクション系の作品だが、本作はまた純愛映画でもある。やや仄暗いモノクロの素晴らしい映像とスリリングなプロットで、僕にとってはロウ・イエ作品の中では最も好きな映画だった。

こそしての映画ポスター・ヴィジュアルも実に斬新で素晴らしい。日本の映画ポスターにはない大胆なデザインはインパクトが実に大きい。こういう強引なくらいの荒らしくオリジナルなデザインは日本人のデザイナーは苦手かもしれない。

第 76 回ベネチア国際映画祭コンペティション部門正式出品


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