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2017年ブラジル・ディスク大賞関係者投票(yamabra archive)

2017年度のブラジルディスク大賞、関係者投票に選んだアルバムです。2004年から2021年度まで、徐々に試聴リンクをつけてアーカイブしています。アルバムごとに、その当時ブログに掲載した紹介コメントも付します。2017年は、Alexandre Andrés、Rafael Martini、André Mehmari、Renato Motha e Patricia Lobato、Luiza Brinaなどもう本当にミナス勢が素晴らしい年でした。でもArthur VerocaiやLouise Woolleyも忘れ難いなあ。



総評:

今年のブラジル音楽界は極めて豊穣であったと思う。尽きせぬ創造性を示した1)、2)は鮮烈であったし、親密にして詩的な6)、9)の先進的ポップなど、ミナスの音楽は今年も活況を呈した。ミナス勢以外でも、4)は非常に興味深いサンバであったし、5)、8)などジャズをベースとした音楽にも新しい息吹を感じた。3)の輝くような歌声、7)の変わらぬ陰影のある編曲、そして母となっても瑞々しい10)も忘れがたい。


1) Alexandre Andrés / Macieiras

そしてこちらはAlexandreの最新ソロ作。彼とRafaeel Martini、Aadriano Goyota、Pedro Trigo Santanaによるカルテットを中心に、Andre Mehmari、Antonio Loureiro、Joana Queiros、Ricaldo Herzが各1曲ゲストで参加。インストを中心とした本作は、まさに野を駆ける風のごとく、緩急自在にして、色彩に富む音のカレイドスコープ。高度な構造を持った音楽でありながら、聴く者の情緒と美意識を直感的に刺激する。新世代ミナス音楽の洗練と、尽きせぬ創造力を感じさせる傑作。


2) Rafael Martini Sextet / Suíte Onírica

ミナス新世代の最も重要な音楽家のひとり、Rafael Martiniの意欲にあふれた作品。彼のセステットと、ベネズエラ・オーケストラ、そして合唱団による、クラシカルな要素も濃厚なジャズシンフォニー。率直に言って、合唱団のクラシカルな唱法によるコーラスが聴こえてきたときは、少なからずひいた。しかし聴き進めていくうちに、これも要素としてとても重要なパーツなのだとわかる。セステートとオーケストラの共演はラージ・アンサンブルとして十分耳にも慣れているが、そこに合唱が加わることで、この音楽は圧倒的な音の密度を得ることとなった。セステート自体は彼ららしい、複雑にしてカラフルな音楽を奏でているのだが、そこにオーケストラと合唱が加わると、途端に瀑布のごとき、壮大な水量の音の激流が生まれるのだ。これ、凄いぞ!


3) Vanessa Moreno / Em Movimento

本作でもプロデュースで彼女を支える夫、Fi Marósticaとの2枚のデュオ・アルバムでの、圧倒的な歌唱で大きな注目を浴びたVanessa Morenoの初ソロ作品。彼女の場合、もう上手いとかそういうレベルではない。しなやかで、強靭で、艶があって、今右に出る者はいない。Fi Marósticaを中心としたカルテットによるjazzyなセットはBrazilian Jazzとして出色だし、弾き語りや、弦楽カルテットを加えたサウンドも音楽性に幅広さを加え、全く飽きさせない。こんなにゾクゾクさせてくれるスリリングな歌い手は他にいない。激賞致します!



4) André Mehmari, Eliane Fria& Gordinho do Surdo / Três no Samba

André Mehmariのニュー・アルバムは、なんとサンバですAndréのほか、Eliane Faria(その名で気付く方もいると思うけど、Cesar Fariaの孫娘、即ちPaulinho da Violaの娘でサンバの歌い手)と、Gordinho do Surdoの3人による、思い切ってミニマルな編成で、Cartola, Noel Rosa, Dona Yvonne, Batatinha, Nelson Cavaquinho, Martinho da Villaなどのサンバの名曲に取り組んでいます。結果的に言えば、これが頗る良いのです。いつものダイナミズムを残しつつ、煌びやかに軽快に躍動し、時には泣くAndréのピアノ、素朴に熟成されたElianeの歌声、そしてGordinhoのスルドの重厚なる推進力。静謐にして輝きを放つサンバ。


5) Louise Woolley / Ressonâncias

これは秀作だなぁ。São Pauloの女性ピアニスト/作曲家、Louise Woolleyのアルバムです。彼女と、Bruno Migotto (b.)、Daniel de Paula (dr.)、João Paulo Barbosa (sax, flu.)、Paulo Malheiros (tromb.)のクインテットを中心に、Livia Nestrovskiなどの歌も加わって、端正で躍動感あふれるBrasilian Jazz。陰影と色彩感のある演奏が素晴らしい!


6) Renato Motha e Patricia Lobato / Dois em Pessoa Volume II

Renato MothaとPatricia Lobatoは、我々にとって特別な存在である。初来日(2009年)の初日は山形であった。海外での初公演のそれも初日であったため、彼らの緊張は如何許りであったことか。その緊張の中、本番を控えた彼らは山寺に参拝し、途中芭蕉の句碑で知られる「蝉塚」で、その美しい演奏を、山寺を登る人達に披露していたのだった。桜の花びらの舞う「山寺風雅の国」での息をのむほど美しい演奏は、一生忘れることはない。二度目の来日は翌2010年。もちろん山形にも来ていただいたが、今度は随分肩の力が抜けていて、本番前日、寿司屋のお座敷での、再会を祝した小さな宴でも、美しい演奏を惜しみなく披露してくれた。狭い部屋に合わせて声量を抑えつつも、Renatoのヴォイス・コントロールは完璧だった。演奏はもちろん、この2人は人としても最高だった。前置きが長くなったが、本作はMantra以外の作品としては、”Rosas para Joao”以来で、ポルトガルの詩人Fernando Pessoaの詩を題材とした2004年の”Doie em Pessoa”に連なるもの。各々”Canções”と”Sambas”と題された2枚組。Minasの伝統的歌曲に連なる”Canções”とサンバのリズムを軸に据えた”Sambas”。どちらも彼ららしいロマンチックな音に溢れている。Patricaの透明で清楚な歌声と、Renatoのやわらく繊細なギターと、暖かい歌声。さらに本作ではThiago Costaのピアノが、2人の美しい世界を華麗に、軽快に支えている。彼等らしい音楽がギュッと凝縮された素晴らしいアルバムです。


7) Arthur Verocai / No Voo do Urubu

まだ来年にすらなってはいないけれど、すでに本作は来年のベストの候補です。Arthur Verocaiのニュー・アルバム。この人の魅力はなんといっても、分厚くてブルーでドラマチックで、胸騒ぎの様に渦巻くホーンとストリングスのアレンジメント。そして胸を締め付けられる様な楽曲には、どこか70年代的な懐かしさが潜んでいます。Seu Jorge、Danilo Caymmi、Vinicius Ccantuaria、Crioloなどのゲストも充実。


8) A Engrenagem / Da Janela

ブラジリア出身の5 piece。このユニバーサルでクールなサウンドは、もはやBrasilian Jazzという枠を超えている。なるほど録音はSwedenなのだそうだ。アコースティックな楽器を中心にシンセやRhodes、そしてvoiceをかぶせたサウンドは、Kurt Rosenwinkelや、時にgogo penguinを思い出させる。抑制された音楽性は、静かに青白く燃え上がる炎のようだ。


9) Luiza Brina & O Liquidificador / Tão Tá

何はともあれ、ベロ・オリゾンチ出身のLuiza Brinaの、その童女の様な歌声に惹かれてしまう。もう可愛らしいったらありゃしない。管楽器を中心とした色彩豊かなドリーミーなアンサンブルに、躍動するリズムを配して、独特の非現実感を醸し出すサウンド。その上を彼女の歌が漂う様に。これ、ポップでキュートでと〜〜〜っても面白いです。


10) Mallu / Vem

Malluの歌声。僅かに紗がかかった、少し気だるさを秘めた歌声は、母となっても変わらない。高音で裏がえる、その声はさらに愛らしい。全曲彼女自身の曲で、その旋律は甘く、どこかノスタルジーを孕んでいる。Marcelo Cameloがプロデュース/ギターなどで、もちろん全面的に参加していて、ペナペナとしたエレキギターの質感が、彼の音楽の存在を主張している。そして弦や管の華やかなアレンジにはMario Adnet。これぞブラジルの今を代表するポップ・ミュージックであろう。


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