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2018年ブラジル・ディスク大賞関係者投票(yamabra archive)

2018年度のブラジルディスク大賞、関係者投票に選んだアルバムです。2004年から2021年度まで、徐々に試聴リンクをつけてアーカイブしています。アルバムごとに、その当時ブログに掲載した紹介コメントも付します。この年は今年も素晴らしいアルバムをリリースしたRubelとかLuedji Lunaとか新しい才能が目立っていました。あと日本ではいまだあまり受けないMestrinhoをぜひ聴いてみてほしい。Dominguinhosが好きならぜひ。


総評:

1)は尽きることのない創造のエネルギーに、2)は変わらぬ瑞々しい感性に大いに感激。3)はユニバーサルな感性の若き才能。4)は久々の垢抜けたフォホー。こういうの大好き。5)は歌の良さだけでは無い実験的音像。6)は伯亜共同作業の美しき結晶。7)はブラジリアン・ジャズを担う若き2人の意欲的共演。8)ミナス新世代らしい感性による優美な作品。9)今年のアフロ・ブラジルを代表する作品。10)は甘〜い逸品です。


1) ANTONIO LOUREIRO / Livre

僕の田舎では「大きいねぷたは後からくる」っていうんです。多様で、かつ素晴らしい音楽に溢れていた今年のブラジルの音楽の中にあっても、やっぱりこのアルバムは後から来た大きなねぷたです。息子の誕生に歓喜するする1曲目から、過去の作品に比べても、その創造の力は全く衰えることなく、壮大で力強く、複雑でいて美しい。Kurt Rosenwinkel、Pedro Martins、Frederico Heliodoro、Andre MrhmariにRicard Herzなど、彼と関係の深い驚くべきメンバーをサポートに、躍動し前進を重ねる音楽に、底知れぬ才能を感じます。やっぱり一番かな、今年も。


2) GILBERTO GIL / OK OK OK

Gilberto Gilのニュー・アルバムが、素晴らしい。プロデュースに息子Bem Gil。Domnico、Moreno、Pedro Sa、Alberto Contintino、Joao Donato、Yamandu、Pedro Milanda、ボーナストラックにはRoberta Sa、Joana Queirosなどなど、豪華なメンバーはもちろんすごいんだけど。でもやはりGilberto Gilという音楽家の凄さこそ語られるべき。キャッチーな旋律と、ハリのある歌声は全く変わることなく、しかしGilberto Gilという存在はさらにヴァージョンアップされている。同世代の音楽家たちが歩を先に進めることが困難な中、まだまだ進化を続ける、そのフレッシュでBrasilidade溢れる感覚には、率直に脱帽するしかないではないか。


3) RUBEL / Casas

巷間話題である。リオで活動するSSW、Rubel。USAのオースチンで音楽を学び、Marcelo Cameloのファンを自称しているという。と聞けばMarcelo Camelo命(またかい)の私としては期待せずにはいられないでないか。最近のブラジル人アーティストは、ポル語で歌う以外(英語も増えました)、伝統的なブラジルらしい音楽では必ずしもない人も多いけれど、Rubelの音楽にはしっかりBrasilidadeも残っているね。ホーンやストリングスを加えたサウンドは確かにMarceloを彷彿させるけど、mixture感覚や洗練度がRubelらしさと言えるのでは。でやはりこのpopな洗練の在り方はUSAで学んだという部分も大きいと思う。


4) MESTRINHO / É Tempo Pra Viver

ブラジル音楽を聞きたい、あるいは聞き始めた、っていう人たちに、なかなか面白いと思ってもらえないのではないか、と躊躇するのがForroなのである。この種の音楽の持つ土煙が上がるような素朴さは、一度好きになれば問題ないのだが、もともとブラジル音楽が、垢抜けた音楽であるという視点の人には難しい。そんな時聴いてもらうのが故Dominguinhosの音楽なのだけれど、かといって彼以外に、是非、といって聴かせるアーティストが実は私もいないのです。そんなフラストレーションを、久々に晴らしてくれたのがMestrinhoのこの作品。ユニオンの江利川さんが紹介していたもので、早速聴いてみたのだが、これはいいです!メロウです!ヒップです!久々に洗練されたForroですね。いまのところ日本ではストリーミングだけのようです。是非国内盤出してくださ〜い。


5) NINA BECKER / Acrílico

これはもう来年のブラジルディスク大賞間違い無い。彼女の柔らかくがフェミニンな声と歌は、ますます艶が出た感じ。過剰に決してならない知的な情感に、「良い女」感が溢れている。Rafael Vernetのキーボード、Pedro Saのギター、Alberto Continentinoのベース、そしてTutty Morenoのバテリアで、夢見るような音像に仕上げながら、そこに潜ませた意欲的な実験性が憎い。


6) FABIO CADRE | HERNAN JACINTO / Acto II

ブラジルのSSW、Fabio Cadreと、アルゼンチンのジャズ・ピアニスト、Hernan Jacintoとのコラボ作の第2弾。ゲストにFito Paez、Leny Andrade、Aca Seca Trioを迎え、二人のオリジナル曲と、Spinetta、Carlos Aguirre、Fito Paez、そしてNoel Rosaまで、ブラジルとアルゼンチンの楽曲を織り交ぜて、もはや音楽に国境なんて意味がないってことを彼らが証明してくれる。Hernan Jacintoの詩的なピアノと、寄り添うようなFabioの優美でメランコリックな歌声に心奪われる。二つの文化が調和して一つの音楽を創造した、本年屈指の好盤です。


7) DANIEL SANTIAGO & PEDRO MARTINS / SImbios

Daniel Santiagoのアコースティックギターと歌、そしてPedro Martinsのエレキギターと歌、というギタリスト二人による、いわば変則デュオ。美しいアルバムです。各々の輝きはそのままに、二人の音楽家の親密にして、時にはスリリングな対話が収録されています。技術的にも二人とも凄まじいのだけど、音楽的には透明感と浮遊感が出色です。流麗な音の流れに身をまかせる心地よさ。


8) JOSÉ LUIS BRAGA / Nossa Casa

私的には現在までの、2018年ブラジルもののベストです。ミナスの注目のグループGRAVEOLA(知らんかったけどね)の中心メンバーJose Luis Bragaのソロアルバム。う〜〜む、これもミナスか、って我ながら思ってしまうけど。Guingaを彷彿とさせる摩訶不思議な旋律と、弦と管による穏やかで深淵なアンサンブル。そして少し輪郭のぼやけたようなJose Luis Bragaの歌声。瑞々しい、しかしパステルカラーの音の渦。


9) LUEDJI LUNA / Um Corpo No Mundo

まずこの名前どう読むんだっていう疑問から入っちゃったわけですが、今やもうこのアルバム、ヘビロテです。音楽性からBahiaの人かと思い込んでいたら、やはり出身はSalvadorで、São Pauloで活動しているSSWらしい。Afroの色が非常に濃い作品なのですが、やはりSão Pauloらしい洗練が本作の肝でしょうね。Afro-Brasilらしい、複雑で躍動するリズムと、ギターの畝り、分厚い菅のアレンジ。彼女の力強くも思慮深い歌声には、すごい才能が出てきたな〜〜って、私は思いますよ。まだ名前読めませんけど。


10) SILVA / Brasileiro

Silvaについては、僕の認識が甘かったと思う。前作のMarisa Monte集を聴いてもピンとこなかったのだから、かなり惚けている。で、やっと本作でピンときたという次第です。Brasil的なセンス、リズムをしっかり下敷きにして、でもサウンド面では軽快で、ミニマルで新しい。メランコリーな旋律と、なんといっても滑らかでシルクのような歌声が抜群です。こういうブラジルらしさをもって、かつ現代的なSSWを待っていた気がするなぁ。本年のベスト10入り、確定しました。


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