見出し画像

あの古作図案を刺しちゃった! 〜1 はじまり

古作こぎん界で一番有名なのかもしれない、「ゆめみるこぎん館」所蔵の古作こぎん着物「西こぎん見頃J」。この図案のファンは少なくないと思いますが、私もその一人。「いつか刺したい!」との長年の思いをこのたび、やっと実現させました。
自分で立ち上げたバッグブランド「kosaku」では古作着物の図案を使っていて、毎回、元の刺し手のことをあれこれ考えるものですが、この図案は他と別格。いつも以上にあんなことこんなことを考えました。

それを記録しておこうというのが今回の連載です。誰のためにとか何に向けてという目的がない、自分語りです。
それでも読もうと思ってくださった方、ありがとうございます。
こぎんを知らない人にはちんぷんかんぷんなことを説明抜きに書くと思いますが、どうぞご容赦の上お付き合いくださいませ。


出会いは弘前こぎん研究所の本

なんだ、これ!?

こぎん刺しを独学で始めて数ヶ月の頃でしょうか。ある日、新宿のブックファーストだったと思いますが、『津軽こぎん刺し 技法と図案集』(弘前こぎん研究所監修/株式会社誠文堂新光社発行)を手に取り、表紙を見てびっくりしました。
私の浅ーい浅ーいこぎん知識を持ってしても、この図案が常軌を逸しているのが一目でわかりました(讃える意味で、です)。でありながら、こぎん刺しの魅力みたいなものが端々から発散されています。
何時間でも見ていられるやつです。

いつかこれを刺したい!

一瞬で心を奪われました。

『津軽こぎん刺し 技法と図案集』(弘前こぎん研究所監修/株式会社誠文堂新光社発行)

後に、それは古作こぎん刺し収集家の石田昭子さんが弘前市細越地区で収集した、西こぎんの着物の見頃であることを知りました。

実物に対面できたのは、2018年(と2回目は2023年)の山端家昌さん主催のこぎんツアーで。憧れのスターに会えた感激でコーフンし、見れば見るほど難解そうな模様にわなわな震え、生前の石田昭子さん、お孫さんの舞子さんのお話のステキさに涙がじんわり滲むほど感動し、情緒不安定になったのを覚えています。

昭子さんのコレクションは、今は舞子さんが運営する古作こぎんの展示室「ゆめみるこぎん館」(青森県弘前市)で見ることができます。

「西こぎん見頃J」とナンバーが振られています


自分のブランド「kosaku」で再現しよう!と決心

さて、二度目の対面からまた1年ほど経ち。
自分で立ち上げた古作図案をバッグにするブランド「kosaku」の展開を考える中で、ふと、kosakuならあれを刺せるじゃないか、と思い至りました。基本となるトートバッグなら、ある程度の刺し面積が確保できるし、ぺたんこバッグなので図案の良さをストレートに見せることができる。ただコピーするだけじゃない、私だからできるテイストもプラスできる。そう考えたらやっと気持ちが固まりました。

よし、刺そう!

「kosaku」には、古作着物そのものをバッグにした紺布×白糸の「The CLASSIC」シリーズと、図案は古作ながら現代のファッションに合うカラフルな「The POP」シリーズとの2ラインを設けています。
この図案はどちらにも合うはず。
だけど、やっぱりまずは「The CLASSIC」からです。

 kosakuのベーシックなトートバッグ。The CLASSICラインは基本形に則った紺布×白糸です


図案が起こせない…スタートからつまづきます

さて、手元にあるのは、自分で実物を撮影した画像のみ。
iPhone様のおかげで画質はそこそこ担保できているものの、全体を1枚に収めたもので、細かい部分まで確認しようとするとだいぶ引き伸ばさないとならず、ただでさえ複雑な図案が、もうボケまくりなのです。

自分でiPhoneで撮影した全体画像
部分拡大するとこんなボケボケに…

でも、しょうがない、これしかないんだし。と、まずは図案を起こそうとノートPCでイラレを立ち上げ、iPadで着物の画像を見ながら、データを作り始めました。

が! もう半日もたたずにギブアップ。
データでこぎん図案を起こすのは、コピペやリフレクトが使えるから作業効率が良くていいわけなんですが、この図案はこぎんの特徴である左右・上下対照や繰り返しのルールが崩されている部分が多々あり、イレギュラーな遊びもふっと入ってきたりするので、パソコン作業の良さが感じられないんです。

ならば、手描きだ!と久しぶりにこぎん用方眼紙を引っ張り出し、手で描き起こしてみました。
しかし、これまた竹の節が終わって3~4段描いたところで、無理だ〜〜〜!となりました。
着物で言えば後ろ見頃の下の方、『津軽こぎん刺し』の表紙で言えば上から始めたのもいけなかったのかもしれません。というのも、ここが一番複雑怪奇なんです。

この着物のこのあたりが最も複雑怪奇!

また後で触れると思いますが、刺し終わってから感じたことですが、作者は肩あたり、もしくは後ろ見頃の背中上の方あたりから刺し始めたのではないか、と。

最初は比較的わかりやすい一般的な模様から始まり、前見頃の下へ向けてはアレンジが加わり、逆の後ろ見頃へ向けてはさらに遊びが激しくなっていき、最高潮に達したところで竹の節で締めた…という流れだったんじゃないのか、と。あくまでも私の推測ですが。

赤枠部分は比較的分かりやすい。このあたりが刺し始めか?

というわけで、全く法則がつかめず手描きも苦戦。ここまでで2〜3日が経過してました。
で、ふと、気付きました。

ちゃんと真面目にやろうとしすぎじゃん、私? と。

(たぶん)これだけ自由に思うままに、自分の中の何かを表現しようとした(のかもしれない)作者に向き合うには、こちらも、もうちょっとラフでいいんじゃないの? と思い至ったわけです。

方向転換です。パソコンも方眼紙もしまいました。
もう刺すしかない! 布と糸を用意し、画像を見ながら、直接刺していくことにしました。
ちなみに、布はつきやの麻252の紺、糸はつきやの白8本合わせです。


まだ刺し初めてもないのに、2000字越え…。自分の熱がおそろしい。
次へ続きます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?