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あの古作図案を刺しちゃった! 〜4 かわいいポイント(続き)

古作こぎん界で一番有名なのかもしれない、「ゆめみるこぎん館」所蔵の古作こぎん着物「西こぎん見頃J」。この図案のファンは少なくないと思いますが、私もその一人。「いつか刺したい!」との長年の思いをこのたび、やっと実現させました。
自分で立ち上げたバッグブランド「kosaku」では古作着物の図案を使っていて、毎回、元の刺し手のことをあれこれ考えるものですが、この図案は他と別格。いつも以上にあんなことこんなことを考えました。

それを記録しておこうというのが今回の連載です。誰のためにとか何に向けてという目的がない、自分語りです。
それでも読もうと思ってくださった方、ありがとうございます。
こぎんを知らない人にはちんぷんかんぷんなことを説明抜きに書くと思いますが、どうぞご容赦の上お付き合いくださいませ。


自由な流れ、囲み

実際に刺して感じた「かわいいポイント」「すごいポイント」、まだ続きます。
*画像は、私が刺したものです。写真で元の着物の細部まで確認しきれなかった箇所は、私の勝手解釈による図案になっています。

流れや囲みは、刺し手のおちゃめないたずら心がよく出ている箇所でもあります。
豆流れの中にちょっとだけかちゃらずを入れたり、ところどころ2コマ分をつなげたり。

アクセントが入る豆流れ

この一定じゃない感じが、引いて全体を見たときにアクセントになっていて、他とは違う魅力を作っているような気がします。

こぎん刺しは整然とした美しさが魅力ではありますが、整然とすぎていないことも大事なのかもしれないなあ、と考えさせられました。

流れで言えば、辻褄合わせ的な次の2箇所もおもしろいところ。

Yの字に進む流れ。行った先も不思議

こちらは、左右対称でも上下対象でもなく、二股に分かれる部分や向こう側とつながる部分など、私のこれまでの経験にはない進み方。

「え、ここで?」と戸惑いながら刺したのですが、刺し上がって見てみると、これ以外の進み方はありえないと思わせる説得力があります。

計画的に刺した図案ではなく、”刺しながら辻褄を合わせていったらこうなった”部分だと推測しますが、基本的なルールを逸脱しすぎていないから自然な印象があるのかもしれません。

わ〜〜〜どうなってるの?

一方、こちらはずいぶんな力技。3目を崩さないまま、なんとか収束させています。

私が刺す前、元の着物画像をどんなにじっくり見ても、どうなっているのかよく理解できなかった部分です。見ても見てもわからなく、実際に刺したときに果たしてちゃんと辻褄が合うのか不安でした。

不安なまま刺し始めてみると、「え? ちょっと、ちょっとこの先どうする気?」とハラハラし、「ええっ!そういうのあり?」と驚き、最後はなんとか次につながってホッとする……と、翻弄されまくり。
全体の中でも1番スリリングな場所でした。

先ほどの豆この流れとは違い、行き当たりばったり感がすごいです。
人によっては「ここは失敗」と言ってしまう可能性もありそうなくらいです。

刺し手ご本人はどう思っていたんだろう。
私は、「見て見て、やってみたら、なんとかなっちゃったよ〜」と笑って自慢してくれてたらいいな〜と思っています。
決して、誰から見ても美しい図案とは言い難いですが、忘れ難い箇所の一つです。

馬の轡で遊んでます

馬の轡のアレンジにも驚きました。

前見頃の胸の上のあたりに来ると思われるところに、馬の轡を4つ配置した模様が左右通して1段入るのですが。
中央を埋める図案もおもしろいのですが(キレイに刺すのは難しかった!)、1箇所だけ、おかしなことをしています。

間違い探し?

こんなの他では一切見たことがないです。
完全にいたずら心です。刺している間、「うっふっふっ…誰か気づくかなあ」とさぞや楽しかったろうと思います。

馬の轡と言えば、地域によっては魔除けの意味を込めて刺した神聖なもどこです。
そのもどこにこんなことをするなんて……。
刺し手の方が生きた時代や住んでいた地域に、どの程度その重さがあったかはわかりません。だから、そんな大袈裟なことではなかったかもしれません。

でも、何かパンクなものを感じてしまいます。

この1目は何なのか!?

まだまだ言いたいことは尽きませんが、だいぶ長くなってきたので、最後にもう一つだけ。

思うままに自由に針を進めたイメージが強い作品ですが、1箇所、私が刺し手の生真面目さというか、美意識を感じたところをご紹介します。
それはここ。

謎の1目

後ろ見頃の複雑怪奇エリアの一部なんですが。

結び花の連続エリアと隣のエリアの境目部分。
3目の糸流れ(囲みの変形的でもありますが)の内側に、8段、1目を加えています。

この8段の1目、上下左右に影響を及ぼすような意味は、ほぼないと思います。アキをここだけ4目にしても、全く問題なかったと思います。

でも、刺し手は1目を加えて、3目のアキを維持した。

他でもっとはちゃめちゃなことをやっているのに、なぜ?
これまた想像しかできませんが、4目アキは気持ち悪い、といったご本人の美学だったのかなあと。

そう思って他も見てみると、はちゃめちゃなようでいて、奇数目で展開する点やもどこの基本形を崩しすぎない点など、一定のルールからは逸脱していないんですよね。

あ〜〜〜でも、本当にそうなの?
本当はどうだったの?
叶わぬ夢ですが、ご本人に一つひとつ聞いてみたい!

最後の最後にあと1回、次回最終回は、刺しながら思いを馳せた「刺し手ご本人について」を書こうと思います。


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