幸せになっていいんだよ
2021年1月2日、午後21時48分。今この文章は彼の部屋で書いている。ぐー。がー。と、怪獣のようないびきをかいて、むにゃむにゃと幸せそうに眠っている。
この部屋に初めて来たのは、いつだったか。
まだ出会って間もない、友達だったとき。あの頃は(今もだけど)、連絡を取り合うのが楽しくて、くだらないやりとりが深夜まで続くことも珍しくなかった。
その日も、戯れ合うようにダラダラと連絡をとり続けていたものだから、
「ねぇ、今度デートしない?」
と突然、真面目なお誘いが送られてきたときはドキっとした。嬉しかった。
彼の部屋に初めて行ったのは、その数日後。
2人きりではない。彼の住むシェアハウスに友達と遊びに行ったときのこと。ついでに部屋も紹介してくれたのだ。
建築の本がたくさん並ぶ棚に、すごい!と感想を口にしたり、これが建築家がつくった部屋なんだ〜と、物珍しそうに見渡したりしていたけれど、内心はただ、ドキドキしていた。
数日前にデートに誘ってくれた男の人の部屋だ。他の友達も一緒とはいえ、ドキドキしないはずがない。
いつもこの部屋でわたしと連絡をとってるんだ...っ
このベッドで寝てるんだ...っ
頭の中はわちゃわちゃと大忙し。ひとりだけ変な緊張をし、呼吸も少し浅かった。
***
あれから、数ヶ月。
彼の恋人になったわたしは、ちらりと見ただけでドキドキしていたベッドに、今では我がもの顔でゴロゴロしている。
それでも。
スヤスヤと眠る彼の横顔を見ながら、ときより思う。不思議だなぁ......と。
彼の横に、わたしがいること。彼がわたしと恋人になることを選んだこと。当たり前のように手を繋いで寝ていること。
そして、たまに、ごく、たまに、自信がなくなる。
彼の横に、わたしがいること。彼がわたしと恋人になることを選んだこと。当たり前のように手を繋いで寝ていること。
胸の内でじくじくと叫ぶ、寂しさと切なさ。それらはなぜか、身体いっぱいで幸せを感じたセックスの後に静かに破裂した。
いつもなら彼の腕の中でうずくまって寝ているところを、今日はするっと身体を転がし、ひとり下の部屋へ降りた。
無心で顔を洗い、パジャマに着替え、歯を磨く。
そして3分間だけ、目を閉じてマインドフルネス瞑想をした。
寂しいのか、切ないのか、幸せなのか、どうしたいのか?
ベッドにくるまっているだけでは気づかない自分の感情に触れると、自分から、自分へ、ギフトのような言葉が心に浮かんできてくれた。
ねぇ、幸せになっていいんだよ?
ぶわっと涙が溢れた。滞っていたものが、すっと流れていく感覚。ウジウジした不幸、劣等感、自信のなさ、自己嫌悪、我慢、寂しさ、押さえつけられているもの。本当は手放したい青くて冷たい感情たちが、ふぁっと空気中に消えていった。
過去のしがらみや、囚われていた感情にばかり目を向けないで。彼はわたしの自信を無くすために、一緒にいるわけじゃない。悩ませるためでも、イライラさせるためでも、寂しい思いをさせるためでも、苦しませるためでもない。
ふたりで一緒に幸せになるために、いるんだよ。
静かに、涙はとめどなく流れる。
そうだ。彼はわたしを選んだのだ。大好きだと、大切だと、可愛いと、身体と心いっぱいで表現し包み込んでくれる温かさを、どうしてすぐに見失ってしまうのだろう。
でも、もう迷わない。気持ちはすでに決まっていた。
2021年は、今ここ、にある「幸せ」に目を向けて、感じて生きる1年にしたい。
何度見失っても、また何度でも思い出せばいい。素直に幸せを感じればいい。
すでに涙は乾いていた。安心しきった表情で足取り軽く、階段を登った。
***
部屋に戻ると、ぐー。がー。と、怪獣のようないびきをかいて、むにゃむにゃと幸せそうに眠っている......大好きな人の姿が。
わたしの姿に気づくと、布団をめくり隣に招いてくれた。「シングルベッドに2人で寝ると身体が痛くなる!」と言うくせに、嬉しそうにぎゅっと抱きしめてくる彼。
「何であっちにいたの?」と聞く眠そうな声に、
"あなたの隣にいれて、わたしはとっても幸せです"
と、心の中でつぶやきながら、「秘密〜」と笑い彼の胸に顔を埋めた。幸せすぎて、それをどう表現したらいいかわからなくて。やさしく頬にキスをした。
***
その後も、ベッドでゴロゴロ。いつも通り、ふざけあって、ケラケラ笑って、だだそれだけ。けれど数十分前の自分とは明らかにちがう。
自信を持って幸せでいることを選んだら、彼への気持ち、捉え方、感情は、全くちがうものになっていた。彼にやさしく愛おしい気持ちで接することができる。彼に素直に甘えられる。そのことに自分の気持ちも楽になっていた。
自分が変われば、見える世界は変わる。過ごす時間も、目の前で起こるできごとも、変わるんだ。
幸せになっていいんだよ。
大好きな人と、幸せであり続けるための、おまじない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?