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幸せになりたいから、東京を舞台に生きていく。

ーー幸せってなんだと思う?

この質問を投げかけられた場所は、0時過ぎのバーカウンターではない。晴れた土曜の真昼間、移動中のタクシーである。好きなラーメンは何か聞こうと思った矢先に突如投げ込まれた質問に、驚きつつもニヤリとする。こういう会話は大好きだ。からだのどこかにあるスイッチがオンになり、「待ってました」とばかりに目が輝く。

ーー幸せってなんだと思う?というかまず、どんなときに幸せだと感じる?

真っ先に思い浮かんだのは「好きなものを食べているとき」という言葉だったが、今回のアンサーとしては不適切な気がしたので却下した。一呼吸置いて、「愛されていると感じたときかな」と呟いた。「好きな人から優しくされたり、抱きしめられたり、愛情を感じた時に幸せって思うよ」

ーーそれって嬉しいとはどう違う?

鋭い人だ。「うーん確かに。嬉しいと幸せは何が違うんだろう…」急激にトーンダウンしてしまう。両者の差を表現するのは難しい。

ーー例えばだけど、結婚したら幸せになれると思う?

新婚の友人たちはたしかに幸せそうだが、この年になると結婚後の悲惨なエピソードも耳にしたりする。「どうだろう。結婚したから幸せになれるというよりも、夫婦関係で深い繋がりが生まれることで幸せだと感じるんじゃないかな。結婚はあくまでもカタチっていうか」

ーーでも、結婚が決まった時点で幸せ!って言う人たちがいるのは事実だよね。

「それはそうだよ。結婚するってことは、愛し愛されてるってこと。愛を感じたら誰しもが幸せだと思えるんじゃないかな。まあ好きな人と結婚できること自体純粋に嬉しいしね」
間違ったことを言ったとは思わないが、なんともイマイチな回答だったと思う。幸せについて語るにはあらゆる経験が足りないのかもしれない。

ーーじゃあやっぱり、幸せって最上級に嬉しいってことなのかな。

「嬉しいっていう感情と近しいけど、なんかもっとじわじわと広がっていく感覚な気がして。言語化できないのが辛いけどさ」

ーー言語化したいよね。ちょっと語源調べてみるわ。語源辞典によると、「しあわせる」の名詞形だって。 為る+合わせる、ね。本来は「めぐり合わせ」の意味で、「しあわせが良い、悪い」と言ったりしてたみたい。

「へー、めぐり合わせか。その方向から考えてみても面白いかも」

ーーめぐり合わせが良いってどんな状況だろ。望んでいたものが手に入っちゃった、とか?

「うん、それも1つあるだろうね。望んでいたものが手に入る、を幸せだと仮定するなら、とにもかくにも結婚したい!と強く願っている人の場合、それが叶ったら幸せって思えるってことじゃない」

ーーそれなら逆に、「豊かな結婚生活を送りたい」と願っている人だったら、現実がその理想を超えてこなかった場合、幸せとは感じられないってことか。

「そうだね。理想と現実のギャップがあれば幸せを感じにくくなるんだと思う。理想をなるべく低くすることが、幸せへの近道なのかもしれないね。まあ、それ自体結構難しそうだけど」

甘々なロジックだし、そもそも幸せなんて、その定義は人それぞれだ。それでも私たちなりの解にほんの少し近づいた気がして嬉しくなる。

ーーじゃあさ、君の描く未来はどういうもの?

なぜか無性にドキッとする。「えっと…まずは東京にいたい」最初に出てくる答えはそれかい、と自分でもつっこみたくなる。

ーー東京が好きなんだね。

「うん、大好きなの。東京って"予感"が至る所に漂っている気がして。出会いの予感、成功の予感、変化の予感、とかね」

ーーわかる気がする。東京には4年前に来たんだっけ。

「そう。仙台で就職して、転職と同時に東京に来たの。仙台はすごくいいところ。でもね、私には物足りなかったんだ。なんでもあるし、友達もたくさんいるし、どんな自分でも受け入れてくれる場所だけど、刺激が足りないと思っちゃったの」

ーー東京ほど刺激で溢れた場所はないよね。

「うん、今は毎日が刺激的で本当に楽しい。でも上京を望む気持ち、仙台にいた頃にはほとんど誰にも理解されなかったな。なんでそんなに東京に行きたいのって友達や家族に言われた。あれ、私変なのかな?って不安になったよ」

ーーそっか。理解されなかったらそう思うよね。でも実際に、君の価値観は変なんかじゃないよ。きっと、東京を舞台にする人なんだと思う。最も輝く場所は人それぞれなんだから。君の幸せには東京が必要なんだ。

「ありがとね。仙台にいた頃無性に苦しくなるときがあったのは、理想とのギャップがあったからなのかもしれない。そう考えると、さっき出した答えは合っている気がするよ」

ーー東京で刺激に溢れた日々を望んでいて、今はそれが叶っているから幸せを感じているってことか。

「そう。まあ、他にも望んでいるものは色々あるけどね。なかなか手に入らないんだけど」

そんな会話をしているうちに、あっという間に目的地についた。天王洲地域のランドマークともいえるブルワリーレストランだ。晴れた日の天王洲運河はきらきらと波打ち、テラス席ではカップルやグループがビールやワインを片手に盛り上がっている。

大好きな東京が目の前にある。ああ、やっぱり私はここを舞台に生きていくんだ。

軽やかにタクシーを飛び出しくるりと振り向くと、「なんかもう楽しそうだね」と、爽やかに笑いかけてくる人がいる。「幸せ」の予感に胸が高鳴ったのは私だけだったのか、その答え合わせはきっともうすぐだ。

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