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元彼と会った日のこと。

五年前に別れて以降、一度も会っていなかった。

「星野源結婚したけど、お母さん平気?(笑)」

逃げ恥婚が発表された日。元彼のお母さんが星野源ファンだったことを急に思い出して、なんの下心もなくLINEを送った。

「よく覚えてるね(笑)」

数回のレスポンスで静かに終わる会話。私たちの距離感は、居心地のよい遠さだった。


「近いうち飲み行こう」と連絡をくれたのは、彼のほうだった。私にまだ好意があるなんて、そんな勘違いをするピュアさもない。なんとなく、本当になんとなく、飲みたい気分になったんだろう。あれから色々なことがあったし、私も話してみたかった。

予約してくれた恵比寿の焼き鳥屋さん。扉を開ける瞬間、少しだけ緊張した。

五年越しに会う彼は、想像以上に大人だった。純粋にタイプなのかもしれない。この人を好きになる気持ち、わかる。過去の自分に共感した。

お酒も進んで、徐々に空気が柔らかくなっていく。

仕事のこと、現在の恋愛のこと。なぜか、なんでも話してしまう。付き合っていた頃はこんな話できなかったのに。お互いどこか遠慮していたのに。

日本酒を三合空ける頃には、個室でよかったと思えるほど盛り上がっていた。私たちはひとつずつ、とっておきの秘密を共有した。

「こんなに面白い人だったんだね。付き合ってるときに知りたかったよ」

爆笑した彼が、私の目を見ながら言った。

「猫かぶっていましたから!」

本当は嫌われたくなくて、ホンネを隠してた。あのときの私、不自然だったよね。いい子になろうとしてたもん。


結局0時前まで飲んだ。「別れた今が一番仲良いね」なんて、切ない笑い話をしながら、駅まで歩いた。

「もっと本音で向き合えていたら、別れてなかったのかな」

彼がそう言ったのは、酔っていたからだと思う。

「別れたから、こんなに仲良くなれたんじゃん」


帰りの日比谷線。お礼のLINEを打とうとしたタイミングで、一通のメッセージが届いた。

「すごく楽しかったよ!本当にありがとう」

「また会おうね」とは、彼も私も言わないでおいた。

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