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『promise』

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ある日、目が覚めると病院のベッドの上だった。
特に後遺症もなく、回復次第退院だとお医者さんは言っていたのに、大学の同級生だという友達がお見舞いに来てくれた時に自分の異変に気が付いた。


"誰?"


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都会の真ん中、目の前を歩く男性が青いハンカチを落とした。咄嗟に『あの!落としましたよ!』と慣れてないボリュームで声を出す。
渡す時に少しだけ触れた大きな手は震えていて、どうしたのかと顔を見上げてみる。
その目には今にも溢れてしまいそうなくらい涙が溜まっていた。

『どうしたんですか?』
「いや…無くしものをしてしまって」
『何を無くしたんですか?』

普段なら『見つかると良いですね』で立ち去るのに何故か一歩踏み入れてしまった。

「元カノとの大切なものです」
『私にも探すの手伝わせてください』

予想外の言葉に男性も私自身も驚いている。

「…じゃあお願いします」

その日は元カノさんと行ったカフェに入った。
「適当に注文してくるから座っててください」
そう言って男性はレジに向かい、トレーにマグカップを2つ乗せて帰ってきた。
男性はブラックコーヒーで、私はカフェラテ。
そのカフェラテはとても美味しかった。

でも、無くしものはここにはなかった。



また別の日は元カノさんと行った映画館へ。
「はい」と、彼が差し出したのは私の好きなキャラメルポップコーン。

『え、いいんですか?』
「付き合わせちゃってるからね」

ここにも無くしものは見当たらなかった。


また別の日は元カノさんと行った遊園地へ。
買った覚えはない家にあったカチューシャを持って行ったら引かれるかなって思ったけど、当日、君は同じキャラのキーホルダーをカバンに付けていた。

「チュロス食べない?」
『私も言おうと思ってました!』
「…奇遇だね」

ここにも無くしものは無い。


君と出会って半年。

『すみません、遅れちゃって』
「いやいや、大丈夫だよ」
『また病院が混んでて』
「あー、今日も検査だっけ」
『はい。事故の後遺症が改善しないんですよね』
「そっか。たいへんだね」

『まぁ、私のことは置いといて今日も頑張りましょう!』
「ほんと、ありがとね」

『今日はどこに行きましょうか』
「今日は…」

悩んでいる素振りを見るからに思い出の場所は探し尽くしたのかな。

『あの、ずっと疑問だったんですが…一体、何を探してるんですか?』

少しの沈黙のあと

「見つかったら分かりますよ」

そう、呟いた君はとても悲しそうに笑った。


『こう見えて私、ひらめきに長けてるんですよ』

何を探してるのか気になって、今まで探した所をまとめたメモを取り出して見返す。
キーワードだけが連なったメモに少しはヒントがあるはず。


・初めて会った大学の食堂
→一目惚れして声をかけた
→慌て過ぎてお盆にお味噌汁を溢した君を元カノさんは笑った

・初めての2人きりのお出かけ
→調べたカフェが臨時休業
→慌てた君を見て、元カノさんは笑っていた

・元彼さんと付き合った日
→大学の帰り道。知らない男の人に手を振るまたカノさんに焦って「好きです」と告白。
→もっとカッコつけたかった。



メモを遡っていると君がポツリと話し出した。

「彼女…数年前に事故に遭っちゃって。」

「彼女は優しくて、気さくで、何にでも笑っちゃうような僕には似合わない完璧な人で」

「そんな彼女の隣に立つのが僕で良いのか怖くなって、記憶を失った事を言い訳に僕は彼女の前から姿を消したんです。」

「でも、やっぱりダメでした。隣に居たいと願ってしまったんです。」

話を聞いてると訳も分からず涙が溢れてきた。

すると君は「涙を拭きなよ」とハンカチを差し出してくれた。

そして、「一緒に探そう」と言った。