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『制服を脱ぐ』(過去作)

さっきまで騒々しかった教室は、僕と汚れた黒板を残して来年度の準備を始めた。静かな教室の中で、自分の席だった場所に腰を下ろし、配られたアルバムをめくる。

1年から3年まで順番に並んでいる写真。
僕が写っているのはたった数枚だけ。
その全てが『一緒に撮ってもらおう』と無理矢理カメラを呼んだ時のものだった。

アルバム最後の真っさらなページ。
学生生活の充実度が現れるこのページには、数少ない友人の寄せ書きが端っこに書かれている。

もっと友達を作ればよかった。

しても仕方ない後悔を少しだけしていると、教室のドアが開いた。

『みーつけた』

「別に、隠れたつもりは無いけど…」

『どうせ、〇〇のことだから寄せ書き少ないかなって思って書きに来てあげた』

「……ありがとう」

いつもなら「余計なお世話だ」なんて強がるのに、今日は素直にお礼が言えた。
多分それは、君が僕に何を残すのか気になったからだろう。

『じゃあ、はい。』

胸元に押し付けられた遥香の卒アル

『私にも書いてよ』

「あ、うん。分かった。」

卒アルを開くとぎっしりと詰まったメッセージが目に入った。

「凄い量だね」

『別に凄くなんてないよ。皆んな長文だし。』

「いいじゃん。長文の何が悪いんだよ」

『本当に仲のいい子は今後も連絡を取るから短文なんだよ。この人達みたいに。』

そう言いながら、遥香は僕の卒アルを指差した。


『ずっと〇〇が羨ましかった』

その言葉に驚いた僕を無視して遥香は続ける。

『1人でも平気そうだし、周りが誰かの悪口を言ってても流されないし。』

目が合った。
いつもの明るい遥香ではなくて、少しだけ大人びた君が目の前にいた。

『〇〇の強さがずっと欲しかった』

キョトンとしている僕を見て、

『なーんてねっ』

悪戯っぽく笑った。

まだ冷たい風が少しだけ春を包んでカーテンを揺らす。

遠くから先生の声が聞こえて、僕たちは焦りながらお互いのメッセージを書いた。

「お前らまだ残っていたのか」
先生のぶっきらぼうな言い方を流すように

『もう出まーす』

『じゃ、これでさよならだね。〇〇。』

「うん。さよなら、遥香。」


一言。

"ありがとう"

の文字を残して、
君は僕の前から去って行った。