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『留守番電話』(過去作)

振動するスマホに表示されるのは


"非通知"


君じゃないんだ。
そんなため息を掬い取るようにスマホを手に取った。

誰だろう。
少し恐怖を感じながら、出るか葛藤する。

3コール程すると電話は途切れた。

間違い電話だろうか。
ホッと胸を撫で下ろすと画面が再び光った。

"1件の新着留守番電話があります"

さっき感じた恐怖がより現実的に変わる。

恐る恐る、留守電を聞いてみることにした。

スマホから流れる声が俺を後悔に引き摺り込む。


『あ。えっと…急にごめんね。』

『私の事、覚えてるかな。』


覚えてるよ。
鼓膜に張り付いて忘れない、君の優しい声。

『久しぶりに声聞きたくなって。』

『こんな形でごめん。』


ほんの数秒の沈黙。
言葉を探しているのだろう。


『色々…忙しくて…。でも最近落ち着いたからさ、』

『本当、突然でごめんね…』

『迷惑だよね。』

何度も謝る君のせいで胸に溜まっていたどうしようもない感情が涙を呼ぶ。


『もう、時間だ。』

30秒はあっという間に過ぎて、


『またね。』

一方的に別れを告げられ、声が消えた。

スマホを耳から離そうとした時、消えいるような小さな声が聞こえた。


『……ごめん、好き。』


さっきまで必死に抑えていたのに。
流れ落ち始めた涙は止まることを知らない。

君がアイドルになると言って僕の隣から消えたあの日と同じ言葉。

次はいつ電話が来るのか、
来ないかも知れないけど、

でも、次があるなら迷いなく伝えるよ。

飾る必要なんてない。
あの日言えなかった、たった一言を。


好きだって。