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蚊だってローリスク・ハイリターンは難しい

二匹の蚊

残暑が残る気怠いある日の夕刻、民家の壁に一匹の蚊が止まっていました。壁に止まっている蚊の隣に、別の蚊が近づいて尋ねます。

「ねえ、キミはずっと壁に止まっているね。何で人の血を吸いに行かないの?」

「だって人間って凄い力があるんだよ。叩かれたら死んじゃうし怖いよ」

「じゃあキミは大人しい人間を探さないといけないね」

「でも、そんな人間を探すの面倒だな。いつ見つかるかも分からないし…」

「うーん、それなら血を沢山持っている仲間から分けてもらうしかないね」

「あ、それいいじゃん。ボクは代わりに与えられるモノを何も持ってないけど分けてくれるかな?」

一生は短い

蚊の一生はとても短いらしいです。

血を吸うメスは大体一ヶ月半から二ヶ月くらいの命で、その間に一回から数回の吸血を行い一生を終えます。

メスが卵を産むには養分となる血液が必要です。種の生命を繋ぐために、命懸けで自分達より遥かに大きい生物に対して超近距離から血みどろの勝負を挑みます。

とてもハイリスクな行為です。

然し、そのリスク──ここで言うリスクとは「勇気を持って行動したり」「時間と労力をかけて獲物を探したり」「対価として与えられるものを提供する」事ですが、それをしない限りはリターン──生命を繋ぐことは出来ません。

リスクを取ったからといって、必ずしも血が手に入るとは限りません。ローリターンに終わってしまうかもしれません。

もしかすると目の前に鈍感な人が急に現れ、ゆっくり血を吸わせてくれるかもしれません。とてもローリスクな状況ですが相当の強運が必要です。限られた寿命の中で目的を達するには、それこそリスクが高いとも言えます。

ハイリスク・ハイリターンの可能性はあります。

ハイリスク・ローリターンもあり得ます。

ローリスク・ハイリターンは運の世界です。

ローリスク・ローリターンは当然あり得ます。

──蚊には感情や言語が無いでしょうから、二匹の蚊の会話は存在しないでしょう。

然し、人には感情も言語もあります。蚊よりは少し長い寿命もあります。

ローリスク・ハイリターンは難しい、という話でした。

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