9-1-1:Lone Starで聞いたセリフに思う

先週から日本初放送とのことでFOXチャンネルにて9-1-1 Lone Starが始まった。ロサンゼルスを舞台にした本家 "9-1-1:LA救命最前線" のスピンオフでLone Starの舞台はテキサス州オースティン。シーズン3への契約も更新されたそうで、主役がロブ・ロウ。私の世代にとっては懐かしいスターが画面に戻ってきてくれてこれから毎週見れるのかと思うだけで嬉しい。

さて、このドラマ内でロブ・ロウが良いセリフを言った。ネタばらしにならない程度でごく簡単に言うと、とある消防署員が半年前の出動中の爆発事故が原因でPTSDとなって仕事を休んでいるのだが、その彼が久しぶりに訪れた署でかつての家族同様の仲間であり爆発事故で亡くなった同僚たちの写真を見た瞬間気持ちが溢れてそこへ座り込み泣いてしまうというシーン。そこでロブ・ロウ扮するオーウェンは彼に言う。
"... they call it PTSD, but they should call it PTSI, 'cause that's what it is. It's not a disorder, you've been injured." (人はPTSDというが本当はPTSIだ。だってそうだろ。障害(disorder)じゃない、傷(injury)を負っているんだから)
日本語にすると伝わりにくい気がするが、要はdisorder=lack of orderではないと言っている。orderとは本来の秩序や順番やそういうきちんとしたもの、あるべき姿のことで、それが欠落しているというのはトラウマになるような体験で大いに傷つき、目には見えなくても心の中でドクドク血を流している人に対して少々言葉として配慮が足りないんじゃないか、ということだろう。彼は傷ついたのだ。だからinjury。

私は PTSDと診断されたことはないが、心身の「心」の方を患ったことはある。それまで想像もできなかったような心の中の苦しさを味わった。それより少し前に「身」を病んで外科的手術を受けたため背中に大きな傷あとがあるが、その痛みは今から思うと傷が塞がってカサブタとなるまでの短期間だった。今はもうあの時の痛みを思い出せないくらいピンピンしている。でも心を病んで受けた傷は忘れられない。それどころか今思い出しただけでも苦しくて、今この瞬間もあの苦しみを抱えている人がいるかと思うと他人事に思えずいたたまれなくなる。それほど心の傷は深く、なかなか癒えるものではない。

先日大坂なおみが全仏オープンからの撤退に際して、長期にわたるうつ状態に苦しんでいると公表した。あの年で世界の頂点に登り詰め、世界中の人に自分の存在が知れ渡り、さらに巨額のお金を得て、さぞかし本人もここ数年戸惑っていたことだろう。本人と同じほどの苦しみは理解できなくても、彼女が戸惑い苦しんでいたであろうことは容易に想像できる。さらに自身の元々の性格が外向きのお喋りな性格でないなら、メディアの前に出てインタビュアーから飛んでくる質問に答えるのは相当なストレスであろうこともよくわかる。自分が苦しんだおかげで人の苦しさが以前よりよくわかるようになった。

心の不調、つまりmental disorderと表記されるが、本当は心の傷というのが確かに表現としては近いように思う。

テレビドラマの脚本家の感受性はすごい。何がしかのセリフにいつも考えさせられる。

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